ワールド&インテリジェンス

ジャーナリスト・黒井文太郎のブログ/国際情勢、インテリジェンス関連、外交・安全保障、その他の雑感・・・(※諸般の事情により現在コメント表示は停止中です)

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現場取材に意味はあるか

 前回の記事で、「ヒズボラの無人偵察機がイスラエル艦艇に打撃を与えた」との情報を紹介したが、その後の各報道によると、イスラエル軍当局が「あれはミサイルによるもの」と発表したとのこと。無人攻撃機説はどうやらイスラエルの有力紙『ハーレツ』電子版がイスラエル軍筋の情報として報じたのが最初らしい。
 ところで、CNNなどをみると、目下の注目点のひとつに「ヒズボラはどれほど長射程のロケット弾を持っているのか?」ということがあるようだ。これまでヒズボラの攻撃圏外だったイスラエル北部の都市ハイファが直接ロケット弾に攻撃されたことが、現地では大きな衝撃になっている。こうなってくると、イスラエル側も自分たちの安全保障上、そう簡単に兵を引くことはあるまい。

 話はまったく変わるが、某大手書店に立ち寄ったところ、ある本の帯の文句が目に入り、さっそく購入した。「五十嵐一・筑波大助教授暗殺はイスラム革命防衛隊の犯行だった」とドーンと書かれた『ザ・パージャン・パズル』という翻訳書である。パージャンというとなんだかわかりづらいが、PERSIAN=つまりペルシャのことだ。
 著者のケネス・ポラックは元CIA分析官。イランとイラクの専門家で、同書はイラン=米関係を軸にイランの近現代史を俯瞰した内容になっている。非常に専門的な内容だし、上下刊で¥5600+税という一瞬躊躇するような価格にもかかわらず、同書店ではほとんどベストセラー並みの扱いで大量に置かれていた。ということは実際、売れているということなのだろう。いつも「専門書なんてたいして売れないさ」などと最初から言い訳している自分が恥ずかしい!
 それはともかく、あまり一般向けでない内容ではあるが、イランのディープなところを知りたい小生のような読者には「待ってました!」という本だ。情報は当然ながらたいへんしっかりしているし、少なくとも「CIAの専門家はこうみていました」という点でも非常に参考になる。
 それにしても、イランのイスラム体制は、テロ支援国家ということでは世界でも突出した存在である。筆者もかつて『イスラムのテロリスト』という本で書いたことがあるが、イスラム・テロリズムには、大別してスンニ派系とシーア派系の相容れない2つの系譜があり、イランはシーア派系テロリズムの盟主となっている。
 アルカイダなどのスンニ派系テロリズムの歴史は、さまざまな小グループの集散の歴史で、それを形成する人脈が交錯するまさに人間ドラマの連続だが、シーア派系テロリズムの場合、一貫してイランの謀略機関が背後で糸を引いているのが特徴だ。イランの謀略国家としての顔はほんの一部しか日本では報道されていないが、調べれば調べるほど闇の深い世界であることがわかっきて、非常に不気味なものがある。
 では、同書ではどのように「筑波大助教授暗殺事件」のイスラム革命防衛隊犯行説が裏付けられていたのか?とみると、ただ単に「この本を日本語に翻訳した日本人の翻訳者は、イスラム革命防衛隊(IRGC)によって暗殺された」との一文があるのみで、具体的根拠はなにも示されていなかった。
 これだけでは、著者が通説に基づいてそう書いているのか、それともCIAが何か根拠をつかんでそう判断したのか、というところはわからない。仮にCIAがそう判断したのならば、その情報はイラン側への諜報活動で得たものなのか、それとも日本の警察からの情報によるものなのか、ということもわからない。
 まったくの筆者の推測だが、CIAがイランへの諜報活動でその情報をつかんでいたとするならば、なんらかのかたちで米メディアにリークしていたのではないかと思う。おそらく同書のこの記述自体は、あまり決定的な情報とはいえないように思う。
 
