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ワールド&インテリジェンス

ジャーナリスト・黒井文太郎のブログ/国際情勢、インテリジェンス関連、外交・安全保障、その他の雑感・・・(※諸般の事情により現在コメント表示は停止中です)

南アフリカの治安は大丈夫か

 先ほど夕方のニュースで、今年ワールドカップが開催される南アフリカの治安が心配だというようなニュースをやっていました。
 もうふた昔ちかく前ですが、南アフリカは一度取材したことがあります。ヨハネスブルグの貧民街にある「ホステル」と呼ばれる出稼ぎ者収容施設と、東部インド洋岸のクワズールー・ナタール州です。当時、マンデラ率いるANCの主流派を構成していたコサ人と、少数民族ズールー人のインカタ自由党が鋭く対立していて、とくに互いのチンピラ集団による襲撃合戦が激しかったときでした。
 私はあまり他のジャーナリストが取材していなかったズールー側を取材しようと思い立ち、彼らの本拠地であるクワズールー・ナタール州の内陸部のインカタ自由党組織と、ヨハネのズールー人ホステルでズールー人の武装ギャング団の取材をしました。とくにギャング団のほうは、いきなりホステルを訪ねていったのですが、それはそれは怖かったですね。後で考えると、無謀以外のなにものでもありませんでした。よく無事に出てこれたものです。
(ちなみに、私は他にもあちこちでギャングの取材をしたことがあるのですが、その際のコツというのは、とにかくそのグループのボスに最初に接近し、ナシをつけてしまうことです。これはゲリラ取材のときも同じです。とはいえ、くれぐれも真似しないでください。責任は持てません)
 他方、クワズールーのほうは、彼らは主に夜間に対立民族の村を襲撃するので、昼間にインカタ自由党の活動家連中を取材しているぶんには危険はありません。移動中のジャーナリストが強盗団に襲撃されたこともあったようですが、私のときはそういうことはありませんでした。
 ですが、当時から南ア最大の危険地帯は、ヨハネの中心部でした。とくに夜間は強盗集団の巣窟になっていて、ちょっとホテルから数ブロック移動するためだけでも、タクシーを使いました。そのくらい危険な土地でした。
 もっとも、そういう連中は少人数のカモを狙います。なので、数百人単位の観光客がひしめいているところを襲撃することはまず考えなくていいと思います。ワールドカップの観戦にいかれる方は、大勢の観光客がいるところならそれほど気にしなくてもいいと思いますが、たとえばこっそりと「夜の街」に行こうなどとすると、いっきにバイオレンス空間に入り込むことになるので気をつけてください。

 ときどき「どこがいちばん危険でしたか?」なんて聞かれることがあります。
 私はテロ続出時のバグダッドを取材していないので、それ以外の場所ということになりますが、戦争の最前線従軍取材のような特殊なケースを除くと、まずダントツ1位はソマリアでしょうね。前線でなくても、とにかく外出時は機関銃や対戦車ロケットで武装したボディガード・チームを雇い、ピックアップトラックで行動するのが原則です。前に書いたことがあるかもしれませんが、私はユニセフ事務所の前でAKで武装した地元チンピラと口論になり、ユニセフに逃げ込んだのですが、連中は平気で敷地内まで追っかけてきました。こんな場所は他にないです。
 私の場合、次点はヨハネスブルグでしょうか。西アフリカはかなりシビアだと聞いたことがありますが、残念ながら私はそちらの取材経験はありません。
 外国人狙いの強盗団が多いということでは、フィリピン南部スールー諸島のホロ島もそうですね。ここにはイスラム・ゲリラ兼強盗団がいて、外国人宣教師などがしばしば誘拐され、殺害されています。日本人のカメラマンの人が長期間拉致監禁されたこともあります。私はこのときはかなり慎重にゲリラ接触ルートの選定をやりました。最後は運任せみたいなことはあるのですが。
 その次は、アメリカの大都市のスラムですね。私はニューヨーク、ロサンゼルス、マイアミあたりはかなり奥のほうまで出入りしましたが、あれは怖いです。他の国のスラムも治安は悪いですが、スリや泥棒やカルい強盗程度で、あまり生命の危険までは感じません。その点、アメリカのスラムは世界最危険地帯といっていいかと思います。
 とはいえ、どこに行っても犯罪に遭う可能性はあります。私自身もたとえばスペインでピストル強盗に遭遇するなど、数え切れないくらい犯罪被害に遭っています。こういうのは今では「自己責任」とかいって被害者が批判されるのでしょうが、後で思い返すと、危険な土地ほど強烈な思い出になっていることはたしかです。ときおり呑み会の席で若い人に「武勇伝」をひけらかし、嫌われたりしますが。
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  1. 2010/03/11(木) 20:01:23|
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  4. | コメント:4
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相互リンクのご依頼

突然のコメント失礼します。
新しくサイトを作ったのですが、もしよろしければ、相互リンクしていただきたいと思い、コメントさせていただきました。
http://art.link-z.net/rand/link/register
こちらから、登録する形になっているのですが、していただけましたら幸いです。
よろしくお願いします。
ご迷惑でしたら申し訳ございません。Xt4
  1. URL |
  2. 2010/03/11(木) 20:17:23 |
  3. rand #YPvSHZGg
  4. [ 編集]

