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ワールド&インテリジェンス

ジャーナリスト・黒井文太郎のブログ/国際情勢、インテリジェンス関連、外交・安全保障、その他の雑感・・・(※諸般の事情により現在コメント表示は停止中です)

沖縄防衛局長舌禍事件・その他雑感

 諸々雑感を書き連ねてみます。

 まずは防衛省沖縄防衛局長の「犯す」発言問題。記者懇で酔っ払い、政府が普天間移設のための環境影響評価書を「年内に提出できる準備をしている」との表現に留めていることに対して、「女性を犯すときに『これから犯しますよ』と言いますか」と発言したそうです。
 事実とすれば完全アウトですが、どうも事実関係が報道ではよくわかりません。防衛省側(本人)の説明では、以下の発言だったとのこと。
「『やる』前に『やる』とか、いつ頃『やる』とかということは言えない」「いきなり『やる』というのは乱暴だし、丁寧にやっていく必要がある。乱暴にすれば、男女関係で言えば、犯罪になりますから」
 言った言わないの話なので、事実は不明ですが、発言内容のインパクトが全然違いますね。後者でも暗にレイプを匂わせていて、喩えとしてはたしかにこれでもマズイことはマズイですが、もしこれを「犯す」発言に記者が捏造していたのなら、それもかなり悪質ということになります。
 事実はわかりませんが、わからないうちから「犯す発言」で状況がどんどん動いていったのも、本来はおかしな話です。
 本日の新聞解説では「これで普天間移設が難しくなった」との論調が出ていますが、それもよくわかりません。防衛省に対する県民感情で決めるものなのでしょうか。
 批判は女性蔑視、沖縄蔑視に集中していますが、本当の問題は、この発言には政府側が「沖縄を油断させておいて、いずれはチカラワザで動かすしかない」と考えているホンネが出ていることではないかなと思います。仮に本人の弁が事実だったとしても、「やる」という言葉のニュアンスはそういうことを示しています。
 実際、私が聞いている範囲だけでも、そういう観測を持っている人がほとんどです。沖縄側もそのあたりの政府のホンネはわかっているはずだと思うのですが・・・。

 さて、今度の通常国会に提出予定の秘密保護法案に、新聞協会が反対だそうです。公務員の守秘義務が強化されますから、従来のようなオフレコ取材がかなり難しくなります。新聞・テレビは番記者態勢でオフレコ情報が入るというのが最大の強みでしたが、その構図が崩れる可能性があります。
 最善の策は、特別秘密指定を本来の国家機密に絞り込み、それ以外は原則公開にすることですが、特別秘密指定をするのは役所なので、トラブル回避のためになんでもかんでも特別秘密にされる可能性がたしかにあります。
 私自身は機密保全の必要性を訴えている立場ですが、その一方では、ライターという職務上、非公式情報を記事化することはしばしばあります。情報源個人が不利益にならなければ、それは生業ですから原則的には書きます。ですが、今後はそれも難しくなるかもしれません。

 ところで、TPP論議は、その議論の対立のしかたが非常に興味深いです。私自身はざっくり言えばTPP賛成派ですが、メリット、デメリット両方あって、それぞれ論者がどの立場に立つかで明確に二分されています。
 しかも、両サイドの識者ともに相手方への罵倒のしかたが尋常でないですね。「売国奴」なんて言葉もあちこちで飛び交っています。
 それにしても専門家の方々が、互いに反対陣営に対し「あいつらは何もわかっていない!」と自説原理主義になっているので、読んでいるほうも何がなんだかわかりません。それでも、そんな専門家の意見がそれぞれそれなりに説得力があるのは、要するにどちらにもメリットとデメリットがあるからにほかなりません。
 私自身は経済グローバル化のメリットのほうが大きいと今のところは考えているのでTPP賛成派なわけですが、同じ賛成派陣営でも、私の比較的得意分野である安全保障問題の観点で「TPPの本質は日米同盟」との説には賛成できません。対中国シフトなどというのは後付けの理屈であって、そこはやはり日米の経済浮揚の話がメインであろうと思っています。

 ちょっと違う構図ではありますが、感情的な怨嗟のバトルになっているところは、TPP論争は原発論争に似ているところもありますね。
 開米瑞浩氏のコラムで紹介されていたのですが、コピーライター・糸井重里氏が震災しばらく後の今年4月25日にツイッターでこんなふうに書いていたそうです。

<ぼくは、じぶんが参考にする意見としては、「よりスキャンダラスでないほう」を選びます。「より脅かしてないほう」を選びます。「より正義を語らないほう」を選びます。「より失礼でないほう」を選びます。そして「よりユーモアのあるほう」を選びます>

 ロジックとしては乱暴かつ不充分ですが、経験則としてはかなり同意ですね。もちろん是々非々ではありますが、なるほどなあと思いました。
 下記は悪い見本の典型的な例ですね。
▽ネットで「白血病患者急増」出回る 日本医師会が否定の文書 産経11月30日

 原発といえば、こんな世界仰天ニュースが・・・
▽世界の頭脳に福島党首夫妻 米誌「原発推進に抵抗続けてきた」100組中29位
 世界の頭脳!!!

