ワールド&インテリジェンス

ジャーナリスト・黒井文太郎のブログ/国際情勢、インテリジェンス関連、外交・安全保障、その他の雑感・・・(※諸般の事情により現在コメント表示は停止中です)

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どうせダメなのか?

 もう一点、考えたことを書きます。
 どんな国でも国民性というものはあります。ですが、アラブ人は所詮ダメとの考えには賛同しません。
 過去の実績からすると、たとえばアサド政権後のシリアがろくなものにならないとの危惧は確率からいって理解できますが、論理的にそれは確定事項ではありません。
 たとえば、シリアでは危惧されたようなスンニ派によるアラウィ派虐殺が、現時点で発生していません。どこにもチンピラはいますから、追い剥ぎの類は出てますが、組織的な宗派差別暴力が、反体制派側から出ていません。
(町によってはスンニ派地域とアラウィ派地域が分断され、アラウィ派住民が追放された例もあるようですが、私の聞き及ぶかぎりでは、むしろアラウィ派地域がシャビーハの拠点になって宗派対立を煽ったケースが多いようです。それでもいずれにせよスンニ派からの組織的な一般住民無差別殺害には至っていません)

 人権団体(ロシア政府もですが)が反体制派の暴力をときおり指弾しますが、ほとんどのケースで、シャビーハや政府軍兵士の捕虜に対する暴力です。人道の考え方はいろいろあるので、そこには立ち入りませんが、「住民を虐殺しまくった連中を即決処刑」するのと「非武装の一般住民を虐殺する」のとでは、少なくとも戦場の常識では同列ではありません。
 おそらく反体制派の現場でも、「アラウィ派の連中を女子供含めて皆殺しにしろ!」と叫ぶ輩が皆無ではないと思います。必ずしもサラフィストに限らず、自分の妻や子供が殺害された人なら、そうした復讐心を持ってもおかしくありません。が、そうした意見は、スンニ派ゲリラの世界で支持されないということです。これは、非常に期待を感じる傾向だと思っています。

 シリアの反体制派陣営でこうしたある種の良識が確立されているのは、もともと宗派性が小さいシリア社会の影響、あるいはシリア人の国民性などもあるでしょうが、反体制派陣営内では言論が開かれているということも大きいと思います。テロリズムを研究してきた立場でいうと、排他的で過激な組織的行動が生まれる背景には、閉ざされた言論空間で非常に強力な同調圧力が存在するケースがほとんどです。
 シリア反体制派の場合、そこがおそらく緩いのだろうと思われます。

 チュニジアやエジプトでイスラム系政権が誕生しても、過激路線は支持されないことを彼ら自身も理解しているようにみえます。私は、アサド後の新政権がイスラム過激派政府になる可能性はかなり低いとみていますし、対立は多発するでしょうが、互いにテロし合うような「イラク化」には至らないだろうと分析しています。

 ちょっと前まで、中南米や東南アジアの国々の多くも、どうせダメダメだといわれていたものですが、いまや見違えるほど様変わりしています。まずはアサド政権打倒が最優先ですが、その後が必ずしもダメダメになるとは限りません。
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  1. 2012/09/09(日) 12:51:38|
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コメント