ピーター・トラヴィス監督の映画『エンドゲイム』はアパルトヘイト末期の南アフリカが舞台で同国諜報機関は徹底的な監視網で黒人弾圧を継続しANC(アフリカ民族評議会)と対決しているところ、英国諜報部MI6が送り込んだエージェントが潜入。そして南ア諜報機関の監視を受けたり、黒人地区へ乗り込むなど危険を顧みずにアパルトヘイトを軟着陸で終わらせようとするというストーリー。要人暗殺や情報収集しか出来ないイスラエル諜報機関に対して英国諜報部は辛抱強く対立する勢力をソフトに仲介するという能力が有る。
http://www.endgame-themovie.com/
http://www.collider.com/entertainment/news/article.asp/aid/10563/tcid/1

ところで、ハマス軍事部門創始者マフムード・マブフーフの暗殺事件で実行者は足跡を残し大きなミスを犯した模様ですが、恐らく実行期間などでネタンヤフ首相が無理を要求をした為に計画が乱雑になり代償を払う羽目になったのでは。今回の事件ではドバイのカメラ監視網の凄さが印象的でしたが、イスラエルはドバイの背後にいる「英国の罠」にかかったのかも。英国は国民一人当たり一日平均数百回写されている厳しいカメラ監視網の国。さらに自国パスポートでドバイ入り出来ないイスラエルは英国等の偽造パスポートを使っているあたりから、英国から傍若無人なネタネヤフへ巧妙な政治的嫌がらせが行われたと仮定すると面白い。思い当たるは、2006年秋に英国諜報部MI6の元部員アリスター・クルークがオスロ合意の秘密交渉者ヤイル・ヒルシュフェルド博士など数人のイスラエル人とハマスの代表者をロンドンで秘密会談させた事。
http://myrightword.blogspot.com/2006_10_01_archive.html

交渉自体は「テロリストとは交渉しない」当時のリヴニ外相らオルメルト政権に無視されましたが、ネタンヤフの弱みを握れば意外にハマスとの現実的な交渉は可能なのでは。中東和平が進まない事に失望とメディアに漏らしている米国オバマ大統領の意向をイスラエル諜報の師匠筋にあたる英国が察知してイスラエルとハマスとの交渉に当たらせる壮大な罠と考えるは妄想か?もともとイスラエルと占領地区は英国委任統治領パレスチナが前身で英国以外に誰が仲介しえるかという問題があるので仮説を立ててみました。ところで今回の暗殺実行団の写真等の暴露から何が見えるかというと、日本の入国管理局も導入した生物学的人物判断装置などの技術の進歩に人的諜報が立ち向えないのでは無いかという事で、今後これをイスラエルや英国などをはじめとした諜報先進国がどう克服していくのかという事は緊急に対外諜報機関を創る必要のある日本にとっても大きな課題となるでしょう。
  1. URL |
  2. 2010/03/18(木) 01:12:15 |
  3. 道楽Q #-
  4. [ 編集]

はじめまして、私の主人は南アフリカ人です、今は二人でロンドンに住んでいますが、南アフリカの治安はものすごく悪いようです。残念ですよね、とても美しい国なのに。

色々と思うことはありますが、今はワールドカップで訪れる皆さんが、羽目をはずして危ない目にあわないように祈っています!
  1. URL |
  2. 2010/04/11(日) 17:24:07 |
  3. mog27 #ZuOZdXDE
  4. [ 編集]

mog27様 コメントありがとうございます。
クワズールー・ナタール州でもダーバンの海岸はたいへん美しい場所でしたね。私が行ったときはちょうど政治的な暴力行為が頻発していた時期だったのですが、そんなときでもサーファーがたくさんいました。
  1. URL |
  2. 2010/04/15(木) 15:21:41 |
  3. 黒井文太郎 #-
  4. [ 編集]

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プロフィール

黒井文太郎

Author:黒井文太郎
 63年生まれ。『軍事研究』記者、『ワールド・インテリジェンス』編集長などを経て、現在は軍事ジャーナリスト。専門は各国情報機関の最新動向、国際テロ(とくにイスラム過激派)、日本の防衛・安全保障、中東情勢、北朝鮮情勢、その他の国際紛争、旧軍特務機関など。

 著書『ビンラディン抹殺指令』『アルカイダの全貌』『イスラムのテロリスト』『世界のテロと組織犯罪』『インテリジェンスの極意』『北朝鮮に備える軍事学』『紛争勃発』『日本の情報機関』『日本の防衛7つの論点』、編共著・企画制作『生物兵器テロ』『自衛隊戦略白書』『インテリジェンス戦争~対テロ時代の最新動向』『公安アンダーワールド』、劇画原作『実録・陸軍中野学校』『満州特務機関』等々。

 ニューヨーク、モスクワ、カイロに居住経験あり。紛争地域を中心に約70カ国を訪問し、約30カ国を取材している。




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