ワールド&インテリジェンス

ジャーナリスト・黒井文太郎のブログ/国際情勢、インテリジェンス関連、外交・安全保障、その他の雑感・・・(※諸般の事情により現在コメント表示は停止中です)

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雑誌記事の信憑性についての私見

 いわき市の友人と話していて、被災地の人々の不安が少しわかりました。とくに放射線の危険性について、さまざまなメディアがさまざまなことを書いていますので、いったい何を信じればいいのかが、私を含めてほとんどの人はよくわからないのではないかと思います。
 前回のエントリーに、放射線の測定に関してたいへん参考になるコメントをいただきました。放射線測定に関して私自身はよくわからないのですが、メディア業界には長いことおりますので、記事の読み方について少々私見を書いてみたいと思います。以下はあくまで私の個人的な見方であることを、まずお断りしておきます。

 まず、私は雑誌の記事を読む際に、「断定調の煽りタイトル」の記事は基本的には、頭からは信用していません。私の知る限り、多くの雑誌ではタイトルは編集長個人の専管事項となっているのですが、編集長はどうしてもセールスの責任を負っていますから、できればなるべく「煽りタイトルを打ちたい」との潜在願望を持っています。
 ですが、編集長個人は各事象について専門知識がありませんから、担当編集者からのプレゼンを元に、最大限に許される範囲を考えてタイトルをつけます。その際、編集長はもともと長年にわたる現場記者の経験をみんな持ってますから、過去の自分の経験に基づいた思い込みのバイアスが必ずかかります。
 よくマスコミの偏向報道路線に関して、スポンサーへの配慮とか、社上層部からの圧力とか、あるいは伝統的な社論だとかが指摘されますが、私の知る限り、雑誌の報道方針はそういうものよりもむしろ、そのときの編集長個人の私的な考えが優先されているように思います。
 ということで、思いっきり煽ったタイトルは、右でも左でも要注意というのが、私の考えです。よくタイトルは思い切り煽った断定調なのに、記事を読んだらそうでもないというケースがあります。読者とすれば肩透かしを食ったような気になりますが、それは往々にして担当編集者の誠意であったりします。編集者は、編集長がつけたタイトルを補強するような記事を作るのがいちばん楽なのですが、良識でそれに抵抗を試みるわけです。
 付けられたタイトルが実態と合わない場合、編集者が編集長に直談判して、タイトルがソフトに変更されることもありますが、編集長の器量によっては、なかなか言えないことも多いようです。
(私が写真週刊誌の新人編集者だった頃、とくに「殺し」の記事などでしばしばそういうことがあったのですが、デスクが素晴らしい方で、「意見があるなら編集長に談判しろ」と言ってくれたおかげで、何度も編集長に掛け合ったことがあります。当時の編集長は私とはあまりソリが合わない人だったのですが、「なんだコノヤロー」と言いつつも新人編集者の話をきちんと聞いてくれる度量のある人でした)
 なので、肩透かし記事のほうが概して良い記事である、という皮肉な結果になったりします。

 もうひとつ私が注目していることは、「ブレる雑誌が良い雑誌」ということです。雑誌の路線は概して編集長が決定するので、これは編集長個人の資質ということもいえるかと思うのですが、最初からある方向に立場をとり、それをいつまでも堅持するというよりは、号によって見方が変わるとか、極端にいえば同じ号でも記事によって見方が変わっているほうが、一般論としてはインテリジェンス度が高いと思います。
 よく人を評価する際に「あの人はブレない」などということが肯定的に評価されますが、インテリジェンス的には、それは「思い込みのアンカリングにとらわれ、バイアスのかかった分析・評価して出来ていない」ということになります。(なので「学ぶにつれて抑止力の意味がわかった」と素直に表明した鳩山前総理は、インテリジェンス的には適切な対処をしたともいえるわけです)
 人は誰しも、偏った情報をもとに偏った分析を行い、偏った判断を下します。なので、本当は編集長が「自分の考えは本当に正しいのか?」と自問しながら誌面づくりするぐらいがいいと思うのですが、同期のライバルを押しのけて編集長に上り詰めるような方はもともと優秀な方が多いので、「自分の考えは正しい」という自信を持っていたりします。なのでブレない誌面づくりになるのでしょうが、そうすると往々にして「結論ありき」の記事が増えます。
 これもあくまで一般論になりますが、組織人は組織の路線に感化されやすので、社論と同じ考えを踏襲しているということもマイナスです。最初からバイアスがかかっている確率が高いからです。天邪鬼が必ず正しいとは限りませんが、「疑問を持つ」という視点は非常に重要ではないかなと思うわけです。
 なので、右でも左でも自己主張全開の雑誌や記事は、その意見自体は私はあまり参考にしません。けれども、ではそういう雑誌や記事に意味はないのか?ということ、そうではなくて、そういう偏向的なメディアのほうが、往々にして「こだわりの取材力」を持ち、有益なファクトを提示していることがあります。バイアスがかかっていることを計算して、そうしたファクトを掬い上げることは情報収集として非常に有益であることが多いです。
 結局のところは、そうしてさまざまなデータを集め、自分なりに判断するしかありません。ですが、その自分の判断自体も「間違っているのではないか?」と自問することが必要なのではないかな思います。

