インテリジェンスの基本の話をします。
シリアに行ったことがない方は、要するにシリアのことを知りません。なので、あそこがどういう国なのか、行ったことがある外国人、あるいはシリア人が書いているものや発言から、分析し、推測することになります。
私の場合、「30年前からときどきシリアに短期滞在」「20年間シリア人(スンニ派モスレムの庶民層)の親戚としてシリア社会と接点があった」「エジプトに短期居住経験がある」「そこそこ世界各地の紛争現場の取材経験がある」「情報収集・分析を少し学び、業界の底辺ながらそれを生業としている」という立場で、自分の見聞とリアルタイムの情報収集をもとに、「アサドは最低の極悪大量殺人犯」と認識しています。これは私の立場で、さまざまな情報収集をした結果ですので、それはひとつの「情報」と捉えるべきです。
他にも、シリアに行ったことのある人の情報発信を広くフォローしてみてください。私と同じ認識の人もいれば、違う認識の人もいます。私には不思議でなりませんが、「アサドはいい人間だ」と仰る方もいます。
それぞれどういった立場でシリア社会と接したのか、どういうところから情報を得ているのか、さらにはどのくらいの情報分析スキルがありそうか、あるいはどのくらいの人間や社会に対する洞察力がありそうか、といった点を勘案(推測)して、それぞれの情報発信の参考度を嗅ぎ分けてください。これが基本セオリーです。
私を含め、シリアに行ったことのある人の見聞はすべて「参考情報」です。認識を共有するかどうかは各人の後の判断ですが、とりあえずそれらの情報はすべて参考になります。
シリア問題で発言していると、この基本セオリーができていない反響を散見します。シリアもしくは少なくとも中東アラブ圏の経験のない方は、私の発言にせよ、他の方の発言にせよ、頭から拒絶するのではなく、発言者がどういう立場で見聞してきたのか、どういう情報源に頼っているのか等々を考えてみるべきでしょう。
私を含め、シリア経験のある人は、シリアの一部は知っています(シリア人でも個々人がシリアの全部を正しく認識しているとはかぎりません)。シリア経験、あるいはアラブ経験のない人は、まったく知らないことを自覚し、情報収集と分析の精度を上げていくしかありません。
(追記)
当エントリーに対し、ツイッターで下記のようなご意見をいただきました。
「実際に行ったからその人の意見が全てとはならないと思いますよ」 もちろんそのとおりです。自分も含め、ひとりひとりの経験者の見聞は無数にある「情報」のワン・オブ・ゼムに過ぎません。これも基本です。
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- 2013/09/19(木) 10:54:40|
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昨日、TBS「朝ズバ」で、文字コメントのみ採用していただきました。尖閣問題です。
しばしシリア情勢で忙殺されていて、その他のテーマが疎かになっていましたが、遅ればせながらこちらの情報も御紹介します。インテリジェンス界(?)では大事件といっていいです。
▽中国指導部、周永康・前政治局常務委員の汚職調査へ=香港紙(ロイター 8月30日)
周永康は中国の「公安のドン」とでもいうべき大物です。前の最高指導者・胡錦濤のライバル派閥の実力者で、薄熙来の後見人のひとりでしたが、薄熙来失脚の後、自身も失脚していました。今回、習近平が完全に周永康を政治的に抹殺したことになります。
- 2013/09/13(金) 12:16:47|
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シリア政府が化学兵器禁止条約に加盟申請。国連事務総長が歓迎の意を示しています。
ロシアの作戦でしょうが、これでアサド政権は安堵しているはず。焦点ずらしと時間稼ぎが目的であることは見え見えですが、すっかり外交舞台では化学兵器の国際管理の話に移っていて、問題の核心からどんどんずれていっています。これで、また長々と実のない交渉が続けられ、その間にアサド軍によって市民がどんどん殺害されていきます(すでに政府軍の砲撃・空襲の強化は始まっています)。
私の知る限り、シリア人の知人もSNSでの反応も、「やっぱりこれまでと同じで、外国なんてアテにならないな」という落胆感が圧倒的です。なんだか可哀想でしかたありません。
