ワールド&インテリジェンス

ジャーナリスト・黒井文太郎のブログ/国際情勢、インテリジェンス関連、外交・安全保障、その他の雑感・・・(※諸般の事情により現在コメント表示は停止中です)

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シリア内戦で対話解決ができない理由

 シリア内戦に関して、大手マスコミ関係者と話す機会がときどきあるのですが、なるほど日本の人にはなかなかわかりづらいのだなと思うことがあります。
 たとえばそのひとつが、対話・交渉での和解がなぜできないのか?ということです。
 これまで国際社会による対話斡旋は何度もありました。ですが結局、「アサド存続か否か」の前提の部分で政府側・反政府側がどちらも譲らず、交渉はスタートすらできずにいます。
 そこで部外者からすると、こういう疑問が湧くようです。
「このままでは政府軍の無差別攻撃によって一般市民の犠牲者がどんどん増えるのだから、それを防ぐために、反体制派も妥協し、アサド存続でも和解の道を探るべきではないのか」
 これは理論上は成立する話ですが、反体制派の現状をご存知ない空論といえます。
 シリアでは、アラウィ派の多く、キリスト教徒の一部、シーア派の一部、バース党員の多く、職業軍人の多く、徴募兵の一部、秘密警察のほぼ全員、政府職員の多く、犯罪者グループの一部・・・などにアサド支持の勢力がいます。保身のためです。
 が、それ以外の大多数の国民は「アサド軍に攻撃される側」に属しています。この「アサド軍に攻撃される側」の中に、政治的に活動的な人とそうでない人がいて、活動的な人がいわゆる「反体制派」になり、その中で武器をとって戦う道を選んだ人が、反政府軍兵士ということになります。この反政府軍兵士のほとんどは、血縁・地縁のコネに基いて、自由シリア軍、サラフィスト系、独立系などと分かれています(この部分も外国人に誤解が多いところですね)。
 という中で、反体制派にアサド存続を容認する意見はほとんどありません。都市部の一部のインテリ層にそうした意見もあるようですが、泡沫といっていい規模です。
 そこで外国のマスコミ関係者にわかりづらいのは、「政治的に活動的でない人」がどのように考えているか?です。
 というのも、私自身も多くの経験がありますが、海外の紛争地において、一部の強硬派がサイレント・マジョリティを強引に引っ張ってしまっている例が非常に多く見られるからです。シリアでも同様ではないか?と想像するのは、むしろ健全な問題意識といっていいでしょう。
 ですが、そうした他の紛争地と比べ、シリアの事情は大きく違っています。
 もちろんシリアでも様々な考えの人がいるとは思うのですが、少なくとも私の過去の紛争地取材の場合とシリアのケースがかなり違っているのは、「政治的に活動的な人の割合が非常に高いこと」「政治的に活動的でない人の大多数が心情的に反アサドであること」です。シリアにおいて政治的に活動的であるということは、生命の危険に直結するきわめて危険な選択なのですが、それでもこれだけ多くの人が勇気をもって立ち上がっているということは、それだけ大衆運動レベルで強い反アサド感情が浸透していることを裏付けています。
 もうひとつ誤解が多いことに、「海外組中心の反体制派組織がアサド存続拒否なのは、国民の意識と無関係ではないか」という話があります。こうした考えに基づけば、たとえば「国民から乖離した海外組が強硬路線を叫ぶことで、国民を不幸に陥れているのではないか」との疑念も考えられるわけですが、これも少し違います。
 シリア反体制派の海外組というのは、国内で反体制運動が危険だった初期に反アサド政治活動の対外活動を担った人々ですが、実際のところ、これだけ国内の反体制派が成長した今、国内でそれほど影響力を持っていません。しかし、アサド存続拒否というのは、国外組だけが言っていることではなく、国内のほとんどの反体制派の総意でもあります。国外組が国内組とそれほどリンクしていないのは事実ですが、現在のシリアは国内外での情報のやりとりがかなり可能なので、国外組も自らのネットワークで国内にいる国民の事情や考えを充分に知ることができます。
 したがって、国外組は国内の事情を無視して、自らの政治的発言力確保のために強硬意見を主導している・・・というような構図とは違っています。とくにアサド存続拒否では、海外組も国内組も意見に相違はみられません。要するに、アサド存続容認で事態が収まるなどと考えているシリア人はほとんどいないということです。
 実際、対話などというプロセスが仮に始まるとしたら、アサド軍による国民弾圧作戦に利用されるだけと、政治的に活動的でない人ですら多くがそうわかっています。独裁者のやり方を、かの国の人々はよく知っています。
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  1. 2013/05/24(金) 04:29:17|
  2. 未分類
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:6
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コメント

