ワールド&インテリジェンス

ジャーナリスト・黒井文太郎のブログ/国際情勢、インテリジェンス関連、外交・安全保障、その他の雑感・・・(※諸般の事情により現在コメント表示は停止中です)

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シリア騒乱3ヵ月のまとめ

 ここ数日、トルコにだいたい2500人くらいの避難者が出てきています。また、外交の分野では、国連安保理のシリア非難決議を英仏などが根回ししていますが、ロシアが頑なに反対しています。ロシアはとにかく中東が英米の仕切りで動いていくことにすべて反対です。あの国の人々は、かつて20年前にあの恐ろしい独裁体制を打ち破った経験があるのに、非常に残念なことです。
 ということで、ここ数日、シリア人と結婚してシリアに住んでいるロシア人女性が「子供が殺された」と訴える映像をアップし、ロシア語サイトにも拡散されています。民主化活動家たちは現在、ロシア世論へ訴える作戦のようですが、それもなかなか難しいようです。
 シリアの民主化要求デモも、もう3ヵ月続いています。その経緯を簡単にまとめてみます。
 まず、エジプトの政変を受けて、1月下旬頃より反体制派のサイトが活発化します。秘密警察の監視のきつい状況だったので、書き込んでいる人のほとんどは国外在住者だといわれています。おそらくそうだと思いますが、それは確認されていないので、よくわかりません。
 ただ、全部が国外在住者かというと、そうではなくて、この時期にも数人のブロガーがシリア国内で逮捕されたりもしています。2月に何度かデモの呼びかけがネット上で行われましたが、シリア秘密警察はものすごく恐ろしいので、すべて不発でした。そうした現実を前に、ネット上の反体制呼びかけは2月から3月上旬にかけ、いったん盛り下がりつつありました。
 初めての「反政府活動」は、3月5日頃です。反政府活動といっても、きちんとしたものではなく、エジプトなどのニュースをみた南部ダラアの少年たちが、イタズラで反政府スローガンの落書きをし、秘密警察に逮捕されます。この情報は3月6日に反体制派サイト「フリー・シリア」に掲載され、私も当ブログで紹介しましたが、反体制派サイトの主張だけで確たる証拠はなく、国際メディアでは黙殺されます。その後、ダラアでは逮捕された少年たちの所属する部族から、少年たちの解放を求める活動が始まり、日ごとに高まっていきます。SNSではその動きを半ば誇張気味に伝えられていましたが、それも実態がよくわからず、国際メディアでは黙殺されます。
 国際メディアがシリアのデモについてようやく伝え始めるのは、3月15日に首都ダマスカスで政治犯の釈放を求める小規模の集会が行われ、出席者らが当局に逮捕されたときです。このとき、集会出席者らがダラアの少年の話も持ち出していて、それでこの話も報道されるようになります。折りしも、ダラアでの抗議行動は前日の14日頃より警察国家シリアでは前代未聞といえる街頭デモのようになっていて、国際メディアもそれを報じるようになります。
 この頃、まだ内部からの映像がほとんど出ていないので、ネット上では「いよいよシリアでもデモ発生だ!」とする反体制側と、「シリアではデモなど起きていない」「ネットの情報はすべてインチキだ」とする体制側が情報戦を繰り広げます。この頃、国外にいる人には、どちらが正しいのか判断する材料がありませんでした。私は過去の経験則で、大雑把に言えば「政府側の主張はまったく信用できない」「反体制側も半分は信用できない」というスタンスで見ていました。この頃、国際メディアではアルジャジーラ特派員がダラアに入り、「ダラア住民は体制変革ではなく、改革を求めているだけ」とのレポートを送っています。それに対し、反政府的な論調だったのが、UAEのオリエンタルTVですね。BBCは特派員の取材を制限されています。
 とにかくこの頃からネットは過熱して、両サイドのプロパガンダ戦がエスカレートします。国外の人間にはなんだかよくわからない状況でした。
 デモの映像がユーチューブにアップされるようになるのは、たしか3月17日頃だったと思います。翌18日にはもうかなり大規模なデモや、銃撃された被害者などの映像がどんどん出てくるようになります。こうした映像はちょっと衝撃的な激しいものですが、これに対し、「捏造映像だ」という体制側の必死の宣伝が始まります。実際のところはよくわかりません。わかりませんが、「チュニジアの若者たちが作ったヤラセ映像が多い」という噂はかなり広まっていて、国際メディアでも少し引いた見方をしていたところが多かったようです。その頃の『ニューズウイーク』でも、「反体制派によるニセ情報が氾濫」との記事が書かれています。私も、映像のいくつかは捏造の可能性があると思っています。
 しかし、20日頃からは、明らかにシリアの町中でデモが行われたり、私服治安警察が弾圧したりするシーンが増えてきます。「国外で撮影したヤラセ映像」ではないことが明らかで、これで私も、シリアで民主化運動に火がついたことを確信します。
