ワールド&インテリジェンス

ジャーナリスト・黒井文太郎のブログ/国際情勢、インテリジェンス関連、外交・安全保障、その他の雑感・・・(※諸般の事情により現在コメント表示は停止中です)

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フセイン処刑の中東アラブ的意味

 本日送られてきた情報誌『フォーサイト』で中東専門家の池内恵・国際日本文化研究センター助教授が執筆していた解説記事「フセイン処刑のどこが『イラク流』の本質だったのか」を拝読したが、もう何から何まで「そのとおり!」だと感銘した。皆さんにも是非一読をお薦めしたいが、書店売の雑誌ではないので、ここで一部紹介させていただく。

「フセインが死刑にならないのであれば、公正な裁きがなされたと納得する者は、イラクではかなり少なくなる」
「スンナ(スンニ)派の住民にしてもフセインの恐怖政治を経験したことには変わりはない。よほど運が良くない限り、政権を失ったフセインが死刑に処せられるこをはやむをえない、ということはスンナ派の住民も共通の前提としている。彼らの批判は、現政権を認めないがゆえにフセインの有罪も認めない、というだけのことである」

「一方、フセイン政権の圧政を経験していないアラブ諸国ではフセイン賛美論が提起されやすい。『アメリカ・イスラエルによる処刑』と断定して、イラク人の意思から目を背ける議論が目立つのは、強権政治で似通う各国政権の立場を反映している。だが、アラブ諸国でもフセインを積極的に評価するものは少なく、もっぱら『フセインはアメリカが作った』『フセインが死刑ならブッシュも同罪だ』といった、アメリカの非を批判する対抗言説が多い」

「もしイラクの歴史と政治文化に根ざした最も『納得のいく』やり方を選ぶのであれば、フセインの逮捕と同時に即刻処刑が行なわれるというのが最も自然だったろう」
「フセインにとって最後の幸運は、米軍によって逮捕されたことだったかもしれない。シーア派民兵に捕捉されていれば、即刻の処刑がなされた可能性が高い」

「とはいえ、フセイン処刑がイラクの治安状況や政治プロセスに与える影響は小さい」
「牢獄にあって無力なフセインが持ちえる影響力は小さく、裁判への関心もイラク国民の間では低かった」
「ただし、処刑された、いわば『安全な』フセインには新たな意味が与えられ、周辺諸国で反米のシンボルとして用いられていくかもしれない」

 フセイン処刑をめぐっては日本でも新聞やテレビでさまざまに報じられたけれども、このコラムが私にはいちばんわかりやすかった。
 私は執筆者の池内氏とはいっさい面識はないけれども、中東アラブ社会、あるいはイスラム社会に対する洞察力は、私の個人的な評価では、日本の中東専門家のなかでもピカイチではないだろうかと思う。池内氏や春名幹男氏を連載陣とするなんて、フォーサイト編集部がウラヤマシイのだ!

 と、私の愚痴はともかく、さて池内氏の言説に私が常々注目しているのは、ウラを返せば、その他の専門家の方々による中東アラブないしイスラム社会に関する解説に違和感を覚えることが多いからだ。
 いくつか理由があるが、ひとつには、専門家の方々が、おそらく現地では政府のエライさんとか、エラい学者先生(あちらでは高級官僚と同じようなもの)なんかと、公式発言オンリーのお付き合いをしているからではないか、ということがある。
 あの人たちは「思ってもいないタテマエ」で話すのが習性になっているので、それを勘案して話を聞かなければいけないのに、そのあたりが実直な日本人感覚ではわかりづらいのかもしれない。たとえば、向こうのエライさんに御法度のアルコールでも振る舞い、エロ話で盛り上がったりすると、もっと違う話が聞けるのになあ…と思う。
 それともうひとつおかしいと思うのは、日本ではイスラム専門家のほとんどがイスラム教徒あるいはイスラム・シンパだということだ。だから、イスラム絡みの解説となると、なんだか「なんでもイスラムが正しい」「アメリカが悪い」が前提になってしまっている。憲法学の世界における護憲派学者のようになってしまっているのである。