 ところで余談ですが、原発といえば、本日発表された今年の紅白歌合戦。猪苗代湖ズというバンドが出演します。サンボマスターの山口隆さんを中心とする震災復興応援バンドですね。
 今年は東北出身者が勢ぞろいですが、我が故郷いわき市出身のミュージシャンはいないようです。で、気付いたのですが、そもそも福島県出身の芸能人ってあまりいないですね。加藤茶さん、西田敏行さん・・・あと誰かいたでしょうか???中村敦夫さんはたしか中学・高校の先輩だったような(うろ覚えです)・・・こう考えると沖縄県民って凄い!(話が脱線しました)

 さて、当ブログでカバーしているシリアですが、こんな動きがあります。
▽アラブ連盟がシリア制裁決定、資産凍結や投資打ち切りへ ロイター11月 28日
 いよいよ制裁が本格化してきました。
▽シリアのデモ弾圧は「人道に対する罪」、国連調査委が報告書ロイター 29日
 何を今更な感はありますが、こういう国際世論の雰囲気づくりは後々重要になってきますので、どしどし行ってほしいと思います。

 シリアでも外国大使館襲撃がありましたが、イランも酷いですね。
▽イランの英大使館にデモ隊乱入、制裁への抗議で暴徒化 ロイター11月30日
 中東独裁国はもう何でもアリです。国際法とか関係ないですね。自分で自分の首を絞めるだけですが。

 最後にこんなニュースも。
▽ノルウェー乱射容疑者は「精神障害」、治療施設収容の公算ロイター11月 30日
 予想通りの展開ですね。要人テロの犯人の多くが精神異常者であることは、以前当ブログでも紹介したことがあります。こういうのは、いくら対策をとっても、正直お手上げですね。

(追記→)
 冒頭に記した沖縄防衛局長の「犯す」発言について、ある新聞の社説が「オフレコを報じるのはルール違反」と非難していました。要するに「そんなことすると、これからウチもオフレコ情報とれなくなるじゃないか!」という文句ですが、これには強い違和感を感じました。
 オフレコなどというのは、記者個人が取材対象に食い込んで信頼関係を作っての話というのが筋で、なんだか「番記者ならオフレコOKがしきたり」などという甘えた記者クラブ的利権意識に聞こえます。これは文句の筋合いが違うのではないかなと思います。
 それより、誰も指摘しませんが、仮に沖縄紙の記者が悪意をもって「やる」を「犯す」に捏造していたら、それはちょっと酷いのではないかなと私は思います。文脈がそういうニュアンスを含むものだったとしても、いわゆるカギカッコの発言を悪意で捏造するのは、それこそルール違反。というか、メディアによる暴力です。事実は私にはわかりませんが、仮にそういうことがあるなら、そちらを問題にすべきでは?
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  1. 2011/11/30(水) 18:10:39|
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サダム・フセイン長男の影武者

 サダム・フセイン影武者説というのがかつてありましたが、サダム以上に残虐と悪評判の高かった長男ウダイ・フセインにも影武者が実在しました。元軍人のラティフ・ヤヒヤという人物で、湾岸戦争後に海外に亡命しています。
 このヤヒヤ氏を主人公にした『デビルズ・ダブル~ある影武者の物語』という映画が、来年1月から全国ロードショーされます。主役はドミニク・クーパーです。
▽デビルス・ダブル公式サイト
 それで、このヤヒヤ氏自身が映画のプロモーションのため来日し、じつは本日、某月刊誌・週刊誌のあいのりで、私がインタビューすることになっていたのですが、急遽中止になってしまいました。というのも、成田空港で入国が許可されなかったというのです。
 聞いてみると、ヤヒヤ氏はもちろんイラク人ですが、サダム政権時代に海外亡命したためにイラク国籍を剥奪されていて、まだ回復していないのだそうです。それで、海外亡命者用の身分があって、それでアメリカでもヨーロッパでもどこでも行けていたわけですが、日本ではそれだけでは書類上、不十分だったということです。
 ウダイ・フセインはアラブの独裁者のドラ息子のなかでも最悪・最凶で有名でしたが、とにかくアラブ独裁者とはどのくらい酷いものなのかということが、この映画には描かれています。興味のある方は是非どうぞ。
  1. 2011/11/28(月) 12:38:09|
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サッカー五輪最終予選でシリア戦