 国際メディアは、国内取材・中継まで認められているアルジャジーラを中心に、「国民は体制変革でなく、改革を求めている」との論調が多く、デモ発生を認めたシリア政府も改革を約束することで沈静化を図ろうとします。しかし、この時点では私などは、街頭デモに火がつけば、群集心理で独裁国家に対する恐怖心が払拭され、必ず体制変革要求になると確信していました。政権側が自ら折れるはずもなく、チュニジアやエジプトのように軍部が離反することも考えづらいので、かなり大規模な騒乱になることを予想しました。
 それ以降、金曜日ごとにデモはシリア全土に拡大しました。3月25日には、大統領の肖像画をデモ隊が破壊するシーンがアップされ、ネット活動家らにも衝撃を与えます。シリアの独裁体制は北朝鮮みたいなもの(ま、そこまで徹底はしてないですが)なので、これは画期的な映像でした。
 この頃、私服の治安警察が人々を襲撃するシーンの隠し撮りなんかも流れています。ただ、この頃はまだ体制側もそれほど強硬でなく、放水車や催涙ガスを使った暴動鎮圧が主流でした。デモ隊の側は、体制側が実弾による問答無用の弾圧をしなかったことで、増長してデモを拡大させたことは事実だと思います。 
 それでも3月末頃には、治安警察のデモ弾圧もかなり厳しくなっています。とくに、ラタキアでのデモ弾圧に、アサド体制派のチンピラ武装集団「シャビーハー」が投入されたあたりから、デモ隊を撃ち殺すシーンが増えてきました。シリア当局は「武装犯罪集団が銃撃」ということにしたかったわけで、実際にその構図で押そうとしていますが、まあシリア国民でそんなことを信じている人は体制側を含めてゼロだと思います。
 3月末にはアサド大統領がテレビ演説し、改革推進と非常事態解除の検討を発表します。これを国際メディアは報じますが、私などはそんなものはまったく信じていませんでした。で、実際、案の定です。
 4月に入ると、南部でのデモは一層激しさを増し、治安警察による流血の弾圧がどんどんエスカレートします。また、他の地域ではもっぱら「シャビーハー」がデモ弾圧に投入され、実弾による弾圧を続けます。私は、このシャビーハーとされている武装集団のかなりの数は私服治安警察とみていますが、確たる証拠はありません。
 4月4日頃からは、もう虐殺といっていいようなデモ隊への無差別銃撃の映像がどんどんアップされます。また、携帯で撮影⇒ユーチューブにアップ⇒フェースブックやツイッターで拡散、という流れは、国外の反体制派を中心にかなり大規模に整備されています。CIAやイスラエルの情報機関が関与しているのかもしれませんが、よくわかりません。レバノンの反シリア組織やUAEあたりから資金が出ているということは、充分にあり得ると思います。
 4月に入っても、基本的には「金曜デモ」⇒「弾圧」⇒「土曜日に葬儀デモ」⇒「弾圧」というパターンでデモと弾圧が続きます。もうこの頃は、改革で収まるような話ではなく、政権打倒しか出口はない状況になっています。4月21日には、アサド大統領が非常事態宣言廃止を命令したという報道が出ますが、そのまま弾圧は強化されます。4月半ば頃からは、大統領の弟が指揮する精鋭部隊が南部のデモ鎮圧に乗り出すという情報がネットで駆け巡ります。実際の軍の出動映像は4月25日からアップされます。
 6月1日、アサド大統領は政治犯釈放を命令します。少し釈放されたみたいですが、その何倍も新たに逮捕されます。その頃より、逮捕者を拷問や虐殺しているとの情報が流れますが、映像の証拠が弱く、なんとも判断つきません。
 ところが、ダラアで治安警察に逮捕された少年が、虐殺死体となって両親に返されるという事件が発生します。これが国際メディアにかなり大きくとりあげられ、国際社会でシリア政府非難への流れが少しできます。
 6月に入ってからは、もう治安警察に加えて軍が大々的にデモ鎮圧作戦に投入されています。5月からちらほらと軍内部からの離反も起きていますが、いずれもきわめて小規模で、多くは軍の主流派に追撃されて処刑されたものと思われます。
 現在、政権側は軍の投入による徹底弾圧を続けていて、犠牲者は日ごとに増えているという状況です。もう3ヵ月になりますが、基本的に非武装デモ⇒流血の弾圧、という構図は変わらずです。軍からまとまった反乱勢力が出る徴候もなければ、外国の軍事介入の気配もありません。かといって、デモが収束する気配もなし。もう酷暑の季節に入りますが、先の見通しはまったく立ちません。
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  1. 2011/06/10(金) 11:06:51|
  2. 未分類
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:4
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コメント

