ワールド&インテリジェンス

ジャーナリスト・黒井文太郎のブログ/国際情勢、インテリジェンス関連、外交・安全保障、その他の雑感・・・(※諸般の事情により現在コメント表示は停止中です)

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北朝鮮スパイの暗殺兵器

毒針ボールペン、懐中電灯型の銃…北朝鮮の暗殺武器公開朝日新聞10月
 暗殺用秘密兵器は▽万年筆型毒薬銃▽懐中電灯型毒薬銃▽毒針仕込みボールペン、の3点。
 万年筆型は、キャップを5回押すと発射。懐中電灯型は安全装置を外してボタンを押すと発射。ボールペン型はキャップを5回押すと発射します。
 映画みたいな話ですが、実際の話です。
 毒薬弾丸ということで思い浮かぶのは、ブルガリア秘密警察による反体制活動家の暗殺事件ですね。場所は1978年のロンドン。使われたのは、毒薬弾丸を仕込んだ傘です。事件のあらましは以下のとおり。

 1978年9月8日、ロンドンで亡命ブルガリア人作家ゲオルギー・マルコフが原因不明の症状で病院に運び込まれ、同月11日に息を引き取りました。
 マルコフの妻によると、彼は死亡する4日前にテムズ川にかかるワーテルロー橋の南側でバスを待っていたとき、見知らぬ男に背後から右大腿部に傘の先端を突き刺されたとのこと。傘を刺した男はマルコフに詫びながら、慌ててその場でタクシーを止めて立ち去りましたが、マルコフは「タクシー運転手は男との会話に苦労している様子だった。彼はたぶん外国人だろう」と妻に語っていたといいます。その夜、マルコフは高熱を発し、翌日、病院に運び込まれたという経緯でした。
 マルコフの急死の後、仲間たちは、彼が暗殺されたのではないかと疑いはじめました。というのも、当時マルコフは、CIAが設立した共産圏に向けた反共ラジオ放送「自由ヨーロッパ」のアナウンサーとして働いていて、ブルガリア政府を痛烈に批判していたからです。
 また、そのわずか1ヵ月前、やはりフランス在住の亡命ブルガリア人で、西ドイツのラジオ放送局やBBCブルガリア語放送を担当していたウラジミール・コストフも、地下鉄駅で同じように傘で背中を刺されていました。コストフの場合は、高熱と意識混濁の症状を示しましたが、病院で背中に刺さっていた金属片を摘出し、かろうじて一命を取りとめていました。
 ロンドン警視庁法医学研究所による検死の結果、マルコフの大腿部の傷跡から極小の金属球が発見されました。金属球の中心部にはさらに微小な穴が貫通しており、空洞内の面積はわずか0・028平方ミリメートルという精巧な構造になっていました。
 パリでの事件を聞きつけ、ロンドン警視庁がコストフの事件で使われた金属球と併せて鑑定した結果、2つは同じものであり、しかもコストフに使用された金属球に残留していた粉末を分析したところ、この物質がヒマ(トウゴマ)の種子から抽出される猛毒蛋白質「リシン」であることが判明しました。
 つまり、傘の先端にこの金属球を詰め、銃のように対象に撃ち込むと、相手の体内でリシンが溶け出して死亡するという仕組みだったのです。
 真相が明らかになるのは、1994年に元KGB幹部だったオレグ・カルーギンが出版した『The First Directorate』によってでした。このなかでカルーギンは、ブルガリア秘密警察がリシンによるマルコフ、コストフの暗殺計画を実行した可能性が高いことを指摘したのです。
 その根拠とされたのが、まさに2人を襲ったのと同じ暗殺兵器が、KBGの協力のもとで、ブルガリア秘密警察によって完成されていたということでした。犯行の直接の証拠とはいえませんが、このような暗殺方法は他にみられないため、かねて囁かれていたブルガリア秘密警察犯人説に、この暴露本は裏付けを与えたといえます。
(以上、拙共著『生物兵器テロ』<アマゾン>参照)

 もっとも、こうした偽装暗殺兵器は、なにもブルガリア秘密警察やKGBが元祖というわけではありません。旧日本軍も第2次世界大戦期に、陸軍の極秘機関「陸軍登戸研究所」でさまざまなタイプのものを製作していました。そのなかには「万年筆型」「傘型」「ステッキ型」の毒物仕込み暗殺兵器もありました。(上記に関しては、別冊宝島『太平洋戦争秘録 超絶!秘密兵器大全』<アマゾン>所収の拙稿「ブッ飛び秘密兵器の総本山~陸軍登戸研究所」でも詳しく紹介しています)
 こういうの、かなり古い歴史があるわけですね。

 シリア情勢について。
 ロシアのメドベージェフ大統領が10月7日、「状況が打開できないのなら、シリア指導部は退陣すべきだ」と述べたことが海外では大きく報道されています。ロシアは今月4日の国連安保理でシリア政府非難決議に拒否権を発動し、欧米&中東アラブ諸国の多数から激しいバッシングを受けていますので、その火消し的な意味合いの発言と思われます。
 ただ、実際にはロシア政府がアサド政権擁護政策から転換する気配は、今のところないように見えます。なので、今回のメドベージェフ発言も、今のところは口先だけのアリバイ作りみたいなものに留まっています。
 やはりロシア世論が動かないと、シリア情勢の将来もなかなか難しいものがあります。

 現在発売中の『週刊文春』。鈴木智彦さんの福島原発労働者潜入ルポが、非常に面白いです。鈴木さんが潜入していることはお仲間筋からの話で前から知っていたのですが、いよいよスタートですね。反原発派もそうでない方も、是非ご一読をお薦めします。
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  1. 2011/10/08(土) 13:06:28|
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プロフィール

黒井文太郎

Author:黒井文太郎
 63年生まれ。『軍事研究』記者、『ワールド・インテリジェンス』編集長などを経て、現在は軍事ジャーナリスト。専門は各国情報機関の最新動向、国際テロ(とくにイスラム過激派)、日本の防衛・安全保障、中東情勢、北朝鮮情勢、その他の国際紛争、旧軍特務機関など。

 著書『ビンラディン抹殺指令』『アルカイダの全貌』『イスラムのテロリスト』『世界のテロと組織犯罪』『インテリジェンスの極意』『北朝鮮に備える軍事学』『紛争勃発』『日本の情報機関』『日本の防衛7つの論点』、編共著・企画制作『生物兵器テロ』『自衛隊戦略白書』『インテリジェンス戦争~対テロ時代の最新動向』『公安アンダーワールド』、劇画原作『実録・陸軍中野学校』『満州特務機関』等々。

 ニューヨーク、モスクワ、カイロに居住経験あり。紛争地域を中心に約70カ国を訪問し、約30カ国を取材している。




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