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ワールド&インテリジェンス

ジャーナリスト・黒井文太郎のブログ/国際情勢、インテリジェンス関連、外交・安全保障、その他の雑感・・・(※諸般の事情により現在コメント表示は停止中です)

ビンラディンは生きている?

 アラビア語サイトやSNSでは、ビンラディン殺害への疑問が早くから出ています。なかでも多いのが、「ビンラディンは生きている」説です。ビンラディン死亡の第一報の直後、過去の本人写真を加工した合成「死体」写真が出回りましたが、あれについてもアラビア語ネットではすぐに偽モノ説が広がっていました。
「アメリカ陰謀論」はアラブ社会の大好物なので、まあそれ自体はいつものことなのですが、今回は確かに不可解な点がいくつもあります。
 その最大の点は、「なぜ水葬にしたのか?」ということです。アメリカ政府は「イスラム方式に従って24時間以内に埋葬しなければならなかったが、適当な場所が見つからなかった」と説明していますが、イスラム社会で水葬なんて、まず聞いたことがありません。これに関しては、事実なら、あちらの人からすると「海に捨てた」と見られるのもしかたありません。
 そこで、「実際にはビンラディンの死体などなかったのではないか?」という疑問が出てくるのも、自然なことではあります。イスラムは原則土葬ですが、そうなるといつでも死体の証明を求められる可能性が出てきます。海に流したことにすれば、もう証明不可です。
 アメリカ政府は死体の写真を公表しないことも決めましたが、それも謎です。ビンラディン死亡の証拠を自ら封印しているわけです。反米感情の扇動を誘発するからとの理由だそうですが、あまりに弱い説明です。こういうことをすれば、当然ながらアメリカ陰謀論が出てくるわけで、それをアメリカ政府が自分から誘導しているようなものです。

 インテリジェンス分析の観点からすると、ビンラディンが本当に死んだかどうかというのは、現時点の情報では「不明」という結論になります。それを前提に、ではどちらの可能性が高いか?という分析が必要になるのですが、今回は主に2つの点に関して、可能性を比較するということになります。
 まず、確率として、「誰かが核心を隠している場合、隠したい理由が存在している可能性が高い」ということがあります。そうなれば、アメリカが隠しているのは「ビンラディンの死体がなかったから」という結論が導かれます。ただし、サダム・フセインが「大量破壊兵器を持っていないのに、情報を隠した」ために、「大老破壊兵器を隠し持っているに違いない」と結論されたことは、後に間違いだったことが実証されています。人は必ずしも合理的に嘘をつくわけではないのです。
 他方、「露呈した場合のリスクが高いほど、嘘をつく可能性は低くなる」ということもあります。情報化社会によって、複数の人間が関与した「嘘」はいずれ露呈する可能性が飛躍的に高まっています。そうした状況では、政府は敵対国/勢力に対する戦術的欺瞞はともかく、自国民も含めて「騙す」ということはかなり難しくなっています。
(この点、中東の民衆は「政府は嘘をつく」というのが常識ですから、もともとアメリカ陰謀論が拡散する下地があります)
 いくら限られた政府高官、情報機関と軍の関係者しか真相を知らないとしても、数名ということはありません。これだけの作戦ともなれば、空母乗組員も含めて数千人規模の「関係者」がいます。そこからの情報漏れの可能性を「ゼロ%」と見積もることはあり得ません。

 こうしたことなどを考慮すると、可能性としては、アメリカ政府があそこまで明確に「ビンラディンを殺害した」としていることを否定するのは困難です。私自身も、前述したように真相は不明だということを前提に、可能性としては米政府の言うように、ビンラディンは米特殊部隊によって殺害されたものと考えています。
 けれども、「ビンラディンは死亡した」が、そこに米政府が「隠したい何かがあった」可能性は排除できません。仮にそうだと仮定しても、その「隠したい何か」はまったくわかりません。
 アメリカ政府が嘘をついているとすれば、ビンラディンを炙りだすための壮大な偽騙工作という可能性も完全には否定はできませんが、そこまではちょっと現実には考えづらいですね。映画にはいいプロットかもしれませんが。
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  1. 2011/05/05(木) 11:25:48|
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プロフィール

黒井文太郎

Author:黒井文太郎
 63年生まれ。『軍事研究』記者、『ワールド・インテリジェンス』編集長などを経て、現在は軍事ジャーナリスト。専門は各国情報機関の最新動向、国際テロ(とくにイスラム過激派)、日本の防衛・安全保障、中東情勢、北朝鮮情勢、その他の国際紛争、旧軍特務機関など。

 著書『ビンラディン抹殺指令』『アルカイダの全貌』『イスラムのテロリスト』『世界のテロと組織犯罪』『インテリジェンスの極意』『北朝鮮に備える軍事学』『紛争勃発』『日本の情報機関』『日本の防衛7つの論点』、編共著・企画制作『生物兵器テロ』『自衛隊戦略白書』『インテリジェンス戦争~対テロ時代の最新動向』『公安アンダーワールド』、劇画原作『実録・陸軍中野学校』『満州特務機関』等々。

 ニューヨーク、モスクワ、カイロに居住経験あり。紛争地域を中心に約70カ国を訪問し、約30カ国を取材している。




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