ワールド&インテリジェンス

ジャーナリスト・黒井文太郎のブログ/国際情勢、インテリジェンス関連、外交・安全保障、その他の雑感・・・(※諸般の事情により現在コメント表示は停止中です)

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ゲリラの現場

 7月10日、チェチェン・ゲリラの指揮官シャミル・バサエフが死亡した。現時点では戦死説・事故死説の両方があって、真相は確認されていない。
 ただ、いずれにせよ、さる6月7日にイラクでザルカウィが殺害されたのに続き、イスラム・テロリストのカリスマがこの世から消えたということで、それぞれの地域の安定にはいくらか好材料となったとはいえるだろう。
 筆者はチェチェンの取材経験はないので、バサエフ派の実態はまったく知らないが、バサエフ派従軍経験のあるおそらく唯一の日本人である軍事ジャーナリスト・加藤健二郎氏の評によると、彼はかなり「勇猛さ」を前面に押し出したゲリラ指揮官だったようだ。
 実は世界中の紛争の現場では、こうしたある種〝好戦的〟なリーダーの存在が、流血拡大の大きな要因になっているケースは非常に多い。どこの世界でも、過激派は穏健派を「この臆病者!」と批判するため、容易に穏健派(=現実派)が凌駕されやすいのだ。
 筆者は前出したようにチェチェン取材歴はないが、ヒズボラ、へズビ・イスラミ、コントラ、モロ民族解放戦線など、80~90年代の各地の反政府ゲリラの取材経験があるのだが、その経験からわかるのは、ゲリラの現場はたとえば不良グループあるいは〝いじめ”グループの現場に非常によく似ているということだ。
 たとえば、ゲリラのメンバーで、その組織の綱領だとかイデオロギーだとかをちゃんとわかっている者はほんの一握りしかいない。あとは成り行きで参加した者ばかりだが、そうしたグループでは、良識ある意見は〝軟弱〟と決め付けられ、より過激で好戦的で残虐な意見を主張する者が主導権を握る。
 ほとんどのメンバーたちは一部の過激リーダーの路線に感化される。日本の若者の不良グループやイジメ仲間と同様、ゲリラ集団はそんな群集心理で動くのだ(日本の大人社会で不正行為を行なう企業戦士も同様ですね)。
 ザルカウィもバサエフも、言ってみれば、そんな〝番長〟のひとりだったのだと思う。
 番長グループの下っ端の多くは、自分の意思ではなく、群集心理で悪さをする。したがって、不良番長が少年院に送られたりすると、残された取り巻きは自分から悪さをすることはあまりない。
 ロシアのみならず、中央アジアや中東諸国など、全世界的に非常に評判の悪いチェチェン人の世界というのは、いわば「ガラの悪い札付きの不良校」に似ている。したがって、バサエフが死んでも、その代わりには事欠かない。だが、いくら札付きの不良校でも、皆が悪いわけではない。そんな悪環境のなかでも立派に生きている人はいくらでもいる。バサエフ死亡はそれなりにチェチェンの札付きたちには大きなダメージとなるが、筆者はむしろ逆境のなかでも希望を捨てずに頑張っているだろうチェチェンの良識派には大きなチャンスになると思う。
 このようなことを書くと、「チェチェン人は大国ロシアに蹂躙されるかわいそうな民族」というステレオタイプなイメージを持つ人々には違和感を持たれることだろう。チェチェン人がかわいそうなことに異論はないが、彼らの苦悩の責任は、ロシアと不良番長(その筆頭がバサエフ)の両方にあると思う。できもしない威勢のいいスローガン(たとえば「ロシアを駆逐し、独立する!)を唱えて一般の住民たちに不幸をもたらしても、自分たちの愚に気づかず、「我こそは正義だ」と単純に信じている不良番長の罪は重い。
 パレスチナなどにも言えることだが、できもしない夢のために住民に不幸をもたらしている愚かな番長グループを、外国プレスが後押ししていることも問題だと思う。この機会に、筆者がよく知るゲリラ取材の現場の雰囲気を紹介しておこう。
 外国人記者がゲリラを取材する場合、ゲリラ側は「この記者は自分たちの味方だ」と考える。取材者側が取材を受け入れてもらえるように、そういった空気にわざと誘導するからだ。また、実際にフリーランスの記者などの場合には、もともとシンパだった記者が取材に入ることが多いのも事実である。
 そうすると、取材現場はどういう雰囲気になるか?
 ゲリラ側は自分たちの主張を語るが、それが無条件で評価されることになる。取材者も「そうだ、そうだ!」と言っていると結構気持ちがいい。だが、その主張はもちろん、現実路線の穏健派のものではなく、非現実路線の過激派の主張だ。
 それにより、ゲリラの現場では過激路線がますます強化され、現実路線は排除される。たとえその主張が現実性のないもので、住民の犠牲の継続しかもたらさないものだったとしても、ゲリラ側は「外国人たちはわかってくれている」と勘違いしてしまう。紛争現場では、ますます原則論を語る過激派の立場が強化されるということになる。
 だが、紛争現場に生きる人々は、もっと現実的な考えを内に秘めていることが非常に多い。筆者の経験からしても、「皆はそう言っているけど、ホントかね?」というスタンスで話をこっそり聞くと、「いや、実はそうなんだよね」という反応が返ってくることが非常に多い。結果的に、ゲリラにシンパシーを持つ外国取材陣は、紛争解決を阻むかなり迷惑な存在になってしまっている可能性もあるわけだ。
 筆者もそのことに気づくようになったのは、紛争地取材を始めて何年も後のことである。
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  1. 2006/07/13(木) 05:41:02|
  2. 未分類
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:2
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コメント

