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ワールド&インテリジェンス

ジャーナリスト・黒井文太郎のブログ/国際情勢、インテリジェンス関連、外交・安全保障、その他の雑感・・・(※諸般の事情により現在コメント表示は停止中です)

アレッポ混沌化の弊害

 シリアでは凄まじい殺し合いのなか、2012年も最終日になりました。
 当ブログではシリア情勢の情報についてお伝えしてきましたが、なんとか来年は政変が成就してほしいと切に願います。「政変後もどうせ大変だろう」と言う人が多いですが、それはそのときの話であって、今はとにかく1日も早くアサド政権を打倒するのが最優先です。

 さて、シリア情勢について、当ブログでは各地域調整委員会SNSを中心に現地の声をお伝えしてきているのですが、どうもアレッポの混沌が顕著になってきている形跡があります。
 シリア全土はまだまだ政府軍vs自由軍という構図で動いていて、地元の世論も自由軍支持でほぼ揺るぎないのですが、アレッポだけは分断が長期化したことと、すでに地歩を築いた反政府派内部で、ヌスラ戦線や各サラフィスト系グループ、クルド民兵、自由軍に入り込んだ一部軍閥グループなどが乱立し、反体制派内部の内ゲバが始まったことで、地元世論も分裂状態になってきている徴候があります。
 アレッポはもともとシリア国内でも最もアサド政権秘密警察の締め付けが厳しかった都市で、昨年の民衆蜂起後もいちばん最後まで反体制デモの広がりが少なかったことから、「外部から来た連中が騒ぎを起こした」というような、アサド政権が最も力を入れてプロパンガンダしている言説が徐々に住民の一部に浸透しつつある傾向が感じられます。
 こうした反体制派内部の軋轢に連動した地元世論の分裂というのは、今のところアレッポ周辺特有の現象ですが、事態が長期化すれば、他の地域でも似たようなことが起きてくる可能性があります。アサド政権は当然、それを仕掛けてくると思われますが、そこをなんとか踏み止まり、結束を保ってほしいと切に願います。

(追記)
 昨日のエントリーに、いつもお世話になっている消印所沢様と道楽Q様にコメントをいただいたのですが、道楽Q様への返信の後、消印所沢様への返信が、FC2のコメント連投禁止則に引っかかったようで出来なくなってしまいました。
 なので、こちらに貼ります。

(消印所沢様・記)
 今年一年たいへんお世話になりました.
 来年も宜しくお願い申し上げます.
 さて,逆に言いますと,現状,シリア内戦の仲介役として望ましい条件とは,どんなものなのでしょうか?


(黒井・記)
消印所沢様 こちらこそお世話になりました。来年もよろしくお願いいたします。
 さて、私見では、理想形は、国連安保理で停戦を強制し、数万規模の平和維持軍進駐と、国連主導の選挙実施と思います。ただ、アサドがそれを呑む徴候はなく、ロシアも反対するでしょうから、最初の入り口から実現はかぎりなくゼロに近いと思います。
 民族紛争や国家間戦争とは違い、国民の大量殺戮をすでに行った独裁政権と抵抗軍では、文字通り「殺すか殺されるか」の関係ですから、停戦はまず現実的に無理だと思います。
 現実的には、停戦仲介よりも、自由軍への軍事支援と、政府軍幹部離反工作支援のほうが有効だと思います。自由軍現地指揮官の多くが最近言っているのは、「人は足りている。武器が足りない」ということです。とくにダマスを含む南部がそんな状況です。
 結局、「内戦激化による犠牲者数」と「無駄に終わるのが明白な停戦仲介工作で時間を浪費して生じる犠牲者数」の見積比較というような話になりますが、「アサドは絶対諦めない」「反政府派も絶対諦めない」の2点を鑑みれば、現状では前者がトータルではまだまし、というのが私の分析です。

(追記)
 上記の私の返信の最後の部分は、部外者の立ち位置の核心だと思います。
 私もシリア人の身内ですから、シリア国民に犠牲者が出ないことを心より望む者ですが、双方が諦めないこの現状のなかで、政治解決できる方法が存在するというのならば、逆にどなたかにご教示いただきたいというのが正直なところです。
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  1. 2012/12/31(月) 12:23:32|
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相手にされないブラヒミ調停

▽シリア反体制派に妥協求める ブラヒミ氏とロシア外相(朝日)
「ブラヒミ氏は会談後の記者会見で『政権交代が必ずしもシリアの危機を解決することになるとは思わない』と述べ、アサド大統領の即退陣を求めている反体制派が歩み寄る必要があるとの認識を示した」
「ブラヒミ氏はアサド政権と反体制派の双方で移行政府を樹立することや、次の大統領選まではアサド氏が政権内にとどまることを提案した。しかし、アサド氏はこれを拒否したという」
「反体制派はアサド氏の出国が保証されなければ政権との対話には応じない構えで、双方の隔たりは大きい」
だそうです。
 当ブログ既報のとおり、ブラヒミはシリア国民(体制派除く)から総スカン状態にあり、まったく相手にされていませんが、それがお気に召さなかったのかもしれません。
 戦局は自由軍の攻勢が続いており、政府軍からは憲兵隊長(中将)まで離反しています。平和維持軍の大軍を投入しての停戦ならまだしも、アサド軍統治による停戦など妄想以外の何物でもありません。これでシリア国民サイドからの猛反発は必至で、ブラヒミ退場も時間の問題でしょう。
 ちなみにブラヒミはダマスでも「反体制派」に会っていますが、彼らは要するに「国民虐殺中の独裁政権の手の中で存在を許されている『反体制』派」であって、実際にはシリア国民の大多数に相手にされていません。
 政治活動のコアとしての国内各都市の革命調整委員会、実力組織としての自由シリア軍、対外窓口としてのシリア国民連合・・・シリア国民を代表するのは、あくまでこうした組織ですが、ブラヒミはやっぱり相手にされていません。

 ちなみに、今週の金曜恒例デモは「血まみれのパンの金曜日」でした。

(追記)
 ちょっと思い出した点があるのでひとこと。
 一昨日の池上解説もそうでしたが、「アメリカがシリア介入に消極的なのは、石油利権がないから」との解説を散見します。いかにももっともに見えますし、そうした要素が大きいのは私も同意しますが、それがすべてと言わんばかりの陰謀論は単純すぎる見方と思います。
 アメリカは今でも最大・最強の世界警察ですが、アフガン、イラク戦で多大の自国民兵士の犠牲者を出し、さらにイスラム社会で大きな批判を受けて対米感情の悪化をもたらした面もあったことから、「自国民兵士の犠牲を極力出さない」「国際的な反米世論を喚起しない」ということが軍事行動の絶対条件になっています。
 なので、きちんと地元反体制派の要請および国連安保理やアラブ連盟の承認があれば、地上軍派遣以外の軍事行動(飛行禁止措置や空爆作戦、地元革命勢力への軍事支援など)くらいはやります。リビアとシリアの差の最大要因は、ロシアと中国の安保理拒否権です。
  1. 2012/12/30(日) 07:33:46|
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射殺された親戚の子

 昨夜、池上解説で「アラブの春」も採り上げていました。ゲストの食いつきがイマイチなのは、国民の関心が薄いことと対応していますが、それでもシリアも採り上げていたのは良かったです。「シリア」という名前を知ってもらうだけでもベターですし。
 ただ、内容はやはり合格点とはいえませんでした。どこで聞いてきたのか、またありがちな「代理戦争」「宗教戦争」という誤った解説でした。影響力が大きい番組なので、もう少しきちんとリサーチしていただけるといいかなと思うのですが。

 私の親族の続報ですが、なんと痛ましいことに、子供の犠牲者が出ました。
 ダマスカス北方郊外のランクースで、叔母の姪にあたる女性が小学生の子供2人と乗っていたバスが政府軍に銃撃され、子供2人が即死しました。検問所から銃撃されたとのことです。私自身は会ったことのない子供たちですが、親族の怒りはたいへんなものがあります。

 ところで、一族に自由軍はいないと思っていたのですが、1人いました。カーブーンに住んでいた従兄弟の息子が最近、自由軍に加わったそうです。また、彼の弟は徴兵兵士なのですが、最近、仲間と逃亡したところ、途中で追っ手と銃撃戦となり、負傷したそうです。
 また、親族にはもう1人、徴兵で政府軍兵士になっている従兄弟の息子がいるのですが、彼は長いこと連絡がとれていないということです。

