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ワールド&インテリジェンス

ジャーナリスト・黒井文太郎のブログ/国際情勢、インテリジェンス関連、外交・安全保障、その他の雑感・・・(※諸般の事情により現在コメント表示は停止中です)

マーヘル・アサドの暴走の可能性も?

 アサド政権寄りのクルド民兵「民主統一党」(PYD)のサレハ・ムスリム代表が、この時期に化学兵器を使うほど「アサド大統領はそれほど愚かではない」と発言。
 化学兵器攻撃は大統領の実弟マーヘル・アサド指揮下の第4師団が行ったとのイスラエル筋情報が事実なら、大統領が唯一コントロールできない人物であるマーヘルが暴走した可能性もあります(あくまで推測の推測です)。
 マーヘルは昔から粗暴で分別のない人物で有名でしたが、テロで重傷を負ったらしく、無分別に拍車がかかっている可能性があります。
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  1. 2013/08/29(木) 10:23:47|
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アサド政権の時間稼ぎ

 シリア社会と関係の深い人がたくさんいる欧米やアラブ諸国では、アサド独裁政権の信用度などゼロに近いので、メディアでも世論でも、アサド支持者など泡沫の変人扱いされています。なので、今回の軍事介入への動きに対しても、それぞれの国内では「外国への軍事介入」に関してはさまざまな異論があっても、「反体制派の自作自演説」を論拠に反対する声が主流になるなど考えられません。
 ですが、なぜか日本ではアサド寄りの人が多く、「化学兵器は反体制派の自作自演」という陰謀論が根強くあります。アサド政権の性質を理解できていないということでしょう。
 化学兵器使用が反体制派の陰謀なら、なぜアサド政権は国連の調査団の受け入れをなんだかんだと長い間拒んできたのでしょうか? それこそ欧米取材陣も含めて即時に受け入れたら反体制派の蛮行を世界に示すチャンスであるのに。
 今回の件でも、目の前に調査団がいるのに、5日もストップをかけていました。サリンの効果などせいぜい半日くらい。数日で決定的な痕跡は検出が難しくなります。
 しかも、被害地に大規模な砲撃が加えられ、化学兵器使用の痕跡をさらに消しました。後に「反体制派が使用した」と言い出していますが、当初はそもそも化学兵器使用自体をごまかそうとしていたわけです。
 インテリジェンス的にみても、米英仏の首脳や政府高官があそこまで言い切るからには、まず間違いはないですね。アメリカは数日中にも証拠を公開するということです。偵察衛星画像かと思っていたのですが、通信傍受という説が出てきました。
 それはアメリカとしても、本来なら見せたくない手の内を見せるわけですから、切り札の公開です。本当にそこまでやれば、アメリカは本気だということですから、爆撃は間違いでしょう。
  1. 2013/08/29(木) 09:25:31|
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ロシア情報の信憑性が低い理由

 現在発売中の『週刊現代』でコメントを採用していただきました。エリア51に関する記事で「たぶん宇宙人はいない」と言ってしまいました。

 シリア問題でときおり「英米の情報は信用できない」「ロシア情報によると~」といった言説を目にするので、ひとこと。
 まず、インテリジェンスの基本として、どんな情報もそのまま鵜呑みにしてはいけないということがあります。この情報源は常に必ず正しい、などということもありません。
 それを踏まえたうえで、考えるべきは、「では、どの情報源のほうが正しい確率が高いか?」ということになります。
 シリアの化学兵器問題で、英米仏の情報と、ロシアの情報が真っ向から対立しています。この場合、英米仏の情報の確度が圧倒的に高いです。
 英米仏の場合、国家が意図的に偽情報を流すことには、非常に高いハードルがあります。メディアがその真偽を追及してきますし、嘘が露呈した場合、政権担当者が国民世論から容赦ない批判を浴びることになるからです。政権担当者にとって、露呈のリスクが高く、しかも露呈した場合のペナルティが致命的であるため、「意図的に」偽情報を流すのは、あまりに危険行為なわけです(イラク大量破壊兵器問題のように、インテリジェンスの誤謬による誤情報・誤分析は当然あります)。
 それに比べて、ロシアの場合は主要メディアが実質的にロシア政府のコントロール下にあるので、ロシア政府はメディアも世論もさほど気にする必要がありません。なので、ロシア政府筋の情報には日常的にプロパガンダが入っています。
 べつに反米思想などは個人の自由ですから構わないと思いますし、思想的にロシアの主張に賛同することも構わないとは思います。ですが、ロシア情報はそれなりに割り引いて捉える必要があります。
  1. 2013/08/29(木) 00:29:23|
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シリア情勢の解説なう

