ワールド&インテリジェンス

ジャーナリスト・黒井文太郎のブログ/国際情勢、インテリジェンス関連、外交・安全保障、その他の雑感・・・(※諸般の事情により現在コメント表示は停止中です)

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和製エスピオナージの系譜

 NHK土曜ドラマ『外事警察』を視聴しました。前エントリーで触れましたが、尊敬する麻生幾さんの原案です。和製エスピオナージとしては非常に重厚で、スリリング。今後の展開に期待大です。
 制作サイドで拙著『日本の情報機関』なんかも参考にしていただいたとのことで、私も企画初期の段階で何度かNHKの方にアドバイスをしました。フィクションとはいえ、リアリティを追求したいというお話でした。もっとも、前エントリーで書いたように、公安モノなら右に出る人はいない麻生さんの原案ですので、私ごときの出る幕はほとんどありませんでしたが。
(ちなみに主演は渡部篤郎さん。まったく関係ない話ですが、昨日ナインティナインの番組に、渡部さんを二人で物真似するという脱力系のお笑いコンビが出ていて、ちょっと面白かったです)

 一方、フジテレビ深夜枠では『24』の新シーズンが始まりましたが、リアリティという点で、和製エスピオナージを創っていくのは、なかなか難しいところですね。そういう意味では、『外事警察』は本邦初の本格的作品になりそうな予感です。
 そういえば、『ワールド・インテリジェンス』の第4号で「スパイ映画でわかる諜報世界」という特集を組んだ際、「邦画のなかのハードボイルド~どうしても盛りあがらない和製エスピオナージ」という記事を書いたことがあります。『ワールド・インテリジェンス』らしからぬ息抜きエッセイですが、その一部をちょっとここに再録してみます。
(なお、2006年末頃執筆の文章ですので、その後に制作された作品については触れておりません)

 CTU(テロ対策ユニット)の活躍にお茶の間が固唾を呑むアメリカとは違い、現実にハードボイルドな背景のない日本の「スパイもの」はなかなか厳しいものがある。
 そんななかで異色だったのが、テレビの連続ドラマ枠(しかもフジテレビの月9)にスパイ・アクションを勇敢にもぶつけた『二千年の恋』。『千年の恋~光源氏物語』と間違えそうな意味不明のタイトルは、単に2000年1月からスタート(いわゆる月9枠)したからだが、その内容たるや、前年に韓国で大ヒットした『シュリ』をそのままアレンジしたようなハードボイルドなプロットだった。
 主人公は恐怖の独裁国家「ユーラル共和国」(明らかに北朝鮮のパロディ)の工作員・金城武と、外務省のシステムに関わっていたことから金城武に工作をかけられることになるソフトウェア会社システムエンジニア中山美穂だ。金城武は、アメリカへの亡命を希望して警視庁の保護下にある実父の化学研究所所長を暗殺する任務で日本にやって来た、という設定になっている。
 父親役にジョニー吉長、ユーラル共和国の女工作員にフェイレイ、金城武を追う警視庁公安部外事二課係長に宮沢和史(ヒット曲『島唄』があるザ・ブームのボーカル)と、ミュージシャンが多数出演しているのも特徴だが、せっかくの彼らの存在感を活かせないほど金城武と中山美穂にだけ焦点があてられた「危機の下のラブストーリー」になっている。金城武は実弟と実父を殺害するほどのクールなヒットマンだったのが、中山美穂と出会うなかでだんだん“いい人”になっていくところが物語の主軸である。
 本作品のいちばんの特徴は、宮沢和史を起用したことからもわかるように、警視庁公安部がそれなりにスタイリッシュに描かれている点だろう。日本の警察ドラマはほぼすべてがいわゆる「刑事モノ」であり、公安部がこのような描かれ方をしたものは他にあまりない。『踊る大捜査線』『アンフェア』『相棒』など、刑事を主人公とするドラマに公安部が登場するシーンがあるが、その場合は必ず「謀略集団」というステレオタイプな役回りになっている。
 警視庁のなかには、刑事部しかいないわけではない。むしろ公安部のほうが伝統的に格上の筆頭部局ですらあるのだが、日本のエンターメインメントのなかでは圧倒的に刑事主流になっている。TVドラマが公安部を謀略集団と描くということは、視聴者である日本国民が公安部を〝謀略集団〟視しているということでもある。
 テレビの国際謀略モノとしては、その他にも『冬のソナタ』で日本でも大人気となった韓国女優チェ・ジウが出演した『輪舞曲』(2006年1月クール)がある。本来ならファミリードラマ枠であるはずのTBS日曜劇場枠である。
 主人公は、警察官の竹之内豊。国際犯罪組織「神狗」(シェンクー)に潜入しているという設定になっている。主人公の潜入捜査官が自分のアイデンティティに悩んでいく展開は、大ヒットした香港映画『インファナル・アフェア』(トニー・レオン、アンディ・ラウ主演)に非常に似ている。
 実は竹之内豊は、幼い日に警察官だった父親を神狗に殺害されており、その仇を討つことを心に誓っている。ところがあるとき、日本で行方不明になった父親を探すために日本に移り住んだチェ・ジウと出会う……という設定だが、話はだんだんと「私たちの本当の父親は誰?」といったTBS伝統の「赤い~」シリーズのような展開になっていく。
 ちなみに、神狗のボスを杉浦直樹、その二代目を速水もこみち、婦人警察官を木村佳乃、黒幕的な神狗幹部を橋爪功が演じている。キャストはたしかに日曜劇場ぽいといえる。
 潜入捜査はアメリカ映画にはもともと多い。実在の元FBI潜入捜査官の手記を原作にした『フェイク』(97年/アル・パチーノ、ジョニー・デップ主演)やこれも主人公が麻薬組織に潜入する『マイアミ・バイス』(2006年/コリン・ファレル、ジェイミー・フォックス主演)といった作品もあるし、『24』でも主人公がテロ組織に潜入して犯罪行為に堂々と手を染めたりする。
 こうしたアメリカ作品にそれなりにリアリティがあるのは、実際に潜入捜査やオトリ捜査が日常的に行なわれているからでもある。それに比べて、日本ではやはり竹之内豊が国際マフィアに潜入するという設定自体があまりにもマンガチックに見えてしまうのはしかたがないのだろう。
 架空のポリティカル&ミリタリー・アクションで情報機関が登場する作品には、『亡国のイージス』(2005年)がある。福井晴敏氏のベストセラー小説の映画化である。
 物語は某国(北朝鮮がモデル)の工作班が海上自衛隊のイージス艦を乗っ取り、特殊兵器で日本政府を脅迫するという設定だが、その陰謀に対処するのが、防衛庁の架空の情報機関「防衛庁情報局」(DAIS)ということになっている。
 実在の防衛庁には情報本部をはじめいくつかの情報機関があるが、こうしたハードボイルドな実戦に立ち向かえるような組織は残念ながら、ない。非常によくできたストーリーだが、設定自体はテロリスト側も日本側もリアリティという面ではあまり参考にならない。
 なお、DAISで事態を取り仕切るのが、内事本部長の佐藤浩市。他に内閣情報官が岸部一徳である。