 以下はロシアに脱出した義母情報。
▽政府軍兵士の離脱が増えたため、政府軍は兵士不足。それで以前は軍が徴兵狩りで各戸をまわっていたのが、今では検問所で身分証をチェックし、17歳半くらい以上を問答無用で徴集しているとのこと。タテマエでは現在、18歳以上らしいのですが、兵士が足らないので半年くらい前倒ししてしまっているということです。
▽政府軍情報部グループが反体制派狩りをする場合、しばしばイラン人が参加。家宅捜索や尋問はシリア人が担当しますが、最後の処刑はイラン人が担当しているとのことです。
(こうしたイラン人を義母は直接は目撃していませんが、ダマスカス郊外県の親族の多くが目撃しているとのことです。この手の話は誇張がつきものですが、イラン人が暗躍していることはまず間違いないでしょう。ただし、抗争の主役はあくまでシリア人同士なので、池上解説の言う代理戦争などというものではありません)
  1. 2012/12/29(土) 13:24:33|
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「北朝鮮衛星打ち上げ」のまとめ

 いろいろ報道されているわりには、情報が錯綜していると思います。なにか変だなと感じたことについて、基本的なことをまとめてみました。
▽誤解だらけの北朝鮮・衛星打ち上げニュース 7つの疑問に答える(JBPRESS)
  1. 2012/12/26(水) 08:44:37|
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サリン使用の噂

 アラビア語主要メディアでもまだ言及されておらず、映像も出ていないので、9割方ガセだとは思うのですが、反体制派SNSの一部で拡散中の「噂」を念のためお知らせします。
 ホムスのアル・ハリディーヤとアル・バイヤーダで、航空機による爆弾投下があり、被爆地の住民の一部に、痙攣や視野狭窄らしき症状が出たとの未確認情報があります。今の内外の状況で、さすがのアサド軍も神経ガスを使用するとは俄かには信じられませんが、いちおう記しておきます。
(ちなみに、私が最初に見つけたのは地域調整委員会幹部のSNSです。ネット情報を長い間みていますが、故意の偽情報はすぐバレるので、あまりありません。誤解や誇張は多いですが)

(※追記⇒と思ったら、アル・ジャジーラとアルアラビーヤで既報でした。
▽アルジャジーラ英語版記事
▽治療シーン
▽同上その2

(追記)
 私事ですが、スペインに落ち着いた13歳の姪。クリスマスで賑わう町の灯りに、戦争という日常から急にワープした彼女は、逆にショックを受けているようです。
 もっと大変な子供たちがたくさんいると思うと、なんともやりきれないですね。

(追記その2)
 上記は「インフォメーション」としてはまだノイズ段階ですが、下のは虐殺のエビデンスです。
 クリスマス・イブで世界中の子供たちがサンタのプレゼントを待っている日に、タルビサで起きたこと。
▽政府軍による爆撃の被爆地の風景
1224sr1.jpg
 こんな動画がもう毎日、大量に発信されつづけて2012年も暮れようとしています。
 それにしても「アメリカの情報操作」とか「アサドは支持されている」とか本気で言っている人がいまだにいるのが不思議ですね。これを見ても「カタールのセットで撮影されたヤラセ映像だ」とか信じているのかもしれませんが(アポロは月に行っていないとか言い張り続けているのもいますから、あながち冗談ではないかも)。

(追記その3)
▽上と同じ場面
1224sr2.jpg
 これを見れば一目瞭然ですが、人々の憎悪の対象は、まず第一に殺人者であるバシャール・アサド大統領です。これは当然ですね。
 次にアサドと交渉なんかしているブラヒミに向いています。ブラヒミは別にバシャールのように悪事をしているわけではないですが、ピントのずれた言動が人々の怒りを買っています。
「話し合いで解決を!」というブラヒミの善意の妄言は、何の役にも立たないばかりか、殺人者を利するだけだと知るべきです。
 おそらく日本の皆様の中にも、戦いでなく「話し合いで解決を!」というスタンスに賛同される方も多いと思いますが、シリアの現状はそんな温いレベルではありません。内戦というと聞こえがいいですが、それよりも、「大量殺人犯グループが人々を殺しまくっている図」を想像していただければと思います。

(追記その4)
 CNN日本語サイトによれば、「シリア人権監視団は、中部ホムスで反体制派の6人が23日夜、白い無臭のガスを吸って死亡したと述べ、『ガスは政府軍の兵士が円筒爆弾を投げた後に放出され、一帯に拡散した』と話している。ガスを吸った人はひどい頭痛や発作に見舞われたという。同監視団は赤十字国際委員会に対し、事実関係の調査を要請した」ということです。
 また、当ブログでは紹介していませんでしたが、23日に発生していた虐殺について、CNN同記事にはこうあります。
「反体制派によると、同国中部のハルファヤ村では23日、パン屋が戦闘機に空爆されて、少なくとも109人が死亡している。同地ではそれまで1週間の間、パンの原料不足に見舞われていたが、22日になって人道支援物資が届き、23日はパン屋の前に行列ができていた」
 ついでに、ブラヒミの活動は以下のとおり。
「国連とアラブ連盟の合同特使を務めるブラヒミ特別代表は24日、シリアの首都ダマスカスを訪問し、アサド大統領と会談した。会談を終えたブラヒミ氏は記者団に対し、『今後取り得る措置について意見を交わした』と語り、シリア国民の危機脱却を支援するために取るべき措置などについて話し合ったと説明。『シリアの状況は依然として深刻だ。シリア国民の望む解決策をすべての関係者が受け入れることを期待する』と述べた」
 バシャールと無駄に会談して、無駄に意見を交わして、いったい何ができると考えているのか疑問です。
  1. 2012/12/24(月) 22:18:25|
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年賀欠礼のお知らせ

 ついうっかりして年末にすみません。
 義父ムハマド・アリ喪中にて、年頭のご挨拶をご遠慮させていただきます。
                             黒井文太郎
  1. 2012/12/24(月) 10:09:12|
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テポドン2改は弾頭600kgでも1万キロ以上飛ぶ?

▽北朝鮮ミサイルはICBM開発を意図 本体は粗雑 (聯合ニュース)
 回収した残骸を分析した韓国国防部が23日に発表しました。
「黄海で回収した1段ロケットの残骸は、酸化剤容器」
「材質はアルミニウムとマグネシウムの合金で、酸化剤は毒性の強い赤煙硝酸」
「今後、弾頭の誘導などの技術を確保すれば、米本土に到達する大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発に成功する可能性も」
「1段目にノドンのエンジン4個」
「2段目にはスカッドミサイルのエンジン1個」
「赤煙硝酸の容量を基に1段ロケットの推進力をシミュレーションした結果、推力は118トンで、500~600キロの弾頭を1万キロ以上運搬する能力を持つと推定される」
「酸化剤容器の溶接部は粗雑で、高度な技術が使われたとみるのは難しい」
「分離・誘導制御技術の水準は向上しているものの、ミサイル本体の基本的な製作能力は低下している」
「再突入体の技術についても、中距離ミサイルの水準にとどまっており、ICBM技術の確保までには相当な時間がかかる」
等々。

 まだ不完全な情報を基にした仮計算ですが、500~600キロの弾頭で1万キロ以上運搬だそうです。今まで出ていた情報からは、650~1000kgの弾頭で、射程は6000~1万kmくらいかなという感じだったように思うのですが、今回、韓国国防部はかなり多めに見積もっています。
  1. 2012/12/24(月) 02:05:04|
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狙撃シーン

▽狙撃シーン
1223sr1.jpg
 22日発信。詳細はわかりませんが、政府軍の狙撃兵に狙撃された市民だそうです。サラハッディーンにて。
  1. 2012/12/24(月) 01:25:14|
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北朝鮮の隠しウラン濃縮施設疑惑

▽北朝鮮のウラン濃縮関連施設、衛星で確認(朝鮮日報・日本語版)
 上記記事だけからは真実はわかりませんが、充分あり得る話であることは、かねて私も指摘してきたとおり。今後もこうした報道は続くと思われるので、要チェックです。
 ただ、上記記事で「次は濃縮ウラン型核爆弾の実験か」と言及されているのは、どうでしょうか。北朝鮮は現在、軽水炉まで建設してウラン濃縮をエネルギー政策だとアピールしている最中ですし、仮に隠し施設があったとしても、まだまだ高濃縮ウランの大量生産まではほど遠いと思われるので、このタイミングで実験に踏み切る可能性は低い気がします。
「エネルギー政策と言っていたのに、軍事目的だった。やはり信用できない!」と国際社会で必ず糾弾されるからです。それよりも、次の実験があるとすれば、やはりプルトニウム型の起爆装置小型化の実験の可能性が高いと思います。
 すでにプルトニウム型の実験は行なっていますし、それを改良しても「自衛のために核戦力を強化した」と主張できるからです。これも国際社会的には当然アウトですが、少なくとも「世界を欺いた」とはならないので、中国のヘルプを繋ぎ留められる余地が残ります。あとは小型起爆装置の開発の進捗次第ですが。

