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ジャーナリスト・黒井文太郎のブログ/国際情勢、インテリジェンス関連、外交・安全保障、その他の雑感・・・(※諸般の事情により現在コメント表示は停止中です)

タミル・タイガー「プラバカラン議長」とは何者だったか

 スリランカの反政府ゲリラ「タミル・イーラム解放のトラ」(通称タミル・タイガー)がようやく敗北宣言を出しました。

スリランカの「解放のトラ」が敗北宣言、指導者死亡か

 ファナティックなボスを頂く武装組織によって一般住民が不幸を強いられるという典型的な戦争でした。こういう例は世界の紛争地にはよくあることではあるのですが、プラバカラン議長はなかでもかなり酷いほうだったと思います。
 では、このプラバカラン議長とはどんな人物なのか? これについて、過去に自分が書いた文章をパソコン上で探してみました。たしか9・11テロ直後の『文藝春秋』増刊号に「世界のテロリスト列伝」とかいうタイトルで寄稿した記事がいちばんスッキリまとめた記憶があるのですが、ちょっと見つかりません。で、凄く細かいですが、たぶん拙著『世界のテロリスト』用と思われる原稿を見つけました。2002年時点の情報で、いまさら旧聞な話ですが、マンネリ化したスリランカ紛争に関するデータはあまり日本語メディアにはないので、資料として再録しておきます。

スリランカ内戦とタミル・ゲリラの軌跡

 スリランカでは、全人口1700万人の74%を占める多数派の仏教徒シンハリ人と、18%の少数民族であるヒンズー教徒のタミル人の民族対立が古くから続いてきた。とくに、タミル人の居住地域である北部と東部(ジャフナ州、ムライテブ州、バブニヤ州、マナール州)では、シンハリ重視政策のスタートした56年より、独立運動が顕在化し、住民同士の武力衝突が繰り返されてきた。
 過激テロ組織も、そうした土壌を背景に発生した。組織としては、60年代にスリランカ全土に吹き荒れた左翼学生運動から派生したタミル民族主義の学生組織「タミル学生運動」(TAMIL MANAVAR PERAVAI)が、ジャフナ半島のウルンパイ村で70年に結成され、その武装部門がゲリラ化したのが元祖といわれる。さらに、そこから数々の分派が旗揚げされたが、とくに「タミル連合戦線」(TAMIL UNITED FRONT)が最大組織として運動の中心となった。
 72年、公用語をシンハリ語に限定するなど、さらにシンハリ人優遇政策が進められると(77年にタミル語も公用語に加える)、それに対して、インド本国のドラビダ人民族運動と連動してタミル人独立運動が開始される。
 また、同時にジャフナ半島では「タミル学生運動」「タミル連合戦線」の流れを汲む過激派たちのテロ活動がエスカレートした。タミル穏健派指導者チェリア・クマラソリエル爆殺未遂が起こったが、逮捕された42人の容疑者は、タミル人政治家たちの思惑により釈放された。ちなみに、その42人が後に3大ゲリラ組織「タミルの新しいトラ」(TNT:TAMIL NEW TIGERS)「タミル・イーラム解放機構」(TELO:TAMIL EELAM LIBERATION ORGANIZATION)「タミル・イーラム解放のトラ」(LTTE)を創設することになる。
 
