ワールド&インテリジェンス

ジャーナリスト・黒井文太郎のブログ/国際情勢、インテリジェンス関連、外交・安全保障、その他の雑感・・・(※諸般の事情により現在コメント表示は停止中です)

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ハマス 1996

 ガザを初めて訪問したのは1984年。町中にはイスラエル軍が展開していて、かなり緊迫した雰囲気でした。その後、湾岸戦争やインティファーダの頃にも行っています。最近は現場取材から離れているので、とんとご無沙汰していますが。
 その中で、ハマス幹部のインタビューを現地で一度だけしたことがあります。1996年、カッサム旅団による自爆テロが頻発していた頃でした。
 当時は自治政府がスタートしてまだ2年。ファタハが主導する西岸地区は、へブロンなど一部を除いて比較的平穏でしたが、ガザは相変わらずの混沌状態。ハマスはイスラエルと激しく敵対していて、公然活動を許されていませんでした。
 私が取材したのは、そんなハマスのガザ地元組織の数少ない実名活動家で、公式スポークスマンだったマフムード・ザハル氏。もともと医師ですが、ハマスの共同設立者の一人で、当時はどちらかというとハト派=現実派とみられていました。
 なお、当時はハリド・メシャルがいたハマスのヨルダン支部が強硬派の総本山で、ここがイランやヒズボラと関係を持ち、イスラエルでの自爆テロに深く関わっていると噂されていました。
 もっとも、ザハル氏はその後、2003年に自宅を爆撃されて息子を殺害され、それ以降、むしろタカ派色を鮮明にしていきます。2004年のハマス最高指導者アハマド・ヤシン師暗殺を受けて、ハマス最高幹部となり、2006年から07年までパレスチナ自治政府外相にも就任しています。
 彼はカッサム旅団と深い関係を続け、もう一人の息子もカッサム旅団の幹部でしたが、その息子も2008年に殺害されています。ザハル氏は現在も、強硬派の有力指導者のひとりとして活動しています。

 以下、そんなザハル氏への1996年時点のインタビューの一部。『軍事研究』97年1月号の拙稿「超過激イスラム原理主義 ハマスとヒズボラ」の一節です(当時、レバノンでヒズボラ幹部へのインタビューもしていて、その合わせ記事でした)。
 古い話ですが、ハマス初期の雰囲気が伝わるかもしれないので、参考までに一部再録します。前エントリーでご紹介したCNNのアマンプールさんのインタビューとは比べものになりませんが、私もイスラム原理主義組織の取材を本格的に始めたばかりだったので、何卒お許しください。

(以下、一部引用)
ーー原理主義とは何か?
「原理主義などというものは存在しない。あれはキリスト教徒の概念だ。我々の望みはイスラムに拠る共同体に回帰することで、イスラム復古運動と呼ばれている。欧米のキリスト教徒たちが我々を排他的な過激派と決めつけるために、原理主義などという刺激的な言葉を使っているのだ」
-ーアラファトが進めているパレスチナ独立ではなく、全世界のイスラム化が望みなのか?
「その質問はバカげている。もちろん我々はイスラムを信じているが、他の宗教を否定はしない。他の宗教を信じる人たちは、その信念に基づいて国をつくればよい。
 もちろん世界にイスラム教徒が増えたり、イスラム社会が広がれば、イスラム教徒としては純粋に嬉し
いが、かといって他の土地のことに口を出す権利を我々は持っていないし、またそのつもりもない。我々は信心深いイスラム教徒であり、我々の暮らすパレスチナの地にはイスラムを中心とした社会をつくりたい。ただそれだけだ。
 もちろん我々は本来、現在のヨルダン川西岸地区とガザ地区だけでなく、イスラエルが存在するすべての土地が故国パレスチナだと思っている。しかし、現実にはそのすべてを奪還するのは難しい。そういったことでは、アラファトのやり方すべてに反対しているわけではない。
ただ、彼は認識が甘いと思う。イスラエルは狡猜で、アラファトのやり方では現在の自治地域においても、結局はイスラエルに牛耳られる仕組みしか生まれない。そしてイスラエルは、パレスチナがイスラム国家になることを決して容認しないことは確実だ。だから現実的に和解はあり得ない」
ーーハマスはイランと連携しているのか?
「イランはシーア派で、我々はスンニ派だ。基本的に考え方が違う」
ーー資金はどこから得ているのか?
「パレスチナの住民から寄付を得ている。また、我々は世界各地に支部がある。エジプトにもサウジアラビアにもヨルダンにも、そしてアメリ力やロンドンにも、だ。そういった支部を窓口にして、様々な人から寄付を受けている」
ーーハマスの意思決定機関は?
「イスラムには独裁という考え方はなく、必ず合議制をとる。最高機関は高位聖職者の評議会である『マジリス・シューラ』で、ハマスもそうだ。外国人のなかには、イスラエルに囚われているアハマド・ヤシン師を最高指導者と単純に考えている人もあるが、我々には個人としての最高指導者というものは存在しない」
ーーハマスのマジリス・シューラはどこにあるのか?
「厳しい弾圧を逃れて国外にある。どこかは言えない」
ーーヨルダンの支部が独走しているのではないか?
「ハマスはマジリス・シューラの下に指揮系統がされた組織であり、そういうことはあり得ない」
ーーアル・カッサム旅団がハマス上層部から乖離して独走しているのではないか?
「そんなことはない。アル・カッサム旅団は広範囲におよぶ様々なハマス組織のなかの軍事部門で、当然、マジリス・シューラの管理下にあり、完全に把握されている」
ーー自爆テロ作戦もマジリス・シューラの命令か?
「それはない。異教徒によく誤解されていることだが、イスラムではどんな理由があっても自殺は禁止されている。この点は、我々とシーア派の考えは大ぎく違う。
 自爆攻撃を行うパレスチナの若者たちは、例外なく肉親をイスラエルに殺されている。個人的な怨恨が、彼らをこのような絶望的な行為に走らせている。我々は決してそれを命令したり勧めたりはしないし、むしろ悲劇だと思っている。
 しかし、彼ら若者たちのその思いを誰が止められようか。イスラムは慈悲の教えだ。やめなさい、と諭すことはできても、やめろと強制することはできない」
(以上。一部引用)

