ワールド&インテリジェンス

ジャーナリスト・黒井文太郎のブログ/国際情勢、インテリジェンス関連、外交・安全保障、その他の雑感・・・(※諸般の事情により現在コメント表示は停止中です)

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ハマスに影響力を持つのはシリアだけ

 シリアの首都ダマスカスの各病院に、ハマス戦闘員の負傷者が続々と運ばれているとの情報が入りました。ガザから運び出すとしたらエジプト・ルートの可能性が高いですが、どうやってシリアまで運び込んでいるのか不可解です。また、逆に言えば、エジプトやヨルダンなどがハマス負傷兵を引き受けていない(けれども通過は認める?)ということになります。
 いずれにせよ、ハマスの聖域といえば、今はもうシリアしかありません。ハマスにもいろいろ派閥はありますが、主流派(最強硬派)はハリド・メシャルという人物を中心とする一派で、メシャルはその昔、ヨルダンでモサドに暗殺されかかってから、ずっとシリアに庇護されています。エジプトやヨルダンなどからすると、ハマスはもはや迷惑なだけの存在で、後ろ盾はもうシリアしかありません。
 ハマスは武器や資金をイランからだいぶもらっているようですが、アラブ人(とくにスンニ派。ちなみにパレスチナ人の大多数はスンニ派)からするとイラン人というのは所詮はガイジンなので、スポンサーではあっても同志という意識はあまりありません。ですので、ハマスの行動を抑えられるのは、言い換えれば、今回の紛争の調停ができるのは、シリアしかないと思います。 
 ところが、フランスのサルコジ大統領あたりが調停に動いてますが、パレスチナ自治政府(つまりファタハ)がけっこう前面に出てきています。ガザを追い出されているファタハにハマスを抑える力はありませんから、直接は停戦に役立ちませんが、この機に自らの存在感を高めようという意図もあるように見えます。
 ところで、麻生総理は今月3日、パレスチナ自治政府のアッバス議長に対し、ガザ地区の人道支援に1000万ドルの援助を行うことを表明しましたが、少し心配なのは、その援助の一部をまさかパレスチナ自治政府に委ねる気では??ということです。
 外務省の担当者は当然よくご存知と思いますが、ハマスはカネを受け取れば武器を買ってしまいますし、アメリカがテロ組織としていますので、まさか日本政府がカネを渡すわけにはいかないでしょう。ということで、日本国民の大事な税金を自治政府に渡すのかもしれませんが、あの人たちに渡すと、ほぼ全額が自治政府幹部のポケットに入ってしまうと思います。ファタハ(つまり、かつてのアラファト派)とはそういう人たちであり、それゆえに腐敗度の低いハマスのほうが地元でも人気が高いわけです。ガザはかなりひどい状況になっているようですので、人道支援は大いに結構ですが、ちゃんとガザ市民のために使われるようにしていただきたいものです。
 ところで、今回のイスラエル軍のやりすぎ攻撃に対しては、世界のメディアは概ね批判的です。「ハマスが悪い」「ハマスが声明を受け入れるはずはない」と安保理声明を妨害したブッシュ米政権にも批判殺到ですが、「イスラエル軍は即刻引き揚げよ」だけでは、ハマスが調子に乗ってますます悪さをするというのも事実だと思います。
 絶対強者のイスラエルに軍事行動停止を求めるのは当然として、それプラス、「ハマスをどうにかする」という視点がなければ、あまり意味がないのではないでしょうか。ということで、ハマスを抑える(表面的な停戦交渉でなく、実際に武闘派グループに攻撃をやめさせる)ためには、やはりシリアに働きかけるしかないと思うのですが……。
 ところで、今回、イスラエルがハマス潰しに本気になっている背景には、イランの核開発があるのかもしれません。今年はイランがいよいよ核爆弾1発分の高濃縮ウランを入手する懸念があります。イスラエルはそれは絶対阻止に動きますから、戦争の可能性がマジであるわけです。日本のメディア解説を読むと、イスラエル政局の影響を重視する視点が多いようですが、それだけでもないような気がします。いずれにせよ、今年は中東で大規模な紛争が起こる可能性があります。
上記記事で触れた日本政府からパレスチナへの1000万ドル(約9億円)緊急援助についてですが、うち300万ドルは国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)を通じた緊急支援、残り700万ドルの具体的な使い方はまだ未定のようです。
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  1. 2009/01/06(火) 01:17:10|
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黒井文太郎

Author:黒井文太郎
 63年生まれ。『軍事研究』記者、『ワールド・インテリジェンス』編集長などを経て、現在は軍事ジャーナリスト。専門は各国情報機関の最新動向、国際テロ(とくにイスラム過激派)、日本の防衛・安全保障、中東情勢、北朝鮮情勢、その他の国際紛争、旧軍特務機関など。

 著書『ビンラディン抹殺指令』『アルカイダの全貌』『イスラムのテロリスト』『世界のテロと組織犯罪』『インテリジェンスの極意』『北朝鮮に備える軍事学』『紛争勃発』『日本の情報機関』『日本の防衛7つの論点』、編共著・企画制作『生物兵器テロ』『自衛隊戦略白書』『インテリジェンス戦争~対テロ時代の最新動向』『公安アンダーワールド』、劇画原作『実録・陸軍中野学校』『満州特務機関』等々。

 ニューヨーク、モスクワ、カイロに居住経験あり。紛争地域を中心に約70カ国を訪問し、約30カ国を取材している。




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