ワールド&インテリジェンス

ジャーナリスト・黒井文太郎のブログ/国際情勢、インテリジェンス関連、外交・安全保障、その他の雑感・・・(※諸般の事情により現在コメント表示は停止中です)

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殺害されたアサド義兄は「大物」だったか?

 シリアに関して、かなりマニアックな論点を書きます。
 前エントリーでご紹介した『フォーサイト』のサイトで、読者のコメントに「殺害されたアーシフ・シャウカト(国防副大臣とされていますが、もともとのポストだった陸軍参謀次長という肩書きが使用される場合もあります)は政権内部で干されていたのではないか」。なので、「大統領の最側近というのは間違いではないか」という意味の指摘がありました。そういえば、当ブログでも過去に同じような指摘のコメントをいただいたことがあります。
 こうした指摘に対して、私自身は「シャウカトはいまだ最側近だった」と分析しています。上記コメントは同誌執筆者の池内先生に対するものですが、この問題に関しては自分もかなり調査・分析したことがあるので、簡単に書いてみます。

 まず、大前提として、シリアでは権力序列に関する信頼度の高い内部情報は存在しません。秘密主義の独裁国家ですから、そこは北朝鮮と同じようなもので、他の指標からあれこれ推測するしかありません。これはまさにインテリジェンス分析であり、基本的には「さまざまな仮説から、可能性の高さを測る」という作業になります。
 なので、どんな仮説でも間違っている可能性はあります。それをまずお断りしておきます。
 
 そのうえで、インテリジェンス分析をいろいろ試すことになるわけですが、そこで問題となるのは、どのような情報をどの程度重要視して分析材料とするかということです。ほとんどのケースで、どんな仮説でもそれを導き出すデータはあります。なので分析結果が人によって違ってくるのは、この「どのような情報をどの程度重要視して分析材料とするか」の視点がそれぞれ違うからです。問題は、チョイスの優先順位というわけです。
 ということで、非常にマニアックな話で恐縮ですが、「シャウカトは最側近か否か」という課題をケーススタディとして考えてみたいと思います。

 背景を少し解説します。
 シャウカトはもともとバシャールの実姉と結婚したことで、アサド家のロイヤルファミリーに入りました。北朝鮮の張成沢と同じような立場です。
 絶対的独裁者の実娘との結婚というのは、シリアでは凄まじいまでの「利権」ですが、それを一介の中堅軍人が手にするということには、いろいろ周囲の反発もありました。当時、シャウカトの結婚には、先代のハフェズ・アサド大統領をはじめ、一族に反対に声が大きかったのですが、兄弟でもっとも姉の見方をしたのがバシャールでした。こうした経緯もあって、シャウカトとバシャールは深く結びつきます。
 先代のハフェズにとって、当時のシャウカトは義理の息子としてはまだまだ役不足でしたが、信用できるのは親族だけというのは独裁政権の基本ですから、シャウカトも一族のインナーサークルの人間として、重用されます。とくに父親から見ても不甲斐ないバシャールへの世襲が決まってからは、父ハフェズはシャウカトをバシャールの後見人と位置づけて盛りたてます。
 シャウカトが父ハフェズに与えられたポストは「軍事情報局長」というポストですが、これは要するに軍内部を中心に国内を徹底監視する秘密警察になります。シリアには他にも強力な秘密警察がいくつかありますが、シャウカトは単にそのひとつの指揮官というポジションだったわけではありません。シリアで秘密警察すべてを統括する最高責任者は大統領ですが、シャウカトはアサド家の婿としてきわめて特権的な地位にあり、実際には強力なシリアの秘密警察をほぼ統括する権限を与えられていました。
 バシャールが30代前半という若さで大統領職を世襲した際、シャウカトはバシャールの最重要アドバイザーでした。その後、バシャール・アサド政権はかなり大胆な規制緩和を行い、古株の将軍や高官を次々と引退させていきますが、その中心となったのがシャウカトでした。これもまさに、今の北朝鮮の金正恩と張成沢の関係に似ています。シャウカトはほとんどバシャール政権の黒幕のような存在でした。
 ただし、シャウカトも手を出せない人物がひとりだけいました。バシャールの弟のマーヘル・アサドです。以前も書きましたが、マーヘルは若い頃から乱暴者で有名で、シャウカトとの間に確執があり、発砲騒ぎまで起こしたことも有名です。マーヘルとシャウカトは後に和解したともいわれていますが、2人の間の確執は残るだろうと見ていたシリア国民も大勢います。