 新聞についてもひとこと述べるとすれば、雑誌に比べて新聞が慎重なのは、「誤報を避ける」ためであることが、もっとも大きな理由と思います。新聞は公器として、雑誌より厳しい社会的責任をかけられているからです。よく記者クラブがどうのという話をされる方がいて、もちろんそういう弊害は実際に存在するのですが、そういうことより、裏ドリのない情報を発信できないために、各紙同じような内容になる傾向があります。ゲリラ・ジャーナリズムは自由なぶん、誤報は比較にならないほど多いと思います。
 もちろん、それでも多種多様な情報源があるというのは良いことだと思います。情報をどう判断するかは、受け手の問題です。

 最後に、冒頭で紹介した前エントリーにいただいたコメントの一部をこちらに貼ります(コメント欄はアクセスしてくださる方が少ないので)。匿名の方ですが、ありがとうございます。

※以下、コメント欄から転載

 測定値の隠蔽ですが可能性は低いでしょう。例えば、こちらのサイト(http://book.daa.jp/radiationgraph.html)で放射線量と距離の関係をグラフ化できます。グラフを両対数で表示すると、放射線量の低い地域を除き、ある程度直線に乗ってきます(例:http://book.daa.jp/0319.jpg)。これは、放射線量が距離のベキ乗で減衰していることを表します。
 もちろん、原発の近傍では特に天候や地形の影響が大きいため、放射線の強度は同心円状にはなりません。しかし、仮に大量の放射性物質が環境に放出され、それを東電が隠蔽しても、各所の測定値からすぐに矛盾が指摘されると思います。
 測定値について、東電、文科省、日本の大学および研究機関を始め日本発の数値が信用ならないとお考えなら、米国エネルギー省が航空機から測った値などもあわせてご覧になると良いと思います(例:http://plixi.com/p/94943807)。この際、重要なのは実測値とシミュレーション値を混同されないことです。
(以上、転載終わり)
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  1. 2011/04/27(水) 17:23:03|
  2. 未分類
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:2
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コメント

震災者及び犠牲者の方に御悔み申上げます。

貴殿は被災地いわき市の御出身ですね。震災者及び犠牲者の方に御悔み申上げます。言葉もありません。
  1. URL |
  2. 2011/04/29(金) 00:12:34 |
  3. 道楽Q #-
  4. [ 編集]

道楽Q様 コメントありがとうございます。私も自分自身は被災者ではなく、今はニュース報道にも関わっていないので、何も出来ないのが歯がゆいです。地元ではないですが、来週あたりに自衛隊関連の取材で宮城県に入るかもしれません。
  1. URL |
  2. 2011/04/29(金) 14:11:11 |
  3. 黒井文太郎 #-
  4. [ 編集]

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プロフィール

黒井文太郎

Author:黒井文太郎
 63年生まれ。『軍事研究』記者、『ワールド・インテリジェンス』編集長などを経て、現在は軍事ジャーナリスト。専門は各国情報機関の最新動向、国際テロ(とくにイスラム過激派)、日本の防衛・安全保障、中東情勢、北朝鮮情勢、その他の国際紛争、旧軍特務機関など。

 著書『ビンラディン抹殺指令』『アルカイダの全貌』『イスラムのテロリスト』『世界のテロと組織犯罪』『インテリジェンスの極意』『北朝鮮に備える軍事学』『紛争勃発』『日本の情報機関』『日本の防衛7つの論点』、編共著・企画制作『生物兵器テロ』『自衛隊戦略白書』『インテリジェンス戦争~対テロ時代の最新動向』『公安アンダーワールド』、劇画原作『実録・陸軍中野学校』『満州特務機関』等々。

 ニューヨーク、モスクワ、カイロに居住経験あり。紛争地域を中心に約70カ国を訪問し、約30カ国を取材している。




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