ワールド&インテリジェンス

ジャーナリスト・黒井文太郎のブログ/国際情勢、インテリジェンス関連、外交・安全保障、その他の雑感・・・(※諸般の事情により現在コメント表示は停止中です)

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合法的右翼暴力団としてのヒズボラ

 7月14日、イスラエル軍はいよいよベイルート南郊のヒズボラ本拠地への空爆作戦を開始した。複数の欧米メディアによれば、「ハッサン・ナスララ党首爆殺を狙っている」との情報もあるようだ。
 あるときはイスラエルとの戦争を担う民兵組織、あるときはアメリカ人を誘拐して殺害するテロ組織。他方では国会に議員を送り込み、政権に与党の一角として参加するとともに、テレビ局や機関誌を発行する政治組織でもある。さらには寡婦家庭に生活資金を援助し、病院や学校を運営する慈善団体でもある。このヒズボラという組織は何なのか?
 ひとことでいうと、合法的な社会活動も行なう右翼兼暴力団というのが、筆者の印象である。要するに、現地では誰もが恐れる怖い怖い組織なのだ。

 ベイルートの繁華街の中心地はキリスト教徒のエリアである。そこでは、戦争している国とは思えないほど華やかな商店街・飲食店街がある。筆者がベイルートを取材したのはもうひと昔前だが、今ではさらに復興していることは疑いない。筆者は今、よくベイルートのインターネット・ラジオ局をかけるのだが、そこで流れる曲はアラブ民族音楽ではなく、ノリノリのトランス・ミュージックであり、画面ではベイルートのナイトライフを楽しむ男女の姿や、ビーチやスキー場などのレバノン国内のリゾート地の風景が次々に紹介される。内戦前「中東のパリ」と称された町が完全復活したようだ。
 ベイルートにはイスラム教スンニ派のエリアにも商店街や住宅街がある。露出ファッションのギャルたちが闊歩するキリスト教地区ほどではないが、もはやこちらも活気に満ちた近代都市が復活しつつある。
 そんなベイルートの中心街にときおり、街宣車(ホントに日本のと同じような街宣車)となぜか必ず黒色の古いボルボを連ねて黒戦闘服姿のヒゲ面男たちの集団が現れ、緑の旗を掲げて行進を始める。大音量で軍歌調の音楽を流し(ホントに日本の軍歌調)、高圧的にアジ演説を行なう。迷惑なことこのうえないが、怖いから誰も何も言わない。それこそ驚くほどに日本の右翼団体と同じスタイルだ。
 日本の右翼と違うのは、彼らは武装していることである。さすがに街中で自動小銃を構えたりはしないが、幹部クラスの懐には拳銃が忍ばせてある。まさに暴力団だ。
 この連中はどこから来るのかというと、ベイルート南郊に広がるシーア派居住地、とくにハーレト・タハレークという地区と、べエル・アル・アブドという地域である。スンニ派、あるいはキリスト教徒地区と比べて明らかに貧困街だ。それもただ貧しいというのではなく、あちこちにホメイニの写真が張ってあったり、女性が真っ黒なチャドルを被っていたりと独特の雰囲気がある。
 街中に黒戦闘服というよりは黒シャツ・黒ズボンの男たちがたむろしているが、彼らがヒズボラの末端メンバーである。なかに仕切り人のような男がいて、やはり拳銃と、それにウォーキー・トーキーを持っている(今ではセルラー電話かもしれないが)。
 この連中を住民は非常に恐れている。住民に話を聞くと、「神の党」を意味する「ヒズボラ」はべつに蔑称でもなんでもないわけだが、その名を口にするのが怖いようで、「ムカウメ」(レジスタンスの意味)という呼び方をする。
 外国人がこうした地域に入りこむと、ものの数分で黒服軍団に取り囲まれる。そして、ホントに「事務所に来い」とやられる。これも暴力団とまったく同じだ。
 ヒズボラの事務所はこうした町のなかでも、さらにスラムのような雰囲気の(つまり、人気の少ない)場所に点在している。モスクが使われることもあるが、内戦時代から復興されていない雑居ビル風の建物が多い。
 そうした施設は周囲1ブロックごと封鎖されて、自動小銃を抱えた警備兵が配置されている。よく「イラン人民からレバノンの兄弟たちへ」などと書かれた横断幕を貼り付けた大型トラックが停車しているが、これはシリア経由で陸路物資を運び込むトラックだ。積荷は援助物資ということになっているが、実際には武器が多い。イスラエルの攻撃を恐れて、幹部の所在はかなり秘匿される。
 筆者が取材したときには、トップクラスの大物ではなく、政治局員と名乗る人物が応対した。当ブログでも紹介した数日前のNスペ「テクノ・クライシス」でNHKは「ヒズボラ副司令官」という人物のインタビューを放送していたが、この副司令官という肩書きも、おそらくそれほどトップクラスの上級幹部ということではない。
 ちなみに、筆者がヒズボラ幹部を取材したときは、会見までかなり長時間控え室で待たされたが、その間、何人ものメンバーが入れ替わりやってきて、筆者の取材歴からプライベートなことまで細かく聞かれた。みると部屋の備え付けの電話の受話器がフックから外れていた。他の部屋でモニターしていたのだろう。
 なかには、「自分たちの仲間は日本にもいて、日本の事情はよく知っているぞ」と脅してきた男もいた。「TBSというテレビ局はけしからん。かつて党首が取材に応じ、2時間以上も話してやったのに、オンエアーでは1分くらいしか使わなかった」と怒っていた。

