ワールド&インテリジェンス

ジャーナリスト・黒井文太郎のブログ/国際情勢、インテリジェンス関連、外交・安全保障、その他の雑感・・・(※諸般の事情により現在コメント表示は停止中です)

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守秘義務と報道

 尖閣ビデオ流出に関して、守秘義務違反かどうかが注目されています。
 現在、日本の法律で罰せられる守秘義務違反には、まずは国家公務員法第100条があります。「職員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後といえども同様とする」ですね。地方公務員法第34条も同様の文言です。
 また、守秘義務にはその他にも刑法第134条とか、電波法第59条および第109条とかいろいろあって、たとえばウィキペディアの「守秘義務」の項目をみると、私も知らないさまざまな法律上の守秘義務がぞろぞろと書かれています。
 その他にも、軍事・諜報分野をテーマとする私の守備範囲でいえば、軍事機密漏洩に関する自衛隊法第96条第2項(防衛秘密)、あるいは「日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法」なども関係してきます。日本で守秘義務違反が深刻な事件になるケースでは、どちらかというと防衛秘密・軍事機密関連が多いのが実情です。
 しかし、公務員による情報の漏洩は、実際にはそれよりはるかに多く、とくにマスコミの現場では日常的に行われています。たとえば、逮捕・勾留された容疑者への調べで、「関係者への取材により~とわかりました」などというニュースはみんなそうです。公に発表していない内容が、警察や検察へのオフレコ取材でリークされているのです。
 これらは厳密にひとつひとつ見ると、「秘密」の解釈で公務員法違反という「犯罪」に該当するとまでは言えないかもしれませんが、問題がないわけではありません。検察、警察、自衛隊あるいはその他の省庁でも、情報の取扱に関する内規があって、明らかな法律違反ではなくとも、個別に新聞記者に非公開情報を話すなどというのは、厳密に言えばほとんどの場合、内規違反の処分対象に相当します。
 もっとも、リークの多くは、役所内では問題視されません。組織の幹部が世論対策などの意図を持って行うものだからです。
 また、マスコミ内部では太いリーク源を持っている記者ほど評価されます。逆説的に言えば、実質的な公務員法違反・内規違反の共犯者であればあるほど、優秀な記者として評価されるということになります。
 ところが、もっと優秀な記者になると、組織の利益にならない内部情報を入手できるリーク源を持っていたりします。組織にとってはあまり嬉しくない情報がそうしてスクープされます。そういうリーク源はほとんど場合、判明すれば内規違反で処分対象になりますが、実際には必ずしもそうはなりません。
 ひとつには、それを問題化することは、その情報が「事実」であることを組織が認めることを意味します。通常、組織はそれを非常に嫌いますから、組織内で「なかったこと」にされるケースがしばしばあります。内部対立やいろいろ面倒な人間関係が背景にあって、表立って問題化できないこともよくあります。
 また、組織に都合が悪い情報のリーク源は、記者もその正体がバレないように細心の注意を払って「情報源の秘匿」をします。リーク源は記者にとっては大事なメシの種ですから、温存することが利益になります。
 情報源温存のために、記者の多くは、聞いた話をすべて書くわけではありません。わざと嘘が書かれた例はほとんど聞きませんが、情報をボカすことはよくあります。いわゆる「番記者」に多いパターンですが、記者クラブを批判するフリーランスでも、実際には優秀なジャーナリストほど水面下で非公式な太い情報源を持っていたりします。
 もっとも、どうしてもある情報を書きたいときに、「もういいや」となって情報源がバレるほど書いてしまい、「あいつに裏切られた」とかトラブルになることもあります。そこは情報源も記者も人間ですから、個人的性格や人間関係の深さの程度によります。

 これらの守秘義務違反では、公務員だけでなく、それを取材して公表したマスコミ記者も、法律を厳格に適用すれば、違法になる可能性があります。
 たとえば国家公務員法第109条では、上記の第100条違反者に対する罰則規定があり、さらに同111条には第109条に該当する行為を「企て、命じ、故意にこれを容認し、そそのかし又はほう助をした者は、それぞれ各本条の刑に処する」とあるので、情報漏洩の共犯としてジャーナリストがブタ箱に送られる可能性があるわけです。これはかの西山事件が有名ですね。
 また、自衛隊法の防衛秘密に関する守秘義務違反でも、自衛隊外部の共謀者も摘発の対象になっています。