 本日、CS放送ですが、TBSのニュース専門局「ニュースバード」の「ニュースの視点」という番組に呼んでいただきました。シリア情勢の解説です。
 生放送は終了しましたが、現在、再放送中です。
  1. 2013/08/28(水) 21:05:41|
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シリア爆撃への期待

 英米仏軍が地中海からの爆撃準備を進めています。化学兵器再使用への抑止が目的ということで、軍事介入のレベルとしてはきわめて限定的なものに留まりそうですが、それでもシリアの知人たちのあいだでは期待が高まっています。
 少なくとも主要航空基地を潰してもらえれば、部分的ではあるけれども実質的な飛行禁止措置に近い状態になりますから、一般国民への攻撃がかなり軽減されるでしょう。
 反体制派も攻勢に出ますから、戦局も大きく変わります。

 前回、前々回のエントリーに疑問の声をいくつかいただいております。
 基本的に、私のシリア分析のベースにあるのは、20年間、親戚としてシリア社会を内部からみてきた経験です。私の親族はバース党でも政府関係でもない一般のスンニ派住民で、秘密警察に監視される側、つまり大多数の国民の側にいます。
 ちなみにシリアでは、シリア人の夫に外国人妻というケースは珍しくないのですが、逆は極めて少なく、秘密警察の強い監視を受けます。私自身、結婚して初期の頃は、乃木坂のシリア大使館に何度も呼びだされていますし、自宅に大使館員が来たこTもあります。シリアの親族も何度も現地の秘密警察に呼び出されています。
 いずれにせよ、そういう親族がいて、その周辺の友人知人関係に本音で話し合えるネットワークがあります。
 革命が始まってからも、そうした人脈からさまざまな情報をいただいています。もちろん一部の情報源にすぎませんし、バイアスもかかっていますから、情報ということではワンオブゼムにすぎませんが、アサド政権の性質といった社会通念のようなものに関しては比較的、シリアの方々と意識が共有できているのではないかなと自分では思っています。
 あとは、シリア以外の紛争地での取材経験、多少のインテリジェンス分析の勉強の経験などもありますが、やっぱり自分では何と言っても大きいのは、このシリアとの関わりの経験値ですね。
 当エントリーにおける記述には、必ずしも個別のソースのあるインフォメーションに限らず、自分の経験に基づく「シリア社会での常識」も入っています。あの徹底した秘密警察国家では、世論調査などのようなものはまったく意味がありません。各人がどれだけ深くシリア社会と関わったかが大きいのですが、それ自体は個人的な分析・評価にすぎません。
 なので、他の意見があってもいいかと思いますが、私の経験からすれば、「アサド政権が国民に支持されている」などの見方は、シリアという国のことをまったく知らない人の空想でしかないですね。「アサド政権なら平気で国民に化学兵器も使うだろう」というのも、あちらでは常識の範囲です。シリアだけでなく、アラブ独裁国ではどこもそうで、サダムもカダフィも同じでしたが。
 このタイミングでアサド軍が化学兵器を使ったのは、私にも意外ではありましたが、考えられないわけではありません。その理由は前々回に書いたとおりです。
  1. 2013/08/28(水) 08:34:29|
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シリア人と外国人の意識の温度差