 シリア情勢に関して、アラブ連盟とシリア政府の交渉が連日報じられていますが、独裁政府が弾圧をやめることなどあり得ないのに、時間稼ぎ戦術に国際報道がいちいち反応しているのが、非常にもどかしく感じます。
 ところで、本日、東京でアンダー22のロンドン五輪サッカー最終予選、シリアvs日本の試合が行われます。シリアの選手はそれどころではない状況ですが、とりあえず試合は試合ですので、両国の選手ともしっかり頑張っていただきたいと思います。
 確認したわけではないのですが、シリア・チームのゴールキーパーは、いま政権軍の集中砲火を受けているホムスの出身と聞きました。家族・親戚・友人のなかには、政権軍に殺害された人がいる可能性もあります。シリア国内は灯油をはじめ主要物資が欠乏し、国外脱出を図る人も増えています。
 シリア選手はまず間違いなく、亡命を阻止し、余計な政治的発言をしないように家族を人質にとられているなかでのプレーでしょう。なんだか切ない話です。
  1. 2011/11/27(日) 14:12:01|
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シリア軍兵士がトルコ人バスを銃撃?

 シリア情勢の本日の新展開といえば、ちょっとまだ情報が錯綜していて、どこまで本当かわからないのですが、トルコ人のメッカ巡礼団のバスが、シリア国内を通過中にホムスの北方でシリア軍の兵士から銃撃を受け、死傷者が出たとの情報があります。事実とすれば、トルコ側の硬化は必至で、シリア=トルコ関係の緊張がまた一層高まることになります。
 さっそくユーチューブに、それだという影像がアップされていました。
▽銃撃されたトルコのバス
 この事件で攻撃されたバスだということですが、影像だけではそれを裏づける証拠は見当たりません。周辺の人々の会話はトルコ語で、映っている救急隊員はハタイと書かれた制服を着ていますので、トルコ帰国時の影像と思われますが、詳細はまだよくわかりません。
  1. 2011/11/21(月) 22:48:08|
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オウムの生物テロ未遂の全貌