 ヒズボラはジャーナリストを基本的にはあまり受け入れない。とくにイスラエルとの戦争中なので、軍事拠点は取材不可。筆者はロイター通信ベイルート支局の現地スタッフたちと懇意にさせてもらったが、彼らもヒズボラは怖くてほとんど接触しない。
 ヒズボラの警戒ぶりに驚いたのは、ヒズボラの拠点でもあるベッカー高原のバールバックを訪れたときだ。街の外れにヒズボラの施設があって、走行中の車中からほんの数十秒間、望遠レンズで覗いていただけなのだが、いつのまにかヒズボラの車両に尾行されていて、そのままアジトに連行された。すっとぼけて切り抜けたが、かなり怖い時間だった。
 
 前述したように、ヒズボラには政治勢力、社会グループ、民兵組織などさまざまな顔があるが、とにかく突出しているのが「暴力的圧力団体」=もっと正確にいえば「右翼暴力団」としての存在感である。レバノンにはそうした民兵組織が小さいものも含めるを他にもいくつもあり、ホンモノの犯罪組織(麻薬マフィア)も存在するが、ヒズボラの威圧感は圧倒的である。
 こうした面はあまり報道されないことだが、右翼・暴力団を知らずに日本社会を理解することはできないのと同じで、ヒズボラのやくざな姿を知らずにレバノン情勢を理解することも難しいのではないかと思う。
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  1. 2006/07/15(土) 13:49:20|
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プロフィール

黒井文太郎

Author:黒井文太郎
 63年生まれ。『軍事研究』記者、『ワールド・インテリジェンス』編集長などを経て、現在は軍事ジャーナリスト。専門は各国情報機関の最新動向、国際テロ(とくにイスラム過激派)、日本の防衛・安全保障、中東情勢、北朝鮮情勢、その他の国際紛争、旧軍特務機関など。

 著書『ビンラディン抹殺指令』『アルカイダの全貌』『イスラムのテロリスト』『世界のテロと組織犯罪』『インテリジェンスの極意』『北朝鮮に備える軍事学』『紛争勃発』『日本の情報機関』『日本の防衛7つの論点』、編共著・企画制作『生物兵器テロ』『自衛隊戦略白書』『インテリジェンス戦争~対テロ時代の最新動向』『公安アンダーワールド』、劇画原作『実録・陸軍中野学校』『満州特務機関』等々。

 ニューヨーク、モスクワ、カイロに居住経験あり。紛争地域を中心に約70カ国を訪問し、約30カ国を取材している。




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