安倍首相はプーチン政権に同提案を歓迎するメッセージを伝えたとのこと。シリア国民に成り代わり、「残念です」と申し上げておきます。
ところで、先週の週刊朝日に殺害されたり拷問されたりした親族について書いたのですが、過去エントリーで元義父母のことを書いたことがあって、その点を知人に聞かれました。ので、私的な事情ですが、補足します。
元義母は一時期消息不明で、死亡情報が親族に流れたのですが、その後、無事が確認されました。現在、シリア国内で親族とともに暮らしています。
元義父は昨年、死亡しましたが、それは殺害されたのではなく、病死です。ですが、病状が悪化したのに、街が戦闘中で病院に行けずに死亡したので、やはり内戦の被害者だと思っています。
- 2013/09/13(金) 10:43:22|
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アサド政権寄りの方がしばしば指摘することに、「反体制派も非道な暴力行為を行なっている」ということがあります。
それでこういうタイトルだけみると、双方どっちもどっちな印象を持つのかもしれません。
▽シリア内戦、政府軍と反体制派の双方が戦争犯罪 国連報告書(CNN日本版)
国連が調査した9件の大量殺人事件のうち、8件は政権側、1件は反体制派によるものだったとのこと。1件というのはこれですね。
▽宗派抗争はなぜ危険なのか(拙ブログ 2013/06/13エントリー)
上記CNN記事はこう伝えています。
「反体制派による戦争犯罪は主に、後から内戦に加わったイスラム武装勢力の仕業とされる。6月には国際テロ組織アルカイダ系の武装勢力「ヌスラ戦線」のメンバーを含む反体制派が、イスラム教シーア派の村ハトラを襲撃。「ハトラを襲撃した反体制派の戦闘員が、少なくとも民間人20人を殺害したと信じるに足る根拠がある」と伝えた」 結局、こういうことです。
①政府軍による戦争犯罪が、反政府軍による戦争犯罪よりずっと多い
②反政府軍による戦争犯罪は主に後発のイスラム過激派によるもの
構図でいうと、こんな感じです。
「政府軍」>>>>(何倍も差)>>>>「イスラム過激派」>>>>>>>「反体制派主流派」(きわめて稀少なケースのみ)
つまり、イスラム過激派以外の反体制派(反体制派の主流派)の戦争犯罪はきわめて少ないわけです(戦争ですから、ゼロというわけではありませんが)
ところが、アサド支持を訴えたい方は、「反体制派はすでにイスラム過激派のテロリスト中心」という根拠のない虚構を主張し、反体制派の数少ない戦争犯罪を誇張しています。よく使われるのが、捕虜を処刑している映像や、敵兵の死体を食っている映像ですね。
戦場をご存じない方にはなかなかわかっていただけないかもしれませんが、戦場では双方の戦闘員は仁義なき命の奪い合いをしています。捕虜処刑を是認はしませんが、民間人殺害と同等にみる感覚は、戦場ではありません。
- 2013/09/12(木) 12:50:14|
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北朝鮮がそのときどきで強硬路線や融和路線に振れるというのは、おそらく間違いです。彼らは、経済的利益&緊張緩和目的の施策と、安全保障目的の核戦力増強をどちらも、常に追及しています。その過程で対南挑発などの揺さぶりをかけることはありますが。
▽開城団地5カ月ぶり操業再開 16日から=南北が合意(聯合ニュース)
▽北朝鮮が寧辺の実験用原子炉を再稼働か、衛星写真で白煙確認 (ロイター)
日本にとってたいへん深刻なのは、ロイターのニュースのほうですね。なぜかあまり注目されてないですが。
どちらも北朝鮮の立場でみれば、国益追及という目的に合致した、じつに合理的な選択です。金正恩政権が暴走しているという見方も、おそらく間違ってると思います。
- 2013/09/12(木) 11:20:27|
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まさかの急展開で、化学兵器国際管理という話が進んでいますが、米露ともにきわめて強い条件付きなので、まだどうなるかわかりません。シリア=ロシア連合の時間稼ぎですね。これまでの不毛な国際社会の交渉とやらでまた時間が浪費されるのでしょうか? その間も人々は殺され続けています。
