ワールド&インテリジェンス

ジャーナリスト・黒井文太郎のブログ/国際情勢、インテリジェンス関連、外交・安全保障、その他の雑感・・・(※諸般の事情により現在コメント表示は停止中です)

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またまた嘉手納統合について

 海兵隊再編でいろいろ動きがありますが、日本のメディア報道を見ていていつも感じることは、ワシントンの視点が欠けているのではないかなということです。しかも、そのアメリカ情報も、日本の事情も多少は考慮している国務省や国防総省の対日セクションの話ばかりが(おそらく日本外務本省や在ワシントン日本大使館あたりを経由して)重視され、米政府全体の冷徹な計算がきちん伝えられていないようにも感じられます。
 海兵隊再編は基本的に、米政府の意思で行われていることです。予算総額を削減したい議会と、戦力の効率的な運用を目指したい国防総省(軍)との綱引きで米政府の方針が決定されます。なので、アメリカの政府と議会内の事情を見なければなりません。そういう視点で見れば、アメリカのやろうとしていることはわかりやすい話なのですが、なんだか日本では「アメリカが方針を変えた」ようなイメージになっている気がします。

 2月27~28日、東京で日米外務・防衛当局の審議官級協議が行われ、アメリカ側は海兵隊再編構想を日本側に説明(通達?)しました。当初、沖縄海兵隊から戦闘部隊中心に約8000人をグアム移転する予定でしたが、約4700人に縮小し、残りは各地でローテーション配置する計画となっています。配置先はオーストラリア北部、フィリピン、ハワイで、オーストラリアは決定済み、フィリピンもすでに交渉が始まっていて、おそらく合意するものと見込まれています。岩国基地への一部配置換え案もありましたが、日本側は今のところはダメということになっています。
 沖縄海兵隊は約1万8000人ですが、これで約1万人に減ります。第3海兵遠征軍(3MEF)司令部や、即応部隊である第31海兵遠征部隊(約2200人)も残留します。
 さて、これらはアメリカ政府から出された案で、しかも日本側にも好都合ですから、そのまま決定となるでしょう。ですが、日本側の求めではなくて、あくまでアメリカの都合です。ここが重要な点です。アメリカはとにかく、対テロ戦で膨れ上がった国防費を大幅に削減することが決まっています。すべてはそこから出発しています。

 1月26日、国防総省は2013会計年度(12年10月~13年9月)から5年間の国防予算削減計画を発表しました。5年間で計2590億ドル(約20兆円)という巨額の削減幅です。すでに今後10年間で国防予算を総額4870億ドルも削減することが発表されていますが、その約半分ということですね。
 兵器でいえば、たとえば航空自衛隊が導入を決定したF35ですが、米空軍は今後5年間に予定していた179機の調達が先送りされます。ただでさえ開発経費が高騰し、開発スケジュールに遅れが出ている最新鋭戦闘機ですが、ステルス機開発はアメリカが先行していて、死活的なステルス機競争という局面でもないので、とりあえず後回しということです。
 いまや戦場の主役となっているグローバルホークも、新規調達計画を中止。MV22オスプレイの調達機数も減らしました。新型潜水艦の調達も先送りされています。
 その他、空軍の戦闘機部隊を削減したり、海軍の艦艇を早めに退役させたりして部隊の縮小を図りますが、なんといっても大きいのは、地上部隊の大幅削減です。
 米軍は今後5年間で、陸軍8万人、海兵隊2万人を削減します。これで陸軍の総兵力は約49万人、海兵隊は約18万人になります。
 削減戦力のなかでも大きいのは、アフガン駐留軍の撤退にともなう削減と、ヨーロッパ駐留の陸軍2個旅団の撤収ですが、その一方で、当面は在日米軍、在韓米軍の兵力は維持されます。
 この動きを、「中国の軍拡に対抗した米軍のアジア太平洋シフト」と解説する向きがありますが、これは正しくは「アジア太平洋エリアでの兵力削減を後回しにする」ということで、いずれこちらの兵力削減も遡上に乗るでしょう。
 アメリカは今後、常に世界中に張り付くというカネのかかるやり方を改め、大幅に削減した兵力を緊急展開能力でカバーする戦略に変えます。海外展開先として考えられているのは、中東&東アフリア、南アジア&インド洋、東アジア&西太平洋(南シナ海含む)なので、そちらへの展開能力を、少ない兵力で効率的に行える態勢作りということを目指します。

