ワールド&インテリジェンス

ジャーナリスト・黒井文太郎のブログ/国際情勢、インテリジェンス関連、外交・安全保障、その他の雑感・・・(※諸般の事情により現在コメント表示は停止中です)

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戦場取材と責任論

 本日のニュースですが、ジャーナリストの常岡浩介さんがアフガニスタンで消息不明になっていて、誘拐された可能性もあるとのこと。彼はイスラム圏紛争地取材では歴戦の猛者ですから、きっと大丈夫だろうとは思いますが、ああいった場所ですので非常に心配です。
 ところで、無事帰還されることを前提にして書くのですが、今の日本の風潮ですと、こうした事件が起こると、またぞろ責任論みたいな話が出てきそうで陰鬱な気分になります。
 ちょうど安田純平さんの近著『戦場出稼ぎ労働者』を拝読したばかりなのですが、同書によれば、イラク人質経験者の彼に対しては敵意むき出しでいろいろ言ってくる人もいるらしく、たとえば今回の安田さんの取材に対しても彼のブログに「何かあったら政府に迷惑だ」とか「日本から出て行け」とかの書き込みもあったそうです。どうしても「ほっといて」くれないのですね。
 こうした自己責任論は、日本人独特のもので、他の国ではほとんど聞いたことがありません。安田さんの前出著書によると、日本政府が日本人記者のイラク入国を妨害しているフシもあるようですが、そんな国も他にまずありません。
 私の頃(80~90年代)は、少なくとも「日本政府に迷惑がかかる」などという発想は誰にもありませんでした。国によっては現地国の取材許可証を取得するのに日本大使館のレター(ジャーナリスト身分証明みたいなもの)を要求するところもあるのですが、在タイ大使館以外はどこも快く対応してくれました。タイの場合も大使館の方針というよりは、尊大な参事官サマのいじわるキャラゆえのことだったように思います。
 私より上の世代の伝説では、レバノンの日本大使館員(通信員みたいな人だったかも)には親分肌の剛の人がいて、あまりに面倒見がいいので、貧乏なフリーランスたちの溜まり場になっていたなんて話も聞いたことがあります。
 ただ、私の頃も、会社の責任論みたいなことには、どの社もかなりナーバスでした。つまり、自社の記者やアサイメント(出来高契約)記者を派遣すると、何かあったときに責任を問われるので、どの社も二の足を踏むということですね。たとえば、私は週刊Gの半アサイメント(経費全額持ちでないケース)でボスニアに行って負傷したのですが、その際、現地では「フリーランス」で通しました。G誌の特派記者ということになると、会社に迷惑がかかる可能性があるからです(でも誌面では「本誌特派記者の流血レポート!」とかのコピーがついてましたが)。
 いずれにせよ、そういう感じで、どの社も自社のアサイメントを出すことを非常に嫌がっていました。こちらとしては、現地での動きをスムーズにするため、「カネは(そんなに)出さなくていいから、コレスポンデントの証明書だけほしい」なんていう場合もあるのですが、紛争地取材だとなかなか責任者のOKはとれませんでしたね。
 湾岸戦争の取材は週刊Fの完全アサイメント(全経費会社持ち)だったのですが、あのときは会社がいわゆる戦争保険をかけてくれたようです。詳細は覚えてないですが、たしか保険料がギャラより高額だったような。こちらとしてはホンネでは「保険要らないから、そのぶんギャラください」と言いたいところなのですが。
 こうしたことは、批判に晒されやすい大手社ほど慎重です。前に当ブログで書いたこともありますが、Fテレビのボスニア取材の際、クロアチア待機中に「サラエボ入りは中止」命令が下りたこともありました。かわりに他の激戦地に行きましたが。
「大手報道機関の記者は危険地帯は自分で取材せず、そういうところだけフリーにやらせる」という批判がときおりありますが、実際には大手社の記者は、「行きたいんだけど、上がストップする」という状況にあります。
 マスコミ同業他社が責任論で批判するというのも、日本人独特の文化ですね。たとえば、かつてペルーの日本大使公邸人質占拠事件で、通信社のカメラマンが単独でゲリラ取材をやって他社の集中砲火をあびたことがありました。私も当時、週刊Gの特派で現場取材していたのですが、ああいうのは正直言って、半分以上は「嫉妬」だったように思いますね。かくいう私も羨ましかったです。私の場合は単に「すげえなあ」「いいなー」という羨望だけだったのですが。