 他にもいろいろおかしいと思うことはあるけれども、上記のことを考えたとき、ふと思い当たったことがある。この違和感は、かつて冷戦時代に進歩的文化人の方々が社会主義を賛美したのと似てないかな?ということである。そういえば、現在、アラブの反米言説やイスラムの大義を擁護している人たちというのは、かつて社会主義→リベラルという流れに位置していた方々が多いように思える。心優しい人たちだとは思うが……私が性悪なだけかも。

 じつは何を隠そう、私はかつて大学に入ったばかりの頃に、かの本多勝一さんの著作をかなり読んだ。下宿の近所の古書店に、なぜか氏の本がたくさん置いてあったからだ。
 私はただ外国に関する本が読みたかっただけなのだが、そういうわけで、私は図らずも海外事情の知識を得るのにいきなり本多作品から入ったのだった。本多氏がああいう政治的立場の方であるということはまったく知らなかった。
 それで、「ほう、世界はそんなふうに米帝に牛耳られているのか!」などと思い込んで、では実際に見てみようと旅に出た。ソ連、東欧、中東、中南米、アジアなどを回ったが、「なんだか違うよなあ……」となんとなく感じた。
 住んでみたらもっとわかるかも、と思って、アメリカ、ソ連、エジプトに住んでみた。そしたら、どんどん性悪になってしまった。

 もしも学生さんでこのブログに目を留めてくれる人がいるなら、実際にどこかの国に住んでみることをお薦めする。自分でビザをとり、自分で下宿を探し、家主と交渉し、電話やネットを手配する。闇ドル屋を探し、イスラム国ならモグリのアルコール入手ルートを見つけ出す。怪しげなバイトをする。タカリの悪徳警官をやりすごし、殺到する詐欺師軍団と渡り合う。大手企業駐在員以外は人間扱いしない現地日本大使館員なんてまったくあてにできないが、そういうなかでもいろいろ面白い現地での出会いがある。たくさん友人も出来て、ホンネで話し合えるようにもなる。
 数年くらいの滞在でわかることは限られるけれども、そういう経験をした方がやがて学位をとって専門家になり、日本の言論界でもっと活躍していただければなあと思います(ついでに弊誌にも寄稿してくれるとうれしいのですが)。
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  1. 2007/01/20(土) 20:50:44|
  2. 未分類
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:1
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コメント

とても参考になるブログです。
私も日本の「反米=イスラム賛美」論者の記事には
違和感を持っていましたが、冷戦下の左翼との相似は
言われてみれば「そっくり」かもしれません。
フセイン英雄論はアメリカのイラク侵攻弾劾とセットで
よく見かけます。

自称民主主義者がイスラム諸国をかばう構図は
お笑いです。それとも実情をご存知ないのか?

以前ワールドワイドインテリジェンスで書かれた「イスラム理解の基礎知識」みたいなものを、本誌でもう一度さらに詳しく掲載したらいかかでしょうか。
私は是非読みたいのですが。

  1. URL |
  2. 2007/01/23(火) 01:09:12 |
  3. sin #-
  4. [ 編集]

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プロフィール

黒井文太郎

Author:黒井文太郎
 63年生まれ。『軍事研究』記者、『ワールド・インテリジェンス』編集長などを経て、現在は軍事ジャーナリスト。専門は各国情報機関の最新動向、国際テロ(とくにイスラム過激派)、日本の防衛・安全保障、中東情勢、北朝鮮情勢、その他の国際紛争、旧軍特務機関など。

 著書『ビンラディン抹殺指令』『アルカイダの全貌』『イスラムのテロリスト』『世界のテロと組織犯罪』『インテリジェンスの極意』『北朝鮮に備える軍事学』『紛争勃発』『日本の情報機関』『日本の防衛7つの論点』、編共著・企画制作『生物兵器テロ』『自衛隊戦略白書』『インテリジェンス戦争~対テロ時代の最新動向』『公安アンダーワールド』、劇画原作『実録・陸軍中野学校』『満州特務機関』等々。

 ニューヨーク、モスクワ、カイロに居住経験あり。紛争地域を中心に約70カ国を訪問し、約30カ国を取材している。




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