 私自身、日本のインテリジェンス活動もフォローする、いちおうジャーナリストの端くれですから、『ワールド・インテリジェンス』でも『軍事研究』でも、あるいは拙著『日本の情報機関』や拙編『公安アンダーワールド』などでも、かなり微妙なところまで執筆したことがあります。
 一例でいえば、当ブログでも紹介した『公安アンダーワールド』の公安調査庁内部報告書掲載の件では、厳密に言えば情報提供者は国家公務員法に抵触する恐れがありました。仮に(仮にですよ!)私がそれを扇動・幇助していれば、私も同法違反ということになるわけです(同庁が同文書を公式に本物であると認めていないので、刑事事件化していませんが)。
 また、いくつかの媒体で自衛隊情報部門や公安外事警察の内幕話を書いたことがありますが、そういう場合、組織が公にしていない情報にどこまで踏み込むかは、常に悩みの種になっています。
 私は基本的にインテリジェンス活動推進派で、警察や自衛隊を批判する立場ではないのですが、おかしいと思うところは指摘すべきだと考えていますし、執筆活動で生活の糧を得ている者として、事実を読者に提供するプロ意識も自分なりに持っているつもりですから、日本の安全保障にダメージを与えず、かつ情報源や特定の個人に不利益をもたらさないかぎりで、なるべく活字化したいとの思いはあります。
 事件記者や防衛記者、政治記者のほとんどは、公務員の守秘義務違反に多かれ少なかれ加担した経験があると思います。守秘義務違反のレベルが高ければ高いほど、それを入手した記者は評価されます。もちろん、まともな記者、まともな情報源であれば、その情報の公開については、充分に事前検討するはずですが。
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  1. 2010/11/15(月) 16:42:35|
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  4. | コメント:2
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コメント

『尖閣ビデオ』流出問題に垣間見る通信の秘密の法律・傍聴法の無力化

非常に興味深い視点からの意見だと感じました。実は、私も個人情報保護法や傍聴法の「無力化」の可能性があるのかと危惧しています。よろしければ、『尖閣ビデオ』流出問題に垣間見る通信の秘密の法律・傍聴法の無力化』を参照してください。(URLかリンクマークの参照をお願いします。)
  1. URL |
  2. 2010/11/16(火) 21:26:27 |
  3. Tea and Coffee Time #oieAvOuY
  4. [ 編集]

 公安警察などは、以前は通信会社の捜査協力が日常的にあった“らしい”という噂は聞いたことがあります。盗聴というより、どちらかというと通信記録の提供ですね。
 けれども最近は、ちゃんと容疑を挙げて事件化しないとダメ、という話を聞いていたのですが、今回の警視庁流出資料でどうも本当にそうらしいとわかりました。
 もっとも、いわゆる通信傍受(盗聴)への法的ハードルはきわめて高いですが、通信記録(電話番号や時間の記録)やネットのログ情報などは、正式な事件捜査の手続きを踏めば、そんなに面倒でもないようです。正式な事件捜査の手続きを踏まなければ、日本でもたぶん今はそんなにナアナアでは出来ないと思いますが。
 今回の尖閣ビデオでも、警視庁資料流出でも、民間業者への正式な協力要請が後手にまわったのは、ブツが「本物であると認める」ことへのハードルが存在したという理由によるのだと思います。
  1. URL |
  2. 2010/11/20(土) 13:24:22 |
  3. 黒井文太郎 #-
  4. [ 編集]

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プロフィール

黒井文太郎

Author:黒井文太郎
 63年生まれ。『軍事研究』記者、『ワールド・インテリジェンス』編集長などを経て、現在は軍事ジャーナリスト。専門は各国情報機関の最新動向、国際テロ(とくにイスラム過激派)、日本の防衛・安全保障、中東情勢、北朝鮮情勢、その他の国際紛争、旧軍特務機関など。

 著書『ビンラディン抹殺指令』『アルカイダの全貌』『イスラムのテロリスト』『世界のテロと組織犯罪』『インテリジェンスの極意』『北朝鮮に備える軍事学』『紛争勃発』『日本の情報機関』『日本の防衛7つの論点』、編共著・企画制作『生物兵器テロ』『自衛隊戦略白書』『インテリジェンス戦争~対テロ時代の最新動向』『公安アンダーワールド』、劇画原作『実録・陸軍中野学校』『満州特務機関』等々。

 ニューヨーク、モスクワ、カイロに居住経験あり。紛争地域を中心に約70カ国を訪問し、約30カ国を取材している。




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