 前エントリーで、「化学兵器を使用したのは政府軍か否か」に関して記述しましたが、私が「犯行は政府軍によるものである」と考えるいちばんの理由を書き忘れていました。
 それは、シリア人(国内居住者も国外居住者も)の大多数が、「そういうことやるのは政府軍だろ」と当たり前のように考えているということからです。私も他の外国人も、そういった皮膚感覚では所詮ガイジンであり、直感の部分では、かの国に生まれ、あるいは育った人々の感覚のほうが、たいていの場合、正しい確率が高いといえます。シリアにもさまざまな考えの人がいますが、アサド派も含め、シリアの人はほぼ「政府軍ならやりかねん」と知っています。
 こうした内外の人々の感覚の温度差ということでは、化学兵器に対する感覚でも大きく違っているようにみえます。外国人は「化学兵器だから大変だ」と考えますが、シリアの人は、それこそ毎日のように爆弾が飛んでくるなかで生きていますので、化学兵器だからといって、今さらそれほど特殊なことのようには考えません。通常兵器で何万人も殺害されている日常ですから当然です。
 逆に言えば、アサド政府軍も同様です。毎日市街地への無差別砲爆撃で国民を殺害していますから、いまさら化学兵器だから云々といった感覚は乏しいのでしょう。
  1. 2013/08/23(金) 16:14:35|
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シリア政府軍が化学兵器を使用する理由

シリアの化学兵器使用に関して、現時点では「毒ガスが使用されたことは確実」「誰の仕業かは証拠がない」状況です。これに対し、政権側は「すべて嘘」と、反政府側は「政府軍が使用」と主張しています。
 被害に遭った地区は反政府軍の支配地域で、政府軍による無差別砲爆撃が長期間続いていたエリアでした。化学兵器が使用されたとき、すでに政府軍が大掛かりな攻撃をかけていました。また、化学兵器使用とほぼ同時に、政府軍は戦力を集中投入し、同地域の掃討作戦を開始しています。これらは、(良し悪しはべつとして)軍事作戦としては有効なものです。
 前述したように、現時点で「政府軍の仕業」と断定できる証拠はあがっていませんが、これだけの軍事作戦はそれなりに準備が必要なもので、化学兵器使用はその一貫として実行されたと考えるのが自然です。反体制派犯行説もあるようですが、政府軍の攻勢のタイミングに合わせて反政府軍が化学兵器をあれだけの規模で散布できるかというと、まず現実には不可能でしょう。オペレーションには意思と能力が必要ですが、まず能力の点で陰謀論は排除できます。
 
 また、こうしたケースでの判断材料としては、各プレイヤーの過去実績もそれなりに重要です(もちろん例外はありますが)。まず、政府軍が一般市民の被害を一切考慮しないことは、これまでの実績が証明しています。
 他方、反体制派の自作自演説はこれまでもありましたが、すべて根拠がなく、陰謀論の域を出ていません。これほど情報がダダ漏れする時代に、陰謀があれば何かしらの痕跡が流出するものですが、それがないということは、そうした情報は妄想もしくは意図的な情報操作ととらえるべきです。
 今回も、自作自演であれば、あそこまで大きな被害をもたらす必要はないのに対し、政府軍の作戦とすれば、非常に効果的だったわけですから、情況証拠的には政府軍の犯行とみて間違いないでしょう。
 グータ地区などダマスカス東部の戦線は、現在も反政府軍優位の戦局にあったので、政府軍としてはなりふり構わなかったということでしょう。政府軍も余裕がなかったということですね。武力によって支配権を確保するという目的からすれば、政府軍は目的に沿った作戦を行ったわけです。

 この政府軍の行動が外国人にわかりづらいのは、化学兵器使用問題が世界で問題視され、ちょうど国連の調査団が入ったタイミングで、なぜ政府軍がそのような行動に出たのかが不思議にみえるからです。
 これは単純な話で、これまで長い間、シリア内戦の趨勢を決定してきたのは単純に双方の戦力比であり、国際社会はまったく無力だったからです。当事者の政府軍とすれば、国際的な非難よりも国内の戦闘が重要であるとの判断です。
 政府軍とすれば、とにかく反政府軍を撃退することが最優先との考えで、そのためにどんな手段でもとる、と。あとは対外的にはシラを切っておけば、どうせロシア、中国、イランが同調し、これまでと同様に国際社会を抑えてくれると見ているのでしょう。また、アメリカのオバマ政権が軍事介入には踏み切らないだろうとの判断もあったのでしょう。
 実際、フランスが軍事介入を匂わせていますが、肝心のアメリカの反応は鈍いです。
  1. 2013/08/23(金) 07:20:14|
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シリア化学兵器で大量殺戮