▽北朝鮮:「より強力なロケット開発を」正恩氏演説(毎日)
 当然、そうなるでしょう。北朝鮮はならず者国家ではありますが、それなりに理屈をつけて、正当性をアピールしつつ、核ミサイル開発に邁進しています。合理的なのです。
(それにしても、金正恩のサイドのカリアゲが日増しに凄まじくなってきてます。この先、どこまで行くのでしょうか?)
  1. 2012/12/22(土) 21:19:06|
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イラク戦争は何が問題だったのか

▽イラク戦争支持「おおむね適切」…外務省が検証(読売)
 上記は日本の外交の話ですが、ここではアメリカの話をしたいと思います。
「イラク戦争は間違った戦争」
「ありもしない大量破壊兵器疑惑をでっち上げてアメリカが戦争を起こした」
というような言説がありますが、ひとつ大きく間違っているのは、アメリカは大量破壊兵器疑惑をでっち上げたわけではないということです。インテリジェンスの不備から、大量破壊兵器があるとの誤情報を間違って信じてしまったのです。
 アメリカにそう思わせた大きな原因のひとつは、サダム・フセインの情報隠しです。他にもインテリジェンスの問題点は多々あったことは事実ですが、大筋としては、サダムが自ら招いたことであり、最大の責任はサダムにあります。
 ただ、米軍のイラク侵攻では、政権内のいわゆるネオコン派の中と、おそらくブッシュ大統領本人に、大量破壊兵器云々とは直接関係なく、とにかくサダムを排除しておきたいという動機があったものと推測されます。
 その点だけで言えば、イラク国民の多くにも期待感はありました。イラク人はとにかく長い年月、サダムという暴君の犠牲になってきましたから、多くの国民が、米軍がバグダッドを占領したときは喜んでいました。開戦の口実となった大量破壊兵器疑惑は誤情報でしたが、イラク戦争そのものを間違いとは、イラク人も含めてその瞬間は考えていなかったわけです。
 したがって、イラク戦争が間違った戦争とはいうことにはなりません。イラク戦争の問題は、戦後統治にあります。
 他国に侵攻して政権を打倒し、占領した以上、アメリカにも治安維持・秩序回復の責務は当然あります。そんな戦後統治で、アメリカは残念ながら、「バース党員追放」と「駐留軍の漸増」という致命的な戦術ミスを犯しました。
 しかし、何もアメリカが自ら、戦後イラクをあれほどの無法地帯にしたわけではありません。最大の責任は、宗派抗争に明け暮れるイラク人の政治指導者たちにあります。
  1. 2012/12/22(土) 20:39:36|
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尖閣を米軍が防衛するとはかぎらない

 尖閣関連を続けてもうひとつ。
 20日に米議会下院、翌21日に上院が、尖閣防衛条項を盛り込んだ国防権限法案を可決し、成立しました。これでアメリカは尖閣の防衛義務を自ら宣言した・・・かのように見えますが、さにあらずです。
 これは従来の米政府の見解をそのままなぞったような内容ですが、重要な文言は以下。

「アメリカは領有権に関して特定の立場をとらないが、尖閣諸島は日本の施政下にあり、第三国の一方的な行為によってこの認識が変わることはない」
「日本の施政権が及ぶ地域に対して、アメリカは日米安全保障条約の第5条に基づき、防衛の義務がある」

 まず第一に、アメリカは日中間の領有権問題にはタッチしないと宣言しています。
 そして、尖閣は現在、日本の施政下にあるから防衛範囲だとわざわざ明記しています。尖閣を防衛範囲とすると一言言えばいいのに、わざわざ「施政下」と書くのは、逃げ道です。領有権にはタッチしないなどと逃げずに、「日本固有の領土である尖閣は防衛範囲」と書けばいいのに、そうはしません。
 これはもちろん、中国と無用に事を荒立てないための措置ですが、逃げ道は逃げ道であり、日本の施政が崩れれば、防衛範囲から外れることになります。尖閣にこのままどんどん中国船や中国機が入り込み、日本側の実効支配が崩れれば、アメリカは「領有権問題にはタッチしない」と言うことができます。
 しかし、どの時点までが日本の施政が成立しているか?というのは、非常に曖昧な問題になります。このファジーさは、故意です。それこそ、アメリカ側には非常に都合がいいのです。
 日米安保条約は、なにもアメリカに日本防衛の義務を科すということだけではなく、日米安保を口実に、軍事行動を発動できる機会を与えるという、アメリカ側にとって大きな利となる側面があります。仮に中国が尖閣周辺で軍事行動を起こした場合、アメリカは日米安保を口実に、部隊を派遣することができるわけです。それは、アメリカ自身の安全保障と世界戦略にプラスなわけです。
 こうしたファジーさを、アメリカはどちらにせよ自分たちに都合よく使い分けます。アメリカに有益と判断したら軍を出しますし、不利益と判断したら兵を引きます。
 米軍をどう動かすかは、結局はアメリカの都合次第です。なので、これでアメリカは尖閣防衛を約束した!などということにはなりません。
 これはなにも、アメリカが腹黒くてけしからんというような話ではなく、どの国も自国の安全保障、世界戦略、国益といったもののためにどう他国を利用するかを考えるという、ごく当然な話です。日本は、そういったことは承知のうえで、ではこちらはどうアメリカを利用するか?を考えるべきでしょう。
  1. 2012/12/22(土) 19:18:20|
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尖閣でまた失点

▽尖閣の公務員常駐先送り 安倍総裁
 やっぱり小日本は所詮は口先だけで、堂々の大国たるわが中国に恐れをなしているのだ!!!と中国は自信を深めたことでしょう。これでさらにカサにかかって来ることは必定です。
 いきなり公務員常駐などブチ上げるから、こういう失態になります。中国側の領海侵犯を声高に非難しつつ、それに呼応するかたちで少しずつ臨時措置として「公務員」を派遣し、気がついたらずっといるじゃんというふうに持っていかないと・・・・と、やはり思ってしまいます。
  1. 2012/12/22(土) 18:42:13|
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ダマスカス情報

 ちょうど1週間前にダマスカスを脱出し、ロシアに落ち着いた義母から、いろいろ詳しく話を聞きました。じつは義母がダマスにいた頃は、一般電話回線だったこともあって、秘密警察の盗聴を恐れてあまり政治的な話はしませんでした。

