ここのところ、「イスラム国」関連に没頭していて、ブログ更新を怠ってました。
3週間前、「夕刊フジ」にコメント採用していただきました。イスラム国に参加する欧米のホームグロウン・テロリストの関連です。
また、現在発売中の「軍事研究」に「最悪の世界同時紛争アナリシス」という記事を寄稿しました。イラク・シリア、パレスチナ、ウクライナ、リビアその他の紛争の動向を解説しています。
あと、18日のTBS「ひるおび」で文字コメント採用していただきました。エボラ問題で米軍3000人が派遣されたことの解説です。ちなみに、同作戦を取り仕切るのは、ドイツに本部を置く米アフリカ軍で、リベリアに前線本部を設置します。部隊は衛生部隊が主力となりますが、その指導には先行して現地入りしているUSAMRIIDとCDCも参加することになります。
イスラム国が大きなニュースになっていますが、要は「かつてないほど勢力を拡大した狂信者集団」です。なんとなく「現代社会に挑戦するカリフ国家」と注目されていますが、そんなに新しい性質の組織でもありません。
たまたまシリアの内戦と、米軍撤退後のイラクでのシーア派政権の暴政に乗じて、勢力を拡大しました。指導部に旧イラク・バース党の軍人人脈が関与しており、たしかに戦略と戦術は成功していますが、テロ分析の観点からいえば、タイプとしてはペルーのセンデロ・ルミノソやアルジェリアの武装イスラム集団(GIA)のようなカルト的な組織といえます。昔からよくあるタイプですね。
イスラム法(シャリーア)の適用を公言していますが、1000年以上前の社会風土での規範ですから、現代の人権意識とはかなり乖離があります。斬首行為がとくに問題になっていますが、従わない者、自分たちが異端者と見なす者は、躊躇なく殺戮します。つまりは徹底した教条的・排他的・暴力的組織というわけです。
イラクでのヤジディ教徒への暴力が話題になりましたが(男性は処刑、女性は戦利品扱い)、シリアでも処刑や強制徴兵などが盛んに行われています。
イラクに関しては、アメリカを中心にイスラム国討伐の動きがあります。イラクではシーア派政権軍やクルド部隊もありますし、外国軍が介入すれば、これ以上のイスラム国拡大はおそらく阻止されるでしょう。長期的にはイスラム国は徐々に追い詰められるはずです(完全に打倒するのは難しいでしょうが)。
問題はシリアです。アメリカはシリアでの空爆も決定しましたが、それだけでどれほどイスラム国を撃退できるかは疑問です。イラクと違い、シリアでの軍事作戦には、現時点ではほとんど他の国からの参加表明がありません。現状では、かなり制限された限定的な介入ということになりそうです。
それに、イラクでは強力な国軍やクルド軍がいますが、シリアではそうではありません。アサド政権軍はいますが、こっちは別に住民虐殺を続けており、イスラム国打倒で協力し合うことはないでしょう。
アメリカは穏健派の反体制派への軍事支援を決定しましたが、それもまだまだ不充分です。アメリカの支援ルートは南部のヨルダン国境ルートがメインなので、軍事支援もメインは南部戦線(対アサド軍)の世俗派叛乱軍ということになり、イスラム国の強い東部・北部での反撃にはなかなか直結しづらい状況にあります。
現在、イスラム国はシリア北部のクルド人エリアに進撃。多数の難民がトルコに避難する事態になっています。
同地を取り仕切っていたクルド部隊は、地元のアラブ人との軋轢から、ときにアサド政権と手を組むなどし、アラブ人の反体制派から信用されていないのですが、一般のクルド住民に罪はありません。このままではイスラム国による大虐殺が懸念されます。
なお、ここのところイスラム国の残虐性ばかり注目されていますが、実際にシリアの一般住民を理不尽に殺害し続けているのは、むしろアサド政権です。アサド政権の蛮行も忘れてはいけないです。
いずれにせよ、紛争においてはさまざまな陣営にはそれぞれの論理があります。それでイスラム国の論理とか、アサド政権の論理とかを議論している向きがあります。無意味とは言いませんが、それよりもリアリズムの観点でいえば、どの陣営が何を言ってるかよりも、実際に何をやっているかに注目すべきでしょう。
そのうえで、人々を救うには何が必要かを考えなければなりません。従わない者は殺戮するイスラム国も、民間人を虐殺し続けているアサド政権も、ともに打倒すべき対象となります。善悪の単純な感情論ではなく、人の安全保障の原則といえます。
- 2014/09/22(月) 11:47:25|
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