ワールド&インテリジェンス

ジャーナリスト・黒井文太郎のブログ/国際情勢、インテリジェンス関連、外交・安全保障、その他の雑感・・・(※諸般の事情により現在コメント表示は停止中です)

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放射線の問題

 読売新聞のアンケートによると、瓦礫受け入れ賛成派は75%。反対派は16%だそうです。反対派は少数派ですが、本気で「命が危ない」と信じているので、切実度のパワーで賛成派を凌駕してしまっています。
 双方、感情的な対立になっていますが、まあ人は誰しもエゴイストですから、「危険だ」と刷り込まれてしまえば、しょうがないです。問題は、なぜそんなふうに刷り込まれてしまったか?ということですね。
 というわけで、先日、放射線扇動報道について私なりのエントリーを書いたわけですが、アンチ扇動派の論客である池田信夫さんのブログで、氏の新刊『原発「危険神話」の崩壊』の前書きの一部が紹介されていて、なるほどと思いました。以下、紹介引用します。

▽従来の安全論争では、炉心溶融が起こるかどうかに大部分の労力がさかれ、それが起こったときは原子炉が全壊して大量の放射性物質が周辺数十キロメートルに飛散して数万人の死者が出ることは必然だと思われていた。しかし今回の事故では――あとからわかったことだが――炉心は完全に溶融していたが、圧力容器は(一部破損したものの)破壊されず、格納容器もほぼ無事だった。つまり今回の事故では、次の二つの神話が崩壊したのである。

安全神話:最悪の事態でも炉心溶融は起こらない
危険神話:炉心溶融が起こると数万人が死ぬ

 このうち後者はあまり気づかれないが、不幸な出来事の多かった中で唯一のグッドニュースである。放射能の健康被害は、従来の想定よりもはるかに小さかったのだ。だから30キロ圏内を避難させた政府の計画避難区域は過大であり、農産物などの出荷規制も不要だった。このような過剰規制によって11万人の人々が10ヶ月以上にわたって避難生活を余儀なくされ、農業に多大な被害が出て、その賠償で東電の経営が破綻することが懸念されている。
 
 もちろんこれは結果論であり、ほとんど情報のなかった事故直後に行政が「過剰防衛」したのはやむをえないが、その後もずっと避難勧告を解除しなかったことは被災者に大きな負担となった。この原因は、マスメディアだけでなくネットメディアも放射線の危険を誇大に報じ、「リスクゼロ」を求める人々が騒いだためだ。
 
 私は原子力工学の専門家でも放射線医学の専門家でもないが、NHKに勤務していた1980年代に原発訴訟を取材し、それからも関心をもってきた。エネルギー問題の特徴は、非常に複雑で専門分化していることだ。しかも物理学や医学と経済問題や政治問題がからみあっているので、ある分野のテクニカルな問題が別の分野に影響する。

 原子力工学の専門家は放射線医学については古い知識しかなく、放射線医学の専門家はエネルギー問題については何もいえない。それは専門家の節度としては正しいのだが、結果的には専門知識のないデマゴーグの跳梁を許してしまう。
(以上、引用おわり)

 たいへんわかりやすい解説で、ほぼそのとおりだと私自身も同意します。

 池田さんのブログ記事には、賛成派・反対派双方のコメントがいくつも付いていて、それもなかなか面白いです。(⇒こちら

(追記)
 と、以上まで書いた後で、ふと読み返してみて、「待てよ」と思い至りました。これはまさに、かつての原発論争での、反原発派と原発推進派の不毛な論争の再現ではないかという気がしてきたわけです。
 昨年、拙著『謀略の昭和裏面史』の新装版出版にあたって、正力松太郎と原発の昭和史についての1項目を新規に書き加えたのですが、当ブログですでに紹介したとおり、その文末を、私はこんなふうに書いています。

「こうして日本では多数の原発が建設されていったが、その陰で、安全性への充分な検討が行われたとはいえなかった。ひとつ指摘しておきたいのは、原発をめぐる賛否の議論が、不幸なことに最初から、保守陣営と左翼陣営の政治的対立の構図に陥ってしまったことだ。
 そもそも正力松太郎が原発導入に動き始めた当初から、対立軸は〝原発推進派の保守政権サイド〟と〝原子力は悪だとして原子力利用自体に反対する左翼サイド〟との議論なき対立になってしまっていた。東海村に日本原子力研究所を設立する際など、正力は警察人脈を駆使して関係者の身元調査を徹底したといわれるが、反原発運動はその後も左翼勢力の活動の場になり、公安警察の監視対象になった。
 本格的に日本全国に原発が建設されるようになっても、自民党の利権である原発に対し、反政府運動の立場から左翼が批判するという構図は続いた。左翼の反政府政治運動と結びついた反原発運動から一般国民は離れていき、原発推進側は組織防衛のために原発安全神話を繰り返すようになった。
 もともとはどちらの側も、それなりに真剣に日本の未来を考えての行動だったのかもしれないが、こうした政治闘争の構図になったことで、肝心の安全性についての議論が封印されてしまったことは、日本の原子力行政にとって、また日本国民全体の利益にとって、大いに問題だったといわざるをえないだろう」

