ワールド&インテリジェンス

ジャーナリスト・黒井文太郎のブログ/国際情勢、インテリジェンス関連、外交・安全保障、その他の雑感・・・(※諸般の事情により現在コメント表示は停止中です)

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北朝鮮軍砲撃の理由

 昨日、TBSの夕方ニュース「Nスタ」にお招きいただき、北朝鮮軍の砲撃に関して少しですが解説させていただきました。
 また、本日15時より、TBSのCS放送「ニュースバード」の番組「ニュースの視点」に出演させていただき、同事件についてお話させていただく予定になっています。21時から再放送もあります。

 さて、今回の事件と例のウラン濃縮施設をアメリカの視察団に公開した件などについて、「アメリカを交渉の場に引きずり出すためのカード」という見方の方が多いですが、私は少し違う印象を持っています。
 今回の砲撃に関しては、北朝鮮は軍事をやっているのだろうなという印象です。もともとあの海域は、韓国側が設定した北方限界線がぐっと北朝鮮の領土近くまで攻め入っているかたちになっていて、両国の最大のホットポイントになっています。
 島嶼部には韓国軍のレーダーが設置され、北朝鮮海軍の西海海軍の本拠地である南浦、温泉空軍基地、第3/第4軍団司令部、さらには遠く平壌までが監視されています。また、韓国側は上陸侵攻作戦のスペシャリストである精鋭の海兵旅団を配置していています。
 北朝鮮側も精鋭の部隊を配置していて対抗しています。
 以前から軍事衝突が絶えない場所でしたが、99年に北朝鮮側はぐっと南方の海上に海上軍事境界線を設定し、韓国側が実効支配している海域も自国の勢力圏だと無理やり主張しはじめました。その後もたびたび北朝鮮側のワタリガニ漁船や哨戒艇が南下し、韓国側との小競り合いが発生しています。
 こうした小規模の軍事衝突の場合、しばしば北朝鮮側がコテンパンにやられて逃げ帰るということが起こります。そうすると、北朝鮮側は時間を置いて報復に出ます。たとえば99年に北朝鮮側が大きな被害を受けた銃撃戦の際は、3年後の2002年に報復しています。即座の報復による危機は臨まないものの、軍事的な報復はきっちりやらないと面子にかかわるということなのでしょう。