(追記)
 当エントリーで、まかわ様より「自爆テロは作戦ではなくて個人の行動なんですか… 意外でした。」とのコメントをいただきました。
 自分では考えもしませんでしたが、なるほどこのまま書きっぱなしではよろしくないな、と気づきました。若干、補足説明させていただきます。
 インタビューの言葉は、相手がそう語ったという以上のものではなく、「事実」とは限りません。
 当時のカッサム旅団の自爆テロは、私は間違いなく組織的な作戦だったと考えており、ザッハル氏のコメントは、単に彼個人の見解であったか、もしくは「外国人記者」向けの公式見解だったと思っています。
 このときの私の心証では、ザッハル氏は対外スポークスマンとして、とくに外国プレスに対して、「ハマスはガチガチの狂信者集団ではない」というアピールを意図していたことは確かだと感じました。他の部分でも、ごまかしている部分はもちろんあるでしょうし、私自身、そのへんの機微を反映するようなインタビューをしたいと考えていました。
 当時、カッサム旅団の自爆テロが頻発していて、世界では顰蹙を買っていましたが、パレスチナ抵抗運動や反シオニスト系の人々の一部では「英雄視」されていました。あるいは、パレスチナ寄りの人々の間では「イスラエルのせいだ」というような紋切り型の解説がしばしば見られていました。
 ですが、私自身はハマスの自爆テロにまで理解を示すような反シオニスト系メディア言説に激しく疑問を感じていたので、このように自爆テロ否定の言質をハマス幹部が明言したということは、よかったなと思っています。おそらくハマスの内部にも超過激派から穏健現実派までさまざまな考えの人がいて、いろいろ揺れていたということはあったんだろうと思いますが…。
 ともあれ、インタビュー記事におけるカッコ内の言葉は、単に対象がそう語ったというだけのことですので、そこはご了承いただきたいと思います。
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  1. 2012/11/25(日) 15:50:29|
  2. 未分類
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:1
<<ヤクザに学ぶ尖閣バトル | ホーム | アマンプールvsメシャル>>

コメント

自爆テロは作戦ではなくて個人の行動なんですか…

意外でした。

自分は海外事情に最近興味を持ちはじめたのですが、まだ知識が全くと言っていいほど無いのでこのブログからいろいろと学ばせてもらってます
  1. URL |
  2. 2012/11/25(日) 16:55:16 |
  3. まかわ #-
  4. [ 編集]

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プロフィール

黒井文太郎

Author:黒井文太郎
 63年生まれ。『軍事研究』記者、『ワールド・インテリジェンス』編集長などを経て、現在は軍事ジャーナリスト。専門は各国情報機関の最新動向、国際テロ(とくにイスラム過激派)、日本の防衛・安全保障、中東情勢、北朝鮮情勢、その他の国際紛争、旧軍特務機関など。

 著書『ビンラディン抹殺指令』『アルカイダの全貌』『イスラムのテロリスト』『世界のテロと組織犯罪』『インテリジェンスの極意』『北朝鮮に備える軍事学』『紛争勃発』『日本の情報機関』『日本の防衛7つの論点』、編共著・企画制作『生物兵器テロ』『自衛隊戦略白書』『インテリジェンス戦争~対テロ時代の最新動向』『公安アンダーワールド』、劇画原作『実録・陸軍中野学校』『満州特務機関』等々。

 ニューヨーク、モスクワ、カイロに居住経験あり。紛争地域を中心に約70カ国を訪問し、約30カ国を取材している。




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