ワールド&インテリジェンス

ジャーナリスト・黒井文太郎のブログ/国際情勢、インテリジェンス関連、外交・安全保障、その他の雑感・・・(※諸般の事情により現在コメント表示は停止中です)

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北方領土問題についての私見

 当ブログでは今、昨年弊誌で掲載した「KGBの日本人エージェントは誰だったのか?」という記事を転載していますが、前回記事の冒頭で、こんな文章がありました。

「73年の田中角栄訪ソの前後、KGB日本支部は、ソ連共産党政治局が承認した日ソ平和条約の調印を実現化すべく猛烈な世論工作を仕掛けた。その条約案は、日本側が日米安保条約を破棄し、在日米軍基地を閉鎖するのと引き換えに、日本側に歯舞・色丹2島を返還するとともに、漁業権で譲歩することになっていた」

 以上は、一昨年にイギリスで出版された『ミトロヒン文書Ⅱ』の日本の項の一部ですが、北方領土に対するロシア側の意識がよく表れているなと思います。
 日本では、ある日、突然にロシアが悔い改めて、「悪かった。北方領土が日本のものであるのは当然だから、返しましょう」などと言ってくるかのような幻想があるようですが、1956年の日ソ共同宣言のずっと後の73年の時点で、あちらはこんな意識だったということを、もう少しシビアに考えるべきではないかと思います。
 なにせ、「日米安保条約を破棄して在日米軍基地を閉鎖するなら、見返りに歯舞・色丹だけは返してやってもいいよ」なんですね。ものすごい「上から目線」なわけです。
 実効支配というのは、パワーポリティクスではそのくらいの価値があります。それなのに、そういう向こうの現状を〝見ない〟ようにして、希望的観測を振りまく言説がこの国ではやたら多いのではないかという気がします。
 私はこの問題をずっとフォローしているわけではないので、今どうなっているのかはわかりませんが、過去にこんな経験があります。
 91年春にゴルバチョフが来日し、さらにその年の夏にクーデター騒動があってエリツィンが実権を掌握し、ソ連解体へと繋がっていくわけですが、その間、モスクワに居住してその動きをずっと取材したことがあります。
 で、当時、日本のメディアに盛んに流れていたのが、「ついにソ連(ロシア)もまともな国になったし、ものすごくカネに困っているから、いよいよ北方領土返還交渉が進展する!」との観測でした。けれども、モスクワで取材すると(ゴルバチョフやエリィン本人には取材できませんでしたが、上のほうは最高会議議長とか下院議長とか日本担当外務次官とかソ連外務省の局長・課長とかエリツィンの側近とかも取材しました)、まあ皆さん決まって「まあ、そういうのはあんまりマジにとらないでよね。カネもらったからってロシアの領土を売るわけないじゃん。今はこっちもたいへんなんだから、日本どころじゃないのよ」というような反応でした。よくあることなのですが、向こうと日本側の意識がものすごく乖離していたわけです。
 では、どうしてこんなふうになったのか?というと、当時、日本のメディアに流れていた北方領土交渉楽観論の震源地は日本外務省だったのですね。
 つまり、日本外務省が接触していたソ連・ロシア側のカウンターパートというのは、それは対日交渉担当ですから、向こうも希望的観測でいろいろなことを言いますけれども、まあそれほど本気ではなかったのではないかと思うのです。だいたい、ソ連(ロシア)の外交戦略を動かしているのは、第一に対アメリカ担当の人たちで、次が対西欧担当、その次が対中国担当で、その次が対中東&南アジア担当、というような感じです。対日関係なんて優先度からいうとずっと下のほうです(たぶん)。あんまりそういう人たちの言うことを真に受けてもしかたがないのではないかと思うのです。
 領土問題で妥協は許されないとの主張に異論を挟む気はありませんが、北方領土が返還されるチャンスなどそうそうあるとも思えません。なにせ「米軍を追い出したら、ご褒美に小さい島のほうだけなら返してやってもいいよ」と考えていたような人たちですので。
 以上は15年前の取材経験だけを基にした私の単なる印象ですので、間違っているかもしれません。ですが、あの頃、そんなことがあったので、その後もたびたび浮上する「領土交渉進展か!」「2島先行返還か!」「領土問題の存在をロシアが再確認!」などのニュースを見るたびに、「また同じことやってるなあ」という気になっちゃうのです。
 外交は戦争みたいなものですし、正論を掲げることは戦略上も重要なことですが、それはそれとして、現実を把握することも重要ではないかと思うのです。
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  1. 2007/06/29(金) 17:32:23|
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ソビエト連邦解体後、ボリス・エリツィン大統領の主導のもと市場経済化が進められたが、このためにかえって急速なインフレーションを招き、1990年代半ばには経済的に落ち込んだ。その後、成長に転じつつあったが1997年のアジア経済危機の影響を受けて1998年にロシア財政危機
  1. 2007/07/16(月) 01:37:11 |
  2. 国を集めた

プロフィール

黒井文太郎

Author:黒井文太郎
 63年生まれ。『軍事研究』記者、『ワールド・インテリジェンス』編集長などを経て、現在は軍事ジャーナリスト。専門は各国情報機関の最新動向、国際テロ(とくにイスラム過激派)、日本の防衛・安全保障、中東情勢、北朝鮮情勢、その他の国際紛争、旧軍特務機関など。

 著書『ビンラディン抹殺指令』『アルカイダの全貌』『イスラムのテロリスト』『世界のテロと組織犯罪』『インテリジェンスの極意』『北朝鮮に備える軍事学』『紛争勃発』『日本の情報機関』『日本の防衛7つの論点』、編共著・企画制作『生物兵器テロ』『自衛隊戦略白書』『インテリジェンス戦争~対テロ時代の最新動向』『公安アンダーワールド』、劇画原作『実録・陸軍中野学校』『満州特務機関』等々。

 ニューヨーク、モスクワ、カイロに居住経験あり。紛争地域を中心に約70カ国を訪問し、約30カ国を取材している。




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