ワールド&インテリジェンス

ジャーナリスト・黒井文太郎のブログ/国際情勢、インテリジェンス関連、外交・安全保障、その他の雑感・・・(※諸般の事情により現在コメント表示は停止中です)

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タブーとしてのイスラム

 マスコミ業界には今も厳然とタブーがあります。いちばんわかりやすいのが、天皇と大宗教ですね。タブーなんかぶっ飛ばせ!という無頼なスタンスをセールスポイントとする論者でも、このあたりは面倒なので、批判めいたことはたいていはスルーします。
 天皇はともかく、大宗教は「言論の自由」先進国の欧米の国々でもまずタブー扱いです。超零細な個人ブログでも、このあたりを赤裸々に書くのは危険行為ですね。
 またこんなニュースがありました。
▽フランス:ムハンマドの風刺画掲載の雑誌事務所に放火(毎日新聞/11月2日)
 人々が嫌がることをわざわざやることもないなとは思いますが、暴力はダメですね。
 イスラムでは、偶像崇拝が禁止されていて、神を擬人化したり、預言者ムハマドをビジュアル化することは許されていません。お笑いコンビ「モンスターエンジン」に、神に扮してふざける「神々の遊び」という傑作コントがありますが、外国ではちょっと考えられませんね。
 イスラムに関しては、かつて拙著「イスラムのテロリスト」を出版したとき、信者を刺激しないようにいくつかの点で気をつかいました。イスラム過激派についての解説書だったわけですが、イスラム全体に対する配慮ということで、当初は「イスラム・テロリスト」という書名案だったのが、版元様の提案で、間に「の」を入れることになりました。私はどちらでもよかったのですが、これで「全員ではなくて、一部の人々ですよ」というニュアンスが出るだろうとの判断でした。
 序文でも、版元様の要請で、「イスラム全体のことではない」というような一文をわざわざ入れました。私はこれもどちらでも構わなかったのですが。
 大宗教に関する解説書がときおり出版され、なかには結構なベストセラーになっているものもありますが、あれも全部赤裸々に書いているようにはとても見えません。危険行為だからですね。

 イスラムに限れば、日本ではニュートラルな科学的視点できちんと分析された社会学的・文化人類学な解説書は、たぶんありません。それに関してちょっと困るなと思うのは、日本では専門家が偏在していることです。
 日本では、イスラム研究者の大多数が、イスラム教徒あるいはシンパという立場です。それを否定はしませんが、そればっかりというのもバランスが悪いのではないかなと思っています。一昔前の憲法学者=9条原理主義者みたいに、信者は信者ですから、全肯定がまず前提になっています。
 なぜそうなりがちかというと、おそらくその理由のひとつには、たとえばイスラムでいえば、聖典を読み、教義を学習することが、かなり骨の折れる作業であるということもあると思います。信者であればそれは日常的な作業ですが、信者でもない人間はなかなかできることではありません。
 私は「イスラムのテロリスト」について書いている手前、いちおうコーランには目を通し、全部ではないですが、ハディースもちらりと勉強しましたが、かなりしんどいです。

 コーランを読んだ人はそれほどいないと思いますので、どんな感じの本かというと、基本的には、7世紀のアラビア半島の人々の生活上の規範を示した内容で、それに宗教的な指針が随所に挟まれているという構成です。前者は遺産相続問題だとか未亡人問題だとかいった民事的なことに関する非常に具体的な内容が中心なのですが、後者は抽象的で、なかなか難解です。イスラム神学というのは、この抽象的な表現をどう解釈するかという部分がメインになっています。
 また、前半は社会的な細かい指針の話が多く、ひとつの章も長いのですが、後半はどんどん章も短くなり、宗教的な激烈な呼びかけ口調になってきます。信者でない人には、この後半はますます難解になります。
 イスラムの教義でたまに論争になるのが、「イスラムは寛容か否か?」という問題です。イスラムは多神教が主流だったときに、それに対抗する一神教の教団として誕生したのですが、自らをユダヤ教、キリスト教に続く一神教の系譜に位置づけています。レジェンドはほとんど踏襲なので、ユダヤ教やキリスト教の存在自体は認めており、それがイスラム寛容論の論拠になっています。ただ、コーランには、ユダヤ教徒に対するかなり激烈な言葉もあります。たしかにそこだけみると、寛容とはほど遠い印象です。
(ちなみに、一部には女性の扱いに対する強い言い方もあって、女性蔑視だとの批判もありますが、これは7世紀当時の社会慣習の背景があっての話なので、現代標準目線からの批判が妥当かどうかは、議論の分かれるところだと思います)
 ちなみに、イスラム教団が版図を広げても異教徒に改宗を強制しないことも、寛容論の論拠とされていますが、改宗免除と引き換えに上納金が義務づけられているので、全然寛容ではないのではないかとの異論もあります。
(なお、イスラム教徒は原則的に改宗(棄教)は許されません。主流のイスラム法解釈では、死刑に値します)
 まあ、他の大宗教もそうですが、さまざまな観点から研究することは必要だと思います。