オウム裁判終結 遠藤被告の死刑確定へ 最高裁上告棄却(朝日新聞)
 未遂、というより計画失敗だったために事件化せず、裁判にならなかった生物兵器テロですが、そのためほとんど報道から除外されているので、拙共著『生物兵器テロ』から引用しておきます。
(以下引用)
 1995年3月20日に発生したオウム真理教(2000年2月にアレフに改称)による地下鉄サリン事件は、史上初の化学兵器テロという点で注目されたが、その後の捜査により、教団が生物兵器テロも実行し、失敗に終わっていたことが明らかになっている。
 オウムが生物兵器として開発してきた微生物はボツリヌス菌と炭疽菌だが、その他にもQ熱リッケチア、エボラ・ウイルス、毒キノコ胞子などを研究していた。とくにエボラに関しては、教団は92年10月頃より、松本教祖自らも参加する数十人の調査団(アフリカ救済ツアーと称し、慈善活動を偽装した)をザイール(現・コンゴ)に派遣しているが、ウイルス株の入手には失敗している。
 こうしたオウムの生物兵器開発の中心を担ったのは、オウム内の組織「厚生省」の責任者(大臣と呼ばれていた)だった遠藤誠一で、90年から95年にかけ、少なくとも9件の生物兵器テロ攻撃を試みた疑いがある。
 オウムの武装化計画は、政界進出を目指した90年2月の衆議院選挙で教団の候補者全員が落選した直後に始まり、その最初に手がつけられたのが生物兵器の開発だった。
 教祖・松本智津夫被告の第3回公判(96年5月)の検察側冒頭陳述によると、衆院選の敗北直後、松本は教団「法皇内庁」大臣の医師・中川智正からボツリヌス菌の毒素は人への殺傷効果が高いと聞いたことから、教団の生物兵器武装を決意。遠藤に対してボツリヌス菌の採取・分離を指示するとともに、教団「科学技術省」大臣の故・村井秀夫には、山梨県の上九一色村の教団施設内でボツリヌス菌の大量培養プラント設置に取り組ませた。熊本県波野村の教団施設では、動物実験も行われていた。
 また、96年12月の松本被告の公判に検察側証人として出廷した松本の元運転手・杉本繁郎は「90年と93年に、トラックを使ってボツリヌス菌などをまいた」と証言している。
 杉本の証言や各報道などによれば、最初の“生物テロ”が行れたのは、90年4月のこと。車両3台を使い、国会周辺などの東京中心部、横浜の市街地と横須賀の米軍基地周辺、成田空港周辺の3ヵ所にボツリヌス菌を撒いたのだという。
 これはまったく効果を表さなかったが、93年に再び生物テロを決行する。まずは、同年6月上旬に、皇太子の結婚パレードを標的としてボツリヌス菌を散布。さらには、同6月下旬と同7月上旬の2回、東京・亀有の教団東京総本部屋上から周囲の住宅地を狙って炭疽菌を散布した。さらに、同7月下旬の少なくとも2回、噴霧車両で国会周辺や皇居周辺をまわった。
 また、地下鉄サリン事件直前の95年3月15日には、地下鉄霞ヶ関駅でボツリヌス毒素噴霧装置に改造したアタッシェケース3つを放置、このうち1つから蒸気が噴出した。なお、このときは、アタッシェケースを調整した担当の信者のひとりが、自らのテロ行為に恐れて、わざと調整に失敗したとみられている。
 いずれにせよ、これらのボツリヌス毒素および炭疽菌によるテロによっては被害者は出ていない。その原因についてははっきりしたことはわかっていないが、有力な見方としては、
①遠藤が北海道・十勝川流域で採取してきたボツリヌス菌株そのものが弱かったか、あるいは毒性の低いタイプだった。
②入手経路不明の炭疽菌株については(おそらく医学研究者の在家信者を通じ、国内のどこかの大学の研究室から盗んだものとみられているが)、これも比較的毒性の弱いタイプのものだった。
③嫌気性のボツリヌス菌の取扱い技術が未熟だった。
④炭疽菌が適当にエアロゾル化(またはその安定化)できていなかった。
⑤噴霧装置に技術的問題があった、
などが指摘されている。
 なお、この炭疽菌については2000年10月、北アリゾナ大学のポール・ケイム教授が興味深い報告をしている。国立感染症研究所が新東京総本部の壁から検出した炭疽菌検体をケイム教授が分析したところ、菌株はワクチン研究用の非有毒株だったというのである。
 ケイム教授はその原因について(1)教団側が非有毒株と知らずに入手した(2)有毒株を使用する前のリハーサルだった(3)教団内の誰かが直前に非有毒株にすり替えた――などの可能性を挙げている。
 いずれにせよ、教団がかなり本格的に取り組んだ生物テロは、最終的に失敗し、その後の化学兵器テロ路線へのシフトチェンジが図られた。結局のところ、オウムの生物テロで被害者は出なかったが、炭疽菌株の入手ルートなど、まだまだ未解明の部分は残されている。
 とくに、亀有本部での炭疽菌兵器開発を指揮していた疑いのある上祐史浩幹部が現在、教団トップの地位にいるが(※02年の本書出版時点)、被害者の出なかった生物テロ事件は裁判の争点となっておらず、その真実は闇に葬られたままとなっている。
(※その後、上祐元幹部は当時、生物兵器製造を知っていたことを公表しているが、その件に関しては一切、刑事責任を問われていない)

バイオ・テロリスト=遠藤誠一のプロフィール

 1960年生まれ。帯広畜産大学畜産学部獣医学科を卒業後、京都大学大学院医学研究科で修士課程を修了。同大学ウイルス研究所に入所したが、学費滞納で除籍となる。学歴から分かるように、微生物学の専門家である。88年11月にオウム真理教に出家し、教団幹部=厚生省大臣となった。
 教祖・松本智津夫の指示により、90年2月頃よりボツリヌス菌の兵器化研究をスタートし、それがうまくいかないと、続いて炭疽菌兵器開発に乗り出した。化学班トップの土谷正実とのライバル関係から、生物兵器開発に奔走したが、結局は成功せず、教団の化学兵器武装化路線のあおりで教団内の地位が低下していった。
 上九一色村の教団施設の一画に、プレハブ施設「ジーヴァカ棟」(ジーヴァカは遠藤の教団名)を与えられていた。
 地下鉄サリン事件後の95年4月25日に逮捕。同5月2日に捜査当局が殺人予備容疑でオウム真理教施設に対する一斉家宅捜索を行った際には、ジーヴァカ棟から細菌培養器、冷凍乾燥機、高圧細菌濃縮器、電子顕微鏡などが発見されている。
(以上、引用)