ソ連崩壊後に撤退したロシア軍が数年前からシリアに戻っています。港湾には海軍艦も寄港してます。実質的な利害関係があるという事ではないでしょうか。さらにロシアのプレゼンスと影響力の誇示という要素もありますね。あ、釈迦に説法でしたか(笑)。
  1. URL |
  2. 2011/06/10(金) 16:12:18 |
  3. 道楽Q #-
  4. [ 編集]

 コメントありがとうございます。ロシア人がいちばん貧乏で自信喪失していた頃にあの国に2年ほど住んだことがあるのですが、あんな時代でも大国意識みたいのは一般の庶民にもけっこうあったように記憶してます。なので、やっぱり「影響力の誇示」はあの国の政治指導者の必須要件になっている気がします。いや、こちらこそ釈迦に説法でもうしわけありません。
  1. URL |
  2. 2011/06/12(日) 13:05:44 |
  3. 黒井文太郎 #-
  4. [ 編集]

ロシアでも数年後に同じ事が起こる

現在中東で起こっている事に関して、このまま政治改革が行われないとロシアでも数年後に同じ事が起こるとのカシヤノフ元首相が「予言」しています。こういう事は日本では誰も指摘していない様な気がします。
http://af.reuters.com/article/commoditiesNews/idAFLDE7591E420110613?pageNumber=2&virtualBrandChannel=0&sp=true
  1. URL |
  2. 2011/06/16(木) 02:35:47 |
  3. 道楽Q #-
  4. [ 編集]

 ロシアのこのニュースは知りませんでした。ご教示ありがとうございます。
  1. URL |
  2. 2011/06/17(金) 11:05:08 |
  3. 黒井文太郎 #-
  4. [ 編集]

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プロフィール

黒井文太郎

Author:黒井文太郎
 63年生まれ。『軍事研究』記者、『ワールド・インテリジェンス』編集長などを経て、現在は軍事ジャーナリスト。専門は各国情報機関の最新動向、国際テロ(とくにイスラム過激派)、日本の防衛・安全保障、中東情勢、北朝鮮情勢、その他の国際紛争、旧軍特務機関など。

 著書『ビンラディン抹殺指令』『アルカイダの全貌』『イスラムのテロリスト』『世界のテロと組織犯罪』『インテリジェンスの極意』『北朝鮮に備える軍事学』『紛争勃発』『日本の情報機関』『日本の防衛7つの論点』、編共著・企画制作『生物兵器テロ』『自衛隊戦略白書』『インテリジェンス戦争~対テロ時代の最新動向』『公安アンダーワールド』、劇画原作『実録・陸軍中野学校』『満州特務機関』等々。

 ニューヨーク、モスクワ、カイロに居住経験あり。紛争地域を中心に約70カ国を訪問し、約30カ国を取材している。




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