 妻の実家は、ダマスカス市内の新市街地にあります。住民のほとんどは中流層以上で、さまざまな宗派の人が混在しているエリアです。何軒かは政府要人の住居もあります。
 100メートルもないくらいの距離に、ムハバラート(秘密警察)の拘置所があり、毎日、小型バスによって、反体制派の捕虜が連行されてきます。そのため、妻の実家を含む一画は完全に軍に封鎖され、ムハバラート関連車両以外の車両の通行が禁止されています。妻の実家も自家用車はあるのですが、今ではまったく使えない状態になっています。
 そんなエリアですから、基本的に政府軍による爆撃などはありません。自由軍の標的になり得る場所ですが、今のところそうした攻撃もなく、おそらくダマスでももっとも安全なエリアのひとつになります。
(ただ、徒歩圏内の近隣で爆撃も戦闘も毎日ありますから、音は聞こえますし、義母も姪も買出しに出たりすると、普通に道端に射殺死体を目撃したりしていました)
 このエリアで小さな反体制デモが発生したのも昨年秋頃で、シリア全土でももっとも遅いほうです。今では自由軍も入り込んでいますが、いまだ地下活動がほとんどで、表立った戦闘行動には至っていません。そんな場所なので、おそらくシリア全土でももっとも危機感の伝播が遅かったエリアだと思います。
 義母はもとより心中は反アサドですが、民衆蜂起のスタート時から長らく、自由軍がこれほど勢力を拡大するとは信じていませんでした。アサド政権の怖さを充分に知っているので、いずれ反体制派は皆殺しされるだろうと考えていました。
 このエリアでは、こうした考えの人はそれなりにいたようで、「どうせ人々が殺されて終わるだけだろうから、逆らわないほうがいいのに」と考えていた人もそれなりにいたようです。シリア各地の民衆蜂起と自由軍の攻勢の情報はそこそこ知ってはいたのですが、政府軍の完全支配地域だったので、どうも現実の実感が湧かなかったのですね。
 ムハバラートの巣窟のようなエリアなので、長らく政府批判はタブーだったのですが、今年9月のダマス攻勢から、もう人々は自由に語り出しています。それまでタテマエ上は政府支持のようなことを言っていた隣人たちの多くも、いっきに自由軍支持をカミングアウトしています。
 それで現在では、実家のエリアでも、住人が政権派と反体制派派がはっきり分かるようになっています。私の知っている人でもラジカルな反体制派になっている人が何人もいます。ムハバラートがまだうようよいますが、もういちいち一般住人まで摘発する余裕がなくなっているので、そうしたことを公言することが、もう怖くないという雰囲気になっています。もっとも、全員が反体制派を公言したわけではなく、数は非常に少ないですが、いまだに政府支持者もいます。私もよく知っている爺さんは、まだ政府派だそうです。長年そう言って暮らしてきたので、そうすぐには切り替えられないのでしょう。爺さんは自由軍支持の息子たちと四六時中言い争いをしているそうです。
 ところで、実家の一角だけは完全封鎖状態ですが、数週間ほど前から、自由軍はダマス中心部に多く入り込んで攻撃をかけています。自由軍の戦法はいわゆるゲリラ戦ですが、勢いは完全に自由軍側にあり、ダマス陥落は時間の問題になっていると、このエリアの住人も考えています。
 義母たちは、高齢なのでネットはやっていませんが、衛星テレビでシリア情勢の情報の多くを得ています。アルジャジーラやアルアラビーヤだけでなく、今では自由軍系の放送もあります。もちろんアサド系のチャンネルもいくつもありますが、そんなものを信じている人はまずいません。
 ただ、現場の自由軍関連の情報などは、やはりクチコミです。どこそこに自由軍が潜んでいるとか、非常に詳細に知っていますが、それは義母ならではのコネによるもので、一般の住民はなかなかそこまではわかりません。ちなみに義母は今では敬虔なムスリムで、ただの元気なおばあちゃんですが、若い頃はシリア共産党政治指導部の闘士だった人で、現在のシリア国民評議会の議長であるジョルジュ・サブラは昔からの知人で「いい人よ」だそうです。
(ちなみに、パレスチナ人やイラク人やクルド人の左翼にも古い友人が多く、70年代とかには日本人の若者たちにも会ったことがあるそうです。日本赤軍と思われますが、そこは「よく覚えてないわねえ」だそうです。なお、義母はもう立派な婆さんですが、1週間でロシア暮らしが飽きてしまい、「シリアに戻って自由軍に入りたい」とわけのわからないことを言って義兄を困らせています)

 実家のエリアでは各宗派が混在していて、宗派抗争はまったく発生していないのですが、周辺エリアでは宗派抗争もたしかに起きているとのこと。以前もたとえば、北方のアッシュルワルワルはアラウィ派の町ですが、女性と子供はすでに親戚を頼ってほぼ全員がラタキア地方に逃れており、今では成人男性しか残っていません。それで、隣接するバルぜ地区のスンニ派のグループとすでに抗争状態になっています。
 自由軍はアレッポ県のほうでは無法集団化したグループも紛れ込んでいるとかで、住民の一部に反感を買っているところもあるようですが、ダマスではそういうことはありません。とくに砲撃の被害を受けてモスクや学校などに身を寄せた人々に対し、食事や日用必需品の支給をかなり潤沢に行っています。
 そうした民生活動を行っているのは、自由軍でもすべてダマスの地元出身者のグループです。ダマスでは、ダラアなどの南部から来た自由軍部隊が中心になって軍事作戦を行っていますが、民生の部分は地元グループがあくまで中心になっています。こうした地道な努力により、ダマスでは自由軍は住民の信頼を獲得しています。
 さて、すでに実家の家族の何人かについては書きましたが、それ以外の親族の話。
 私もよく知っている叔母のひとりは、カーブーンとアルビンの間に家があるのですが、そこが最近、政府軍の拠点となり、家のすぐ隣の路上がアルビンやカーブーンに向けたロケット砲の発射拠点となったため、報復攻撃の標的になり得るということで、やはり子供たちと親族宅に避難しました。
 叔父のひとりは、もともと運送会社の運転手なのですが、民衆蜂起後は通常の仕事がなくなり、会社は今、シャビーハの輸送を請け負っています。それで叔父は現在も、シャビーハの運転手となっています。自由軍の攻撃目標となるので本当は辞めたいそうですが、シャビーハに脅されていて、逃げられなくなっているということです。
 一族には悪い男もいました。従姉妹の子供にあたる若者のひとりは、連れ子なので一族と直接血縁ではないのですが、以前から犯罪グループに入っていて、純粋に犯罪での前科もあります。私も妻も会ったことはないのですが、彼が報奨金目当てで、近所の住人や親族のことをムハバラートに密告していました。義弟が昨年、4ヶ月秘密警察に捕まっていたことはすでに書きましたが、それもこの男の密告によるものだろうということです。
 この若者ですが、すでに昨年のうちに殺害されています。犯人はわかりませんが、まだ自由軍が活動する前だったので、密告された近所の住人の関係者による可能性が高いとのこと。いずれにせよ、一族にそんな情けない奴がいたとは残念です。
 以上はすべて、本日、義母から聞いた話です。うちの一族は国外に親族が多いのでかなり恵まれているほうですが、これがダマスカスに生きる人々のリアルというものです。
  1. 2012/12/22(土) 17:26:43|
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宗派間抗争に持ち込んだアサド

 昨年春にシリア革命が始まったとき、シリア社会をよくご存じない方は、イラクやレバノンのイメージに倣い、シリアにも「アラウィ派vsスンニ派の対立がある」と考えた方が少なくなかったようです。
 しかし、アサド父政権発足の頃はそうした構図はありましたが、40年もの父子独裁で、シリア社会は宗派対立が後退し、「アサド派利権グループvsその他の一般国民」という構図になりました。宗派の違いよりも、利権コネに繋がるか繋がらないかで、国民は「得組」「損組」(必ずしも勝ち組vs負け組ともいえないので)に分断されたわけです。
 革命が始まったとき、アラウィ派とスンニ派の両サイドから、宗派対立を煽る声は生じました。私はそれは現地の知人からの情報でも、SNSでの情報でも確認しています。しかし、とくに革命側の主流派のリーダーたちが、それを懸命に抑えました。
 シリアにはネットを介したマス(といっても、ネット世代の若者層が中心の限定的なものではありますが)の国民世論がすでに存在していて、少数の宗派イデオロギーはすぐに駆逐されます。私はその流れをリアルタイムで体験していましたが、SNSというツールがもたらす新たな希望といっていいものでした。
 もともとシリア国民に宗派対立という発想が希薄だったこともあり、宗派抗争は部分的に、地域的には発生しましたが、全体的な構図としては抑えられました。
 しかし、昨年秋頃に反体制派がそれまでの非武装デモから武装闘争にシフトした頃から、シリアで宗派対立が先鋭化しているという情報が盛んに流されるようになります。扇動しているのはシリア政府で、アラウィ派の結束が狙いでした。海外でも、シリア政府の宣伝(プロパガンダ)を情報ソースとする一部メディアが、こうした虚構を盛んに報じるようになっていきます。
 今年に入り、スンニ派の武装蜂起に恐怖を感じたアラウィ派側には、そうした宗派抗争に軸足を置く人々が増えてきました。その動機はやはり恐怖心だったでしょう。アラウィ派のシャビーハが増強され、さらに民兵化していきました。
 今年の夏頃からそれは顕著になっていきます。いよいよ追い詰められてきたアサド政権が、本格的に宗派対立を煽るようになります。
 こうした状況に、私が下のエントリーを書いたのは、今年7月のことでした。
▽懸念されるアサド政権の宗派対立工作 
 しかし、アラウィ派の結集という流れの影響で、徐々にスンニ派社会にもアラウィ派批判の声が出てきます。アサド政権が仕掛けた宗派対立が、政府軍の無差別爆撃などの暴力を背景に、現実のものとなってきたわけです。
 私が下のエントリーで、こうした点に対する懸念を指摘したのは、11月8日のことです。
▽首都決戦へ(アラウィ派の脱出始まる)
 上記での記述は以下です。