 で、今回の契機は、昨年11月の銃撃戦だろうと思います。そのとき北朝鮮側は哨戒艇が大破し、ほとんど一方的にやられて逃げ帰っています。この事件の責任をとって、金明国(キム・ミョングク)総参謀部作戦局長(70歳)が大将から上将に降格されています。
 今年3月の韓国哨戒艦「天安」撃沈は、おそらくその報復と思われます。主導したのは、金英徹(キム・ヨンチョル)軍偵察総局長(65歳/上将)とみられますが、当然、北朝鮮海軍中枢も、さらには金正日も承知していることでしょう。一部報道で、「金正男が訪中した金正日に対し、『金正恩がやった天安撃沈はよくない』と諌言した」との未確認情報もあり、天安撃沈は金正恩がやったとの見方もありますが、そこまでの真偽はわかりません。
 ただ、今年に入って、金正恩世襲プロセスの布石として軍幹部の人事がかなり動いていて、新たな軍指導部がこうした強硬な動きを担っています。彼らは皆一様に出世をとげていて、金正恩新体制移行プロセスで優遇されています。
 たとえば、現在の北朝鮮軍を取り仕切っているのは、李英鎬(リ・ヨンホ)総参謀長(67歳)です。平壌防御司令官から昨年2月に上将から大将に昇格するとともに総参謀長に抜擢。わずか1年半後に次帥に昇格。党政治局員兼党中央軍事委員会副委員長に就任しました。並み居る70~80代の先輩らをゴボウ抜きしての大出世であり、記念写真でも最前列中央の金正日の隣席に位置するなど、完全に頭ひとつ抜けた存在です。
 3月の天安撃沈事件直後の今年4月、金正日は将官級およそ100人もの大量昇格を行っています。天安撃沈事件で降格されていた金明国が大将に復活。李炳鉄(リ・ビョンチョル)空軍司令官や鄭明道(チョン・ミョンド)海軍司令官らも大将に昇格しています。天安撃沈が「よくやった」ということですね。金正恩の直接の司令かどうかはわかりませんが、金正恩への求心力に使われたということはまず間違いないのではないかと思います。
 今年9月には金正恩や金敬姫の大将就任がありましたが、同時に玄永哲(ヒョン・ヨンチョル)第8軍団長と崔富日(チェ・ブイル)副総参謀長も大将に昇格しています。金正恩が党中央軍事委員会副委員長でデビューしたときには、大将になったばかりの鄭明道、李炳鉄、崔富日、さらに上将にすぎない金英徹も委員に就任し、金正恩を支える立場となっています。崔富日は直後の軍事パレードを指揮し、その存在感が大きく強化されています。
 こうした軍の新リーダーたちは、金正恩後継プロセスと連動して、軍の活動をきっちりアピールする方向を明確にしているのだと思います。
 今年の3月の天安事件以降、黄海で米韓軍が繰り返し演習を行うなどしていることに対し、北朝鮮側は再三にわたって警告してきました。これは北朝鮮側からすると、米韓側からの挑戦的な挑発行為にほかなりません。もっとも、米軍と事を構えるわけにはいかないので、韓国軍単独で挑発的な訓練が行われた際には、今度はそれなりの報復をすると決めていたのでしょう。
 ただし、天安事件で韓国世論が熱くなっているときはまずいので、少しホトボリが冷めた頃にということでしょうね。ただ、金正恩世襲プロセスで軍人事が動いているなかですから、それほど悠長には待ってられないということでの今回のタイミングだったのかと思います。
 もっとも、また哨戒艇を越境させるだけでは、ロクに敵に打撃を与えられずに再びすごすごと逃げ帰る醜態を晒す可能性もあります。今度再びそんなことになったら、せっかく手に入れた軍幹部ポストも危うくなります。
 ならば、いっそ思い切って島に砲撃を、と。しかし、戦争にはならなくらい限定的な感じにしよう、と。そうすれば、先に挑発したのは韓国側だといってなんとか収められるだろう、と・・・だいたいそんな考えだったのではないかと思います。
 北朝鮮側は今回の件に対しては、あくまで韓国側の挑発に対する報復という立場を崩さず、これ以上の拡大は望んでいないと思われます。いずれにせよこれで北朝鮮国内では、金正恩大将を中心に結束した軍が韓国に一撃を食らわした快挙ということになります。



 北朝鮮側は今回の件に対しては、あくまで韓国側の挑発に対する報復という立場を崩さず、これ以上の拡大は望んでいないと思われます。いずれにせよこれで北朝鮮国内では、金正恩大将を中心に結束した軍が韓国に一撃を食らわした快挙ということになります。

 ところで、前述したように、ウラン濃縮の件でも、施設を米視察団に公開してことで、米朝対話を狙ったカードだという見方がありますが、ちょっと違うのではないかと私は思っています。
 要するに、北朝鮮は軽水炉建設とのセットで、平和利用ということで押していけると踏んだのだと思います。対米交渉はメイン・テーマではなく、やはり念頭にある最大の目標は核武装強化だと思います。対米交渉の狙いというのは、制裁を解除し、体制保証を引き出すことですが、核開発途上にそれが実現しないことぐらいは北朝鮮も理解していると思います。対米交渉は核ミサイル完成までは、しょせんは時間稼ぎではないでしょうか。
 ここでも北朝鮮は、要するに外交ではなくて軍事をやっているのだと思います。
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  1. 2010/11/24(水) 10:48:09|
  2. 未分類
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:7
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「天安事件で韓国世論が熱くなっているときはまずいので、少しホトボリが冷めた頃にということ」。「戦争にはならなくらい限定的な感じにしよう、と。そうすれば、先に挑発したのは韓国側だといってなんとか収められるだろう」。

