ワールド&インテリジェンス

ジャーナリスト・黒井文太郎のブログ/国際情勢、インテリジェンス関連、外交・安全保障、その他の雑感・・・(※諸般の事情により現在コメント表示は停止中です)

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アサドはなぜシリア国民に嫌われるのか

 アサド軍がすぐに奪還作戦に動くと思っていたザバダーニですが、今のところまだ自由シリア軍の支配下にあるようです。山岳地帯なので、アサド軍にとっても攻略はそう容易ではないですが、火力で打撃を与えるだけならそう難しくないはず。今更アサド軍が住民の安全を考慮することは考えられませんから、なぜまごついているのかはよくわかりません。
 ひとつの可能性としては、軍内部に離反兵続出の動きがあって、上層部が内部統制強化を計っているということが考えられますが、実際のところはわかりません。いずれにせよ、バダーニがこのまま反乱軍の拠点として定着すればベストですが、どうなるでしょうか。

 自由シリア軍はザバダーニに続き、現在、ダマスカス北方郊外のランクースと東方郊外のドゥーマでの攻略戦を進めています。ダマスカス近郊はアサド軍も死守の構えですから、なかなか難しいようではありますが、部分的にはすでに自由シリア軍が押さえた場所も増えてきているようです。
 もしもこの2点が自由シリア軍の手に落ちれば、レバノン国境からザバダーニ=ランクース=ドゥーマと繋がり、ダマスカス北方を横断するラインが完成します。ダマスカス郊外の自由シリア軍は、トルコ国境からイドリブ=ハマ=ホムス(ホムスにはレバノン・ルートもあり)と連なる自由シリア軍主力と断絶していて、離反兵の組織化がまだまだ遅れていますが、ドゥーマあたりまできっちり自由シリア軍を組織化できれば、ダマスカス包囲網に向けて大きな前進となるでしょう。

 反体制派の中には、いまだに「内戦化に繋がる」として自由シリア軍の活動に批判的な声がありますが、現実問題として、反乱軍が動かなければ、アサド独裁は倒せません。アサド政権が単なるデモだけで、たとえばアラブ連盟の勧告を受諾して自ら政権を放棄することなど考えられません。
(昨日お伝えしたアラブ連盟の政権交代行程案ですが、国内直接行動派を代表する地域調整委員会がさっそく拒否していましたね。アサド政権がまともに交渉に応じることはないとわかっているのです)
 ここまで来れば、自由シリア軍にすべてがかかっています。彼らがある程度、反乱軍としてのプレゼンスを高めて初めて、大規模な離反兵あるいは政権幹部の離脱が期待できます。現時点で、たとえばNATO軍の軍事介入の目はありませんが、アサド軍と自由シリア軍の戦闘が激化することで、飛行禁止空域設定・安全地帯設定という話も具体化するのではないかと思っています。
 とにかくアサド政権は王朝ですから、妥協する考えなど露ほどもありません。外交的な圧力も意味ありません。力で追い詰めないと、何も状況は動かないと思います。

 最近こそようやく反乱軍による反撃も出てきましたが、シリア革命の経緯を振り返ると、昨年3月から、国民が街頭デモに立ち上がり、治安部隊や政権側民兵に一方的に殺害され続けてきました。殺されても殺されても、多くの国民は前身し、銃弾を撃ち込んでくるアサド軍に対し、丸腰で「ノー」と叫び続けています。
 このパワーはいったいどこから来るのか? ということを、ときおり大手メディアの方と話すときに話題になります。群集心理にしても、3ヵ月くらいは盛り上がることもあるでしょうが、もう1年近くになるわけです。私自身、アラブの人がここまで自己犠牲の姿を見せたことに、ちょっと驚いています。
 そもそも私の知っているアラブ人の多くは、口先と行動が伴わず、原則的に自己利益・自己保身を優先する現実主義者が多かったように思います。恐怖政治と同調圧力と弱肉強食が同居している社会なので、ある意味それが当然ともいえるのですが、今回の反独裁の渇望は、世界中の誰もが独裁下の暮らしを望んでなどいないということを証明しているように思うわけです。

