ワールド&インテリジェンス

ジャーナリスト・黒井文太郎のブログ/国際情勢、インテリジェンス関連、外交・安全保障、その他の雑感・・・(※諸般の事情により現在コメント表示は停止中です)

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日米同盟の幻想

 たった今、『週刊エコノミスト』記事を脱稿した。今回は「イスラエル軍vsヒズボラ」についての考察である。
筆者の得意分野はどちらかというとヒズボラのほうなので、そちらを中心に書いたが、イスラエル軍の行動をみると、「軍事合理性」という言葉を思い起こさずにいられない。
 今回のイスラエルの軍事行動について、オルメルト首相とIDFの力関係などさまざまな政治的要素を指摘する声もあるが、私からみると、IDFの行動はほとんど常に「軍の論理」に忠実に動いているようにみえる。軍の論理とは、「目的のためにもっとも合理的な軍事行動をとる」ということで、そこには政治的な思惑や人道的な配慮などが入り込む余地がほとんどない。
 たとえば「一般の住民でも、軍事行動の障害になるなら殺しちゃえ」というところが徹底している。これは、イスラエル人がとくに残虐な民族ということではなくて(ユダヤ民族は商売の世界でも徹底した合理主義者で有名だが)、常に攻撃にさらされるなかで、生存のためにそうした恐るべき思想が形成されたということなのだろう。
(なお、念のために申し添えると、もっと酷いのがヒズボラ。連中は一般住民を盾にするなどの卑怯な行為をなんら恥じない連中である)
 ともあれ、今回のIDFの大規模軍事攻撃も、軍事合理性からみるとわかりやすい。今回、なぜIDFがこれほどの反応をみせたのか? それは、ヒズボラがこれまでにない長射程のロケット砲/ミサイルを実戦配備したからだ。
 いい例が、イスラエル最大の港湾都市ハイファへの攻撃である。これまで、ヒズボラによるイスラエル北部への越境攻撃やロケット弾攻撃はしばしばあったが、その標的は国境近くのいわば「戦略村」ばかりだった。ところが、今度は国境から40キロ近い大都市への攻撃だ。その軍事的脅威を、IDFがそのまま放置しておくはずがない。
 ヒズボラが使用したロケット砲/ミサイルについては、確認された情報が少ないので断言はできないが、おそらく推定射程32~48キロの「FAJR-3」ミサイルが含まれているものと思われる。また、ヒズボラはこのほかにも推定射程130~160キロの対艦ミサイル「C-802」も保有しているとの情報もある。それだけの射程があれば、テルアビブも攻撃範囲に入るはずだが、今のところそこまでは攻撃されていない。
 ともあれ、ハイファが攻撃されたという事実の衝撃はイスラエルでは非常に大きい。IDFはヒズボラのロケット砲/ミサイルを徹底的に破壊したうえ、ヒズボラ兵力をそれらの射程の範囲外に押し上げるまで、攻撃の手綱を緩めることはあるまい。

 今回のイスラエル軍のレバノン攻撃は、そうした軍事的目的のうえに行なわれているが、目的が同じであっても、「一般住民の被害をどれほど配慮するか」によって、戦場の実態は天と地ほどの差をみせる。イスラエル軍のやり方は、無差別虐殺とまではいえないが、もう少し自重されてしかるべきだ。
 振り返ると、米軍のイラク占領にも同じ問題がある。
 イラクでの米軍は、もちろん一般住民の被害を抑える努力はしているが、いかんせん敵はゲリラだから、どうしても誤爆・誤射は起こる。ゲリラ掃討という目的がある場合、ここで反比例の関係となるのが、「一般住民の犠牲」と「米軍の犠牲」だ。米軍は一般住民の犠牲を厭わなければ自軍の犠牲を限りなくゼロに減らすことができるし、逆に一般住民の犠牲回避を最優先すれば、自らの屍の山を晒すことになるのは必至だ。
 米軍兵士の死者はすでに2500人以上になる。これは、イスラエル軍の非情な合理性などから比べると、雲泥の差と言っていい。
 だが、それだからといって、米軍が必ずしも正当に行動しているとは言えない。いかに正当な理由があったかは別にして、ともかくも米軍はイラクで戦争を起こし、万単位のイラク人を殺害している。そうした犠牲のうえにイラク再建の責任を負っているわけだから、自軍の兵士が何人死のうと、一般国民の犠牲をゼロにするにする努力を本来はすべき立場だ。
 たとえば、これがアメリカ国内ならどうか? 犯罪集団を殲滅するため、警察が通行人ごと殺してしまうなどということはない。警官隊にいくら犠牲が出ようとも、市民の犠牲回避は最優先される。イラク駐留米軍の役割はまさに警察であり、そこに「アメリカ人の命は重く、イラク人の命は軽い」などという差別があってはいけない。戦場での原則は「兵士の命は軽く、民間人の命は重い」のだ。
 とまあ、これは理想論である。実際には誰もが自分たちの身を守ることを優先する。アメリカ人からすれば、2500人超の犠牲というのは、もはや限界に近い。
「イラクを正常化するのが、世界経済の秩序を安定化し、反米テロの芽を摘むというアメリカの国益に合致するから、自分たちはこんなに血と汗を流してまでやっている。イラクがこんな迷惑な国になったのはイラク国民の自業自得。少しぐらい連中の犠牲が出るのはあたりまえだ」
 アメリカ人からすれば、そうした理屈になる。イラク人側からすると、単純に「アメリカ占領反対!」と叫んでいる連中はともかく、多くの国民がホンネでは「アメリカは自分たちの身を守ることより、イラク人をもっと尊重して治安回復をちゃんとやってもらいたい」と考えている。正当な要求である。
「アメリカがイラクを占領し、反米ゲリラを掃討する」ということに変わりはなくとも、そこで米軍がイラク国民の生命・財産・プライドをどれほど尊重するかということで、戦場の姿は一変する。

