昨日のエントリーで紹介した某番組ですが、ゲストのジャーナリストの方が、シリア現地取材に基づいて「中産階級は安定を望むので、アサド支持だ」と報告されていました。正確には「秘密警察の監視下にあるエリアで、日本のテレビ局ということで住民に話を聞いたら、アサド支持コメントばかりだった」ですね。
ロシアとイランの政府系メディアのレポートも同様ですし、英『インデペンデント』のロバート・フィスク記者が政府軍同行で取材した際の「住民虐殺は反体制派によるもの」コメントも同様です。要するに、典型的なバイアス情報ということです。
他方、反体制派エリアを取材された世界中のジャーナリストたちのレポートでは「反体制派支持ばかり」です。これも反政府軍の支配下での取材ですから、バイアス情報といえます。
(ただし、秘密警察ががっちりマークする政府側エリアと違い、諸派入り乱れて厳格な統制が確立されていない反体制派側エリアで、記者たちが住民たちの本音を見抜けないとも思えませんが)
では、シリア全国から発信されている地元発の映像はどうでしょうか?
私は日常的にシリアから発信される映像をウォッチしていますが、現地の群衆の生映像は、以前も書きましたが、ほとんど反政府側です。かつては政権側が動員したアサド支持デモの映像もありましたが、もうそんな余裕がないのか、まったくなくなってきています。
住民を動員するということは、それほど容易なことではありません。逆に言えば、反体制側もデモ強制などできないということで、全土で続く反政府デモは強制されたものではないことになります。
現在、生死の狭間で暮らす人々が叫ぶ言葉は、すべてアサド政権に対する怒りといって過言ではありません。下は、昨日のダマスカスでの反政府デモです。今の状況で反政府デモに参加するのは、どれだけ危険なことかを考えれば、参加者たちの叫びを疑う余地はありません。
▽ダマスカス市内の夜間デモ
11月6日。ダマスカス市内のルクネディン地区。
上記番組ではさらに「ソ-シャル・メディアはアメリカの情報戦に使われていて、シリア政権側の情報はどんどん削除される」と解説していました。ネットが情報戦に使われているのは事実です。が、シリア政権側も情報発信の手段などいくらでもあります。実際、シリアやロシアのテレビ局レポートのコピーなどはいくらもユーチューブで見ることができますし、アサド支持サイトもいくつも存在します。「情報戦の存在」までは正しいですが、「政権側情報が発信できない」は間違いです。
したがって、シリア国内からアサド支持の群衆の姿が発信されていないということは、そうした声が存在しないことを証明しています。
これらの事実から、シリアの国民の大多数は反アサドであることがわかります。アルカイダばりの過激派グループであるヌスラ戦線のような存在もありますから、「必ずしも反政府軍がすべての住民の支持を得ているとはかぎらない」くらいまでは、まあ許容範囲ですが、「住民はアサド支持」などというのは情報分析として落第です。
誰にも間違いはありますから、誤分析が報道されることも、ある程度はしかたないことですが、シリアの現実は下リンクの通りです。
▽砲撃の直後(※残虐シーン注意)

11月6日。カフルバトナ
この状況で大量殺人の首謀者であるアサド大統領を支持する立場に立つということは、「人道に対する犯罪」に加担することになることを自覚していただきたいものです。
その他、新たな注目映像を紹介します。
▽撤退する政府軍戦車と撃たれた兵士
11月5日。アレッポ。自由シリア軍の攻撃で撤退する政府軍の戦車たち。並走する歩兵が撃たれています。
▽反政府軍に制圧された空軍基地
11月5日。アル・ゴータ・アッシャルキーエ。自由シリア軍に制圧された空軍基地の映像です。
と、ここまで書いて、新たな映像が入りました。
▽攻撃を受ける大統領宮殿エリア
他にも写真多数がネットに続々とアップされてきています。
大統領宮殿と政府庁舎が攻撃を受けています。ウス-デル・アル・イスラム(イスラムの獅子たち)旅団の作戦とのことです。
いよいよ本丸に迫ってきました。
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- 2012/11/07(水) 15:20:23|
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| コメント:4
[極秘技術でサンディ発生させた」シリアのメディアが主張、イランも協力]というCNNの記事経由で気付いたんですが、「シリア軍系のメディア」もFacebookにページを出しているんですね。
私はアラビア語はまったく読めないのですが、投稿頻度を見る限りでは[シリア政権側の情報はどんどん削除される]というのは事実に反するようにしか見えないです。
あるいは以前コメントで回答していただいた
『アサド支持コメントがときどき乱入していましたが、フルボッコされてすぐにほとんど消えています』というのを誤解してそんな風に思い込んでいるんでしょうか。
- URL |
- 2012/11/07(水) 17:24:26 |
- うそこばん #mQop/nM.
- [ 編集]
シリアだけでなく、中東ではフェイスブックの匿名利用が多く、乱用されていることもあって、いきなり問答無用のアカウント削除がしばしば起きています。私も以前はアラビア語版のアカウントを作っていて、1000人くらいの反体制派の「友達」を登録し、情報収集に使っていたのですが、突然消滅してしまいました。
私の知人の反体制派活動家でも、アカウント消滅はしょっちゅう起きています。つい最近も、自由シリア軍関連のアカウントが使えなくなったとかで、逆の陰謀論(シリア政府のサイバー攻撃ではないかというもの)が流れていました。
おそらくこのジャーナリストの方は、そういう事情を知らずに、ご自身が親アサド派人脈メインにお付き合いしているため、誰にも起きているアカウント消滅を「シリア政府側の情報ばかりが削除されている」「アメリカの陰謀だ」と思い込んだのではないでしょうか。
- URL |
- 2012/11/07(水) 18:28:44 |
- 黒井文太郎 #-
- [ 編集]
なるほど、これもバイアスによる誤解そのものだったんですね。
確かに本名・本住所を晒すわけにはいかないでしょうから匿名使用が多いのはわかりますが、それならアメリカ政府も反政府側のアカウントは削除しないように要請するぐらいはしてもいい気はするんですがやってないということなんでしょうか
- URL |
- 2012/11/17(土) 00:00:34 |
- うそこばん #mQop/nM.
- [ 編集]
その点が現在どうなっているのかはわかりませんが、たとえば以前、真偽不明ですが、NSAに米主要電話会社が協力していると報じられたことがありました。きっちり否定していませんでしたから、ありそうなことと思いますが、逆に言えば、そういう秘密はいずれバレるということですから、それなりにブレーキにはなっていると思います。
それより、実態としてはシリア政府側、反政府側双方が、FB事務局に敵側アカウント閉鎖要請競争をしている可能性が高い気がします。ただの勘ですが
- URL |
- 2012/11/17(土) 15:18:32 |
- 黒井文太郎 #-
- [ 編集]