昨日、NHK『クローズアップ現代』がシリア問題について放送しました。私は所用で拝見していないのですが、番組のサイトが内容をテキストで起こしていたので、拝読しました。
▽混迷シリア 見えない出口 シリア問題を全国放送で採り上げるというのはたいへん意味のあることだと思いますが、2つの点で、恣意的な編集と感じました。
まず、番組ではシリア内戦を「代理戦争」と描いていましたが、まったく事実ではないと思います。
私の戦争取材デビューは、80年代のニカラグア内戦でした。左翼政権「サンディニスタ」はソ連に強力に支援され、ソ連製兵器で武装し、政府軍の背後にはソ連の軍事顧問団が控えていました。
対する反政府軍「コントラ」はアメリカが全経費を支給し、ゲリラをアメリカ国内で訓練していました。こういうのを「代理戦争」と呼びます。
シリアでは、政府をロシア、イランが、反政府側をサウジアラビア、カタール、トルコ、アメリカ、イギリス、フランスなどが支援していますが、その規模は両陣営ともまったく小さいもので、とても代理戦争と呼べるレベルではありません。シリア人同士が、アサド派と反アサド派に割れ、双方の陣営ともにほぼ自力で戦っているのが現実です。番組ではたとえば反政府派の支援ルートなどの取材をしていましたが、あんな程度では戦況を左右できないことは明らかです。
もう1点は、反体制派側が割れていることを、実態以上に強調していることです。
古今東西、身内同士の内ゲバというのは普通にあることで、往々にして「本来の敵」との戦いよりも先鋭化することがあります。シリアの反体制派がなかなかまとまらないのも、事実です。
しかし、シリアで反体制派の内ゲバが、反政府闘争よりひどいかのような報道は、明らかに間違いです。たとえば、番組では、国民評議会のブルハン・ガリユン前代表(初代代表)のインタビューを放映していて、彼に反体制派内部の抗争について語らせています。
私はガリユンと直接会ったことはありませんが、側近に知人がいることもあり、彼の言動はずっとフォローしており、彼の考えはほぼ理解しているつもりです。彼が内部対立に苦労していたことはそのとおりで、彼自身それを批判もしていますが、それは彼の主張の中では、反アサドに比べればはるかに小さなことです。
おそらくガリユンは日本から来たテレビ取材班に対し、アサド政権批判を長く語ったはずですが、ほんの一部の内部抗争についてのコメントのみを抜き出したのでしょう。率直に言って、この放送内容を今回の取材協力者、さらに言えばシリアの人々が目にすれば、たぶん多くの人が失望するか、激怒すると思います。
どんな問題も多面性を持っていて、多角的な視点は必要です。今回のNHKの番組のような見方があっても、べつに構わないとは思いますし、同様の報道が海外メディアに皆無というわけでもありません。が、それはきわめて少数派です。
少数派の意見は無視すべきだとは言いませんが、天下のNHKで放送されると、それが世界のスタンダードのように日本国内で思われてしまうのでちょっと残念です。
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- 2012/09/06(木) 19:46:34|
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「代理戦争」という言葉は報道や解説で使われがちだとは思いますが、歴史を観察しても、実際にそんな物が多いかは謎です。
冷戦真っ盛りの頃はともかく、というかその時期ですら、実際には
「大国が小国を操って戦う」
よりも、
「小国が大国を巻き込む形で戦う」
が圧倒的に多いのではないでしょうか。
火器が工業製品化して以降は紛争当事者が内製じゃなくて輸入に頼るのは当たり前ですし、そうなると武器を「売る」「売らない」で、どちらかに肩入れしていると色づけて報道しようと思えばできます。
シリアがそのパターンから外れているようには見えません。
あるいは陰謀論的な立場の人は西側諸国や湾岸諸国にシリア打倒の意思があってシリアの反体制派は傀儡だ式に主張しますが、
それならむしろ
「反体制派への武器援助をあれだけ細いのを見ると、西側諸国にシリア民主化を応援する意図があるとは思えない」
とでも主張する方が現実(あるいは番組の映像)に合致しているように思えます。
- URL |
- 2012/09/12(水) 09:45:28 |
- うそこばん #mQop/nM.
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>実際には 「大国が小国を操って戦う」 よりも、 「小国が大国を巻き込む形で戦う」 が圧倒的に多いのではないでしょうか。
まったく同感です。
- URL |
- 2012/09/13(木) 00:29:54 |
- 黒井文太郎 #-
- [ 編集]