 もっとも、それはそれとして、同書内には専門家ならではの精緻な解説がテンコ盛りで、非常にタメになる部分はたしかに多い。なかでも筆者個人的には、イラン=イラク戦争当時の戦況経緯が簡潔に解説されていたのがありがたかった。というのも、フゼスタン(南部)の戦線を筆者は84年に訪問したことがあるのだが、当時はたまたま知り合った革命防衛隊の下っ端兵士にいろいろ案内してもらっただけで、自分がどういう状況のときにそれらの場所(スーサンゲード、ホウェイザ、ホラムシャハルなど)を目撃したのかということが、じつは今までまったくわかっていなかった。それが同書によって、「へえ、こういうことだったんだ」と疑問氷解である。
 自分の無能さをさらけ出すようで恥かしいが、このように、せっかく現場を踏んでいても、事情がじつはよくわかっていなかったなどという経験はよくある。
 たとえば、筆者は内戦末期の中米ニカラグアをかなり長期間にわたって取材したことがある。そのとき、ニカラグア政権側のなかで、国軍部隊に比べて「内務省部隊」のガードが異常に固く、一切取材拒否だったため、「エリート部隊だから敷居が高いんだろな」などと思っていたのだが、後に何かの資料で「そこにはソ連軍事顧問団が入っていた」ということを知った。
 こうしたことを見落とすのは、当然ながら自分の実力がないということにほかならない。やはりそれなりの情報を準備し、それなりの取材訓練を積んでいないと、現場を取材したといっても事実を知るのには限界がある。
 そうした点に関連して、『ザ・パージャン・パズル』の後書きに面白い一文があった。著者のポラックは、「一度もイランに行ったことがない」というのである。
 彼はこう書く。
「私はそれを致命的な欠陥だとは思わない。私が多くの時間を過ごした外国であっても、私のそこでの経験は、一人だけの経験であって、その点では、信頼の乏しい実例の一つに過ぎないからである。自分自身の観察は、あくまでデータの一つであって、その意味ではほかのデータよりも、それ自体として、より優れているわけではないということを常に、よくわきまえておく必要がある」
 なるほど、その通りである。
 一例が、イラク戦争開始前のイラク人の意識に関する報道ではないか。サダム・フセイン政権下のイラクを取材したほとんどのレポーターが「イラク国民は戦争に反対している」とやったものだから、日本も含めた各国で反戦運動が広がった。
 だが、治安悪化で泥沼状態になった後はともかく、終戦直後のイラク国民の大方の反応は「ブッシュよ、よくやってくれたぜ!」だった。現場を取材した人々の多くにはまったく〝事実〟が見えていなかったわけだ(逆にアメリカ当局側は反サダム・フセイン勢力側からの情報ばかり重視し、いろいろな面で事実を見落としていたが)。
 もちろん筆者も他人を批判できるほどの見識はない。イラク戦開戦に際しては、筆者には「海外在住イラク人」の情報源が多かったために、「イラク国民の多数が戦争を期待している」との点では間違わなかったが、「フセイン政権瓦解後はイラク国民の大転向が急速に進み、まもなくフセイン派残党の影響力は消滅するだろう」と、情報源の偏りから、まさにチェイニー=ラムズフェルドのような読み誤りをしていた。
 このように、筆者にも、自分のささやかな見聞だけで見通しを誤った経験などすでに無数にある。ポラックの指摘は肝に銘じなければならない。

