ワールド&インテリジェンス

ジャーナリスト・黒井文太郎のブログ/国際情勢、インテリジェンス関連、外交・安全保障、その他の雑感・・・(※諸般の事情により現在コメント表示は停止中です)

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イスラム・テロの脅威は拡大しているのか

 アルジェリア事件に関して、いくつかメディアで発言させていただく機会がありましたが、一連のメディア報道を拝見していて、3点ほど指摘したいと思います。

 まず、イスラム・テロが拡大しているとの論調について。
 イスラム社会のトレンドとしては、現在、イスラム復古主義は明らかに低迷傾向にあります。欧米を敵視するイスラム復古主義が再興しているとの分析は、間違いです。
 イスラム社会における反米のピークは、イラク戦争後です。その後、イラクのイスラム過激派が同胞殺戮を始めたこともあり、過激派がロクなものではないこことに皆が気づきました。反米論調の流行にも飽きが来て、大衆レベルでは急速に失速しました。ビンラディンの殺害にも無反応でしたし、「ムハマドを冒涜する動画」を非難する暴動も、世界的トレンドである「なんでも反対デモ」の一貫として多発しましたが、大衆動員には至らず、1週間くらいしか継続しませんでした。
 チュニジアやエジプトで穏健イスラム主義が選挙で主導権を握りましたが、彼らも大衆運動を目指しているので、イスラム復古主義的な色を薄める奉仕をとっています。
 それよりも、イスラム圏では「独裁・権威主義vs民衆」がメインになっていて、イスラムは民衆の側のひとつの核になっています。これをイスラム主義メインの社会運動と捉えるのは、主従を間違えていると思います。
 ただし、それでイスラム・テロが消滅するかといえば、さにあらず。イスラム社会の主流から疎外された過激分子は、少数の同調者グループを作り、ますます先鋭化します。これがテロリズムの正体です。
 これは、テロリズムの構造そのもので、70年代あたりの極左テロも同様です。左翼運動が大衆運動だった時期よりも、大衆運動が終息した後のほうが、少数グループは極端な路線に向かいやすくなります。イスラム過激派は今、まさにその段階にあります。
 それを押さえるのは、各国治安当局の取締りで、実際にイスラム圏でも多くのエリアで、取締りは強化され、テロリストの潜伏場所は縮小され続けています。
 ところが、現在、過激派にとってのセーフゾーンが3カ所生まれています。イエメン、リビア、マリです。そして、とくにリビアから大量の小火器が地下に流出しています。拠点があり、武器もあるとなれば、テロは比較的容易に実行できます。
 ということで、もはやイスラム主義はイスラム社会でも完全に時代遅れになっていますが、たまたま拠点が出来、武装レベルが上がったことで、彼らのテロ実行能力は確実に上がっています。周辺国、あるいは欧米社会でも、今後しばらくは、テロの脅威は増加することになると思います。

 次に、政府の情報収集と自衛隊法改正の話。
 日本政府が事件発生後に情報がとれなかったのは、当然です。欧米でさえ、情報は錯綜しました。日本政府のインテリジェンスの基本スタンスは「同盟国アメリカにもらう」です。現地国との情報ルートはオフィシャルな外交ルートにほぼ限定されますので、そんなところから独自の情報は入りません。
 ですが、理想を言えば、現地に情報担当を派遣し、危機情報専門家を育てるつもりで駐在させるということは有効だと思います。これは個人の才覚に左右されるところが大きいのですが、能力のある人なら、インテリジェンス・オフィサーのインナーサークルの末席に加わることが出来る可能性があります。そういう人が少しでも増えれば、少なくとも平時の警戒情報は強化されると思います。
 とはいえ、日本は「テロとの戦い」の参戦国ではないので、自ずと限界があります。日本版NSCを創設すれば情報能力がいっきに強化するなどというものでもありません。日本は、テロとの戦いに参加せず、すべて欧米にお任せしていますから、イスラム・テロの憎悪の対象にはなりませんが、その代償として、防御の面でも軽く扱われることになります。
 自衛隊法の話は、アルジェリアとは無関係です。邦人救出は、有事の戦闘地域を想定しています。もともとは朝鮮有事を想定したもので、あとはアフガンとか一時期のイラク、リビアだとか、今で言えばマリとかシリアとかですね。それを現行法では戦闘地域に自衛隊が行けないので、安全地帯で待機し、救出ではなく輸送しかできないという話です。それもおかしな話なので、どんどん変えたらいいと思います。
 ただ、アルジェリアはアルジェリア政府が全土を統治しており、内戦にあるわけではありません。犯罪集団が起こした犯罪に、治安部門が対処するという構図になります。
 そこに自衛隊を投入するということは、たとえば日本のどこかでテロが発生し、たまたま在日アルジェリア人が人質に含まれてしまったときに、アルジェリア軍が日本国内で作戦を行うということと同じです。アルジェリアでのテロの脅威が高まっているのは事実ですが、内戦国ではありません。

 最後に、作戦時の状況の詳細がわからないのに、「人質の人命を無視する非道なアルジェリア軍」イメージをやたらと撒き散らす無責任な論調が非常に多くみられたと思います。そのため、テロリスト非難よりもアルジェリア軍非難の声が目立つという、おかしな雰囲気さえ感じています。
 実際のところは私にももちろんわかりませんが、犠牲者もおられる事件ですから、慎重さは重要だと思います。

 それなりにイスラム圏経験者として、他にもいろいろ異論はありますが、とりあえず3点だけ書いてみました。
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  1. 2013/01/25(金) 12:08:15|
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プロフィール

黒井文太郎

Author:黒井文太郎
 63年生まれ。『軍事研究』記者、『ワールド・インテリジェンス』編集長などを経て、現在は軍事ジャーナリスト。専門は各国情報機関の最新動向、国際テロ(とくにイスラム過激派)、日本の防衛・安全保障、中東情勢、北朝鮮情勢、その他の国際紛争、旧軍特務機関など。

 著書『ビンラディン抹殺指令』『アルカイダの全貌』『イスラムのテロリスト』『世界のテロと組織犯罪』『インテリジェンスの極意』『北朝鮮に備える軍事学』『紛争勃発』『日本の情報機関』『日本の防衛7つの論点』、編共著・企画制作『生物兵器テロ』『自衛隊戦略白書』『インテリジェンス戦争~対テロ時代の最新動向』『公安アンダーワールド』、劇画原作『実録・陸軍中野学校』『満州特務機関』等々。

 ニューヨーク、モスクワ、カイロに居住経験あり。紛争地域を中心に約70カ国を訪問し、約30カ国を取材している。




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