ワールド&インテリジェンス

ジャーナリスト・黒井文太郎のブログ/国際情勢、インテリジェンス関連、外交・安全保障、その他の雑感・・・(※諸般の事情により現在コメント表示は停止中です)

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紛争現場のインテリジェンス部隊

 陸上自衛隊が3月を目途に「中央情報隊」というインテリジェンス専門部隊を新設する。その主力は既存の「中央資料隊」や「中央地理隊」を統合することになるが、注目されるのは、そのなかに、70人規模の現地情報隊(仮称)を創設する予定になっていることだ。
 この現地情報隊は、陸自の海外派遣に際し、現地でのインテリジェンス活動を専門に行なう部隊とのことである。
 じつは、米英をはじめほとんどの国の軍隊でも、紛争現場でのインテリジェンスを行なう主力は軍の情報機関ではなくて(ましてや政府中枢のインテリジェンス機関や外務省でもなく)、軍の情報部隊である。米陸軍で言えば「INSCOM」や「グレイフォックス」などである。日本の防衛庁はたとえば米英軍などからそれなりに情報を得ることができるが、現場の情報部隊が持つ草の根の現地情報までは入らない。そういう泥臭い情報活動は各国の陸軍が独自に行なうべきものだ。
 だから、自衛隊も海外での平和協力活動が本来任務に格上げされたのだから、陸軍の現地情報部隊を創設するのは当然である。今までそれがなくて海外に地上部隊を派遣していたほうが、むしろおかしいと言える。
 だいたい、これまでのPKOやイラク派遣などを見ると、日本では外務省が取り仕切ってきた。だから、部隊をどう使うかという観点よりも、とにかくアメリカ支援になるような外交的見地から政策が決められてきた観がある。今回、防衛庁も晴れて防衛省になったことでもあり、これからは防衛省が主導してもっと効果的な海外派遣を行なっていただくことを願う。
 とはいえ、海外での活動というのは、日本国内での活動とはまったく違う。海外ビギナーの防衛省が独力で効果的な海外活動を行なえるようになるには、とにかく場数を踏んでいくしかない。
 あまり重箱の隅をつつくような批判は本意ではないけれど、これまでの自衛隊の海外派遣には、たしかに首を傾げざると得ないことも多かった。たとえば、カンボジア派遣。自衛隊はカンボジアで唯一安全地帯だったタケオ州に引き篭もっていたが、あんな何の危険もないところなら、わざわざ軍隊が出張る必要はない。派遣隊員にもちろん罪はないし、彼等はそれなりに頑張っていたとは思うが、世界からみると、単なる「過保護のお坊ちゃん」にしか見えなかったろう。
 イラク派遣部隊も、以前にも書いたことがあるが、米英軍などが多大な犠牲を払いながら治安回復作戦をしている最中に、危機的状況にあったわけでもない「給水」はないだろうと思う。自衛隊は自分たちの貢献を盛んにアピールしているが、本来なら、「ちゃんと治安回復作戦に貢献したかった」という気持ちもどこかにはあったのではないのだろうか。
(これも書いたことがあるが、防衛省も「自分たちはうまくやった」ということばかりアピールしていると、もっとシビアな状況でも「テキトーな特措法でもイラクではうまくやったんだから、次もそれでいいじゃん」ということになって、自分の首を絞めちゃうように思えるのだが…)

 いかにも「初心者」という失敗もある。私が驚いたのは、サマワに派遣された先遣隊が、ベース地を決めてから地代交渉をしたことだ。案の定、地主に法外な地代を要求されて話題となったが、アラブ社会を多少とも知る者からみれば、悪いのは日本側だ。
 たとえば、かの地では、外国人観光客はタクシーに乗る際に事前に目的地までの運賃を運転手と交渉する。それをしないで乗ると、後で必ず正規料金の数倍もの料金を請求されることになるのは常識である。簡単な話で、サマワの先遣隊も、ベース地を複数候補にして、事前に価格交渉をすればよかっただけのことだ。おそらく数日の交渉で地代は10分の1に値切れたはずだ。
 現地部族有力者にカネをただバラ撒いたのもよくない。ああいうものは、恩着せがましく渡してこそ効果がある。たとえば、陸自部隊の中堅幹部クラスが内部で派閥抗争をしているふうを装い(アラブではそのほうが普通)、複数のチームがバラバラに小銭を撒けば、集まってくる情報の量・質は数倍にもなる。ずっと小額の機密費でずっと有効な情報が得られるのである。
 もっとも、こうしたいわば「世渡り」の術にマニュアルはなく、場数を踏むしかない。新設の現地情報隊の隊員には、ぜひともこうした経験を積んでいかれることを期待したい。