 そこでちょっと心配なのは、反体制派SNSの論調に、最近、アラウィ派批判が急速に拡散しつつあることです。反体制派の主流派はこれまで、アサド政権が宗派対立に持ち込もうとしたのに対抗し、アラウィ派批判を抑えてきました。それで実際、アラウィ派コミュニティへの直接攻撃の回避に成功してきていたのですが、スンニ派住民が子どもたちまで大量虐殺に遭ったことで、憎悪のエネルギーが急速に膨張しているように感じられます。

 非常に残念なことですが、政府軍の暴力はさらにエスカレートし、それにアラウィ派民兵がさらに参画していくなかで、実際に宗派抗争の萌芽が出てきています。
 本日のCNN日本語サイトの記事です。
▽シリア内戦、宗派間抗争の様相を強める 国連報告(CNN)
 どれほどの人々が、血の滲むような思いで宗派対立回避の努力をしてきたかを知っているので、これほど残念で悔しいことはありません。それでもまだ、イラクやレバノンのようにならないよう努力している人々がいます。なんとか世界は彼らを助けられないものでしょうか。
  1. 2012/12/21(金) 16:45:31|
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またまた北方領土交渉進展イメージの幻想

 もう何度も書いていますが、マスコミ各社のミスリード再び、でなんとも脱力です。「誤情報は書いてない」ということでしょうが、ミスリードはミスリードだと思いますね。
 いったいいつ、プーチンが「北方領土を日本に返還する交渉をやりたい」と言ったのでしょうか? 言ってないですね。プーチンは言質をとられないように気をつけているからです。返還交渉進展イメージを勝手に煽っているのは、いつも日本側です。希望を持つことは否定しませんが、願望をストレートニュースにするのはいかがなものかと思います。
▽北方領土問題 建設的対話用意ある プーチン氏(東京新聞)
▽ロ大統領、北方領土で対話方針 解決意欲示した安倍氏評価(共同)
▽プーチン露大統領:北方領土「対話に期待」 次期安倍政権と(毎日)
 各社、書いている内容はほぼ同じですが、返還交渉に前向きとも受け取れるこれらのタイトルはダメですね。記者ではなく、東京本社の問題でしょうが。
▽「非常に重要なシグナル」北方領土問題でロ大統領が安倍氏発言を「評価」(産経)
▽日本から「重要なシグナル」=北方領土問題でロシア大統領(時事)
 このあたりは微妙ですね。
▽「安倍政権との建設的な対話に期待」 ロシア大統領(日経)
▽プーチン氏「シグナル聞いている」 自民政権復帰めぐり(朝日)
 北方領土交渉進展を直接示唆しない日経、朝日が合格点ですね。

「内外の記者1000人以上を集めた4時間半のマラソン記者会見で、対日外交を質問され、面倒なので従来の主張を繰り返した」
 これが事実です。それ以上のものは何もありません。
  1. 2012/12/21(金) 08:19:04|
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テポドン、無人兵器、国防軍

 世間は政権交代一色な感じで、すでに北朝鮮衛星が関心から消えつつありますが、明日発売の『週刊朝日』に、「北朝鮮ミサイル発射の権力異変」という記事を寄稿しました。衛星打ち上げのウラで進行していた軍部内の粛清と黒幕・張成沢の暗躍について考察しました。
 ところで、金正日一周忌でいきなり金正恩の隣に登場した謎の人物が注目されています。ミサイル開発責任者説があるようですが、どうなのでしょう。夫人の父親などということは・・・・ない・・・でしょうねえ。

 また、本日発売の『週刊SPA』の特集記事「驚愕! 世界の最新兵器図鑑~日米ハイテク兵器から尖閣を襲う中国最新鋭機、シリア手作り兵器まで!」に資料提供し、さらに私めの短いインタビューも掲載していただきました。これからの兵器のトレンドのひとつとして、「無人機に注目!」というようなことを指摘してみました。

 ところで、ご存知のとおり自民圧勝選挙でしたが、ここ2日間、誰かと話をするたびに「国防軍になると戦争やるの?」というイメージを持っている人が意外に多いことに今更ながら脱力しています。自衛隊は軍隊ではなく、自分たちを守るためだけのもの。国防軍は軍隊で、他国を攻めるもの・・・と考えている人、まだ結構いますね。また、憲法改正⇒戦争賛成、という刷り込みも、まだまだ健在なのがよくわかりました。
 テレビをつけると、憲法改正は改悪だと前提しているとしか思えない番組もあったりします。民主主義とは多数決と思っていたのですが、「3分の1以上」の反対で「3分の2以下」の多数派の意見が覆されるというのは理解できません。
 
  1. 2012/12/18(火) 18:52:41|
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シリア政府軍の焼夷弾攻撃

 少し前、「シリア政府軍がサリン準備か」などという報道が出た同じ頃、盛んに燃え盛る弾と大火傷する被害者の映像が出始め、シリア反体制派のSNSでは「サリン使用!」といった誤情報がずいぶん拡散していました。
「サリンはこんなふうにはならない」といちおう書き込んでおきましたが、それからしばらくすると、今度は「残虐な白燐弾を使用!」との情報が拡散しました。白燐弾は基本的には煙幕用に使用されるものですが、たいへんな残虐兵器だとの認識がかなり広がっています。
 私自身は兵器に人道的もくそもないと考えていますが、現在使用されているものの多くは焼夷弾に相当します。
▽シリア:人口密集地で焼夷弾使用される~重度の火傷をもたらす爆弾使用の証拠(ヒューマンライツ・ウォッチ)
 また、この問題については『週刊オブイェクト』さんでも映像が検証されています。
▽シリア軍は白燐弾を使用せず、テルミット焼夷弾を使用
  1. 2012/12/18(火) 16:20:02|
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義母の国外脱出

 個人的な話ですが、本日、朗報がありました。ダマスカスに住んでいた義母と、事情があって義母の元で暮らしていた13歳の姪が、レバノンに脱出し、義母は義兄が住むロシアへ、姪はその母親(つまり私の義姉)が住むスペインへ、本日それぞれ到着しました。
 義母も姪もこれまで毎日砲弾に怯えながら暮らしていたので、これでひとまず安心です。すでに一族の大半は国外に逃れているので、私もこれで本国の親族を気遣いながら記述を手控えなくてよくなりました。
 ということで、妻の一族とシリア革命の関係について少し書いてみます。
 妻の一族の多くは、ダマスカスおよびダマスカス郊外県の住人です。また、もともとはホランなど南部地域に血縁があるようで、今もそちらに一族や知人が多くいます。
 昨年3月にシリア革命が始まったとき、ロシア在住の義兄がすぐに参加しました。彼は本国と頻繁に往復する貿易商なのですが、ダマスカス空港に到着したときに逮捕され、秘密警察に1週間拘束されます。釈放後、ロシアで在外活動家となります。彼は比較的裕福なので、反体制運動のスポンサーのような立場になります。とくに本国内の革命調整カーブーン委員会との関係が深く、後にはシリア国民評議会にも参加し、資金提供しています。最近は、カタールでの国民連合設立集会にも参加しています。
 他方、ひどい目に遭ったのは義弟です。もともと政治活動には無縁な奴なのですが、反体制派と疑われて昨年、秘密警察に4ヶ月も拘束されました。殺されたかもしれないと半ば諦めていたのですが、多額の賄賂をばら撒いて居場所を突き止め、さらに賄賂で釈放させ、さらに賄賂でヨルダンに逃しました。
 その他、親族の多くはもっぱらエジプトに逃げています。なので一族の人間は、日本も含めると今やずいぶんワールドワイドに散っています。今、シリア国民の多くが悲惨な境遇にありますが、妻の一族はかなり恵まれているほうになります。
 今回、義母と姪の国外脱出は、もっぱら義兄の本国内の仲間がディールしました。南部地域の自由シリア軍にはルートがあるので、そちらからヨルダンに逃がすという手も考えたのですが、やはり子供には危険が大きいので、レバノン・ルートとしました。
 ダマスカスもすでに政府軍に封鎖されているので、脱出は簡単ではないのですが、数日前の深夜にいきなり組織の迎えが来て、そのまま車両で未明にシリアを脱出しました。
 ところで、義母の話によると、すでにダマスカス中心部に多数の革命軍が侵入し、激しい戦闘が続いているとのこと。武装に勝る政府軍はまだまだ強いとの見方がこれまで優勢で、私自身もそう思っていたのですが、軍事的にも革命軍が予想以上に快進撃しているようです。
  1. 2012/12/16(日) 00:18:43|
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北朝鮮の欺瞞工作・心理戦

