ワールド&インテリジェンス

ジャーナリスト・黒井文太郎のブログ/国際情勢、インテリジェンス関連、外交・安全保障、その他の雑感・・・(※諸般の事情により現在コメント表示は停止中です)

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
  1. --/--/--(--) --:--:--|
  2. スポンサー広告

内戦に向かうイラクの今後

 先月末、弊誌のサイト(www.wldintel.com)を四苦八苦しながら手作りで立ち上げましたが、弊誌第2号の作業と同時にやってますので、データベースなどまでまだ手がまわりません。
 当面、サイトにアップできるような調査・取材の余裕がないので、七転八倒しつつ、まずはブログで雑感報告からはじめたいと思います。こちらは個人のブログなので、独断と偏見OKということで悪しからず、です。

内戦に向かうイラクの今後


 7月9日、スンニ派住民の多いバグダッド西部のジハード地区で、シーア派武装集団が通りを占拠し、スンニ派住民だけを選別して40人以上を殺しまくるという事件が発生した。犠牲者には女性や子供も多く含まれるようだ。
 目撃情報によると、武装集団は黒い戦闘服姿でさらに黒覆面をつけていたという。こうしたスタイルからすると、(本人たちは関与を否定しているが)シーア派民兵組織「マフディ軍」かその関連グループの仕業である可能性がかなり高いと思われる。
 イラクでは現在、シーア派の武装集団がかなり大っぴらに暴力事件を起こしている。その〝主役〟は2つ。1つは前述したマフディ軍であり、もう1つは、イラク・イスラム革命最高評議会やダワ党らシーア派民兵が多数参加したイラク警察の一部が事実上の暴力民兵化した連中だ。
 こうしたシーア派民兵は現在のイラクでは、逃げ隠れすることもなく、堂々とイラク中のシーア派エリアで徒党を組んでいる。代紋を掲げた日本の暴力団組織のようなもので、誰も怖くて手を出せないでいる。シーア派の取り扱いに苦慮している米軍も、その取り扱いには困っているというのが現状だ。
 彼らが今ではイラクの少数派となっているスンニ派住民を攻撃する一方で、対するスンニ派側では、旧フセイン派残党や外国人義勇兵なども含む民兵組織がシーア派への攻撃を執拗に行なっている。こちらは米軍と戦争中なので、完全に地下に潜った秘密組織となっている。そのため、こちらはシーア派地区での爆弾テロを行なうケースが非常に多い。
 これらの2派の極悪民兵の存在のおかげで、イラクは今、宗派内戦の危機に向かっている。
 
 今回のジハード地区での虐殺事件には伏線がある。前日、当日と同地区の別個のシーア派モスクで連続爆弾テロが発生し、少なくとも19人が殺害されているのだ。犯行は当然ながらスンニ派武装勢力で、それを受けてシーア派民兵が同地区に多くの部隊を送り込み、一般住民への報復を行なったというわけである。
 報復には報復で応えるというのがイラク流だ。翌10日には、シーア派住民の多い東部のタルビヤ地区で爆弾テロが2件発生した。12人が殺害されているが、もちろんスンニ派側のテロだろう。
 イラクでの宗派対立というのは、米軍によるイラク攻撃の頃から予想されていたことで、アメリカもその危険性は重々承知のことだったが、やはりそれを抑えることはなかなか難しい。
 サダム・フセイン政権が打倒されたのと同時に、シーア派側の動きは始まっていたが、イラクの宗派対立に火をつけたのは、殺害されたザルカウィのグループである。イラクでの対立軸は当初、スンニ派武装勢力vs米軍、シーア派民兵vs米軍という構図だったが、ここに来てスンニ派vsシーア派が先鋭化したことは、逆に言えば、米軍にとっては〝少し引いて構える〟余裕が生まれることにもなる。