(訃報)
 戦場ジャーナリストの馬渕直城氏が逝去されました。私の世代だと、一ノ瀬泰造氏の本に出てくる人という印象が強い方です。業界的には、ポルポト派に強いというイメージですね。
 お付き合いさせていただいたわけではないのですが、カンボジア自衛隊PKOのときにプノンペンでお会いしたことがあります。たしかNステーションの臨時取材班長のようなお立場でしたが、親分肌の方で、私たちフリーランスはよく面倒みていただきました。ご冥福をお祈りします。

(追記)
 3日のテレ朝「やじうまテレビ」にコメントを採用していただきました。テーマは「現代スパイ事情」ということでした。

(訂正)
 道楽Q様より、「日本では、イスラム研究者の大多数が、イスラム教徒あるいはシンパという立場」というのは本当か?」というご質問をいただきました。コメント欄にも書きましたが、以下に捕捉説明します。

 日本ではイスラム神学研究者・イスラム社会研究者ともにそれほど多くないですが、私の認識では、イスラム教徒はそれほどいないと思いますが、当然、教義をよく研究されているので、発言力は大きいと思います。
 シンパは多いと思います。政治的にはいわゆるリベラル系の方が多く、アメリカに批判的で、パレスチナ紛争に関してパレスチナ寄りの方が多いと思います。「信者・シンパが大多数」という書き方は半分ミスリードになりますので、訂正させていただきます。申し訳ありません。
 他方、中東・アラブ研究者にはさまざまな考えの方がいますが、一部の方々を除いて、イスラム批判めいた言説は、やはり忌避されていると思います。イスラム論は中東・アラブ研究の核心だと思うのですが、そこを表層的に済ませている風潮はあるのではないかなと。
 私はべつに宗教を否定はしませんし、なんにでも功罪の面はあると思っているので、べつに「イスラム批判者」というわけではありませんが、そんなふうには感じています。
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  1. 2011/11/03(木) 11:14:27|
  2. 未分類
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:4
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コメント

マスコミも政治的があるのではたして右と左に共通の(本来文化的用語の)タブーがあるのでしょうか。例えば(直接的かどうか別として)天皇批判する週刊金曜日は旧日本軍や自衛隊の性犯罪の多さは書いても教職員の性犯罪の多さを書く事は無い。これは日教組批判や教員研修強化に繋がるからでしょう。創価学会批判なら伝統的に週刊文春が書いているが聖教新聞や同新聞を印刷している毎日新聞が書く事は無い。

黒井先生が言う様に後発宗教のイスラムはユダヤ教やキリスト教の存在を認めており故にモーセやキリスト教の救世主イエスや預言者として受け入れているので貶める事は無い一方で、欧米がムハマドを描くのはユダヤ教やキリスト教に関係が無いからで、このギャップを欧米人が楽しんでいる事にイスラム教徒は苛立っているのでしょう。

つまり、イスラム寛容論神話とは後発宗教の為であり、不寛容な宗教裁判など中世の暗黒時代の欧州と比べての比較で、昨今の多文化主義云々という超寛容な欧州と比べればイスラムは意味不明の優越意識に憑かれた不寛容な価値体系と理解すべき。いずれの時代にしても八百万の多神教などは憎むべき絶滅の対象。イスラム・テロというのは近代化と折り合いを付け損ねた価値体系下にある人々の自己正当化の足掻きで価値変換や社会改革など自省が無い限り問題は続くのでは。

コーランの中のユダヤ教徒に対する激烈な言葉というのは今日のシオニスト対パレスチナの文脈で見ると解らなくなります。イスラム創成期のアラビア半島南部にユダヤ教徒が多くいてライバル関係にあったという歴史的背景がありました。尤も彼らの多くは最終的にイスラムに改宗したようです。