▽シリアで化学兵器使用の情報、1300人が死亡か(CNN)
 ダマスカス東部近郊のグータ地区です。反体制派が浸透していて、長期間にわたって政府軍が市街地への無差別爆撃を行ってきたエリアです。
 アサド政権軍の一部が暴走したということかと思いますが、まだ詳細は不明です。
  1. 2013/08/22(木) 18:48:53|
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「安全性」と「基地問題」を混同しているオスプレイ反対運動

 オスプレイは他の軍用機と比べて、とくに危険な欠陥機ではありません。これは何も私だけが主張していることではありません。軍事専門誌に評論を書いているような軍事評論家の方で、オスプレイを欠陥機だと言っている人はたぶんいないと思います。
 オスプレイ欠陥機説というのは、日本だけの独特な現象です。先週、私は朝ズバで「オスプレイ反対の声はアメリカにはない」と明言し、基地反対派の顰蹙を買ったようですが、どの軍事専門家に聞いてもたぶん同じコメントをすると思います。
 しかし、日本ではいまだにオスプレイを危険な航空機だと誤解している方が多くいます。これはおそらく基地反対派の方々の中に誤解があり、それがマスメディアの方々にさらに誤解されて広まり、その誤解のままに報道されているからと思われます。
 この問題は、どちらもべつに日本の安全を考えてのことなのでしょうが、左右の感情的な敵意むき出しの論争になりがちで、なかなか建設的な方向に議論がいきません。
 当ブログでかねて書いているように、私自身は沖縄基地のうち、海兵隊基地については大幅縮小が持論なので、どちらかというと基地反対派に近い立場ですが、それでも基地反対派の一部のメディアが仕掛けるオスプレイ欠陥機説は、あまりに事実を恣意的に歪曲したものであり、賛成できません。
 私がちょっと残念に思うのは、マスメディアの方の中に、基地反対派(とくに在沖縄メディア)の言うことを無条件で信じてしまう傾向が感じられることです。私のブログごときが基地反対派の方々の耳に届くとは思っておりませんが、マスメディアの方でこの問題の報道に関わっている方がひとりでも読んでいただければと願い、昨年10月にJBPRESSに寄稿した記事の一部を再録してみます(※元記事ではそれプラス、日本政府の対応の問題に言及しましたが、対立軸を明確にするため今回は割愛します)。

「安全性」と「基地問題」を混同しているオスプレイ反対運動

 2012年10月1日、オスプレイの沖縄配備がいよいよスタートした。地元では反対運動が激化しているが、米軍は粛々と計画通りの運用を10月中旬より開始する予定で、日本政府もそれを認めている。今後も反対運動は続くだろうが、彼らの要求は無視されるだろう。
 ということで、反対派と賛成派の遺恨試合は、これからも続く。反対派は「沖縄を踏みにじる日米両政府」を非難するだろうし、オスプレイ容認派は「反対派は日本の安全保障を分かっていない」と批判する。どうも議論がかみ合わない印象だ。
 オスプレイ配備の是非をめぐる言説は、2012年7月の大騒動の頃に出尽くした感があるが、あれから3カ月が経過し、改めて振り返ってみると、議論が進まない理由がいくつか見えてきた。要するに、下記の2つの論点がごちゃ混ぜになっているのだ。これらは本来、まったく質の異なる問題である。

(1)オスプレイは欠陥機か否か?
(2)在沖縄米軍基地をどうすべきか?

