ワールド&インテリジェンス

ジャーナリスト・黒井文太郎のブログ/国際情勢、インテリジェンス関連、外交・安全保障、その他の雑感・・・(※諸般の事情により現在コメント表示は停止中です)

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ロシア自爆テロ陰謀論?

 ロシアでにわかに爆弾テロが連続して発生する事態になっています。これまでの主な事件は以下のとおりです。
▽3月29日朝、通勤ラッシュで混雑するモスクワの地下鉄駅2ヵ所(ルビヤンカ駅とパルククリトゥールイ駅)で連続自爆テロ。乗客ら40人が死亡。
▽3月31日朝、ロシア南部ダゲスタン共和国キズリャルで自爆テロ2件が発生。警察幹部含む12名が死亡。警察が車両を止めたところ自爆し、15分後に現場近くで警察官の制服を着た地元出身の男が自爆したという。
▽4月4日未明、ダゲスタン共和国で、モスクワとアゼルバイジャンのバクーを結ぶ鉄道の線路で爆弾テロが発生。貨物列車8両が脱線、うち5両が横転した。
▽4月5日、ロシア南部イングーシ共和国カラブラクの警察署近くで車両による自爆テロが発生。警察官2名が死亡。

 以上のうち、モスクワ地下鉄テロについて、ロシア治安当局は自爆犯2名の身元を特定しています。1人は、昨年12月にダゲスタンでロシア治安部隊に殺害されたウマラト・マゴメドフの17歳の妻で、もう1人はダゲスタン在住の28歳の女性教師である可能性がきわめて高いということです。
 インタファクス通信によると、治安当局の捜査により、実行犯グループのアジトだったモスクワ中心部のアパートがすでに判明しているようです。当局の調べによると、自爆犯の2人の女にそれぞれ男が付き添い、遠隔操作で爆破スイッチを押したということです。
 