 そこでもっとも中心となる拠点として、沖縄とグアムを2大前方拠点としていこうというのが、米軍の基本戦略です。米軍は沖縄を、北朝鮮や中国だけに向けた戦力拠点として考えているわけではありません。
 在韓米軍が存在しているので、北朝鮮に即応するために海兵隊が沖縄にいる必要性はそれほどありません。沖縄海兵隊の抑止力は、なんといっても台湾防衛のためですが、フィリピンに拠点が出来れば、沖縄だけということではなくなります。もちろん沖縄の地理的重要性は依然ありますから、それなりの戦闘部隊は残しますが、即応部隊さえ残してあれば、第2陣以下はむしろグアムに配置したほうが海兵隊全体の脆弱性は軽減されます。

 また、南シナ海を睨んで、中国海軍への牽制ということは考えているでしょうが、実際のところ、中国軍と米軍の海軍力には雲泥の差があり、米軍予算が削減されたとしても向こう半世紀は余裕で米軍優位の状況が続きますので、それほどシビアな状況にはなりません。

 他方、日本にとっての米軍のプレゼンスを考えると、日本防衛の抑止力としては、配置戦力がどうのという問題よりも、「米軍が日本にいる」という事実が重要です。沖縄の場合も同様で、「米軍が沖縄にいる」ということで、中国軍は手を出せません。極端な話、嘉手納に米空軍がいれば、沖縄本島は安全です。
 日本の離島防衛に米海兵隊の抑止力が必要だとの議論もありますが、それもどうでしょうか。たとえば尖閣諸島に中国軍が上陸したとして、米海兵隊が上陸奪還戦を行うなどという局面は、軍事的に考えられません。制海・制空権を確保すれば、中国軍は撤収せざるを得ません。石垣島が攻略されたらやっかいですが、これも海兵隊が対処するというよりは、自衛隊で対処すべきですし、そのくらいなら実際できるでしょう。
 米軍のプレゼンスの低下は、抑止力の低下につながるのは事実ですが、世界最強の米軍がそこそこいれば、抑止力は担保されます。とくに嘉手納の空軍は強力であり、空母部隊も即応態勢にありますから、現状は米軍側の圧倒的優位にあります。抑止力にはまだまだ余裕があり、抑止力の現状レベルを維持することを前提にする必要はありません。
(以前も書いたことがありますが、軍事バランスという用語がどうも誤解されている気がします。現在、東アジアで米軍と中国軍の戦力が同レベルで均衡しているために平和が保たれているということではありません。拡張志向の中国軍よりも、現状維持志向の米軍が優位だから平和が保たれているのです。中国軍の戦力が米軍より優位になると、状況は一挙に危険水準に入りますが、そういう事態は近未来にはないでしょう)

 今回、グアム移転の規模が減った最大の理由は、移転費用が縮小されたからです。国防総省が2月13日に発表した2013会計年度(12年10月~13年9月)予算案では、グアム移転経費が2590万ドル。前年度要求は1億5592万ドルでしたが、昨年末に議会で全額削除されています。
 アメリカはとにかく移転費を日本政府に拠出させる腹積もりですが、日本側もさすがに、なし崩しに膨れ上がる要求には抵抗しています。
 ですが、中長期的には、いずれ米軍はグアムを展開拠点にします。これは冒頭指摘したように、少ない戦力を効率よく即応態勢シフトにするための戦略です。これはアメリカ側の事情であり、日本側の事情は無関係です。
 海兵隊の再編問題も、とにかく今後5年間の2万人削減が出発点です。今回の削減幅は欧州駐留陸軍などが先行されましたが、米軍の海外エンゲージメントは大幅縮小の方向ですから、おそらく次の5年間ではさらに海兵隊が削減されるでしょう。海兵隊はますます、少ない兵力を効率的にまわすことが要求されます。
 今後、まずはグアム移転4700人の移転費が問題になります。米政府は「やりたいけど、費用が足らない」ということで、日本側に要求してくるでしょうね。すんなり支払わなくても、そのうち米議会は通すと思うのですが。