 中東の民主化を標榜したのが、アメリカのいわゆるネオコンだが、現実にはうまくいかない。なぜか。アメリカがいきなり前面に出たために、反米というスローガンが大流行したからである。これでは、何をやっても「アメリカのせいだ」ということになるのは明白だ。
 結局、イラク情勢はアメリカ次第というところがあるが、その観点からみると、現実にイラクの将来は次の2つのどちらかになるしかないのではないか。
 1つは現在の路線、すなわちアメリカが軍事的にイラクをコントロールし続けるという未来。ただし、これだと反米運動はなかなか収束しないから、長い時間をかけて彼らの疲弊を待つということになる。
 もう1つは、どういう形式をとるのかはともかく、アメリカが実質的にイラクから劇的に手を引くという未来である。この場合、イラクはスンニ派、シーア派、クルド人の3つ巴の戦いに突入することになる。「民族自決でやらせてみたら、結局ダメだった」ということを皆が納得するまで、いったん「イラク人自身の失敗の経験」が必要なのかもしれない。
 このどちらの道がイラク人にとってベターなのかはわからない。どちらにせよたくさんの血が流されるからだ。だが、問題はどちらがより犠牲が少ないかということではないか。
 ここで思い起こされるのは、3つの国の経験である。
 1つは、アフガニスタン。ソ連軍撤退後に米英などが手を引き、パキスタンに任せたら、タリバン政権が出来た。結果、治安は回復したものの、アフガン国民は恐怖政治に苦しみ、国土はテロリストの聖域になった(もっとも、タリバン以外の軍閥も、日本で人気の故マスード将軍を含めてロクなものではなかったが)。
 2つめは、ソマリアである。内戦で餓死者続出の危機的状況となり、国際社会が収拾に乗り出したが、主役のアメリカ軍に対してソマリア人が大反発。アメリカも嫌気がさして引き揚げた。地元民衆の声が勝利したわけだが、そのおかげで10年以上が経過した今も内戦中である。
 3つめはアルジェリアだ。民主化したらイスラム原理主義が勝利してしまったので、世俗派の軍部が強権的手段で弾圧を開始。民主化弾圧の典型的事例となったが、対するイスラム側が狂乱の無差別テロに討って出たことで自分の首を絞めた。長い内戦で10万人レベルの犠牲者(もっとも、その半数は政権側による処刑の疑いがある)を出し、そのあげくにイスラム陣営の支持が瓦解した。
 ここで指摘したいのは、「どっちに転んでもうまくいかない」ということである。アメリカがこのまま突き進んでも問題は解決しないが、ブッシュ政権反対派が言うようにすればうまくいくかというと、そんなこともない。
 ただし、「アメリカが手を引くとイラクは反米テロリストの温床になる」という段階はもう過ぎたのではないかとも思う。仮に現時点でアメリカが手を引くとすれば、イラク国内のスンニ派武装勢力の主力はシーア派との抗争に没頭することになる。どちらにせよ欧米へのテロを志向する勢力はなくならないが、そんな制限されたテロ組織に出来ることは限られている。
 それはともかく、上記3カ国の経験などから歴史が教えてくれる真実のひとつは、現地人任せにしてもうまくいかないことはうまくいかないということである。そのしわ寄せをいちばん食うのは、まさに現地の一般住民なのだが、それについてはまた機会をあらためたい。
スポンサーサイト
  1. 2006/07/10(月) 17:21:50|
  2. 未分類
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<無人偵察機が主役となる現代の戦争 | ホーム |

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバックURLはこちら
http://wldintel.blog60.fc2.com/tb.php/2-7727f5ac
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

プロフィール

黒井文太郎

Author:黒井文太郎
 63年生まれ。『軍事研究』記者、『ワールド・インテリジェンス』編集長などを経て、現在は軍事ジャーナリスト。専門は各国情報機関の最新動向、国際テロ(とくにイスラム過激派)、日本の防衛・安全保障、中東情勢、北朝鮮情勢、その他の国際紛争、旧軍特務機関など。

 著書『ビンラディン抹殺指令』『アルカイダの全貌』『イスラムのテロリスト』『世界のテロと組織犯罪』『インテリジェンスの極意』『北朝鮮に備える軍事学』『紛争勃発』『日本の情報機関』『日本の防衛7つの論点』、編共著・企画制作『生物兵器テロ』『自衛隊戦略白書』『インテリジェンス戦争~対テロ時代の最新動向』『公安アンダーワールド』、劇画原作『実録・陸軍中野学校』『満州特務機関』等々。

 ニューヨーク、モスクワ、カイロに居住経験あり。紛争地域を中心に約70カ国を訪問し、約30カ国を取材している。




最近の記事

最近のコメント

カテゴリー

月別アーカイブ

最近のトラックバック

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

リンク

このブログをリンクに追加する

ブログ内検索

RSSフィード

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。