ワールド&インテリジェンス

ジャーナリスト・黒井文太郎のブログ/国際情勢、インテリジェンス関連、外交・安全保障、その他の雑感・・・(※諸般の事情により現在コメント表示は停止中です)

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宗派間抗争に持ち込んだアサド

 昨年春にシリア革命が始まったとき、シリア社会をよくご存じない方は、イラクやレバノンのイメージに倣い、シリアにも「アラウィ派vsスンニ派の対立がある」と考えた方が少なくなかったようです。
 しかし、アサド父政権発足の頃はそうした構図はありましたが、40年もの父子独裁で、シリア社会は宗派対立が後退し、「アサド派利権グループvsその他の一般国民」という構図になりました。宗派の違いよりも、利権コネに繋がるか繋がらないかで、国民は「得組」「損組」(必ずしも勝ち組vs負け組ともいえないので)に分断されたわけです。
 革命が始まったとき、アラウィ派とスンニ派の両サイドから、宗派対立を煽る声は生じました。私はそれは現地の知人からの情報でも、SNSでの情報でも確認しています。しかし、とくに革命側の主流派のリーダーたちが、それを懸命に抑えました。
 シリアにはネットを介したマス(といっても、ネット世代の若者層が中心の限定的なものではありますが)の国民世論がすでに存在していて、少数の宗派イデオロギーはすぐに駆逐されます。私はその流れをリアルタイムで体験していましたが、SNSというツールがもたらす新たな希望といっていいものでした。
 もともとシリア国民に宗派対立という発想が希薄だったこともあり、宗派抗争は部分的に、地域的には発生しましたが、全体的な構図としては抑えられました。
 しかし、昨年秋頃に反体制派がそれまでの非武装デモから武装闘争にシフトした頃から、シリアで宗派対立が先鋭化しているという情報が盛んに流されるようになります。扇動しているのはシリア政府で、アラウィ派の結束が狙いでした。海外でも、シリア政府の宣伝(プロパガンダ)を情報ソースとする一部メディアが、こうした虚構を盛んに報じるようになっていきます。
 今年に入り、スンニ派の武装蜂起に恐怖を感じたアラウィ派側には、そうした宗派抗争に軸足を置く人々が増えてきました。その動機はやはり恐怖心だったでしょう。アラウィ派のシャビーハが増強され、さらに民兵化していきました。
 今年の夏頃からそれは顕著になっていきます。いよいよ追い詰められてきたアサド政権が、本格的に宗派対立を煽るようになります。
 こうした状況に、私が下のエントリーを書いたのは、今年7月のことでした。
▽懸念されるアサド政権の宗派対立工作 
 しかし、アラウィ派の結集という流れの影響で、徐々にスンニ派社会にもアラウィ派批判の声が出てきます。アサド政権が仕掛けた宗派対立が、政府軍の無差別爆撃などの暴力を背景に、現実のものとなってきたわけです。
 私が下のエントリーで、こうした点に対する懸念を指摘したのは、11月8日のことです。
▽首都決戦へ(アラウィ派の脱出始まる)
 上記での記述は以下です。

 そこでちょっと心配なのは、反体制派SNSの論調に、最近、アラウィ派批判が急速に拡散しつつあることです。反体制派の主流派はこれまで、アサド政権が宗派対立に持ち込もうとしたのに対抗し、アラウィ派批判を抑えてきました。それで実際、アラウィ派コミュニティへの直接攻撃の回避に成功してきていたのですが、スンニ派住民が子どもたちまで大量虐殺に遭ったことで、憎悪のエネルギーが急速に膨張しているように感じられます。

 非常に残念なことですが、政府軍の暴力はさらにエスカレートし、それにアラウィ派民兵がさらに参画していくなかで、実際に宗派抗争の萌芽が出てきています。
 本日のCNN日本語サイトの記事です。
▽シリア内戦、宗派間抗争の様相を強める 国連報告(CNN)
 どれほどの人々が、血の滲むような思いで宗派対立回避の努力をしてきたかを知っているので、これほど残念で悔しいことはありません。それでもまだ、イラクやレバノンのようにならないよう努力している人々がいます。なんとか世界は彼らを助けられないものでしょうか。
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  1. 2012/12/21(金) 16:45:31|
  2. 未分類
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:2
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コメント

今までロシアがアサド政権をあくまで支援する理由が飲み込めなかったのですが、もしかすると最初からこの展開を狙っていたのででしょうか。

部族対立が悪化すれば、アサド政権が倒れようが倒れまいが、戦後のシリアの混乱は必須です。

「そらみたことか。部族間対立が原因でテロリストが暴れていたのだ。西側の言い分など間違いでアサド政権は必要だったのだ」

という従来の主張を正統な物にみせかけられます。
国際機関に対するシリア国民の信頼も失われているわけですし、戦後もロシアが手抜きするとは思えませんから、親アサド派の人たちが言っていた無責任なデマが結果的に事実になってしまう…最悪ですね。
  1. URL |
  2. 2012/12/22(土) 00:33:54 |
  3. うそこばん #mQop/nM.
  4. [ 編集]

今まで宗派抗争に至らなかったのは、シリアで宗派意識が希薄だからです。ただ、個人レベルでまとまらない気質はそのとおりで、そのあたりが心配ですが、民主化の希望はあると思っています。いずれにせよ、ロシアが好きなシリア人など聞いたことがないので、新生シリアでロシアの存在は急低下するでしょう。シリア~ロシアの貿易商をしている義兄にはむしろ損な話ですが(笑)
  1. URL |
  2. 2012/12/22(土) 21:39:26 |
  3. 黒井文太郎 #-
  4. [ 編集]

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プロフィール

黒井文太郎

Author:黒井文太郎
 63年生まれ。『軍事研究』記者、『ワールド・インテリジェンス』編集長などを経て、現在は軍事ジャーナリスト。専門は各国情報機関の最新動向、国際テロ(とくにイスラム過激派)、日本の防衛・安全保障、中東情勢、北朝鮮情勢、その他の国際紛争、旧軍特務機関など。

 著書『ビンラディン抹殺指令』『アルカイダの全貌』『イスラムのテロリスト』『世界のテロと組織犯罪』『インテリジェンスの極意』『北朝鮮に備える軍事学』『紛争勃発』『日本の情報機関』『日本の防衛7つの論点』、編共著・企画制作『生物兵器テロ』『自衛隊戦略白書』『インテリジェンス戦争~対テロ時代の最新動向』『公安アンダーワールド』、劇画原作『実録・陸軍中野学校』『満州特務機関』等々。

 ニューヨーク、モスクワ、カイロに居住経験あり。紛争地域を中心に約70カ国を訪問し、約30カ国を取材している。




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