 普天間はますます固定化まっしぐらですね。辺野古移設なんて、米側ももうアテにしていないでしょう。
 私自身は、かねて書いてきているように、嘉手納統合がベストと思っています。米議会から話が出ているのは、これも予算削減が背景にあるのですが、せっかく向こうから出てきた話なので、これに乗っかったほうが得だと考えています。
 嘉手納統合案に対しては、部隊が増えれば騒音被害が増幅するとの地元の反対がありますが、これはなんともいえません。空軍も含め、前方拠点が沖縄、グアムの2枚になれば、平時における空軍の運用が削減される可能性は非常に高いと思っています。
 要は米軍施設をひとつずつ減らしていくのが重要で、残った施設でどう運用するかは米軍側の問題です。現実問題として、海兵隊へリ部隊が移転してきたからといって、騒音がそのぶん増えるとはいえません。空軍の運用が減れば、それは戦闘機よりヘリは静かですから、全体としては騒音が減る可能性が高いと思います。ただし、いろいろ両国政府で交渉したところで、運用は結局は米軍の都合で行われるので、将来的に変更される可能性がありますから、断言はできません。
 沖縄の方はとにかく県外移転ということで、心情的には理解できるところが多々ありますが、現実問題として、散々指摘されてきたように、ヘリ部隊だけ遠隔地配置ということはあり得ません。移転するなら戦闘部隊とのセットしかないですが、海兵隊としては、まずは台湾、さらに東南アジア、南アジア、中東、東アフリカへの出撃拠点ということですから、戦闘部隊の拠点を方向違いの日本本土へ移転することなど考えていないでしょう。とくに第一の戦略目標である台湾有事抑止を考えた場合、ちょっとあり得ない選択だと思います。
 沖縄の方の心情はわかりますが、沖縄に海兵隊がいるかぎり、ヘリ部隊の県外移転はないでしょう。そうすると、解決策は海兵隊の全面撤退しかないという話になります。
 私自身はそれもアリだとの考えですが、現在の日米関係のなかで、そんな話が現実的とはとうてい思えません。米軍の県外移転を要求するのは沖縄の方の正当な権利だと思いますが、それなら海兵隊の全面撤収を要求すべきでしょう。海兵隊全面撤収に触れずに、ヘリ部隊だけの県外移転しか言わないのは、たいへん失礼ながら、ちょっとどうかなと思っています。
 海兵隊が沖縄に留まることを前提とすれば、もしも普天間返還を最重要視するなら、辺野古移転か嘉手納統合しか、現実的には道はありません。どちらかを選ぶとすれば、私は嘉手納でいくべきとの考えです。
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  1. 2012/02/29(水) 18:49:40|
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  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:1
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Japanese mentality

日本語には未来時制がない。
日本人は理想の世界 (未来の世界) を脳裏に保持できない。
だから、その現実対応策も場当たり的なものになる。
我が国は時流に流されて迷走する。

http://www11.ocn.ne.jp/~noga1213/

  1. URL |
  2. 2012/03/02(金) 04:54:59 |
  3. noga #sqx2p0JE
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プロフィール

黒井文太郎

Author:黒井文太郎
 63年生まれ。『軍事研究』記者、『ワールド・インテリジェンス』編集長などを経て、現在は軍事ジャーナリスト。専門は各国情報機関の最新動向、国際テロ(とくにイスラム過激派)、日本の防衛・安全保障、中東情勢、北朝鮮情勢、その他の国際紛争、旧軍特務機関など。

 著書『ビンラディン抹殺指令』『アルカイダの全貌』『イスラムのテロリスト』『世界のテロと組織犯罪』『インテリジェンスの極意』『北朝鮮に備える軍事学』『紛争勃発』『日本の情報機関』『日本の防衛7つの論点』、編共著・企画制作『生物兵器テロ』『自衛隊戦略白書』『インテリジェンス戦争~対テロ時代の最新動向』『公安アンダーワールド』、劇画原作『実録・陸軍中野学校』『満州特務機関』等々。

 ニューヨーク、モスクワ、カイロに居住経験あり。紛争地域を中心に約70カ国を訪問し、約30カ国を取材している。




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