 まず1つめの論点は、「オスプレイは欠陥機か否か?」だが、本来、今回のオスプレイ配備問題は、これに尽きる。そもそも巷間言われているような欠陥機であれば、そんな危険なものが日本国民の頭上を飛び回っていいはずはない。住民の反対は当然なことで、そんな暴挙に出る米軍も、それを許した日本政府も到底許されない。
 しかし、結論としては、上記のような話にはならない。オスプレイには構造上の欠陥はなく、他の米軍機に比べて、特に危険ではないからである。
 すでに広く報道されている通り、沖縄に配備されるMV-22オスプレイの飛行10万時間あたりの重大事故率は、他の海兵隊の航空機の平均値よりも低い。といっても、それほど突出して低いわけでもないので、要するに“普通”ということになる。
 姉妹機の空軍特殊作戦用CV-22オスプレイ機は事故率が非常に高いが、これはそれだけ過酷な運用をしているのが原因である。例えば、自動車でも乗用車とF-1マシンの事故率を比べても意味がないように、航空機の事故率を、その運用事情を無視して比較してもしかたがない。
 また、すべての航空機は通常、開発・試作段階から配備初期に事故が起こりやすく、概して老朽化によってまた事故率が上がる。機械工業の分野で、故障率のバスタブ曲線と呼ばれる法則だが、それに加えて、運用傾向によっても事故率は大きく変動する。後継機種の登場によって旧式機が実戦や訓練から引退し、平時の輸送業務中心に出番が限定されれば、それだけ事故率は下がる。こうした傾向を利用すれば、調査対象期間の設定次第で、特定の機種の事故率を高く見せたり、低く見せたりすることもできる。オスプレイ反対派が持ち出す“数字”はすべて、こうして恣意的にこじつけたものだ。

 防衛省と外務省は2012年9月19日、「MV-22オスプレイの沖縄配備について」との報告書を公表した。2012年4月のモロッコでの墜落事故、および6月のフロリダでの墜落事故(こちらは特殊作戦用CV-22)の原因究明調査を踏まえ検証した結果、「機体の安全性には特段の問題はなく、MV-22オスプレイが他の航空機と比べて特に危険と考える根拠は見出し得ない」と結論付けられた。
 上記のモロッコとフロリダでの相次いだ墜落事故が、オスプレイ危険説のいちばんの論拠だったが、米当局の調査結果では、いずれも人為的な操作ミスであり、機体の欠陥が原因ではなかったとされた。十分に根拠のある内容であり、反対派がこれを“論理的”に否定することは不可能であろう。
 そうなると、反対派としては、「日本政府も米軍も、事実を隠蔽しているに違いない」との陰謀論に頼るしかなくなるが、少なくとも米軍当局が、米兵の生命の安全に直結する問題でそのような隠蔽工作をしたら、大変な大スキャンダルである。仮にそんなことをしたとしても、到底隠せるはずがない。要するに、陰謀論は荒唐無稽な妄想なのだ。
 反対派からはこの他にも「大量の事故機を隠している」「欠陥機であることを現場兵士は承知しているが、米軍上層部が口止めしている」「軍産複合体がウラで暗躍している」といったトンデモ陰謀論がいくつも出ているが、いずれも根拠のまったくない空想の話にすぎない。
 もう少しまともな反対論としては、「たとえ機体の欠陥でなくとも、人為的な操作ミスが頻発するような操作性の悪い機は、安全とは言えない」との指摘がある。確かにそのとおりだ。しかし、オスプレイはたまたま2件の操作ミス事故が続いただけで、決して他の航空機より事故が多いわけではないことは、数字が証明している。

 このように、反対派は一所懸命にオスプレイの安全性に対するマイナス要素を探し出し、それを基にネガティブキャンペーンを仕掛けるが、そのことごとくが論理の正当性を逸脱しており、破綻している。最終的には、「それでもオスプレイは絶対に落ちないとは言い切れない」といった言い方がされるが、そもそもすべての航空機は100%の安全性など担保できない。
 問題なのは、あくまで安全性を阻害する機体の欠陥の有無であり、結局のところ、オスプレイは他の海兵隊の航空機より危険とは言えないのだ。