「これ以上の拡大は望んでいない」。「対米交渉は核ミサイル完成までは、しょせんは時間稼ぎ」。さり気無く書かれていますが、黒井さんは流石インテリジェンス・ウォッチャーですね。ところで、北朝鮮の大将は他国の大将ですが、北朝鮮の上将は他国の中将、北朝鮮の中将は他国の少将、北朝鮮の少将は他国の准将に相当という事ですね。

それで質問ですが、中共や南北朝鮮はおろか英米など西側諸国にも大将や元帥が残存しています。一方で戦後自衛隊の階級で将官クラスは「将補(少将)」以外には陸海空の幕僚長(司令官)クラスの「将(中将)」しか設定していませんが何故でしょうか?実はイスラエル国防軍でも同じで、Rav Aluf(中将)が総参謀長一人であとは陸海空の司令官クラスや総参謀部諜報局の局長もAluf(少将)、諜報局の分析部部長はTat Aluf(准将)が指定です。
http://en.wikipedia.org/wiki/Aluf

また、シビリアンのはずのモサッド(諜報特務庁)にはAluf(少将)の軍人が横滑りで長官に任命される傾向があり、しかも現在のダガン長官の任期が3年も延長で生え抜き職員の間には不満もあるようです。ところでダガンの任期は今年末までに決定されていますが、未だ後継者が未決定。現在、有力なのはイスラエル公安シャバック(総保安庁)のディスキン長官とモサッド生え抜きで名前が発表されていない元副長官の「T(姓ではなく名前)」の2人です。
  1. URL |
  2. 2010/11/26(金) 19:01:05 |
  3. 道楽Q #HfMzn2gY
  4. [ 編集]

イスラエルの事情を御教示いただき、ありがとうございます。
さて、自衛隊の「将」ですが、そのいきさつは正確には知りません。創隊の頃から背広組優位だったので、制服組をエラくしないという話だったように思います。それで、たしかだいぶ後になって、外国軍の大将と会うときに格好悪いということになって、統幕長と3幕僚長は星4つにして、ジェネラルを名乗るようになっています。
  1. URL |
  2. 2010/11/27(土) 09:45:10 |
  3. 黒井文太郎 #-
  4. [ 編集]

ぶわっ
  1. URL |
  2. 2010/12/04(土) 21:39:19 |
  3. ブワッ #-
  4. [ 編集]

マジですか色付きの文字
  1. URL |
  2. 2011/01/13(木) 21:09:15 |
  3. 匿名 #-
  4. [ 編集]

初めて知りました   教えてくれてありがとう
  1. URL |
  2. 2011/01/13(木) 21:11:35 |
  3. 2pm #-
  4. [ 編集]

斜体の文すごいです!  
  1. URL |
  2. 2011/01/17(月) 09:20:34 |
  3. 匿名 #-
  4. [ 編集]

おえーー
  1. URL |
  2. 2011/01/20(木) 12:29:54 |
  3. 匿名 #-
  4. [ 編集]

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プロフィール

黒井文太郎

Author:黒井文太郎
 63年生まれ。『軍事研究』記者、『ワールド・インテリジェンス』編集長などを経て、現在は軍事ジャーナリスト。専門は各国情報機関の最新動向、国際テロ(とくにイスラム過激派)、日本の防衛・安全保障、中東情勢、北朝鮮情勢、その他の国際紛争、旧軍特務機関など。

 著書『ビンラディン抹殺指令』『アルカイダの全貌』『イスラムのテロリスト』『世界のテロと組織犯罪』『インテリジェンスの極意』『北朝鮮に備える軍事学』『紛争勃発』『日本の情報機関』『日本の防衛7つの論点』、編共著・企画制作『生物兵器テロ』『自衛隊戦略白書』『インテリジェンス戦争~対テロ時代の最新動向』『公安アンダーワールド』、劇画原作『実録・陸軍中野学校』『満州特務機関』等々。

 ニューヨーク、モスクワ、カイロに居住経験あり。紛争地域を中心に約70カ国を訪問し、約30カ国を取材している。




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