 自ら敬虔なモスレムでもある常岡さんはもちろん親イスラムで、アンチ・イスラミストの私とはほとんど真逆の立場なのですが、彼の取材は常々「すげえなあ」と思って拝見してきました(私が編集したムックに寄稿いただいたこともあります)。無事をお祈りします。
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  1. 2010/04/02(金) 17:00:41|
  2. 未分類
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:2
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コメント

>こうした自己責任論は、日本人独特のもので、他の国ではほとんど聞いたことがありません。

では他国の例を紹介しておきます。

【フランス】「無謀な旅」救出経費は自己負担 政府が法案まとめる
http://tsushima.2ch.net/test/read.cgi/newsplus/1251106615/l50

★殺されても「自分の責任」=イラクの武装勢力と取引せず-NZ外相

・ニュージーランドのゴフ外相は5日、イラクで自国民が人質となり
 殺される事態になっても、派遣軍の撤収など武装勢力との取引には
 応じないとする声明を発表した。

 同外相は声明の中で、武装勢力による民間人殺害を非難する一方で、
 「国民にイラクへの渡航自粛を繰り返し求めている。現地は極めて
 危険で滞在は正当化できない」とし、それでもイラク入りを強行するなら、
 事件に巻き込まれても自分の責任だとの見解を示した。
http://news13.2ch.net/test/read.cgi/newsplus/1091672130/

>今の日本の風潮ですと、こうした事件が起こると、またぞろ責任論みたいな話が出てきそうで陰鬱な気分になります。

いや、それは無いでしょう。そもそもイラクの時にあれだけ自己責任論で吹き荒れたのは、人質の家族が、誘拐された事を日本政府のせいだとマスコミに喋っていた事が原因ですから。それをやらなければ騒ぐ奴は出ませんよ。
  1. URL |
  2. 2010/04/11(日) 21:42:53 |
  3. JSF #mQop/nM.
  4. [ 編集]

JSF様 コメントありがとうございました。
フランスやニュージーランドのこうしたニュースは知りませんでした。
欧米では普通は、ジャーナリストが戦場の取材をするのは当然と考えられていて、取材者を非難するような世論は少なくともこれまで私は他国では聞いたことがないのですが、もしかしたら、だんだんそういう声も出始めてくるのかもしれませんね。
  1. URL |
  2. 2010/04/15(木) 15:37:05 |
  3. 黒井文太郎 #-
  4. [ 編集]

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プロフィール

黒井文太郎

Author:黒井文太郎
 63年生まれ。『軍事研究』記者、『ワールド・インテリジェンス』編集長などを経て、現在は軍事ジャーナリスト。専門は各国情報機関の最新動向、国際テロ(とくにイスラム過激派)、日本の防衛・安全保障、中東情勢、北朝鮮情勢、その他の国際紛争、旧軍特務機関など。

 著書『ビンラディン抹殺指令』『アルカイダの全貌』『イスラムのテロリスト』『世界のテロと組織犯罪』『インテリジェンスの極意』『北朝鮮に備える軍事学』『紛争勃発』『日本の情報機関』『日本の防衛7つの論点』、編共著・企画制作『生物兵器テロ』『自衛隊戦略白書』『インテリジェンス戦争~対テロ時代の最新動向』『公安アンダーワールド』、劇画原作『実録・陸軍中野学校』『満州特務機関』等々。

 ニューヨーク、モスクワ、カイロに居住経験あり。紛争地域を中心に約70カ国を訪問し、約30カ国を取材している。




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