 ところで、時代を遡ると、スパイ物というよりは刑事物だが、国際犯罪絡みのネタがしばしば登場した名作があった。60年代後半から80年代前半まで続いた『キーハンター』『Gメン75』などの一連のTBS=東映作品である。なかでも『Gメン75』は、次回予告ナレーションで〝ハードボイルド〟という用語を日本国民に広めた功績を忘れてはならない。
『キーハンター』は国際警察特別室、『Gメン75』は警察庁特別潜入捜査班といういずれも架空の組織が国際犯罪に挑むという設定だが、なかでも『Gメン75』はしばしば香港マフィアと戦っている。倉田保昭が香港のムキムキ殺し屋と空手で戦うシーンは定番だ。
 ところが、じつは邦画にも『Gメン75』香港ロケ版をさらに飛躍させたような、突き抜けた作品があった。『国際秘密警察』シリーズである。
 これは、『キーハンター』よりも前の1960年代半ばに東宝が007の和製アレンジとして制作した5作のシリーズで、主演は三橋達也演じる国際秘密警察諜報部(本部はパリ)の捜査官である。こちらはリアリティや整合性などまったく無関係に、そのまんまジェームズ・ボンドばりの活躍を繰りひろげている。秘密兵器やボンドガール(?)もふんだんに登場する。
 日本の各映画会社はこの頃、「東宝アクション」「日活アクション」などと銘打った奇想天外な作品群を制作していて、『国際秘密警察』も東宝アクションのラインアップのひとつだった。東宝アクションにはその他にも、超能力者組織の活躍を描いた小松左京原作の『エスパイ』、ドタバタ国際スパイ・コメディ『100発100中』シリーズ(主役は宝田明演じるアンドリュー星野)などもある。
 この『国際秘密警察』シリーズも設定が奔放な作品だったが、その雰囲気を受け継いだのが、実写版の『ゴルゴ13』だ。実写版『ゴルゴ13』には73年制作の高倉健主演作と77年制作の千葉真一主演作があるのだが、なかでも千葉真一バージョンは香港B級アクション映画ふうでまったく肩の凝らない作りになっている。
 このあたりの一連の作品は、もともと現実世界とはあまり接点のない、文字通りの劇画の世界を目指したということなのだろう。逆にいえば、戦後ニッポンでは、日本を舞台に情報機関が本気の勝負をするような局面が現実社会になかったため、どうやったところでリアリティは担保できなかったということにもなる。むしろ政財界や闇社会の地下人脈をベースにした『日本の首領』や『仁義なき戦い』などのほうが、映画としてもリアリティがあったといえる。
(以下、金大中事件を題材にした『KT』についての記述ですが、陸幕2部別班関連で当ブログで既述なので省略します)
 