非国家軍事組織を舐めてる?

過去のものを遡って読んでます。

>ゲリラの現場は一番後ろの席だったので“不良、いじめ”グループの現場に似ている。メンバーで組織綱領やイデオロギーをわかっている者はほんの一握り。あとは成り行きで参加した者、良識ある意見は“軟弱”と決め付けられ、過激で好戦的で残虐な意見を主張する者が主導権を握る。

なるほどと思いました。

もでも、米露の軍隊だって下層部は同じようなものかと思います。ロシア軍の新兵いじめもメディアで報道されている事ですし、非国家軍事組織を舐めている気がします。

例えば、こういう情報があります。

ヒズボラは第二次レバノン戦争のきっかけとなったイスラエル兵士誘拐事件に先立ち、数ヶ月間のシュミーレーション訓練をしている。しかも、その情報収集に数年の歳月をかけている。

指導者のナスラッラー師などは毎朝イスラエルの新聞の要約報告を部下に命じている。

彼らの「知」の部分にも目を向けるべきではないでしょうか。

不良少年の例えは具体的なイメージを喚起しているが故に面白いし、マッチョな論理と内部の地位に相関関係があるという判断も正しいのかもしれません。

だが、戦いには「敵」がある事ですし、馬鹿げた事をすると簡単に命を落とすという事を最も知り尽くしているのは歴戦の戦士自身なのではという感想を持ちました。

そういう意味において

>紛争現場に生きる人々は、もっと現実的な考えを内に秘めていることが非常に多い。

という箇所は納得。

他のイスラム系も大体においてそうなのだろうが、「アラブの見栄」や「(本当は降ろしたい)建前」というのが紛争を複雑にしているだけでなく、彼らの敵対者に「状況証拠」とされてしまっている部分があるのかもしれません。


なお、今日のハアレッツ紙電子版にパレスチナの政治軍事組織ハマスがインテリジェンス部門創設したニュースがありました。
http://www.haaretz.com/hasen/spages/888417.html
  1. URL |
  2. 2007/07/30(月) 01:43:05 |
  3. NK #HfMzn2gY
  4. [ 編集]

NK様

貴重なご意見をありがとうございます。
零細企業ゆえ、いろいろ自分でやらなければならないことが多く、それに加えていくつかの他にも並行して行なっているため、なかなかコメントを返せずに申し訳ありません。
  1. URL |
  2. 2007/08/01(水) 07:57:40 |
  3. 黒井文太郎 #-
  4. [ 編集]

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プロフィール

黒井文太郎

Author:黒井文太郎
 63年生まれ。『軍事研究』記者、『ワールド・インテリジェンス』編集長などを経て、現在は軍事ジャーナリスト。専門は各国情報機関の最新動向、国際テロ(とくにイスラム過激派)、日本の防衛・安全保障、中東情勢、北朝鮮情勢、その他の国際紛争、旧軍特務機関など。

 著書『ビンラディン抹殺指令』『アルカイダの全貌』『イスラムのテロリスト』『世界のテロと組織犯罪』『インテリジェンスの極意』『北朝鮮に備える軍事学』『紛争勃発』『日本の情報機関』『日本の防衛7つの論点』、編共著・企画制作『生物兵器テロ』『自衛隊戦略白書』『インテリジェンス戦争~対テロ時代の最新動向』『公安アンダーワールド』、劇画原作『実録・陸軍中野学校』『満州特務機関』等々。

 ニューヨーク、モスクワ、カイロに居住経験あり。紛争地域を中心に約70カ国を訪問し、約30カ国を取材している。




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