基地反対運動の攻撃材料に

 しかし、それでもオスプレイが危険だと信じている国民は少なくない。反対派に同調するマスメディアが、大々的にネガティブキャンペーンを続けているからである。
 ここで留意すべきは、オスプレイ反対論の中心にいるのは、基地反対派であるということだ。彼らは、オスプレイだから反対しているのではなく、沖縄の米軍そのものに反対している。彼らは基地反対運動のための攻撃材料を常に探しているが、そこにオスプレイが現れた。そこで、オスプレイは危険だとのキャンペーンを仕掛けたのである。
 これは宣伝戦・心理戦としては大成功で、普段は基地問題に無関心な人々も、危険な欠陥機が日本の上空を飛び回るなどという話には過敏に反応する。テレビで「危険な米軍機がやって来る」などという話を聞けば、誰だって不安を覚える。

 お断りしておくが、筆者自身は沖縄の海兵隊に関しては、「大幅に縮小すべし」と考えている。在沖縄米軍の存在は抑止力として認めるものの、現在の規模は日本に必要な抑止力のレベルを超えており、沖縄が過大な負担を強いられていると思っているからだ。
 その意味で、筆者はむしろ基地反対派の側に軸足を置く立場だが、それでもオスプレイ反対の論拠は邪道だと思う。
 基地反対の議論と、危険な機体ではないかという議論はまったく別のもので、そこを故意に混同すべきではない。いくら宣伝戦で成功したといっても、アンフェアな仕掛けは、正当な議論のためにはマイナスではないかと考える。

「安全保障のためにオスプレイが必要」という反論は有効か?

「オスプレイは危険か否か?」という、すでに真相が明らかな論点を巡る宣伝戦にかまけている間に、本来、議論すべき問題が影に隠れてしまっていることを指摘したい。普天間飛行場の移設問題だ。
 オスプレイが特に危険な航空機ではないとしても、普天間飛行場の環境そのものが極めて危険だということは間違いない。したがって、普天間飛行場の移設問題こそ、早急に取り組むべき問題である。
 筆者自身の考えは、嘉手納統合がベターというものだが、これにはさまざまな考えや立場の人がいるので、ここではこれ以上言及しない。ただ、「普天間の危険性」と「オスプレイの危険性」は、関連はするが別個のイシューであり、これを故意に混同すべきではない。オスプレイが配備されなくとも、既存のヘリだけで普天間は十分に危険なのである。
 他方、オスプレイ賛成派・容認派の側には、オスプレイが必要な理由について、安全保障上の観点から論じる議論があるが、これも反対派との議論をおかしくしている。
 海兵隊がオスプレイを導入することで、在日米軍の能力は強化され、ひいては抑止力も強化される。それは事実である。しかし、オスプレイ反対派による「危険な欠陥機だ」との主張に対する反論としては、抑止力強化論は有効ではない。
 仮にオスプレイが危険な欠陥機であるなら、「日本の安全保障のために、沖縄県民の生命を危険に晒してもいい」というロジックになる。「オスプレイは抑止力として必要だから、危険だけれども我慢してくれ」と言われても、これは沖縄県民には受け入れられない話だろう。
“日本の安全保障”と“沖縄県の負担軽減”は、沖縄駐留米軍問題の2つの核心で、もっとも重要な論点だが、かといって、オスプレイが危険な欠陥機であるかどうかは、直接はリンクしない。

 オスプレイの問題点は、実際には危険な欠陥機ではないオスプレイを、基地反対派が強引に争点に持ち出したことにある。その論理が破綻していることは上述した通りだが、それでも、マスメディアを巻き込んだネガティブキャンペーンはかなり成功し、多くの日本国民が「オスプレイは危険だ」と誤解する状況になっている。
 今後、米軍は粛々と自らの計画のままにオスプレイを運用していく。反対派は、日本政府のアメリカ追従ぶりを非難するだろうが、その際、またオスプレイ欠陥機説を繰り返し持ち出すだろう。
 こうして、本来は別の話である「オスプレイは欠陥機か否か?」「在沖縄米軍基地をどうすべきか?」が、あるときは故意に、あるときは無意識に混同され、不毛な論争が続いていくことになる。(了)