 12月12日、北朝鮮が衛星を打ち上げたことで、今週は何度かTBS「朝ズバ」「ひるおび」「Nスタ(VTRコメント)」、共同通信(コメント)などで解説させていただく機会がありました。
 もっとも、私自身は1週間はまず延期だろうと予想していたので、恥ずかしながら完全に外しました。直前に「第3段を交換」だの「発射台から取り外し」だのといった情報が韓国メディアから流れていましたが、情報の「出方」が曖昧なので、それ自体はあまり信じていませんでした。
 しかし、北朝鮮当局が「時期の調整を検討」「第1段に技術的不具合」「期間を1週間延長」と発表していたので、これは「延期間違いなし」と見立てていました。北朝鮮は堂々の宇宙開発とアピールしていますし、こうした情報を故意にオープンにしてきています。後で「やはり信用できない」などと追及されないための措置です。なので、北朝鮮がこの時点でそんなことを発表した以上、多少のトラブルは実際にあるのだろうと考えていました。
 結果的に予告期間3日目での打ち上げですから、深刻なトラブルが実際にあったとは思えません。仮にあったとしても微調整で済む程度のものでしょう。「一度、取り外してから夜のうちに再設置した」などという見方もあるようですが、そんなアクロバティックな無謀な賭けをする切迫した理由はちょっと考えられません。実際、アメリカの偵察衛星はずっと発射台に設置されていたことを把握してたようです。
(※追記⇒「何か」が発射台から一旦取り外されたということはあったようです。ただ、それでも再設置後は最初からチェックをし直すことになりますから、この短時間で発射されたということは、ミサイル本体が丸ごと外されたというのは、ちょっと考えにくいです)
 北朝鮮の意図についてあれこれ推測がメディアを賑わせていますが、よくわかりません。「欺瞞工作」「心理戦」というような見方もありますが、それにしてはあまりにスモールな気がします。メディアが踊ったくらいなもので、実際には米韓の監視システムにもほとんど影響を与えていませんし、いったい何が狙いだったのか不明です。
 もしかしたら何かの意図をもった欺瞞工作だった可能性はもちろんありますが、今回の騒動は、どちらかというと韓国メディアのフライングでしょう。韓国メディアは北朝鮮情報に関して、スクープも突出していますが、フライング報道もよくあります。とくに、情報ソースが「韓国政府筋」「韓国議員筋」「韓国情報部筋」の場合、具体的にそれらの中のどういう筋なのかによって、情報の信憑性が大きく変わってきます。カタい情報であれば、大手メディアはすべて後追いするので、単独メディアの独走パターンだと要注意です。
 今回の報道もそんな気配があったのですが、その後の韓国報道をみると、単なるフライングではなく、韓国政府筋の一部にも実際に誤情報はあったようです。一部報道では「アメリカは、韓国政府に伝えるとすぐ漏れるので伝えなかった」と報じられていますが、それも考えにくいので、おそらく韓国政府の中枢にだけ伝えて、そこで情報が止まっていたというのが、ありがちな線に思います。推測ですが。
(アメリカは偵察衛星情報などでは独占的な実力がありますが、ヒューミントでの韓国情報機関ソースの情報バーターや分析での協力関係も必要としていますから、この局面で情報提供遮断というのはちょっと考えにくいです。韓国政府中枢が誤情報の訂正をしなかったのは、サード・パーティ・ルールでしょう)

 この間、日韓のメディア報道をいろいろチェックしましたが、いつも思うのは、北朝鮮の意図など誰にもわからないということです。なので、さまざまな推測がありますし、それぞれそれなりの根拠はあるのでしょうが、ここでは私見を少し綴ってみます。北朝鮮の意図は誰にもわかりませんから、もちろんこれは単なる私見にすぎないことをまずお断りします。
 さて、今回のような北朝鮮関連の事件が起きていつも思うのは、北朝鮮の欺瞞工作よりも、むしろ日韓メディア側の根拠の薄い「深読み」の一人歩きが多すぎるのではないかなということです。金正恩政権の意図など誰も知らないのですが、「彼らの狙いは?」と考える。そうした視点で検討すること自体はインテリジェンスの基本であり、たいへん有益だと思うのですが、残念ながら、数多ある可能性の一部のみが拡大解釈される傾向があると思います。
 何度か当ブログでも描きましたし、いつも思うのですが、どうも北朝鮮の一連の核ミサイル開発について、「北朝鮮のアピールだ」という根拠の薄い見方が強すぎる気がします。私は、北朝鮮はこの現代において世襲独裁という不条理な権力構造をサバイバルするため、必死になって体制維持のための戦略を模索しているのではないかなと考えます。それはきっと想像以上に厳しいものでしょう。
 私が今、これは違うだろうと思っているのは、「北朝鮮はアメリカと交渉したがっており、振り向いてほしくてアピールしている」という見方です。そういう見方の元には「北朝鮮はアメリカと平和条約を締結し、政権を認知・保証してほしい。核ミサイル開発はそのための外交カードである」との認識があります。この論法でいえば、「アメリカが応じれば、北朝鮮は核ミサイルを放棄する」という理屈になりますが、非常に甘いと思います。
 私から見れば、とんでもなく楽観的なこの甘い見方がそれなりに広く認識されているのは、北朝鮮側が対外交渉でこうしたレトリックを故意に匂わせるからです。ですが、それが北朝鮮側による単なる時間稼ぎではないとは断定できません。
 周知のとおり、北朝鮮は「力の信奉者」です。力だけを信じ、力にしか屈しません。また、これも周知のとおり、目的のためにはどんな嘘も平気です。そんな彼らが、力に基づかない口約束の世界を信じるとは到底思えません。
 衛星打ち上げ期間を延ばしたり、もしかしたら発射台周辺で何らかのダミー欺瞞工作をやったのかもしれませんが、そんなものよりも、「北朝鮮が交渉を望んでいると思わせ、核ミサイル開発の時間を稼ぐ」のが真の心理戦かもしれないなどと思ってしまうわけです。
  1. 2012/12/15(土) 19:34:41|
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9月のシリア軍参謀本部突撃シーン

 今年9月26日、ダマスカス中心部のアル・ウマイーン広場近くの軍参謀本部を、自由軍の突撃隊が攻撃し、自動車爆弾で爆破するという大戦果を上げた作戦がありましたが、その侵入時のシーンを捉えた監視カメラの映像が流出しました。
▽軍参謀本部突入シーン
1211sr1.jpg
 政府軍側は警備が甘く、あまり反撃した形跡がないですね。衛兵らしき連中が室内でダべっている音声が同録・ONで記録されていますが、かなり長い時間、気づいていません。油断というか、政権側からすれば怠慢といっていいでしょう。
 政権側からすれば、いわゆるテロ攻撃ということになりますが、国民を虐殺している犯罪者集団の中枢に大打撃を与えたこの作戦に対しては、シリアの人々の多くが拍手喝采しています。
  1. 2012/12/11(火) 16:21:28|
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ダマスカスの化学兵器施設等の位置関係

 先週、ダマスカス市内・近郊の化学兵器施設について、地元の調整委員会サイトから見つけた未確認情報を紹介しましたが、マッゼ地区近傍の、かつてリファアト・アサドの特殊部隊が使っていた地下トンネルや武器庫などの位置関係などについて、衛星写真を使って詳細に解説している動画がありました。
 ちょっと内容の翻訳までは面倒なので割愛しますが、動画でこういうことが可能なんだなということが興味深いので貼ってみます。
▽リファアト・アサドが建設した武器庫と地下トンネル
1210sr3.jpg
 もうこれからの戦争は、こうしたツールを駆使することで、個人でもかなりのインテリジェンスのアウトプットが出来てしまうのですね。

 ところで、未確認情報。
 ダマスカスのかなり中心部(日本大使館からもそう遠くないエリア)で戦闘開始の情報があります。動画では未確認。よくわかりませんが、とりあえず速報です。
  1. 2012/12/11(火) 01:01:38|
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中国海軍2度目の接続水域侵入