◎「タミル・イーラム解放のトラ」(LTTE:LIBERATION TIGER OF TAMIL EALAM)
 76年に創設された「タミル・イーラム解放のトラ」は、当初は学生運動に連なる過激派の一分派に過ぎなかったが、圧倒的な戦闘性で他組織を吸収し、まもなく事実上のタミル独立派最大の武装ゲリラへと成長した。
 当初の理論的指導者はアントン・バラシンガム。後に過激路線のベルピライ・プラバカランが議長となる。海外54カ国に広がる6000万人のタミル移民社会にも浸透し、「世界タミル協会」(WTA)「世界タミル運動」(WTM)「カナダ・タミル協会連合」(FACT)などを通じて、海外同胞から資金を吸い上げる仕組みを確立。さらに移民社会に根を張るタミル・マフィアとも人脈を築いた。
 83年7月に発生した政府軍を狙った爆弾テロ(兵士13人殺害)と、続くシンハリ人の暴動(タミル人400人虐殺)をきっかけにゲリラ闘争が開始され、スリランカ内戦が勃発した。「タミル・イーラム解放のトラ」は、他派との熾烈な抗争も含め、無差別テロを主力とする激しい独立闘争を戦っている。ゲリラ側・政府側双方の犠牲者数はすでに6万人近いといわれる。
 最大動員兵力は1万といわれ、うち、訓練された中核部隊は3~6000人とみられる。特攻部隊「ブラック・タイガー」も創設され、自爆テロを戦術として採用している。潜水夫部隊「シー・タイガー」、情報部などの特殊部隊も組織している。特徴としては、10代中頃の少年少女兵が多いこと。全員が自殺用に青酸化合物カプセルを携帯している。
 インドの親タミル勢力(マドラスを中心とするドラビダ人組織)の支援を得て、北部ジャフナ半島を本拠地に、80年代半ばにはタミル人居住地域である北部・東部の密林地帯を事実上支配した(本部はワンニ地区)。
 87年4月、政府が一方的停戦を発表したが、タミル人側は無差別テロを激化させてこれを無視。5月には、ジャフナ半島に政府軍が総攻撃を開始することとなった。インド平和維持部隊(IPKF)5万が介入したが、戦闘収束を図るインド軍と「タミル・イーラム解放のトラ」は決裂し、戦闘状態に突入した。この戦闘で、ゲリラ側1500、インド軍800が戦死し、インド軍は90年3月に撤収することとなる。
 また、この頃より、資金調達のために支配地での麻薬栽培を拡大し、インド及び欧州のタミル・マフィアと結託して多大な利益を得たとみられる。
 90年代に入ると、特攻部隊「ブラック・タイガー」が本格的なテロ活動を開始している。テロは日常的に行われたが、とくに主なものは以下の通り。
91年3月、ウィジェラトネ国防相ら30人を爆殺。
同年5月、元インド首相ラジブ・ガンジーを暗殺した。
▽93年5月、メーデー行進中に爆弾テロを行い、ラナシンゲ・プレマダサ大統領ら24人を殺害。
▽94年4月、コロンボのホテルで連続爆破テロ。
▽同年10月、自爆テロで本命次期大統領候補含む57人を殺害。
 95年4月には、和平交渉決裂から、内戦が再び激化した。とくに、同年10月には、政府軍がこれまでの内戦で最大規模の攻勢に出ており、同年12月にはついにジャフナ半島陥落。LTTEは、拠点をジャフナから東部のトリンコマリー及びバッティカロア地区に移動した。
 軍事的に敗れたLTTEは、以後、テロ攻勢を激化させた。動物園や観光地を狙った無差別爆弾テロや、観光産業打撃を狙った外国人旅行者襲撃も開始。また、とくに女性ゲリラを使った自爆テロを常套手段とするようになった。
 90年代半ば以降の主なテロ事件は以下の通りである。
▽96年1月、コロンボ中央銀行前でトラック爆弾。90人死亡、1400人が負傷した。
▽同年7月、ジャフナ市中心部の政府機関開所式で女性ゲリラの自爆攻撃。政府軍ジャフナ司令官ら21人殺害される。また、コロンボ近郊デヒワラ地区で、通勤列車が爆破され、70人殺害される。
▽97年7月、北朝鮮の貨物船をジャフナ沖でシージャック。このとき、北朝鮮人船員1人を殺害している。
▽同年9月、今度は米国化学会社がチャーターしたパナマ船籍の貨物船を襲撃。中国人船員5人含む20人が死傷。
▽97年10月、新規オープンした近代設備「コロンボ世界貿易センター」で自爆テロと銃撃戦。自爆者含む18人が死亡(警備員、治安部隊員含む。自爆テロリスト数は不明)し、日本人6人と外国人多数を含む96人が負傷した。実行グループのうち、2人は治安部隊に射殺され、3人は自殺。1人は手榴弾を投擲して活路を作り逃走した。このとき、手榴弾で僧侶1人が巻き添えになって死亡した。
▽98年2月6日、コロンボ市内スレイバリー・アイランドの繁華街で、車両で女性含むゲリラ3人自爆。警備兵士4人と市民2人殺害。
▽98年2月22日、ジャフナ沖で海軍貨物船団を自爆攻撃。2隻撃沈し、5人を殺害。LTTE側も16人死亡といわれる。
▽同年3月5日、コロンボ中心部のマラダナ駅付近で、車両自爆。32人死亡し、250人負傷。
99年7月、自爆テロでタミル穏健派議員ニーラン・ティルチェルバムを暗殺。
同年11月、北部のワニ地区でキリスト教会を砲撃。44人を殺害する。
▽同年12月、大統領選中の与党・人民連合の集会に爆弾テロ。26人を殺害したほか、演説していたチャンドリカ・バンダラナイケ・クマラトゥンガ大統領や取材中のNHK記者らも負傷させた(大統領は右目失明の重傷)。
2000年1月、首相公邸前で自爆テロ。12人を殺害した。
▽同年3月、コロンボ中心街で爆弾テロ+無差別銃撃。18人死亡。
(同年4月下旬より、LTTEはジャフナ半島で大攻勢)
▽同年5月、東部のバティカロアの仏教寺院で爆弾テロ。17人死亡。
▽同年6月、コロンボ郊外ラトマラナ軍用空港で行われた政府軍記念パレード中に自爆テロ。クレメント・グーネラトナ産業相ら21人殺害。
▽同年10月、コロンボ中心部で自爆テロ。2人殺害。欧米人観光客ら多数が負傷した。
▽2001年7月、ゲリラ9人がバンダラナイケ国際空港を急襲し、駐機中の民間航空機3機を破壊し、自らも自爆した。

