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ジャーナリスト・黒井文太郎のブログ/国際情勢、インテリジェンス関連、外交・安全保障、その他の雑感・・・(※諸般の事情により現在コメント表示は停止中です)

北朝鮮ウラン濃縮はガセなのか?

 ここ数日のメディア報道に、北朝鮮ウラン濃縮情報=ガセネタ説が急浮上してきている。米当局者がここに来て、北朝鮮のウラン濃縮計画に関するインテリジェンスに対して、かなり自信なさげなコメントを繰り返しているからだ。
 遠心分離器・特製アルミ管をいくつか調達したとか、パキスタンからウラン濃縮技術を導入したとかいうことが確認されていて、そのことから北朝鮮がウラン濃縮型核爆弾の開発に関心がある可能性はほぼ確実と推定されているものの、実際に北朝鮮がどこまで本気でウラン濃縮型核爆弾開発に乗り出しているのかはどうも確たる証拠はないらしい。

 昨年末、拙著『北朝鮮に備える軍事学』執筆時に主な報道をざっと総ざらいしてみたのだが、たしかに米インテリジェンス筋から北朝鮮がウラン濃縮を進めていることを断定する情報は出ていない。
 同書からその部分を引用すると、以下の通り。
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 パキスタンから濃縮ウラン型原爆製造の技術・資材が北朝鮮に流れていた疑惑はかねてからあったが(99年11月の米下院諮問グループ報告など)、アメリカが確度のきわめて高い情報を掴んだのは2002年夏のことである。小泉訪朝直後の同年10月にケリー米国務次官補が大統領特使として平壌を訪問し、その疑惑を北朝鮮に糺したところ、非公式にウラン型原爆の開発を認めたうえ、プルトニウム型原爆をすでに保有していることも仄めかしたようだ(米主要メディア各社の報道による)。
《※ちなみに、パキスタンの核開発の中心人物であるアブドル・カディル・カーン博士は2004年2月になって、パキスタン当局に対して、北朝鮮への技術供与を正式に認めている。それによると、パキスタンから北朝鮮への核技術の供与は91年から97年まで。ただし、ウラン濃縮に使う遠心分離器の供与は2000年まで継続していたという。
 その後、北朝鮮のウラン型原爆製造秘密計画については、米情報当局のリークに基づく情報がいくつも報道されている。主なところを列記しよう。
▽CIAは、2004年中にウラン型原爆を作る見通しとの分析をまとめた(『USニューズ&ワールド・レポート』2003年9月1日号)
▽CIAが「パキスタンはウラン型原爆の製造に必要な設備と核弾頭設計図を含む技術の一式をすべて北朝鮮に渡していた」との報告書を作成していた(『ニューヨーク・タイムズ』2004年3月14日付)
▽米情報当局者によると、北朝鮮は2007年までに6個のウラン型原爆を製造する見通しである(『ワシントン・ポスト』2004年4月28日付)
――ただし、いずれの報道もその真偽は不明である》
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 6カ国協議での玉虫色の米朝合意を受けて、一時、「ウラン濃縮がまんま抜けているじゃないか!」との批判が頻出した。そこで盛んに言われたのが、「そんな交渉をやっているあいだに、今も北朝鮮は秘密の研究施設でウラン濃縮を進めていて、すぐにも北朝鮮はウラン型核爆弾を完成させるだろう!」ということだった。
 これはたしかに「疑惑」として残っており、今後とも警戒を怠るべきではないが、現時点のインテリジェンスとしては、そう言い切るだけの材料もないということらしい。
 イランの核開発に関しても「誇張情報説」「イラン側のブラフ説」があるが、イラク大量破壊兵器問題でミソを付けたことから、いまや米インテリジェンスの信用度もいまひとつとみられている。
 そこそこ情報ルートが残されていたイラクに関してさえ情報をとれなかったわけだから、イラクの1万倍も閉鎖的な北朝鮮の情報をつかむことは、それこそ一筋縄ではいくまい。
 実際のところ、北朝鮮のウラン濃縮情報がガセネタの可能性は決して低くない。
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  1. 2007/03/06(火) 20:03:19|
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黒井文太郎

Author:黒井文太郎
 63年生まれ。『軍事研究』記者、『ワールド・インテリジェンス』編集長などを経て、現在は軍事ジャーナリスト。専門は各国情報機関の最新動向、国際テロ(とくにイスラム過激派)、日本の防衛・安全保障、中東情勢、北朝鮮情勢、その他の国際紛争、旧軍特務機関など。

 著書『ビンラディン抹殺指令』『アルカイダの全貌』『イスラムのテロリスト』『世界のテロと組織犯罪』『インテリジェンスの極意』『北朝鮮に備える軍事学』『紛争勃発』『日本の情報機関』『日本の防衛7つの論点』、編共著・企画制作『生物兵器テロ』『自衛隊戦略白書』『インテリジェンス戦争~対テロ時代の最新動向』『公安アンダーワールド』、劇画原作『実録・陸軍中野学校』『満州特務機関』等々。

 ニューヨーク、モスクワ、カイロに居住経験あり。紛争地域を中心に約70カ国を訪問し、約30カ国を取材している。




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