アサド後

 黒井さんの主張される意味はよくわかります。
 簡単に言うと、国民を抑圧するアサド政権というガンを取り除くには①外科的手術によって軍事革命というメスを振ることもやむをえない、とのことですね。私はそれに対して時間はかかるが②投薬等で体になるべく負担のないよう内科的療法(独裁者の死や病気、交代を待ったり、国連決議による経済制裁など)で患部を小さくしていった方がよいという、例えでしょうか。今の医学では両方ありでしょうね。
 シリア国民が幸福になれるなら、外国人の私も実際はどちらでも良いのですが、ただ①の軍事革命の方が格段に犠牲者が多くなると考えると、例えば自分がシリア国民で、軍事革命で手足を失ったり、家族を失った時、革命前の生活に特に不満を感じていなかったとしたら、素直にその運命を納得して受け入れることができるかどうか疑問です。自分の命を今すぐ投げ出しても、惜しくないもの、欲しいものが私にはないからです。自分の使命を全うするためには、命は捨てるものではなく、拾っていくものと考えています。
 そして①によるガン摘出手術が成功しても、ガンには転移というものがあり、悪い意味でのアサド的なものはすでに生き残った他のシリアの人々に中に奥深く転移していて、5年後、10年後、20年後、さらにもっと後にガンは再発しないとも限らないのです。この革命で命を落とした人々によって購われた民主化の価値の減価償却期間を10年間とか100年間とか年数で区切って納得して考えることは、私は政治家ではないので、一市民としてはドライに考えることはできません。
 ドイツも一度は民主化しましたが、ヒットラーによって独裁体制になりました。いつでも体制は変わってしまう危険があるという例です。そのようになった場合犠牲になった人々はなんのために犠牲になったのか嘆くに嘆けないと思います。朝鮮戦争を経験しいつでも戦争の危機感を持っている韓国は北朝鮮に対して現在は米国ほど強硬な立場を取っておらず、やはり慎重に状況をみているように思います。
 私がもしシリア国民であったなら②の内科的療法がよかったと考える次第ですが、黒井さんの言うように、今ここに至っては、現政権をなるべく早く退場させる方策を特に軍事的実力のある米英仏ロ中の5大国が真剣に話し合うべきでしょう。ロシアや中国は非常に面子を大事にしますので、シリア国民を早く内戦から解放するためには米英仏は大人になって中ロの面子を立てつつ、場合によってはこの2国に、必要なら軍事力を行使してもらってアサド陣営退陣の道筋をつけてもらうのが一番ではないかと思います。
 アサド後が非常に大切ですね。黒井さんの言うように、次の政権のシリア人達に期待するというのは正論です。彼らしかいないのですから。ただ欧米のシステムのお仕着せは、私の考えでは、絶対反対です。例えば、私論では日本はむしろ失敗例だと思います。日本国民はそんなに幸福感を抱いてないように感じます。政府の発表ではここす゜っと毎年3万人前後の自殺者が出ています。すごい数字ですが、まやかしと言う人もいます。実は毎年の日本の自殺者は10万人程度と言う人もいます。私の狭い交友範囲でも、少なくとも顧客で2名、友人知人3名が自殺されています。3万人の自殺は遺書や薬物や飛び降りなど決定的な証拠のある人たちで、その他日本には毎年不審死が15万人、行方不明者が1万5千人で、これらは人員不足等で医者による検死ができなかったもの等なので、少なく見積もって3分の1が自殺者とすると8万5千人が年間自殺で亡くなっていると推定できます。月7千人です。シリアの内戦犠牲者とどっちが多いのかわかりませんが異常な数字です。
 親アサドと反アサドの陣営に別れ戦い、人々の心が引き裂かれ疑心暗鬼にシリア人は皆なっていることは容易に推測はできますが、私もアサド後のシリアには、外国人で部外者ながら、経済的に成功しなくても(成功すればなおさらいいのですが)、自殺者が少なく、楽しい人生をおくれる人が多い国を建設してほしいと思います。あまり楽しそうだと、日本から移住者が殺到し日本の人口減がさらに進み問題になりますので、ほどほど楽しい国の建設を願っております。
 すみません、手短に書こうと思ったのですが、つい長文になってしまいました。 
 

  1. URL |
  2. 2012/09/09(日) 18:53:50 |
  3. A山 #-
  4. [ 編集]

 難しい問題ですね。シリアでは今、多くの人が「できるなら家族と国外に安全に逃げたい」と考えていると思います。ただ、家族・親族・友人で誰も犠牲になっていないなどという幸運な人はきわめて少数派になっていますし、すでに大事なものを失っているわけですから、そこはなかなか冷静にはいかないと思います。たぶん自分がそうであっても。
  1. URL |
  2. 2012/09/09(日) 23:16:39 |
  3. 黒井文太郎 #-
  4. [ 編集]

内科療法が効果を発揮するケースは本当に存在するんでしょうか?