◎べルピライ・プラバカラン
「タミル・イーラム解放のトラ」議長。五五年四月、ベルベティツライ生まれ。
 スリランカの少数民族タミル人の社会では、七〇年代、学生運動をルーツとする無数の民族主義グループが、互いに内ゲバしながら、穏健派政党へのテロを繰り返していた。若き日のプラバカランがどういう経緯でそういったグループに入り、どのようなポジションで活動していたのかはさだかでないが、七五年四月、そんなテロ・グループのひとつが、スリランカ北部ジャフナ市の市長アルフレッド・ドゥライアパーを殺害したとき、その襲撃団のなかにプラバカランの姿があった。
 七六年にアントン・バラシンガムが創設した独立派ゲリラ組織「タミル・イーラム解放のトラ」にプラバカランは参加したが、卓越した戦闘力で頭角を現し、八〇年代に入った頃には、組織の軍事部門の司令官に就任している。「タミル・イーラム解放のトラ」自体の性格が変化してくるのも同じ頃で、要は実権を握ったプラバカランの攻撃的な性格が、組織ごと過激化させていったということなのだろう。プラバカランの命令でゲリラが政府軍を攻撃し、スリランカ内戦が勃発するのは、八三年七月のことだった。
「タミル・イーラム解放のトラ」内部の事情はよくわかっていないが、漏れ伝わる情報によれば、組織内のプラバカランの恐怖体制は、かなり強固なものがあるようだ。
 そんなプラバカラン指導部が“導入”した作戦のひとつが、自爆テロである。とくに少年少女を徴兵し、自爆テロ部隊「ブラックタイガー」を編成しているといわれている。
 さらにすさまじいのは、兵士たち全員に青酸化合物入りのカプセルを持たせていると報道されていることだ。これはいくらか誇張があるのかもしれないが、複数のメディアが報じている有名な話で、実際にカプセルの写真も撮られている。
「捕まるぐらいなら自殺せよ!」ということなのだろうが、特殊なテロ工作に出撃する人間だけでなく、普通のゲリラ兵が日常的にそんなものを持ち歩いている例は世界中で他にない。
 ところで、九一年五月、プラバカランは暗殺チームをインドに送り込んで、ラジブ・ガンジー首相を殺害した。それ以降、インド情報部「調査分析班」(RAW)が何度かプラバカラン暗殺を試みたようだが、いずれも失敗に終わっている。(了)

 また、これも今となっては旧聞ですが、『ワールドインテリジェンス』のインテリジェンス・ニュース欄の過去記事にも2つありました。ついでに再録しておきます。

スリランカ自爆テロで100人超死亡(2006年11月号)