ところで、いまだに化学兵器使用はどちらか?という方もいらっしゃるかと思いますので、ご参考まで。
▽化学兵器の使用許可申請 シリア政権指揮官と独紙(共同 9月9日)
▽シリア軍の化学兵器使用 「証拠ある」 、国外脱出の法医学者明かす(ロイター 9月10日)
▽アサド政権、反体制派に毒ガス使用した可能性高い=国際人権団体(ロイター 9月10日)
確度が高いのは、やはり最後のヒューマンライツ・ウォッチの報告ですね。あそこは不確かな情報で断定的なことを言うのは避けますから、ここまで言いきるということは、それなりに確信があるのでしょう。独自の現地情報をもとにした中立な第三者機関の報告ですから、説得力もあります。
他方、こんなものもあります。
▽反体制派が化学兵器使用? 拘束中の伊記者ら漏れ聞く(9月10日 MSN産経)
(一部引用)⇒拘束されていた部屋のドアの隙間からある日、反体制派関係者らのインターネット電話「スカイプ」を使った英語の会話が漏れ聞こえてきた。化学兵器攻撃は西欧諸国が軍事介入するように反体制派が仕掛けたもので、死者の数は誇張されているとの内容だったという。キリコ記者は「会話していた連中の素性も分からない。(これだけで)アサド政権が化学兵器を使わなかったと言うのは無理がある」と述べた。(引用終わり)
だそうです。これでは参考情報にもならないような・・・
- 2013/09/11(水) 18:26:19|
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一昨日にJBpressに寄稿したシリア記事に、多くの反響をいただきました。ありがとうございます。
前エントリーでも書きましたが、プライベートな事情を公開するのは抵抗があったのですが、それでも人々に話を聞いていただくためにはと決断しました。
元妻は現在、シリアの某隣国で難民支援活動に携わっています。彼女が言うには、現在、彼女の周囲のシリア人の多くは、アメリカの軍事介入に期待していたのに、一向に動かない様子なので非常に落胆しているとのことです。
下は昨年、元妻がたったひとりで、青山の国連大学前で反アサド・デモを行ったときの写真です。道行く人々は、ほとんど関心を示しませんでした。
人づてに日本の人権団体の人とも会ったのですが、問題意識がまるで違っていて、残念ながらまったく会話になりませんでした。
- 2013/09/11(水) 08:51:22|
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駐日シリア代理大使が記者会見。
▽米報告書に強く反論 シリア代理大使(産経)
発言の中には、こんな言葉もあったようです。
「国際社会―国連には「いつでも来て調べてください」と言っている。テロリストがこんなことをやっているとお見せしたい」
(▽シリア代理大使 「米国につき従ってはいけない」)(ブロゴス/田中龍作氏レポート)
もちろん嘘ですが、彼女は嘘を言わないと本国の一族が酷い目に遭わされる立場にいます。
この代理大使のことは知りませんが、胸元の大きく空いた服装で公の場に出るのは、シリア政府機関幹部としては珍しいですね。自分たちはイスラム過激派と戦う西側基準の仲間だというアピールでしょうか。
「反体制派は外国の支援を受けるテロリスト」とか「化学兵器使用は反体制派の自作自演」とか、ネット上だけの戯言かと思っていましたが、最近のシリア報道で、意外と日本の論調で影響力があることに少し驚いています。
大雑把に言えば、日本の論調は、「現地の声」と「独裁政権のプロパガンダ」が同格の両論併記で紹介されている印象があります。
「シリア情勢は国外勢力の思惑が錯綜し、そう単純な話ではない」
現地事情がわかりづらいためか、こんな言説が多いようですが、日々殺され続けている現地の人にとっては話は単純です。
「誰でもいいからアサド政権を倒してほしい」
私はなんだかんだと20年の縁があり、日本人記者としては誰よりもシリア社会と長く、深く接してきました。今でも知人が多いですし、なにより自分はかの国をルーツのひとつとする子供たちの父でもありますから、自分にはこの問題では声を上げる責務があると思っています。
ということで、JBpressに寄稿しました。
▽「どこの国でもいいから助けてくれ!」 シリア国民の悲痛な叫びを聞いてほしい(JBpress)