北朝鮮問題も重要ですが、日本としてはこちらも重要です。
 新華社が「西太平洋での訓練を終えたミサイル駆逐艦など艦艇4隻が帰路、12月10日に釣魚島(中国側呼称)付近の海域をパトロールした」「これは10月以来2回目」と報じました。
 予想通りの展開ですね。まず監視船の接続水域侵入を恒常化し、隙を見て領海侵犯を繰り返す。その合間に、海軍の艦艇を接続水域にときどき侵入させる・・・当面、この繰り返しパターンで実績を上げていき、そして気づけば監視船は領海内に普通にいて、海軍艦艇も当然のように接続水域を出入りする、というところまで持っていく考えでしょう。
 以前も書きましたが、それを海保の巡視船を少々増強したくらいでは止められません。増強して優勢に持っていくことは必要ですが、武力衝突でもないのに、公海上でいくら数を競っても、相手を止めることにはなりません。
 これは相手も同じで、そう簡単に武力行使はできません。なので・・・やっぱりここは尖閣上陸・施設建設という方向性でいいのではないかと思うのですが。
  1. 2012/12/11(火) 00:30:44|
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衛星打ち上げ期限を29日まで延長

「第1段ブースターの操縦発動機系統の技術的欠陥が発見された」そうです。北朝鮮当局としては、万全を期して臨みたいところでしょうから、十分に正常が確認されるまで、しばらくは延期ということになるのではないかと思います。
 なお、本日、TBS「朝ズバ」「ひるおび」に呼んでいただきました。また、「朝ズバ」では明朝用にも電話解説しました。
  1. 2012/12/10(月) 23:46:03|
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シリア政府軍機の爆弾投下シーン

▽シリア政府軍機の爆弾投下シーン
1210sr1.jpg
 ホムス。12月9日発信。爆弾が投下される場面を「下から」撮影しています。

 アレッポ戦線のゲリラは政府軍から古いSA-7を鹵獲していると思われますが、数も少ないうえ、性能もいまひとつ。アメリカのスティンガーあたりがあれば、かなり違うのですが。
 ちなみにロシア政府などはゲリラがスティンガーを供与されているなどと言っていますが、映像証拠はまったくありません。戦果もとくに報告されていませんし、なにより現在のシリアで映像が出ないなどというのは、まずガセネタと判断して間違いありません。
 やはりアメリカとしても、携帯SAMは禁じ手としているのでしょう。残念です。

(追記)
 では、こちらはどうでしょうか。「9K33オサー」(NATO名「SA-8ゲッコー」)。いちおう車体はスムーズに動かせるようですが、ミサイルも撃てれば戦闘機にもかなり有効だと期待したいのですが。
▽自由軍が鹵獲した対空ミサイル「SA-8ゲッコー」
1210sr2.jpg
 12月9日発信。ダマスカス東部の東アル・グータ
  1. 2012/12/10(月) 17:11:32|
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北朝鮮衛星打ち上げ延期へ?

 昨日まで順調に準備が進んでいたようにみえた衛星打ち上げですが、北朝鮮当局が「時期の調整を検討しいる」と発表しました。わざわざ発表するということは、おそらく延期という方向なのでしょう。
 先月の韓国と同じですが、それ自体は衛星打ち上げではとくに珍しいことではありません。
 中国が擁護しやすいように、韓国の衛星打ち上げ後にタイミングを合わせたい? 気象条件が思いのほか悪そうなので、春先まで待つ? どうでしょう。今更違う気がしますね。
 可能性が高いのは、やはり何らかの技術的な不具合が発生したということではないかと思うのですが。

 それにしても、衛星打ち上げを前回も今回もきちんと国際機関や外国に事前通告し、前回は打ち上げに外国取材陣を招待し、失敗後もすぐにそれを認め、とくに担当者を粛清することもなく、今回も焦らずに延期検討を公表し・・・と、北朝鮮がそれなりに合理的に動いていることが注目されます。
 安全保障上の最優先事項である核ミサイル開発に邁進する。その名目にエネルギー政策や宇宙開発を利用する・・・という非常に合理的な戦略が徹底しています。プランナーはおそらく張成沢でしょうね。
  1. 2012/12/09(日) 09:58:03|
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ダマスカス封鎖

 政府軍によってダマスカスが封鎖されたとの情報が入っています。なにかやるつもりでしょうか。

 ところで、昨日の金曜日恒例デモですが、「『国連平和維持軍は要らない』の金曜日」と命名されました。ブラヒミや「国際社会」はシリア人のために「良かれ」と思っての話なのでしょうが、当のシリア国民が「今更遅すぎる」「ただバシャールの時間稼ぎに利用されるだけに決まってる」と思っています。
 シリア人社会のインサイドからみていると、「国際社会」との感覚のあまりの格差に愕然とすることがよくあります。

 シリアを普通の国と思っていること自体が間違いです。バシャールはもともと、ソ連の支援の下で恐怖と暴力で国を支配した父親から独裁権力を世襲し、事実上、国家と国民を私的に「所有」していました。だから何をやってもいいと思っているわけです。
 対外的なタテマエは、バシャール側からすれば「嘘も方便」というものです。バシャール側は「交渉」という概念そのものが理解できないと思います。彼自身はおそらく「なんだよ。父の時代より少しは緩くしてやったのに、それで文句言う奴がいるなんておかしいだろ。そんな恩知らずは狂人のテロリストに決まってる。テロリストをかばってる連中もまとめてみんな死ね!」と思っていることでしょう。
 そんな独裁者の周囲には、うまいことしようとだけ考えている連中がうようよいます。それがバース党であり、軍や秘密警察です。彼らのアタマにあるのは、自己保身だけです。日本の政治家や官僚は下手を打ってもせいぜい無職になるか懲役くらいで済みますが、シリアの支配階層は下手したら生命を失うので、そちらはそちらでサバイバルに必死です。
 そういうことはみな心の奥ではわかっているのですが、あえて見ないふりをしてきたのがシリアの人々です。ところが、反体制運動をきっかけに、そうした現実がいっきに目に見えるように露呈してきたのが、今のシリアです。
 まずその基本事項を理解していただいたうえで、諸々のことを現実的に議論していただきたいものです。

(追記)
 そういえば数日前、AJAX氏から以下のようなコメントをいただきました。

1.シャビーハのような政府系民兵組織が政府側につく理由は何なのでしょうか?私個人としては今般の内戦で生活基盤が破壊され、アサド政権側から当座の金と引き換えにシャビーハとして活動することを持ちかけられたとか、あとは元々アサド政権下で既得権益にあずかっていた連中の末端が自発的に志願したとかそのへんのことを推測しているのですが、今一つ納得できません。

2.反政府武装組織はいくつもあるようですが、その中にはイスラーム色の強い団体と、そうでない団体があるようですね。主流となっているのはシリア民主化に重きを置き、イスラーム法統治とは距離を置く団体だと考えているのですが、それで正しいのでしょうか?また、イスラーム色の強い団体はやはりサウジアラビアなどの国外から「世俗主義のアサド政権」に対する「イスラームの勝利」のために義勇兵として入ってくる連中が主流なのでしょうか?


 それに対して、直接の回答とは少し離れてしまった部分もありますが、以下のようなコメントを記しました。転載します。

 シャビーハは、犯罪者・愚連隊人脈から金目当てで入る人と、アラウィ派の町村からオルグされて仲間内でまとめて入ってくる人と両方います。日本の暴力団と同じで、基本は志願者ですが、大多数は成り行きで入ってしまい、抜けられなくなってしまった人々です。殺戮集団なので、同情はしませんが。
 反政府軍の大多数は、自衛のために合流した地元民です。誰もが「神さま万歳!」と言っていますが、べつにイスラム国家建設のために戦っているのではなく、アサド軍への抵抗のためにやっています。
 どこのグループに入るかは地元の人間関係による成り行きがほとんどですが、そのなかには地元のモスク人脈とか離脱兵の中のイスラム主義者系人脈が中心になっていて、ジハード色の非常に濃いグループもあります。各人がどこに所属するかは、だいたい成り行きです。各グループの主義主張は、幹部がたまたまどのくらいジハード色が強いかといったことに拠ります。ボスたちにもいろいろな人がいるので、本当に千差万別です。
 外国人義勇兵にも、反独裁ロマン系と、アルカイダばりのジハード主義者と両方います。これは必ずしも相反することではなく、多くの人が両方の性格を有しています。
 現在、大別すると「①ジハード主義と一線を画し、あくまでアサド打倒を掲げる自由シリア軍主流派」「②アサド打倒を掲げるものの、ジハード色の濃い自由シリア軍内の独自勢力あるいは自由シリア軍外の独自勢力」「③自由シリア軍外のジハード主義グループ」がいます。
 ③は外国人も多いですが、シリア人も多くいて、必ずしも外国人部隊ということではありません。ただ、イラク戦やチェチェン戦の経験者が戦闘能力が高いことから、現場で発言力が大きいという傾向はあるようです。
 アサド政権は③を強調して宣伝していますが、実際には①が圧倒的多数派で、次が②となり、③は少数派になります。当初、シリア人はどれもあまり区別していませんでしたが、最近は現場で軋轢も増えていて、③を批判する人が①②にも増えてきています。地元で略奪するようなのも、③に多いようです。