 最後に、話が脱線するが、これに関してマスコミ業界の舞台裏をちょっと告白してしまおう。
 日本のメディア界では、海外情報に関して発言する方法が2つある。ひとつは、それぞれの事件・事象の解説役となることで、これは日本ではなぜか「大学教授」の既得権益になっている。要するに「肩書き」重視ということだが、大学名はあまり関係ないようだ。
 もう1つは「現場取材」である。日本のマスコミでは、なぜか〝日本人〟による現場レポートが非常に優遇される。筆者などもそうだったが、ホントはたいしたことをやっていなくても、「現地潜入!」などと銘打って記事を大きく扱ってもらえるのだ。
 ところが、個人の見聞などたいしたものではないのに、そこで「この国は今、こうなっている!」とやるものだから、読者はそういうものかと思ってしまう。しかも、日本人で海外取材をする人はあまり多くないから、結果的に情報が偏向してしまうことが多い。
 筆者もかつて紛争地取材をメインで行なっていた頃は比較的容易に記事を発表することができた。わざわざ紛争地取材などする人は非常に少ないから、その体験談を人々は聞いてくれるし、こちらも言ってみれば「行けば書ける」のだ。
 白状してしまうと、筆者を含め、日本人記者のレポートのほとんどは自分の〝手柄〟が誇張されている。筆者の場合、よく使った手が「日本人初潜入!」だ。この場合、日本人では初だけれども、イギリス人やフランス人はすでに何人もやってましたなどということも珍しくない。やっている本人も「なんだかなあ」とは思うが、誌面取りのためにはしかたがない。ウソはついていないし。
 ちなみに、この誌面取り競争というのはどの媒体の内部でも結構熾烈なものがあり、執筆者はたいてい自分の記事テーマ自体を誇張する。海外記事の場合は検証されることがほとんどないから、国内記事よりそうした傾向が強い。
 なお、さらに白状してしまうと、海外取材の記事を発表するのは、国内取材の記事を発表するのに比べて圧倒的に容易である。そもそも競争が少ないからだ。
 競争の少ない世界ということは、当然ながらあまり切磋琢磨されていないということでもある。筆者自身も、後で読み返してみて、我ながら「ダメだなあ」と思う記事はたくさんある。日本国内のネタで誌面をゲットするには多くのライバルを押しのけるためのかなりの取材が必要だが、海外ネタだとそのあたりが格段にアマい。
 現場レポートはもちろん重要だが、こうしたことも頭の片隅において各記事を読むと、また違ったものが見えてくると思う。
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  1. 2006/07/17(月) 11:54:21|
  2. 未分類
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:1
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コメント

現場取材はやった方がいい。一次情報の精度が判断できないからである。

私のアフガニスタン取材経験では、911報復空爆の際、米軍人の動きをキャッチできたことがある。空爆真っ最中、当時の反政府ゲリラ、北部同盟のポストを訪ねた時、2人の白人が無線機と何やら覗き込むような機械で爆撃地点を観察していた。どうもポインターというやつだったようだ。それを映像に収めれば、すごかったのだろうな・・・
  1. URL |
  2. 2006/07/19(水) 16:33:04 |
  3. MR.WHO #6Q0aW8YQ
  4. [ 編集]

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プロフィール

黒井文太郎

Author:黒井文太郎
 63年生まれ。『軍事研究』記者、『ワールド・インテリジェンス』編集長などを経て、現在は軍事ジャーナリスト。専門は各国情報機関の最新動向、国際テロ(とくにイスラム過激派)、日本の防衛・安全保障、中東情勢、北朝鮮情勢、その他の国際紛争、旧軍特務機関など。

 著書『ビンラディン抹殺指令』『アルカイダの全貌』『イスラムのテロリスト』『世界のテロと組織犯罪』『インテリジェンスの極意』『北朝鮮に備える軍事学』『紛争勃発』『日本の情報機関』『日本の防衛7つの論点』、編共著・企画制作『生物兵器テロ』『自衛隊戦略白書』『インテリジェンス戦争~対テロ時代の最新動向』『公安アンダーワールド』、劇画原作『実録・陸軍中野学校』『満州特務機関』等々。

 ニューヨーク、モスクワ、カイロに居住経験あり。紛争地域を中心に約70カ国を訪問し、約30カ国を取材している。




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