本当はあまり私的なことは公開したくないのですが、やはり私の知るシリア国民の声を、もっと広く皆様に聞いてほしいと思っています。
同じような理由で、先週発売の『週刊朝日』に寄稿した「アサド政権の化学兵器使用と恐怖政治」という記事中でも、自分の元妻がシリア人であることを明かし、アサド政権の邪悪な本質を紹介しています。
こちらは記事の一部が、同誌提供でdot.に2回に分けて転載されています。
▽シリア秘密警察 日本人軍事ジャーナリストにスパイ嫌疑▽シリア情勢 日本の報道と現地には温度差 今回、現地の声を広く知っていただくために私的な事情を公開しましたが、私の分析と判断は、むろん単なる個人的人脈からの情報だけに頼っているわけではなく、これまでの取材経験や、広範囲の情報収集・分析に基づくもので、それなりに自信を持っています。
- 2013/09/09(月) 09:33:30|
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オバマ大統領がシリア政府軍への攻撃の意向を明らかにしました。政府軍の常軌を逸した蛮行に苦しめられているシリアの人々には朗報ですが、ただし、「議会の事前承認を求める」方針だそうです。議会は現在、休会中で、9月9日に再開予定。ということは、早くとも10日も後にならないと実際には動かないということですね。
また、アメリカの国益あるいは安全保障に直結しない問題ですから、議会がイギリスのように否決する可能性もあります。オバマ大統領もホンネでは消極的でしょうから、そうなると、仮に議会で否決された場合、「自分は動きたかったが、議会の反対でできなかった」となるかもしれません。
シリアの人々はもう2年半前から、国際社会に対して、アサドの暴虐から自分たちを救って欲しいと願ってきましたが、それがことごとく裏切られてきたため、絶望的な気持ちになっていました。それが今回、初めて米軍が動きを見せたことで、不安ながらもようやく期待感を持ち始めていました。
これがもしも、議会の反対ということでオバマ大統領が手を引いたら、あまりにも可哀想ですね。逆にアサド政権は勢いづき、「何をやっても許される」ということで、住民の虐殺をさらにエスカレートさせていくでしょう。
28日のTBSニュースバード「ニュースの視点」に続き、29日のフジテレビ「とくだね」でVTRコメント、30日のTBS「ひるおび」スタジオ出演、31日のTBS「ニュースキャスター」VTRコメント、等々でシリア問題について発言させていただく機会がありました。
シリア問題については、日本ではこれまでほとんど関心を持たれることがなかったのですが、ここ数日、急に大きく注目されるようになってきました。米軍出動がこんなにインパクトあるとは・・ですが、今回、これで軍事行動は少なくとも9月9日以降になりそうなので、シリア報道もこれで萎んでいくことでしょう。
いずれにせよ、シリア問題では日本のメディアではなぜか現地の声をほとんど無視して(いまや日本人でも現地取材経験者はたくさんいるのに、なぜか彼らの伝える現地の声をあまり採り上げないんですね)「反体制派は外国の支援を受けたテロリスト」「シリア内戦は国外勢力の代理戦争」といったシリア国営通信みたいな言説が出回っているので、こちらはきっちりと「アサド政権は最悪の暴力政権」という事実を発信させていただきました。
シリア問題に関する言説というのは、現在、ほぼ以下のような構図になっています。
▽現地取材経験者⇒反アサド(私は現地取材経験者ではないですが、主な情報ソースが現地の人脈なので、情報源のタイプとしてはこちらに入る感じです)
▽アルジャジーラ、欧米主要メディアなどを情報源とする人⇒反アサド(これらの国際メディアは、結局はいちばん現場を取材していますし、現地の声も拾っています)
▽シリア国営通信、ロシアのメディア、イラン・ラジオ、アブハジアのテレビなどを情報源とする人⇒親アサド(参考情報としては構わないと思いますが、これらを主なソースとするのはインテリジェンス的に落第ですね)
▽上の親アサド系メディア情報をソースとして書かれたネット情報を主な情報源とする人⇒親アサド(日本ではこの層が根強くいますね)
▽両論併記が原則の日本のマスメディア⇒中立(ホントでこれでいいんですか?とは思いますね)
- 2013/09/01(日) 04:04:53|
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