たいていの独裁国家に対する「制裁」とは、該当国の国民生活の困窮と、物資分配を握っている独裁権力の強化のセット販売にしかならないように見えます。
フセイン政権を崩壊させたのは制裁ではなく米軍の直接侵攻でした(イラク軍の弱体化に制裁が貢献しなかったとは言いませんが、誤差範囲でしょう)し、北朝鮮に至っては食糧不足を口実に不平分子層を干殺しというか物理的に全滅させて政権を安定させたようにすら見えます。

独裁国家にもいいところがある(先進国にも問題がある)式の意見はよく見ますが、じゃあたとえば一族そろって国外逃亡しても生計が問題なく維持できるという条件で独裁政権下に留まりたいと思う人が(あるいは先進国から独裁国家に移住したいと考える人が)どの程度いるか思考実験すれば、自ずと答は明らかではないでしょうか。

要は(対外的でも国内的で妄想的でもなんでもいいですが)不安とか恐怖を煽る以外に独裁政権の維持など不可能だとしか思えません。

当然、「独裁を倒せばもっと混乱するかもしれない」も単に独裁維持の宣伝に乗せられているだけでしょう。

混乱が心配なら積極的に介入すればいいだけで、介入できないなら(ひどい言い方ですが)混乱してもその程度の影響しかない場所だったというだけの話です。
  1. URL |
  2. 2012/09/18(火) 16:45:56 |
  3. うそこばん #mQop/nM.
  4. [ 編集]

 経済制裁で独裁が倒れないことは、まさにその通りと思います。
「独裁国家にもいいところがある」は、論外の妄想にしか見えません。
「独裁を倒せばもっと混乱するかもしれない」は、それは強権支配が崩れれば混乱するに決まってますが、「では独裁のほうがいい」になるはずがないですよね。

 独裁者は権力を失うと断罪されますので、自分から進んで政権を放棄する例は非常に少ないと思います。今ちょっと思い起こしてみたのですが、実例がとっさに思い浮かばないほどです。
 権力を残した中で民主化を進めた例はあります。限定的ですがかつてのゴルバチョフがそうですし、ミャンマーの今の大統領なんかもそうですね。シリアのバッシャール・アサドを改革派とカン違いしていた人も多いですが、独裁政権の権力機構にはまったく手をつけていませんから、彼の場合はニセモノです。
 他方、反体制勢力に押されてしぶしぶ政権を放棄した例はいくつもあります。東欧政変とか、あるいは徳川慶喜政権もそうかもしれません。
 ですが、圧倒的多数はやはり最後まで権力に固執し、最後は逃亡するか拘束されるか殺害されるかしています。
 ラテンアメリカや東南アジアなどでブレイクできた国々というのは、たいてい70~80年代の独裁が80~90年代に打倒され、その後いったん混乱を経た後に、民主制度と経済を安定化させたケースが多いように思います。独裁は自然と崩壊したのではなく、崩壊の瞬間には、たいていの国でそれなりのゴタゴタ騒ぎが起きています。
 独裁も、時間が経てば、あるいは経済制裁や民主化圧力をかければ、いずれ自然に変わっていくというようには、過去事例を見るとなかなかならないと思っています。
  1. URL |
  2. 2012/09/19(水) 12:12:52 |
  3. 黒井文太郎 #-
  4. [ 編集]

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黒井文太郎

Author:黒井文太郎
 63年生まれ。『軍事研究』記者、『ワールド・インテリジェンス』編集長などを経て、現在は軍事ジャーナリスト。専門は各国情報機関の最新動向、国際テロ(とくにイスラム過激派)、日本の防衛・安全保障、中東情勢、北朝鮮情勢、その他の国際紛争、旧軍特務機関など。

 著書『ビンラディン抹殺指令』『アルカイダの全貌』『イスラムのテロリスト』『世界のテロと組織犯罪』『インテリジェンスの極意』『北朝鮮に備える軍事学』『紛争勃発』『日本の情報機関』『日本の防衛7つの論点』、編共著・企画制作『生物兵器テロ』『自衛隊戦略白書』『インテリジェンス戦争~対テロ時代の最新動向』『公安アンダーワールド』、劇画原作『実録・陸軍中野学校』『満州特務機関』等々。

 ニューヨーク、モスクワ、カイロに居住経験あり。紛争地域を中心に約70カ国を訪問し、約30カ国を取材している。




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