 今まさに、放射線汚染の危険度をめぐって、同じことが繰り返されているように感じます。たとえば、今朝の新聞朝刊広告によると、週刊ポストに「目に余る放射能『煽り派』の犯罪」という記事が掲載されているようです。
 私が上記のようなエントリーをつい書いてしまうのも、福島県人のひとりとして、多少は似たような怒りの意識があるからですね。
 ですが、問題なのはどちらかの勝ち負けではなく、正確な情報と適切な対処です。今回もかつての反原発運動と同様、少数派の「扇動派」がファナティックに言論上の攻撃を仕掛けていて、それに対する多数派の反感が強まっているというのが、大まかな日本社会の世論動向に見えます。とくに瓦礫論争は、間違いなくそのフェーズに入ってきていると思います。
 しかし、扇動派が極論を仕掛けているからといって、アンチ扇動派が冷静さを失っては、結果的に適切な対処が阻害される可能性が出てきます。議論は大いにすべきですし、互いの論点の欠陥を指摘し合うことも重要なことですが、感情的な対立から、相手を否定するあまり、客観的な分析と対処が封殺されるような事態は避けなければなりません。以上、自戒もこめて。

(追記その2)
 開米瑞浩さんの原子力論考シリーズに、少数派が先鋭的・攻撃的になる心理メカニズムが解説されていて、たいへん興味深く拝読しました。
原子力論考(40)「反対運動」が先鋭化する病理をシステム思考的に考察すると
 反原発のような運動がいかに必然的に攻撃的になっていくかをわかりやすく図解しています。以下のような指摘には「なるほど」と思いました。
(以下、一部引用)
「こういうパターンは日本の戦後左翼運動の中ではいくらでも見ることができる典型的なもので、要はイデオロギーには関係なく、集団の中で生きる人間の心理が陥る落とし穴のよくある例なんですね。ですから、現在の原発問題においてはそれが起きない、と考える理由はありません。必ず起きます」
「起きるとどうなるか、というと、だいたいは仲間割れを始めます」
(中略)
「反原発運動についてもおそらくそういう展開が起きます」
(以上、一部引用)

 ま、そういう例はたしかにイデオロギーには関係なく、右翼・保守派とかでもよくありますね。
 私が各地で見てきた戦争の現場でも、そんな例はいくらもありました。
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  1. 2012/03/05(月) 19:03:42|
  2. 未分類
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:2
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コメント

>仲間割れ

 江川紹子氏が,過度の言論暴力的な「脱原発」運動をたしなめた結果(それが全ての原因でもないでしょうが),自由報道協会を追放されたのは,その象徴のようなものですね.

 一方,いわゆる推進派は,情報発信そのものが激減しており,情報のクロスチェックを困難にしているような感があります.
 佐藤優氏が予言していた「エリート専門家の萎縮」が,現実化してしまっているようで,非常に残念です.
  1. URL |
  2. 2012/03/09(金) 21:35:50 |
  3. 消印所沢 #-
  4. [ 編集]

 仰るとおりですね。こうしてまたきちんとした議論が見えなくなって、いろんなレベルで敵味方の揚げ足取り合戦になっていくのでしょうか・・・
  1. URL |
  2. 2012/03/14(水) 12:38:51 |
  3. 黒井文太郎 #-
  4. [ 編集]

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プロフィール

黒井文太郎

Author:黒井文太郎
 63年生まれ。『軍事研究』記者、『ワールド・インテリジェンス』編集長などを経て、現在は軍事ジャーナリスト。専門は各国情報機関の最新動向、国際テロ(とくにイスラム過激派)、日本の防衛・安全保障、中東情勢、北朝鮮情勢、その他の国際紛争、旧軍特務機関など。

 著書『ビンラディン抹殺指令』『アルカイダの全貌』『イスラムのテロリスト』『世界のテロと組織犯罪』『インテリジェンスの極意』『北朝鮮に備える軍事学』『紛争勃発』『日本の情報機関』『日本の防衛7つの論点』、編共著・企画制作『生物兵器テロ』『自衛隊戦略白書』『インテリジェンス戦争~対テロ時代の最新動向』『公安アンダーワールド』、劇画原作『実録・陸軍中野学校』『満州特務機関』等々。

 ニューヨーク、モスクワ、カイロに居住経験あり。紛争地域を中心に約70カ国を訪問し、約30カ国を取材している。




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