(追記その2)
 前段の私のアサド政権評について、一方的と感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、実際はこれでもかなり抑えて書いています。シリアの一般の人々の大多数は、もっと過激です。そこにも国内外の大きな認識格差があります。
  1. 2012/12/08(土) 12:51:40|
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次はミサイル大型化へ

 昨日、TBS[ひるおび」に出演し、北朝鮮衛星問題について解説しました(報道各社は「衛星打ち上げと称する事実上の弾道ミサイル発射」と表記し、タイトルでは「北朝鮮ミサイル」と端折るのが一般的ですが、もう「衛星打ち上げ」でいいんじゃないかと思いますね。べつに北朝鮮の肩をもつつもりはないですが)。
 準備は着々と進んでいるので、不具合は今のところは生じていないようです。あとは天候次第という感じでしょうか。
 それより気になるニュース。
▽朝鮮新報「北、『銀河3号』以上のロケット作る」(中央日報)
 今回飛ばすテポドン2改は、旧来型モデルのマイナーチェンジなので、発射してもあまり軍事的な意味はありません。「ひるおび」でもちょっと触れたのですが、アメリカで「射程1万キロ」とか報じられたので、いよいよ凄まじく性能が向上しているとの印象がもたれていますが、あれは超軽量のペイロードで第3段ブースターを飛ばした後の部分の話です。今載せているのは100kg程度のものなので、ミサイルの弾頭とすれば軽量すぎます。
 将来的に核爆弾を搭載するとすれば、ペイロードも700~1000kgくらい欲しいので、そうなれば飛距離は全然短くなってきます。防衛省は最大で6000kmと推定しています。
 ペイロード1トン時のテポドン2改の射程は実際にはわかりませんが、ひとつの参考としては、衛星軌道投入用の低高度の飛翔経路で、第2段ブースターの落下予定地点が、発射地点から約3000kmですから、それよりは遠くなります。飛翔経路モニタリングと、外見からの第3段目部分の重量推定値(推定1トン程度と思いますが。それプラス今回は衛星分と仮定ですね)から、細かく計算すれば、だいたいの射程を推定できるので、それは防衛省が計算するはずです。
 それはさておき、上記の記事です。
 朝鮮総連の機関紙「朝鮮新報」が「宇宙開発5カ年計画の必須工程」と題し、「光明星3号の発射が成功してこそ次の段階に移行できる」とし「次の段階は静止衛星の開発。『銀河3号』より大きい大型運搬ロケットの開発にも着手する」と伝えたとのことです。
 まあ、そういうことでしょう。平和的な宇宙開発をタテマエにICBM開発というのは既定路線です。
  1. 2012/12/08(土) 12:38:46|
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シリア軍サリンにイランと北朝鮮の影

 ダマスカスを含め、南部を中心にシリアの広範囲にわたって電気が止められました。さて、バシャール・アサドはいったい何をやるつもりなのかと、シリア国民は戦々恐々となっています。
 そんななか、こんな報道も出ています。
▽シリア、サリン使用準備完了か 大統領承認待ちと米報道(共同)
 政府軍は各地を分断し、個別に化学兵器を使用し、それをあくまで「テロリストがやった」と強弁するつもりかもしれません。外国人には理解しづらい神経ですが、アサドは平気でそのくらいのことはやるだろうと、シリアの人なら誰でも知っています。

 ちなみに、政府軍の化学兵器に関して、地元委員会のサイトからここ数日、以下のような身確認情報が流れています。現時点ではあくまで未確認ですが、参考まで。
▽ダマスカス周辺に化学兵器貯蔵所が3カ所ある。
▽1カ所はダマスカス北部のアッシュ・アル・ワルワル村(アラウィ派の拠点)の裏の山。
▽2か所目はダマスカス北方のヤブルード町(丘陵部)。ここはイラン人顧問が常駐。
▽3番目は、ダマスカス北部マッゼのサラヤ山。昔はリファアトの特殊部隊の基地。ここが化学兵器拠点の中心。強固な壁に囲まれている。地下通路でマッゼ軍事飛行場、および国会に繋がっている。
▽さらに、ダマスカスのマッゼ地区の高級エリアであるビンラート・アル・ガルビーエ(東別荘地)通りの(ダマス中心部から見て)左側の突き当たりから手前に4件目の建物が、政府軍の化学兵器の管理・研究所で、そこにはイラン人と北朝鮮人の顧問が常駐している。

 場所の特定は未確認ですが、シリア軍が大量破壊兵器の開発で、イランと北朝鮮と密接な協力関係にあるのは周知の事実。ミサイルと核もそうですが、化学兵器でも同様でしょう。
 悪い仲間は、どこまでも悪事を一緒にやるということですね。
  1. 2012/12/06(木) 14:35:17|
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(番外編)嘉田由紀子の応援演説

 ワールド&インテリジェンスとは関係ない話ですが、たまたまご近所で嘉田由紀子・未来の党代表が演説しているところを見ました。
 スピーチは意外に普通ですね。話題の人なので、聴衆はまあまあ多かったです。
 応援を受けている左の人は、社民党⇒みどりの風⇒未来の党で、比例で首の皮が繋がった(?)かもしれない地元候補の阿部知子・前社民党政審会長。阿部知子氏と小沢一郎氏が同じ党というのはなかなか感慨深いものがありますね。阿部氏は新党の副代表だから、「一兵卒」の小沢氏よりずっと偉い!?
 どうせなら小沢氏が応援演説に来ればシュールでいいのに。
kada.jpg
(追記)
 話は変わりますが、安倍自民党総裁の発案で、争点のひとつに「憲法9条改正」「集団的自衛権」「国防軍」といったジャンルが急浮上しています。TVでの議論などと見る機会が多くなりましたが、冷戦時代みたいな議論がいまだに多い気がします。あまりに既視感すぎて、もう興味がなかなか持てないですが。
 そういえば、そのあたりをあれこれ考察した本をかつて出したことがあります。
▽著作『自衛隊交戦』(当ブログの著作紹介エントリー)
 シミュレーション小説みたいなタイトルですが、論考集です。けっこう愚直に考察しています。
JKOUSEN.jpg
 だいぶ昔に出した本ですが、いまだに「神学論争&揚げ足取り」が横行している惨状に眩暈がします。そういえば、かつて「普通の国になれ!」と説いていた人もいたのですが、あれはなかったことになっているのでしょうか。
  1. 2012/12/05(水) 22:12:47|
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シリア外務省報道官も逃亡

 シリア外務省報道官として内外で有名なジハード・マクデシが、ベイルート経由で妻子とともにロンドンに向かったと報道されました。いよいよ戦火がダマス中心部に迫ってきたことで、これからアサド政権内部からの離反ラッシュが予想されます。
 もっとも、それを見越して秘密警察も政府幹部の家族を人質にとるなどの締め付けを強化しますから、そこは見えない攻防が繰りひろげられることになりそうです。
  1. 2012/12/04(火) 11:10:35|
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プロフィール

黒井文太郎

Author:黒井文太郎
 63年生まれ。『軍事研究』記者、『ワールド・インテリジェンス』編集長などを経て、現在は軍事ジャーナリスト。専門は各国情報機関の最新動向、国際テロ(とくにイスラム過激派)、日本の防衛・安全保障、中東情勢、北朝鮮情勢、その他の国際紛争、旧軍特務機関など。

 著書『ビンラディン抹殺指令』『アルカイダの全貌』『イスラムのテロリスト』『世界のテロと組織犯罪』『インテリジェンスの極意』『北朝鮮に備える軍事学』『紛争勃発』『日本の情報機関』『日本の防衛7つの論点』、編共著・企画制作『生物兵器テロ』『自衛隊戦略白書』『インテリジェンス戦争~対テロ時代の最新動向』『公安アンダーワールド』、劇画原作『実録・陸軍中野学校』『満州特務機関』等々。

 ニューヨーク、モスクワ、カイロに居住経験あり。紛争地域を中心に約70カ国を訪問し、約30カ国を取材している。




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