 どんな航空機にも100%の安全など存在しません。いずれ沖縄のオスプレイが事故を起こすことも充分にあり得ます。
 しかし、それは本当にオスプレイだから特別に起きた事故なのだろうか?ということを検証せず、基地反対運動の材料ということで利用すれば、基地問題の本質からどんどんずれていくだけでしょう。
 今回のペイブホーク事故の報道をみて、そんな危惧を強く覚えました。
  1. 2013/08/12(月) 19:33:06|
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スノーデン事件の総括

 現在発売中の『軍事研究』9月号に、「スノーデン事件の真実 暴かれたアメリカの全世界監視・盗聴作戦」という記事を寄稿しました。この事件は、新聞やテレビでも大きく扱われたわりには、「あなたの通信データが盗みみられる」というような論調が多く、実際にNSAがどのようなことをやっているか誤解された話が広く出まわっていた印象があるので、一部推測を含みますが、現時点での事件の概要と、NSAの活動についてまとめてみました。
 また、『軍事研究』同月号には、現代の情報保全の技術面の問題点を解説した井上孝司さんの「スノーデン事件はなぜ防げなかったのか? 情報漏洩 インサイダーの脅威」もあります。同事件に興味のある方は必読です。
  1. 2013/08/12(月) 18:42:44|
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アメリカでオスプレイ反対???

 先日、「朝ズバ」内で私が「アメリカ国内でオスプレイ反対運動はない」と明言したことに対し、異論のある方がいらっしゃるようなので以下補足。

 基地反対派の方々が常に持ち出してくるのは、2件。
 ニューメキシコ州で、オスプレイと特殊作戦用輸送機による夜間山岳低空飛行訓練が、住民(先住民遺跡地区)の反対により延期。
 ハワイで、オスプレイによる飛行訓練予定地の一部が、先住民遺跡地区だったので、そこだけ中止。

 ニューメキシコ州のケースは、オスプレイだからということではなく、どんな航空機でも夜間山岳低空飛行訓練には反対の声があったということ。「オスプレイ反対」ではありません。
 ハワイのケースは、純粋に遺跡保護という問題。こちらも「オスプレイ反対」ではありません。
 これを、なぜか「アメリカでもオスプレイの安全性が懸念されている」と誤解している報道が跡を絶ちません。上記2件を報じる一部メディアが、たぶん思い込みからだと思うのですが、「安全性への懸念もあって・・・」と存在しない反対理由を書き加えており、そこから誤解が広く広がっているようです。
 それで「だからオスプレイは危険だ」と考えれば、オスプレイ反対を主張されるのは当然だと思うのですが、その元となる情報自体が誤解に基づいているわけです。
 私は当ブログでも書いてきましたが、在沖縄海兵隊の規模を縮小すべき、海兵隊基地ももっと大幅に縮小スべきとの考えですが、事実でないことは事実でないとの考えです。
 私ごときに出来ることは限られていますが、発言の機会をいただいた際には、少なくとも質問いただいたことには事実をお答えするしかありません。

(追記)
 上記2件を報じる記事の一例です。

「オスプレイ 米で反対運動、訓練延期」(12年7月19日 東京新聞)
 米軍の垂直離着陸輸送機オスプレイの低空飛行訓練計画に対し、米国南西部にある空軍基地周辺で反対運動が起き、訓練を半年延期し、内容を見直していたことが十八日、横浜市のNPOによる調査で確認された。米国で住民の不安に配慮していたことは、訓練への懸念が強まっている日本への配備や訓練計画にも影響を与えそうだ。
 見直しが行われたのはニューメキシコ州キャノン空軍基地。オスプレイの空軍仕様(CV22)機の低空飛行訓練計画を立て、昨年八月、簡易な環境評価書案を公表した。訓練は夜間に行われ、垂直発着陸のほか、乗組員の降下や物資の投下・回収などだった。
 住民らから騒音や安全性、自然環境への影響を懸念する意見が約千六百件寄せられ、空軍は先月、訓練開始の延期を決定。訓練内容を見直し来年の早い時期に発表することにした。(以下略)