しかし、黒井先生によると日本ではイスラム研究者の大多数がイスラム教徒あるいはシンパという立場という事ですが本当にそうなんですか?ま、世界宗教を理解する事自体は意味があるとしても、全てを神にしてしまう多神教的日本ほど寛容(でいい加減)な価値体系は世界には無いのでは。
  1. URL |
  2. 2011/11/04(金) 20:22:18 |
  3. 道楽Q #-
  4. [ 編集]

 日本ではイスラム神学研究者・イスラム社会研究者ともにそれほど多くないですが、私の認識では、イスラム教徒はそれほどいないと思いますが、当然、教義をよく研究されているので、発言力は大きいと思います。
 シンパは多いと思います。政治的にはいわゆるリベラル系の方が多く、アメリカに批判的で、パレスチナ紛争に関してパレスチナ寄りの方が多いと思います。「信者・シンパが大多数」という書き方は半分ミスリードになりますので、訂正させていただきます。申し訳ありません。
 他方、中東・アラブ研究者にはさまざまな考えの方がいますが、一部の方々を除いて、イスラム批判めいた言説は、やはり忌避されていると思います。イスラム論は中東・アラブ研究の核心だと思うのですが、そこを表層的に済ませている風潮はあるのではないかなと。
 私はべつに宗教を否定はしませんし、なんにでも功罪の面はあると思っているので、べつに「イスラム批判者」というわけではありませんが、そんなふうには感じています。

 日本のマスコミでのタブーですが、メディアごとにご指摘のようなことはあると思いますが、それよりも大きいことは、たとえば日教組や創価学会は物理的には怖くないですが、右翼や大宗教教団は「嫌がらせや報復があるかも」というところで皆ビビっています。私もですが。
  1. URL |
  2. 2011/11/05(土) 09:43:49 |
  3. 黒井文太郎 #-
  4. [ 編集]

私が書いた上記のコメントの「マスコミも政治的があるので」は「マスコミも政治的立場(や経済的利害関係)があるので」と補足し「救世主イエスや預言者として受け入れている」を「救世主イエスを預言者として受け入れている」に訂正します。

日本に於ける親イスラムというのは反米の裏返しですか。直截的というか少し単純だな。伝統的にイスラムと衝突を繰り返してきた(ロシアを含めた)欧米人は利害関係から政府がイスラム諸国を支援しても、庶民は移民や彼らの宗教文化を恐れ日本みたいに妙に理想化したりしませんね。

日本にはパレスチナ人性善説もあり、彼らが死ぬと大騒ぎしてもシリア人が政府に虐殺されてもシランプリ。ダマスカス大学で学んだ知り合いの日本人女性アラビストはイスラエル大使館へはデモに行っても、昨今の「シリアのニュースは見ない事にしている」そうです。黒井先生の口癖を真似るとナンダカナと疑問を感じます。
  1. URL |
  2. 2011/11/06(日) 05:32:05 |
  3. 道楽Q #-
  4. [ 編集]

 リベラル系の人々の一部と共通しますが、根は皆さん心の優しい方々なのではないかと思います。あまり人を疑うということがないので、最初に聞いた話に感化されやすいのではないでしょうか。
 かくいう私も若い頃、わずか数ヶ月間でしたが、熱烈な本多勝一氏信者だったことがあります。初めて海外に興味を持ち始めた頃、単に近所の古書店に本多本がたくさんあったからですが。
  1. URL |
  2. 2011/11/07(月) 09:52:59 |
  3. 黒井文太郎 #-
  4. [ 編集]

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プロフィール

黒井文太郎

Author:黒井文太郎
 63年生まれ。『軍事研究』記者、『ワールド・インテリジェンス』編集長などを経て、現在は軍事ジャーナリスト。専門は各国情報機関の最新動向、国際テロ(とくにイスラム過激派)、日本の防衛・安全保障、中東情勢、北朝鮮情勢、その他の国際紛争、旧軍特務機関など。

 著書『ビンラディン抹殺指令』『アルカイダの全貌』『イスラムのテロリスト』『世界のテロと組織犯罪』『インテリジェンスの極意』『北朝鮮に備える軍事学』『紛争勃発』『日本の情報機関』『日本の防衛7つの論点』、編共著・企画制作『生物兵器テロ』『自衛隊戦略白書』『インテリジェンス戦争~対テロ時代の最新動向』『公安アンダーワールド』、劇画原作『実録・陸軍中野学校』『満州特務機関』等々。

 ニューヨーク、モスクワ、カイロに居住経験あり。紛争地域を中心に約70カ国を訪問し、約30カ国を取材している。




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