ワールド&インテリジェンス

ジャーナリスト・黒井文太郎のブログ/国際情勢、インテリジェンス関連、外交・安全保障、その他の雑感・・・(※諸般の事情により現在コメント表示は停止中です)

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戦場出稼ぎ労働者

 不肖わたくしが講師役をやらせていただいた先週の勉強会(来ていただいた方々および主催者の方はたいへんありがとうございました)に来ていただいたジャーナリストの安田純平さんより近著『ルポ 戦場出稼ぎ労働者』(集英社新書) アマゾンをいただき、たいへん興味深く拝読しました。
 イラクで一時拘束されてしまったことで知られる安田さんですが、さらに深く現地取材をするために、今度はなんと出稼ぎ労働者(料理人)として現地入りしています。いろいろ戦場ルポものは私も読んできましたが、こんな面白いアプローチをする人ははじめてではないかと思います。
 自分も含めてですが、海外取材者はしょせん、現地ではほんのわずかな人としか接触しません。普通の取材者であれば、取材対象である軍隊や武装勢力の指揮官や戦闘員、政治家、役人、研究者、学生、難民、被害者、人権活動家、医療関係者などなど。あるいは通訳、運転手、ホテル従業員、食堂や酒場で出会う人々くらいなものですね。
 これはフリーランスでも大手報道機関の特派員でもそれほど変わりません。「政府関係者(日本の外交官など外国人含む)」の割合が少し変わる程度かなという感じです。
 外交官などは、全体的に現地でもハイレベルの人と接触する機会が多いようですが、それでも地元国民のほんの一部としか接触しません。商社とかメーカーの駐在員などは、それぞれの取引相手と深い接触がありますが、それ以上ではありません。NGOスタッフなどはなかなかディープな人脈を持っていたりするケースもありますが、そこに特化していて、むしろ現地の狭い範囲としか接触していないことが多かったりします。
 そして、そういう人々が自分の経験に基づいて分析し、「この国はこうなってる!」と判断します。それを伝え聞く側は、そうした現地経験者の声から、当該国に対するイメージを得るわけです。
 ここで重要なのは、どんな優秀な人間であれ、その見聞したものは「一部にすぎない」ということです。戦場ものに限らず、海外ルポの読み手はそうしたことを頭に入れておく必要があります。
 私たち書き手としても、それを自覚しているかどうかというのは重要です。自分の見聞を基に「こういう現実もある」と伝えるのはいいのですが、自分の見聞だけに拘泥し、それだけで「その国や国民」を断定的に論じたり、あるいは自分の見聞以外の情報をすべて「嘘だ!」と否定するような文章は最悪です。これは意外と陥りやすいもので、私自身もしばしばやっちゃっています。
 こうしたことを回避するためには、多くの他の人の意見を聞いたり、その書かれたものを読んだりすることが必要です。また、現地でも、少しでも見聞を広めることが重要です。たとえば、「対立する双方を取材する」ことや「他の人の目がないところで、ひとりひとりから話を聞く」ことなども重要で、そうしないと同じ状況でもまったく違った印象になってしまうことがしばしば起こります。最悪なのは、最初から自分の主義主張とマッチする相手しか取材しないことで、こうしたスタンスでは、どれだけ現地経験を重ねても、ほとんど現地を見ていないのと同じですね。
 しょせんは「よそ者」である取材者としては、どれだけ当事者に近づけるかというのも、非常に重要です。これは各人がそれぞれ苦心しているところではあるのですが、なかなか難しいことです。私自身、どれだけできたかと振り返ると、まったく情けない思いです。
 ルポルタージュの方法論としては、取材者としてアプローチする方法の他に、自分が当事者になって体験してしまう体験ルポという手法があります。でも、戦場を知ろうとするなら自分が兵隊になってしまうという究極の方法がありますが、いくらなんでもそこまではちょっと・・・と考えると、なかなかうまい道はありません。
 ということで、安田さんの戦場出稼ぎ労働者体験ルポは、方法論としてまさに出色のものです。でも、やろうとしてなかなかできることではありません。クウェートでネパール人労働者たちと一緒に職探しをしているのですが、ビザの問題とか国籍の問題とかで、最初はなかなかうまくいきません。私だったらせいぜい10日くらいダメなら嫌になっていたことでしょう。
 でも、その最底辺のところを体験することで、イラク外国人労働者ワールドの深いところを見聞されています。彼はアメリカには批判的な目を向けていますが、それでも労働者として接した雇用主たちの声もきっちりと拾っています。職探しに約2ヶ月、イラクで約8ヶ月、最後はシェフに昇格。脱帽です。
 本書最終章での考察は私の意見とは必ずしも同じではありませんが、これまで誰もアプローチしていなかった唯一無二の方法論で書かれた貴重な記録であることは間違いありません。興味のある方には是非お薦めします。
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  1. 2010/03/31(水) 13:18:49|
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プロフィール

黒井文太郎

Author:黒井文太郎
 63年生まれ。『軍事研究』記者、『ワールド・インテリジェンス』編集長などを経て、現在は軍事ジャーナリスト。専門は各国情報機関の最新動向、国際テロ(とくにイスラム過激派)、日本の防衛・安全保障、中東情勢、北朝鮮情勢、その他の国際紛争、旧軍特務機関など。

 著書『ビンラディン抹殺指令』『アルカイダの全貌』『イスラムのテロリスト』『世界のテロと組織犯罪』『インテリジェンスの極意』『北朝鮮に備える軍事学』『紛争勃発』『日本の情報機関』『日本の防衛7つの論点』、編共著・企画制作『生物兵器テロ』『自衛隊戦略白書』『インテリジェンス戦争~対テロ時代の最新動向』『公安アンダーワールド』、劇画原作『実録・陸軍中野学校』『満州特務機関』等々。

 ニューヨーク、モスクワ、カイロに居住経験あり。紛争地域を中心に約70カ国を訪問し、約30カ国を取材している。




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