 そういう意味では,シリア側(およびロシア)のプロパガンダは,比較的良く成功していると言えるのでしょうか?
  1. URL |
  2. 2013/05/27(月) 22:32:12 |
  3. 消印所沢 #-
  4. [ 編集]

サイレントマジョリティも含めた大多数の世論の流れが反アサドにあるとしたらなぜリビアのような大規模な軍の崩壊が起こらず、一部ではアサド側有利の戦況すら伝えられるのはなぜなのか。(それもまたプロパガンダなのか?)シリア内戦は素人目にはさっぱり理解できません。
  1. URL |
  2. 2013/05/27(月) 22:44:49 |
  3. k_shin #-
  4. [ 編集]

消印所沢様
 プロパガンダはあまり関係ない気がします。欧米や中東の世論・主要メディアの大方では、アサド擁護論はトンデモ扱いされてますし。一方、対話推進論は、とくに欧州の平和主義系にはよくありますが、習性みたいなものかという気がします。日本の場合はシリアの事情があまりに知られていないので、どういう意見を偶然ネットで拾うかで意見が分かれている印象です。まあ独裁体制に対するリアリティがないので、想像力の違いということもあるかと思いますが
  1. URL |
  2. 2013/05/28(火) 11:36:53 |
  3. 黒井文太郎 #-
  4. [ 編集]

k_shin 様
戦況は流動的で、一部にアサド側有利の場合もありますし、逆の場合もあります。簡単な話で、大局は双方の武装レベルの状況によります。
リビアではカダフィ軍がいっきにベンガジを落とそうという勢いのとき、NATOの軍事介入でかろうじて持ちこたえました。NATOの介入がなければ、今のシリアと似たような酷い状況になっていたことでしょう。
軍に限ればシリアのほうが政府側が軍内部をがっちり押さえ込んでいますが、国民全体の反乱ということでは、むしろシリアはリビアより大規模に起きています。
  1. URL |
  2. 2013/05/28(火) 11:50:12 |
  3. 黒井文太郎 #-
  4. [ 編集]

 ご教示ありがとうございます.

>どういう意見を偶然ネットで拾うかで意見が分かれている印象です

 それは確かにありますね.
 拙作サイトでは僭越ではありますが,なるべく多くの意見を集めることにより,公平性を担保したいと存じますが……
  1. URL |
  2. 2013/06/08(土) 02:31:52 |
  3. 消印所沢 #-
  4. [ 編集]

 シリア問題に関しては、自分は半分当事者なので、分析だけでなく情報発信にも力点を置いています。おかしな部分があったらご指摘いただければ助かります
  1. URL |
  2. 2013/06/11(火) 12:53:23 |
  3. 黒井文太郎 #-
  4. [ 編集]

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プロフィール

黒井文太郎

Author:黒井文太郎
 63年生まれ。『軍事研究』記者、『ワールド・インテリジェンス』編集長などを経て、現在は軍事ジャーナリスト。専門は各国情報機関の最新動向、国際テロ(とくにイスラム過激派)、日本の防衛・安全保障、中東情勢、北朝鮮情勢、その他の国際紛争、旧軍特務機関など。

 著書『ビンラディン抹殺指令』『アルカイダの全貌』『イスラムのテロリスト』『世界のテロと組織犯罪』『インテリジェンスの極意』『北朝鮮に備える軍事学』『紛争勃発』『日本の情報機関』『日本の防衛7つの論点』、編共著・企画制作『生物兵器テロ』『自衛隊戦略白書』『インテリジェンス戦争~対テロ時代の最新動向』『公安アンダーワールド』、劇画原作『実録・陸軍中野学校』『満州特務機関』等々。

 ニューヨーク、モスクワ、カイロに居住経験あり。紛争地域を中心に約70カ国を訪問し、約30カ国を取材している。




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