 この記事では、特殊作戦用輸送機が参加する訓練だということが言及されておらず、オスプレイだけのような印象になってしまっています。また、夜間低空飛行訓練に対する住民の方々の反対が、「オスプレイに反対」かのような印象にもなってしまっています。
 しかし、実際には「オスプレイだから危険」などという声はありません。結果、記事タイトル含め、事実とは異なる印象になっています。

 他方、ハワイのほうはこちら。
▽米軍がオスプレイ訓練計画を中止 ハワイ2空港、環境に影響(12年8月14日・琉球新報)
 タイトルではきちんと「環境に影響」と書いていますね。
 本文中では「安全性に対する地元住民の不安」との一文がありますが、こちらもオスプレイだから危険というような話では全然ありません。
  1. 2013/08/09(金) 11:24:22|
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北朝鮮が濃縮ウラン増産まっしぐら!

▽北、ウラン濃縮能力倍増か 3月から工事、核兵器転用も 米シンクタンク(産経)
 日本にとって、北朝鮮の問題で最重要なのは、拉致問題と、何と言ってもこの問題です。
 なんとなくスルーされていますが、日本の安全保障にとって死活問題といっていいです。
 ・・・と、機会があるたびに発言しているつもりですが、日本の世論もなんとなく慣れてきてしまっているのが気になります。
  1. 2013/08/08(木) 22:51:55|
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沖縄米軍ネタのコメント技術

 現在発売中の『週刊現代』の記事「安倍自民 中国と全面戦争へ」(凄いタイトル!)にコメントを採用していただきました。
 また、一昨日は在沖縄米軍ヘリ事故で『朝ズパ』『ひるおび』スタジオ呼んでいただきました。
 また、今朝はアルカイダのテロ計画という話題で、『朝ズパ』文字コメントのみ採用していただきました。

 ところで、北朝鮮ネタやテロ事件ネタと違い、在沖縄米軍ネタでいつも苦労するのが、コメントの出し方です。もちろん正しい情報を視聴者の方々にお伝えしなければなりませんが、短時間のひとことで説明するのが至難の技です。
「軍隊がいれば訓練は当然です」
「どんなヘリも固定翼機も、事故ゼロはありえません」
「ペイブホークなどブラックホーク系列は比較的信頼性の高い機種です」
「今回の事故は演習場内での訓練中に発生しているので、住民に危険は及んでいません」
「事故防止にもっとも真剣なのは、兵士の生命がかかっている米軍です」
「オスプレイもとくに危険性の高い欠陥機ではありません」
「古い機体のほうが事故の危険性は高くなります」
 このあたりをきちんと説明できればいいのですが、なかなか・・・
  1. 2013/08/08(木) 09:28:37|
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プロフィール

黒井文太郎

Author:黒井文太郎
 63年生まれ。『軍事研究』記者、『ワールド・インテリジェンス』編集長などを経て、現在は軍事ジャーナリスト。専門は各国情報機関の最新動向、国際テロ(とくにイスラム過激派)、日本の防衛・安全保障、中東情勢、北朝鮮情勢、その他の国際紛争、旧軍特務機関など。

 著書『ビンラディン抹殺指令』『アルカイダの全貌』『イスラムのテロリスト』『世界のテロと組織犯罪』『インテリジェンスの極意』『北朝鮮に備える軍事学』『紛争勃発』『日本の情報機関』『日本の防衛7つの論点』、編共著・企画制作『生物兵器テロ』『自衛隊戦略白書』『インテリジェンス戦争~対テロ時代の最新動向』『公安アンダーワールド』、劇画原作『実録・陸軍中野学校』『満州特務機関』等々。

 ニューヨーク、モスクワ、カイロに居住経験あり。紛争地域を中心に約70カ国を訪問し、約30カ国を取材している。




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