(なお、アサド政権も、サダムやカダフィやムバラクやその他の中東独裁政権も、要は権力闘争に勝ち残り、後ろから殺されないために強権政治をやってきたことは同じと思います。なので、独裁政権の功罪ということでは、彼らの功など何もないと考えています。
 ちなみに、以前も書いたことがありますが、ときどき聞く「中東では欧米式の民主主義はそぐわない」との言説はあまりに表層的な理解だと思っています)

 では、バシャール・アサドはなぜこれほど人々に嫌われているのか?
 じつは、バシャールは昨年3月まで、アラブ世界の中ではそんなに嫌われてはいませんでした。もともとは死んだ長兄が跡取りだったので、次男バシャールはシリア国内では文字通りの「馬鹿息子」扱いされていました。なので、イギリスに出されて眼科医研修をしていたわけですが、その経験からも、親世代のガチガチのアナクロ反米ではなく、今風の国際感覚を持っているのだろうと、「馬鹿だけれども」なんとなく期待されました。
 実際、父ハフェズの時代の恐怖体制を多少緩めた部分はあります。携帯やインターネットの解禁もそのひとつ。欧米圏への経済開放もひとつ。あるいは、ハフェズの取り巻きとして不正蓄財と暴力のかぎりを尽くしたドゥバやハイダルなどの軍の古参幹部を引退させたのも、人気の種となりました。
 もともと父ハフェズ自身、「隣国イラクのサダム・フセインよりはマシ」といった消去法で支持されていた人物でしたが、バシャールは「馬鹿だけれども、あの怖いハフェズよりはマシ」と大方のシリア国民にも思われていた時期がかなりありました。
 しかし、それはあくまで従来の独裁強権政治を前提としての人気であって、チュニジアやエジプトで夢のような革命が実現した後になってみれば、独裁制そのものが打倒すべき悪ということになるわけです。おそらくバシャール自身、革命初期の段階では、自分は国民人気があるものと自分で信じていた可能性が高いでしょう。
 私は革命草創期からその動向をウォッチしていますが、革命を求める国民の側も当初は「バシャールなら、もしかすると民主化に同意してくれるかもしれない」との期待が少なからずあったように思います。ただ、それが単なる希望的観測に過ぎなかったことが、すぐに証明されてしまいましたが。
 これまで他人様に説明するとき、私は何度か「北朝鮮の世襲政権みたいなもの」と表現していました。それでおおよそのイメージをわかってもらえましたが、中には「北朝鮮ほど洗脳されていたら、信奉者も多いのでは?」との指摘をする方もおられました。私は北朝鮮の洗脳などそれほど信じていないですが、それはともかく、私の印象では「アラブ世界で洗脳? んー、ちょっと違うなあ」といったところなので、今はこんなふうに表現することにしています。
「山口組が独裁政権を握ったようなものです」
 どうでしょう? これもちょっと違うかなあ。でも、シリア国民の大方のイメージでは「アサドはヤクザのボス」に近い気がしますね。サダムやカダフィなら文句ナシな感じですが、アサドも似たようなものでしょう。こちらはコワモテ幹部に囲まれたボンクラ2代目といったところですが。
 堅気からは憎まれて当然でしょう。まあ、組員でもないのに、親分をヒーロー視するファンもいないわけはありませんが。
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  1. 2012/01/24(火) 11:30:09|
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プロフィール

黒井文太郎

Author:黒井文太郎
 63年生まれ。『軍事研究』記者、『ワールド・インテリジェンス』編集長などを経て、現在は軍事ジャーナリスト。専門は各国情報機関の最新動向、国際テロ(とくにイスラム過激派)、日本の防衛・安全保障、中東情勢、北朝鮮情勢、その他の国際紛争、旧軍特務機関など。

 著書『ビンラディン抹殺指令』『アルカイダの全貌』『イスラムのテロリスト』『世界のテロと組織犯罪』『インテリジェンスの極意』『北朝鮮に備える軍事学』『紛争勃発』『日本の情報機関』『日本の防衛7つの論点』、編共著・企画制作『生物兵器テロ』『自衛隊戦略白書』『インテリジェンス戦争~対テロ時代の最新動向』『公安アンダーワールド』、劇画原作『実録・陸軍中野学校』『満州特務機関』等々。

 ニューヨーク、モスクワ、カイロに居住経験あり。紛争地域を中心に約70カ国を訪問し、約30カ国を取材している。




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