 たとえば、麻生幾氏の小説『瀕死のライオン』には、自衛隊の新人特殊部隊員候補が欧州で単独旅行・調査を最終訓練として行なうという設定がある。部隊の訓練としては防衛省などは思いつきもしないことだろうが、個人の海外適応力を高めるのには、これは最適の訓練だと思う。
 場数を踏むといっても、チームで動くと個人の経験にはならない。たとえば、筆者は活字とテレビの世界で海外取材の経験があるが、とくにテレビの場合、取材班は現地在住の日本人コーディネーターに頼るケースがほとんどなので、いくら海外経験を積んでもまったく取材者個人の「場数」にはならないことが多かった。なかには自分が何という国にいったのかもよくわかっていないスタッフさえいた(大手メディアの特派員でも、現地人アシスタントと現地人運転手に何でも任せっきりなので、自力では赴任地の街中すらロクに歩けないという人に、私は何人も実際に会ったことがある)。
 軍隊でも同じで、いくらカンボジアやイラクに行ったといっても、チームにくっついていっただけなら、本当の海外経験とは言えない。
 ということで、オススメの方法がある。PKOの現場に、民生部門やアドミニストレーション部門に単独もしくは数名で隊員をどんどん派遣してしまうことだ。
 日本では、PKOは部隊ごと派遣するものだとみんな思い込んでいるようだが、実際にPKOの現場にいくと、管理部門などにはじつに多くの国から人材が派遣されていることがわかる。
 たとえば、筆者が90年代半ばにレバノンを取材した際に、PKOの広報を取り仕切っていたのはスウェーデン軍の将校だったし、90年代はじめにソマリアに行った際には、現地国連事務所にインドネシア陸軍から1人の将校が派遣されていた。このインドネシア人将校とは、筆者が持ち込んだウイスキーのパワーでかなり仲良くなったが、そのうち、彼がインドネシア陸軍情報部の所属であるということがわかった。この将校は、東チモールでインテリジェンス活動の経験が豊富にあり、当時の話をいろいろ聞くことができた。インドネシア陸軍はもちろんソマリアなどに興味はないが、情報要員に場数を踏ませるためにこうした派遣を行なっているとのことだった。

 ちなみに、インドネシア陸軍の情報部はなかなかのものだ。筆者はカンボジア取材の際に、危険地帯のコンポントム州でPKOインドネシア軍のキャンプ内に寝泊りしたことがあるが、彼等は危険地帯にも関わらず、ポト派とまったく交戦していなかった。聞けば、情報部の要員がポト派現地司令官と水面下で接触し、互いにカチ遭わないようにしているということだった。
 インドネシア陸軍情報部員は、ちょっとした小銭でポト派現地部隊指揮官を篭絡していたようだが、こうした手法は東チモールで学んだということだった。こういう裏技の得意な軍とそうでない軍というのがあって、カンボジアでもたとえば、情報活動をまったくやらないバングラデシュ軍あたりと一緒にいると、逆に危険だとさえ言われていた。

 陸自も、海外の紛争地に部隊を派遣するなら、こうした世渡りのできる情報部隊員を1人でも多く育成することだ。たとえば、スーダンのPKO管理部門に陸自からたった1人の要員を出すとする。外務省とはほとんど接触しないで動く。
 この人物を、数年後にはたとえばアフガニスタンに出す。アフガンの各国将校連中も、スーダン経験のある日本軍士官には一目置くという空気になるだろう。そこでこの隊員は、これまでのオブザーバー(お客さん)的な存在でななく、多国籍の現地軍人世界でそこそこのポジションを得ることになる。
 こうして場数を踏んだ日本の陸自情報部隊員が数十人もいれば、陸自は世界のどこの紛争地帯でもそれなりに通用すると思う。
 本当は、民間人に偽装した陸自隊員が隠密に諜報・情報工作を行なうくらいにならないといけないと思うが、自衛隊がいきなりそうしたスパイ活動をするのも難しいと思うので、まずはPKOなり多国籍軍なりの管理部門に情報部隊員を散らばらせるということを検討してみてはどうだろうか。
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  1. 2007/01/11(木) 01:22:30|
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自衛隊のインテリジェンス機能強化

まあ、F機関だハリマオだということにはなるかならないかわからんが弾の撃ち合いを減らすには必要ですよ予算はどうなんでしょうね北の高官や中国政府の要人の買収 など、金持ち日本なら、やすやすと出来そうですが戦闘機一機分くらいつっこんでもいいんじゃないのあれ、そ
  1. 2007/02/28(水) 17:35:27 |
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プロフィール

黒井文太郎

Author:黒井文太郎
 63年生まれ。『軍事研究』記者、『ワールド・インテリジェンス』編集長などを経て、現在は軍事ジャーナリスト。専門は各国情報機関の最新動向、国際テロ(とくにイスラム過激派)、日本の防衛・安全保障、中東情勢、北朝鮮情勢、その他の国際紛争、旧軍特務機関など。

 著書『ビンラディン抹殺指令』『アルカイダの全貌』『イスラムのテロリスト』『世界のテロと組織犯罪』『インテリジェンスの極意』『北朝鮮に備える軍事学』『紛争勃発』『日本の情報機関』『日本の防衛7つの論点』、編共著・企画制作『生物兵器テロ』『自衛隊戦略白書』『インテリジェンス戦争~対テロ時代の最新動向』『公安アンダーワールド』、劇画原作『実録・陸軍中野学校』『満州特務機関』等々。

 ニューヨーク、モスクワ、カイロに居住経験あり。紛争地域を中心に約70カ国を訪問し、約30カ国を取材している。




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