 もう少しで和平のところまで行っていたスリランカ内戦だが、今年に入って再び散発的な衝突が始まったと思ったら、あっという間に内戦に逆戻りした様相だ。10月16日には同国中部のハバラナで、スリランカ国軍の車列を狙ったトラック自爆テロで、周囲の民間人も含めて102名が殺害されるという大惨事となった。
 オスロで続いていた和平交渉では、9月末に反政府ゲリラ「タミル・イーラム解放のトラ」が、最高指導者であるベルピライ・プラバカラン議長の交渉参加の方針を表明していたが、これでその大きなチャンスが完全に潰れた。
 これまで、政府側と解放のトラ側の交渉はかなりいいところまでいっていても、どうしても決着しなかったのは、解放のトラの独裁者であるプラバカラン議長が乗り出してこなかったことにもあった。停戦違反はお互い様の両者だが、こちらもどうやら内戦激化の様相を深めている。

スリランカ内戦激化で自爆テロ部隊の訓練強化へ(2007年3月号)

 1月31日、スリランカ政権にシンハリ強硬派政党が参加したことで、スリランカ和平崩壊はさらに加速される懸念が高まってきた。
 そもそも、2002年に停戦合意されたスリランカ内戦だったが、まもなく両派の違反行為が頻発し、とくに2005年12月よりは両派が事実上の戦闘状態に逆戻りしていた。昨年2月と10月にはその打開を目指す直接対話がスイスで開催されたりしていたが、同12月にはラジャパクサ大統領の実弟ゴダバヤ・ラシャパクサ国防次官を狙った自爆テロが行なわれるなど、テロ行為がエスカレートし、そうした努力はまったく実らなかった。
 しかも、そんななか、昨年12月14日にはゲリラ組織「タミル・イーラム解放のトラ」(LTTE)の穏健派の重鎮だった同派政治顧問のアントン・バラシンガム氏が病没した。これで、和平の機会はほとんどなくなったと言っていいだろう。
 今年に入ってからも、1月6日に全土でLTTEによる同時爆破テロがあり、20人近い人が殺害された(うち15人は乗合バスの一般乗客)。同国北東部の要衝バティカロア県バカライではLTTEに対する政府軍の大攻勢があり、同19日までに政府軍側が同地を占領した。
 そんななか、LTTEゲリラの自爆方法に若干の変更がみられるようになっている。政府軍が自爆テロ対策に乗り出したため、ゲリラ側も自爆テロ要員が臨機応変に現場で対応できるようにするため、そのための訓練を強化している形跡がある。
 たとえば、LTTEは現在、自爆部隊「ブラックタイガー」のメンバー350人に9カ月程度の「自爆テロ」講習コースを設置しているとの情報がある(『ジェーンズ・インテリジェンス・レビュー』3月号)。海洋で政府軍艦艇に自爆攻撃をかける「ブラック・シー・タイガー」部隊の訓練も、より緻密に行われるようになってきたようだ。
 政府軍側はこのため、疑わしいタミル人(女性含む。実際、自爆テロ犯は女性ゲリラに多い)や車両、船舶を見つけた場合に、躊躇なく攻撃するようになっている。表面化されていないが、このため、誤解によって殺害された犠牲者もかなりの数に上っているとみられる。
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  1. 2009/05/18(月) 03:03:25|
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プロフィール

黒井文太郎

Author:黒井文太郎
 63年生まれ。『軍事研究』記者、『ワールド・インテリジェンス』編集長などを経て、現在は軍事ジャーナリスト。専門は各国情報機関の最新動向、国際テロ(とくにイスラム過激派)、日本の防衛・安全保障、中東情勢、北朝鮮情勢、その他の国際紛争、旧軍特務機関など。

 著書『ビンラディン抹殺指令』『アルカイダの全貌』『イスラムのテロリスト』『世界のテロと組織犯罪』『インテリジェンスの極意』『北朝鮮に備える軍事学』『紛争勃発』『日本の情報機関』『日本の防衛7つの論点』、編共著・企画制作『生物兵器テロ』『自衛隊戦略白書』『インテリジェンス戦争~対テロ時代の最新動向』『公安アンダーワールド』、劇画原作『実録・陸軍中野学校』『満州特務機関』等々。

 ニューヨーク、モスクワ、カイロに居住経験あり。紛争地域を中心に約70カ国を訪問し、約30カ国を取材している。




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