 現代モノのスパイ・アクションはどうしても邦画では限界があるが、戦中・戦前の日本、つまり日本がバリバリの国際謀略戦の第一線にいた時代を舞台にすれば、邦画でもまだまだ史実をモチーフにした物語を撮ることができる。
 その筆頭が、篠田正浩監督が自らライフワークと公言して制作した『スパイ・ゾルゲ』(2003年)だろう。ゾルゲとは、言わずと知れた戦前・戦中のソ連のスパイだが、こうしたスパイという存在が東京に潜み、壮大なエスピオナージを展開していたなどというのは、やはりこの時代ならではのことだ。日本人キャストは尾崎秀実(ゾルゲの情報源の朝日新聞記者)を本木雅弘、特高警察官を上川隆也が演じている。近衛文麿夫人役で篠田監督夫人の岩下志麻も出演している。
 その他、大戦中の日本側軍人の情報活動を描いた映画としては、『アナザー・ウエイ~D機関情報』(88年)もある。西村京太郎の小説『D機関情報』の映画化だが、これも実話が基になっている。
 D機関とはダレス機関のことで、これはCIAの前身であるOSS(戦略事務局)が第2次世界大戦中に欧州で運営していたアメリカの諜報機関のことである。その統括者が後にCIA長官になるアレン・ダレスだったため、ダレス機関と呼ばれたわけだ。
『アナザー・ウェイ』は、原爆の材料であるウランの買い付けにスイスに派遣された海軍中佐(役所広司)が、ダレス機関と極秘に接触して日米和平工作に乗り出していくというストーリーになっている。役所広司をダレス機関に繋ぐ元駐スイス駐在武官に永島敏行という配役である。
 映画『アナザー・ウェイ』の原作となった小説『D機関情報』には、ネタ元がある。元海軍中佐・藤村義朗氏が51年に『文藝春秋』に発表した手記である。映画のうえでは別の名前になっているが、主人公の海軍中佐はこの藤村氏のことだ。
 もっとも、藤村手記によると、彼は駐ドイツ駐在武官だったが、ベルリン陥落が近くなったためにスイスの日本大使館武官室に移り、そこでOSSと接触して和平工作を持ちかけられたということである。西村京太郎はその設定を一部アレンジしているわけだが、いずれにせよ在スイス日本大使館武官室がアメリカ側と秘密の和平交渉を進めたものの、大本営ではまったく相手にされずに黙殺されたのは史実である。
 旧軍の特務機関員を主人公にした邦画には、60年代に市川雷蔵主演で5本が制作された『陸軍中野学校』シリーズも有名だ。雷蔵は中野学校一期生で、数々の謀略戦で大活躍するという筋立てである。もちろん実在の中野学校も本格的なスパイ養成機関で、その出身者は南方や大陸で実際にさまざまな謀略戦を戦ってきたことはよく知られている。
(以下、前エントリーで書いた『ポーツマスの旗』の明石工作についての記述なので省略します)
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  1. 2009/11/16(月) 10:00:12|
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プロフィール

黒井文太郎

Author:黒井文太郎
 63年生まれ。『軍事研究』記者、『ワールド・インテリジェンス』編集長などを経て、現在は軍事ジャーナリスト。専門は各国情報機関の最新動向、国際テロ(とくにイスラム過激派)、日本の防衛・安全保障、中東情勢、北朝鮮情勢、その他の国際紛争、旧軍特務機関など。

 著書『ビンラディン抹殺指令』『アルカイダの全貌』『イスラムのテロリスト』『世界のテロと組織犯罪』『インテリジェンスの極意』『北朝鮮に備える軍事学』『紛争勃発』『日本の情報機関』『日本の防衛7つの論点』、編共著・企画制作『生物兵器テロ』『自衛隊戦略白書』『インテリジェンス戦争~対テロ時代の最新動向』『公安アンダーワールド』、劇画原作『実録・陸軍中野学校』『満州特務機関』等々。

 ニューヨーク、モスクワ、カイロに居住経験あり。紛争地域を中心に約70カ国を訪問し、約30カ国を取材している。




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