 以上の事件はいずれもチェチェンのイスラム武装勢力による犯行と考えられます。とくにモスクワの地下鉄テロに関しては、その最大派閥であるウマロフ派(カフカス首長国派)のドク・ウマロフ最高司令官(45歳)がインターネットのチェチェン独立派サイト「カフカス・センター」で犯行声明ビデオを公表しています。その声明によると、犯行の動機は、「2月にイングーシ共和国で連邦保安局(FSB)の作戦によって住民が多数殺害された件に対する報復」だそうです。
 では、このウマロフ司令官とはどんな人物でしょうか?
 ウマロフはもともとは、94年に当時のチェチェン・ゲリラ有力者だったルスラン・ゲラーエフ率いる「狼」部隊に参加したことでゲリラへの道に入ったという、同地の武装ゲリラとしてはかなり遅咲きの人物です。
 彼はすぐにゲラーエフと決裂しますが、それなりに指導力があったようで、96年に自派部隊を創設しています。その後、手勢を率いて当時のマスハドフ大統領の主流派に合流。自身もマスハドフ側近となっています。このマスハドフ側近となったことが、彼のゲリラ組織内部での地位向上に決定的な役割を果たしています。
 ウマロフが〝顔役〟になれたのは、97年の暫定大統領選挙においてマスハドフ陣営で働き、その論功行賞でマスハドフ暫定政権の安全保障会議書記長のポストに就いたからです。
 しかし、まもなく同ポストそのものが廃止されてしまい、それをきっかけにマスハドフと決裂しています。事情がよくわからないので一概には言えないのですが、ゲラーエフともマスハドフとも〝長続き〟できなかったというのは、もしかしたらキレやすいタイプの人間なのかもしれないですね。ちなみに、風貌もかなりふてぶてしいタイプです。
 99年から2000年にかけてグロズヌイ防衛戦に参加していますが、そこで負傷し、外国(トルコではないかといわれています)で長期治療を受けています。2003年にチェチェンに戻り、南西戦線司令官、安全保障相、副大統領を歴任しています。
 その後、チェチェン・ゲリラ内部では超強硬派として有名だったシャミル・バサエフ司令官に次ぐナンバー2のポジションとなっています。2006年6月にイスラム武装勢力の暫定大統領アブドルハリム・サドラエフが、そして同年7月にはシャミル・バサエフが戦死したのを受け、新司令官に就任しています。
 2007年からは、「カフカス首長国」と名乗って活動しています。バサエフ同様、多数のテロを指令してきたとみられています。昨年11月のモスクワ=サンクトペテルブルク間の急行列車爆破事件でも犯行声明を出しています。
 ところで、モスクワ地下鉄テロを実行したのは、いわゆる「黒い未亡人」を名乗る一派と目されています。もっとも、そういう名称の組織があるわけではなく、チェチェンのイスラム武装勢力がカッコつけのために自称している名称ですね。
「黒い未亡人」は、ロシアとの闘争で夫を亡くした未亡人をオルグしています。警戒されにくい女性を自爆テロにするきわめて卑劣なテロ作戦を行うためです。「黒い未亡人」は2000年代前半を中心に、これまで数々の自爆テロを実行してきています。
 3月30日付『コメルサント』によると、「黒い未亡人」は3月上旬にイングーシで戦死したティホミロフ司令官が主導してきたようです。すでに約30名をトルコのイスラム神学校に送り込んで洗脳を実施し、うち9名が要人襲撃などですでに自爆しているとのことです。
 また、同日付『ガゼータ』紙によると、「黒い未亡人」に徴募された女性たちには、自爆テロがいかにイスラム的に尊いものであるかを徹底的に刷り込む洗脳工作が行われ、さらには途中で翻意しないように麻薬や精神安定剤なども与えられるとのこと。さらに自爆テロ犯の遺族には3000~5000ドルが与えられるともいいます。
 このあたりの情報は、飛ばし記事が多いロシア紙のネタだけにあまり信憑性はありませんが、チェチェン・ゲリラなら多かれ少なかれ似たようなことをやっていることでしょう。
 チェチェンのイスラム武装勢力は、ときおりロシアの圧政に抵抗するレジスタンスのように報道されている部分もありますが、このようにきわめて卑劣な行為を恥とも思わない低劣な一派です。死んだバサエフもそうですが、ロシア側が安易に手出しできないだろうと踏んで小学校や病院を襲撃したりする連中です。
 チェチェンではロシア側も住民に対する拷問などをかなり広範囲で行っている形跡がありますが、少なくとも悪いことは隠れてやろうというブレーキがあります。チェチェン・ゲリラにはそういう考えすらありません。
 そもそもチェチェン・ゲリラの幹部たちというのはほとんど、麻薬密売などで一世を風靡したチェチェン・マフィアの残党です。なので、もともとモラルという感覚があまりないようです。
 というのが、私のチェチェン・ゲリラ評なのですが、ロシア国民の大方も、だいたい同じような感覚でいる人が多いのではないかと思います。ロシア国内にチェチェン同情論はほとんどありません。ロシア軍の非道な行為を糾弾するジャーナリストや人権活動家に対する暗殺事件がしばしば起きていますが、それを非難する声がさほど高まらないのは、当局に対する恐怖心だけでなく、この反チェチェン感情があるからでもあります。
 他方、日本を含め外国では、チェチェンに同情的な人も多く、まったく別の見方がされていることが多いですね。どちらが正しとかはここでは措いておきますが、少なくとも、ロシアと外国ではこの視点の違いがあるということを、まず押さえておくことが必要ではないかと思います。
 今回の地下鉄テロに関し、一部には「プーチン自作自演」説を唱える人もいるようです。かつてモスクワのアパート連続爆破事件でも、FSB自作自演というトンデモ論がありました。その急先鋒がロンドンで殺害されたリトビネンコですが、リトビネンコ暗殺にもプーチン陰謀論があります。
 こうした陰謀論の背景に、インテリジェンスの専門家の人々はしばしば、米英の情報機関による逆情報作戦の存在を指摘します。情報材料が少ないので、私には判断できませんが、そういうこともあっておかしくはないとは思います。
 もっとも、私の周囲の陰謀論者の方々をみると、逆情報があろうとなかろうと、初めから希望的確信ありきで、信念で陰謀論に突き進んでいくパターンが多いように思います。陰謀論が宗教にようになっているわけですね。
 多くのチェチェン人が今も不幸な目に遭っているという現実があります。ですが、チェチェン・ゲリラの卑劣なテロは、そうした人々をますます苦しめる結果しか生まないということを、チェチェンの世論にも浸透できないものでしょうか。未亡人を利用するような連中はやはり許せませんね。
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  1. 2010/04/05(月) 21:28:16|
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プロフィール

黒井文太郎

Author:黒井文太郎
 63年生まれ。『軍事研究』記者、『ワールド・インテリジェンス』編集長などを経て、現在は軍事ジャーナリスト。専門は各国情報機関の最新動向、国際テロ(とくにイスラム過激派)、日本の防衛・安全保障、中東情勢、北朝鮮情勢、その他の国際紛争、旧軍特務機関など。

 著書『ビンラディン抹殺指令』『アルカイダの全貌』『イスラムのテロリスト』『世界のテロと組織犯罪』『インテリジェンスの極意』『北朝鮮に備える軍事学』『紛争勃発』『日本の情報機関』『日本の防衛7つの論点』、編共著・企画制作『生物兵器テロ』『自衛隊戦略白書』『インテリジェンス戦争~対テロ時代の最新動向』『公安アンダーワールド』、劇画原作『実録・陸軍中野学校』『満州特務機関』等々。

 ニューヨーク、モスクワ、カイロに居住経験あり。紛争地域を中心に約70カ国を訪問し、約30カ国を取材している。




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