 なぜこのようなことをここで書くのかというと、最近、取材の過程で日米同盟について議論する機会が何度もあったからだ。
 このところ、メディアでも「アメリカは日本をホントに守ってくれるのか?」などという議論が花盛りだが、同じ「米軍が日本を防衛する」という局面をみても、「米軍は日本国民の生命・財産を自国民と同レベルに配慮して防衛してくれる」のか、あるいは「日本国民の生命・財産などまったく配慮せず、とにかく日本列島を敵に占領されないだけの防衛に動く」のかで、日本防衛の意味合いはまったく違うものになる。
 常識的に考えて、米軍が日本を防衛する目的は、日本国土を自陣営に確保することだ。そのため、敵は列島から最終的に駆逐するが、その過程で、自軍の犠牲を顧みずに日本国民を守るなどということはあり得ない。米軍は日本列島を最終的に確保する義務はあっても、日本国民を守る義務はないのだ。
 日米安保条約が強力な抑止力となることは確かだが、いったん戦争になってしまえば、米軍は米軍の目的に向かって行動するだけだ。
 たとえば、冷戦時代には日本にはどのような防衛体制がとられていたか?
 日本はソ連軍の侵攻に備え、北海道に陸上自衛隊の大部隊を配置した。予算は火力確保に優先的にまわされ、継戦能力はせいぜい1~2カ月程度しか確保されなかった。要は、米軍の援軍が三沢基地などに本格展開されるまで、北海道でなんとかソ連軍を食い止めるということになっていたわけだ。
 事実上、防衛ラインは津軽海峡であり、旭川や札幌の防衛はあきらめられていた。米軍の大軍が揃えば、あとは北海道を焼け野原にしてソ連軍をたたき出すということだ。
 米軍の日本有事の作戦計画に、おそらく日本国民の生命と財産を守るための配慮はほとんどない。だいいち同盟国を自国と同様に考えるなら、たとえば外国軍が北海道に攻め入れば、核で報復すべきところだが、アメリカはもとよりそんなことは考えていなかったろう。
 ソ連なき後、現実には北朝鮮や中国が日本を占領しようとすることは、まずあり得ない。だが、それはそれとして、「日米同盟」を「アメリカが日本〝国民〟を守ってくれること」と思い込んでいる言説が多いのは、ちょっとアマいのではないかという気がしてならない。
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  1. 2006/07/24(月) 03:29:59|
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プロフィール

黒井文太郎

Author:黒井文太郎
 63年生まれ。『軍事研究』記者、『ワールド・インテリジェンス』編集長などを経て、現在は軍事ジャーナリスト。専門は各国情報機関の最新動向、国際テロ(とくにイスラム過激派)、日本の防衛・安全保障、中東情勢、北朝鮮情勢、その他の国際紛争、旧軍特務機関など。

 著書『ビンラディン抹殺指令』『アルカイダの全貌』『イスラムのテロリスト』『世界のテロと組織犯罪』『インテリジェンスの極意』『北朝鮮に備える軍事学』『紛争勃発』『日本の情報機関』『日本の防衛7つの論点』、編共著・企画制作『生物兵器テロ』『自衛隊戦略白書』『インテリジェンス戦争~対テロ時代の最新動向』『公安アンダーワールド』、劇画原作『実録・陸軍中野学校』『満州特務機関』等々。

 ニューヨーク、モスクワ、カイロに居住経験あり。紛争地域を中心に約70カ国を訪問し、約30カ国を取材している。




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