 と、このあたりまでは、シリア研究者でもほぼ見解が一致していると思います。
 分析がわかれるのは、その後、シャウカトが軍事情報局長から陸軍副参謀長に異動したことを、どう評価するかという点です。
 その頃、レバノンでハリリ首相爆殺事件が発生し、シリア諜報機関の関与が浮上した結果、シリア軍がレバノン撤退に追い込まれたということがありました。そのため、この暗殺を取り仕切った(と思われる)シャウカトがバシャールの怒りを買って左遷されたのだろうとの推測があります。
 陸軍副参謀長は公式ポジションとしては軍事情報局長より格上ですが、実際には軍事情報局長ほどの権限はありません。なので、たしかに役職上は権限の縮小ということになります。そこでシャウカト失脚説が出てくるわけです。これは、推測としてはもちろん成立します。
 ですが、私は当時から、そういう分析はしていませんでした。理由は、シャウカトはロイヤルファミリーの一員ですから、役職と権力はイコールではないと考えるからです。
 家族経営の独裁国家では古今東西、役職とは無関係に「独裁者との関係性」で権力が決まります。独裁者の息子たち、あるいは婚姻で親戚となったファミリーの一員が、公式ポジション以上の権勢をふるった例は、サダム時代のイラクでも、カダフィ時代のリビアでも普通のことでした。現在の北朝鮮も同様で、当ブログでも書いてきているように、張成沢は公式ポストはたいしたことはありませんが、事実上、ナンバー2として凄まじい権力を握っています。現在のシリアでも、マーヘルは単なる個別部隊の指揮官にすぎませんが、実際には突出した政権ナンバー2の権限を持っています。
 また、このポスト換え以外にシャウカトの失脚を証拠づける決定的な材料はありません。つまり、私の分析では、このポスト換えがシャウカトの失脚を意味するとは限らない、ということになります。
 その分析が正しいと仮定すると、ではシャウカトはその後も裏の権力を持ち続けたのかどうか?ということが問われます。これに関して、信頼度の高いインテリジェンスは存在しません。なので、説得力のある分析・評価はたしかに非常に難しいことは事実です。
 そこは推定になりますが、私が「シャウカトはその後も一貫してバシャールの最側近だ」と推定する理由は主に2つです。
 1つは、シャウカトがバシャール政権中枢から排除された形跡がないことです。今回の暗殺時も、重要な危機対策細胞会議に出席していたことからもわかるように、バシャール政権の治安部門にシャウカトは関わってきています。バシャール夫妻とシャウカト夫妻が疎遠になったとの話もまったく出ていません。シャウカトは継続してインナーサークルの主要メンバーであり続けています。
 これは推測ですが、おそらく現在も心情的にマーヘルとの確執はあると思います。マーヘルが年齢を重ねてその存在感を上げているので、シャウカトがその意味ではとくに軍部に対して「やりづらく」なっている可能性はありますが、治安部門全体に対して、シャウカトが「外された」との情報はありません。
 2つめは、こちらのほうが私の判断材料としては決定的なのですが、シリア国民のあいだで「シャウカト=黒幕説」が一貫して根強く信じられてきたということがあります。資料的なものでシャウカト=黒幕説を裏づけるものがあるわけではないのですが、国民のクチコミのレベルでは、シャウカトはバシャール政権の秘密警察をいまだに牛耳っている人物と認識されています。短期間なら誤情報が流布することもあるでしょうが、これだけ長期間にわたって国民に誤情報が浸透するということは、非常に考えにくいといっていいと思います。
 この「シリア国民の意識」に関しては、私の情報源は、私自身の個人的なシリア国民に対する調査によるものです。もちろん国民全員がそう思っているとはいえませんが、それなりに多くのサンプル調査をしています。
 欧米主要メディア、あるいは中東の大手メディアのいくつかが同様の解説をしているのは、彼らも同じような情報を現地ルートで得ているからだと思います。
 冒頭記したように、こうした問題は誰がどのように分析しても、常に疑ってかかる必要はありますが、私が「シャウカトはずっと最側近だった」と判断する理由は以上のようなものです。
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  1. 2012/07/22(日) 12:59:17|
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プロフィール

黒井文太郎

Author:黒井文太郎
 63年生まれ。『軍事研究』記者、『ワールド・インテリジェンス』編集長などを経て、現在は軍事ジャーナリスト。専門は各国情報機関の最新動向、国際テロ(とくにイスラム過激派)、日本の防衛・安全保障、中東情勢、北朝鮮情勢、その他の国際紛争、旧軍特務機関など。

 著書『ビンラディン抹殺指令』『アルカイダの全貌』『イスラムのテロリスト』『世界のテロと組織犯罪』『インテリジェンスの極意』『北朝鮮に備える軍事学』『紛争勃発』『日本の情報機関』『日本の防衛7つの論点』、編共著・企画制作『生物兵器テロ』『自衛隊戦略白書』『インテリジェンス戦争~対テロ時代の最新動向』『公安アンダーワールド』、劇画原作『実録・陸軍中野学校』『満州特務機関』等々。

 ニューヨーク、モスクワ、カイロに居住経験あり。紛争地域を中心に約70カ国を訪問し、約30カ国を取材している。




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