 遠藤死刑囚は、死刑確定したのだから、生物兵器計画についてもすべて話してほしいと思います。

(追記)
 今回の報道を見ても感じるのですが、オウム死刑囚はいずれも世界有数のテロリストなのですが、テロ裁判であるという厳しさがあまり感じられません。遠藤死刑囚は「遠藤テロリスト」ですし、生物兵器開発に関わった元最高幹部は今では娑婆で仲間の指導者にまでなって暮らしていますが、私から見れば立派な「Jテロリスト」(いちおう娑婆暮らしなので、不本意ながら匿名)ですね。
 テロリストの特徴というのは、何かの理由で脅迫でもされて強制されたような例外を除き、ほとんどは自らの信念に基づいてテロリストの道に入った確信犯です。逮捕されたテロリストというのは、自らの聖戦に敗れた敗残兵ということになります。反省するのは結構ですが、生死のやりとりをするテロリストの道に入るというのは、それだけ強い信念が必要なんではないの・・・とアルカイダ・ウォッチャーの私などは思うわけです。
 赤軍なんかもそうですね。重信テロリストや小西テロリストの言動とか、なんか温くてガッカリです。

(追記2)
 まだアーレフにいる信者の人々は、「松本死刑囚」とかいうから「尊師」とかいう話になっちゃうので、これからは「松本テロリスト」と報道したらどうでしょう? 松本テロリストを指導者と呼ぶ集団って・・・テロ組織じゃん!
  1. 2011/11/21(月) 13:15:24|
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追い詰められるシリア政権

 今週末、中東各地でいろいろ動きがありました。
 まず注目されたのはエジプトです。モスレム同砲団が主催したタハリール広場の5万人規模の反政府(現在の軍部主導の暫定政権に対する反対)デモに警察が介入し、死傷者が出ました。軍部は当然ながら軍部主導の新体制を画策していて、それに世俗派政治勢力もムバラク打倒で主導的役割を果たした民主派の若者たちも反発していますが、ここに来てもっとも組織力のあるモスレム同砲団がいっきにオモテ舞台に出てきた印象です。
 今後、いずれにせよ軍部の影響力は低下しますが、世俗派とイスラム勢力の軋轢が高まっていくことが予想されます。
 次にイエメンですが、昨日、デモ隊鎮圧にあたっていた軍の将兵多数が反政府に転じました。といっても、イエメンの場合はピープルズパワーのうねりというよりは、部族閥、軍閥の離反の要素が強く、結局はサーレハ派を含む武装勢力同士の内戦のような状態に進む可能性がきわめて高いといえます。サーレハ派は大統領の息子が最精鋭部隊の主流派を指揮していますので、かなり本格的な戦闘になると思われます。
 バハレーンでも反政府デモが再び活発化しています。バハレーンは革命まで進む状況には今のところはなっていませんが、「アラブの春」全体が再び活性化しつつあり、今後の動向が注目されます。
 リビアでは、カダフィの後継者だった次男のセイフイスラム・カダフィがリビア南部で逮捕されました。が、地元司令官が身柄のトリポリ移送を拒否しています。新政権での主導権争いを睨んだ駆け引きと思われます。リビアでは、大方の予想どおり、今後、主導権争いがますます激化していくことになりそうです。
 シリアでは、アラブ連盟の仲裁をめぐり、政府側・反政府側ともに政治的な駆け引きが活発化しています。アラブ連盟の提案をシリア政府が拒否して逆提案したものを、またアラブ連盟が却下したというなんだか無駄なやりとりが続いていますが、シリア政府はそうしてあくまで時間つぶし作戦の構え。他に手がないというのが実情でしょう。
 アサド政権はかなり追い詰められているようで、本日、アサド大統領のインタビューと、外相の記者会見が中継されました。大統領のインタビューはなぜか英紙『サンデー・タイムズ』でしたが、あくまで従来どおりの「私はシリアの安定のために働く。過激派から国民を守るのは責務」との強弁を繰り返していました。英紙の記者ならもっと突っ込んで欲しかったですが、独占取材ですから、まあしかたないでしょう。
(ところで、新聞も今は影像を撮影して、自分たちの紙面よりも先にテレビ局に配信するのですね。メディア状況の変化ということでも面白い現象です)
 外相の記者会見も同様で、厳しい質問は皆無。もっとも、独裁国で外相など何の意思決定権もないので、あまり重要な会見ではないですが。
 ちなみに、外相は「アラブ連盟の調査団をいつでも受け入れる」と断言していました。アラブ連盟側はたしか500人の調査団派遣を申し入れていましたが、シリア政府側は「40人まで」「過激派がいて危険なので、安全を確保できたところなら案内する」とか返答していましたね。いつまでこうした茶番が通用すると思っているのでしょうか。
 ただ、故サダム・フセインや故カダフィのように、開き直って「オレに逆らう奴は殺す!」と凄まないだけ、いちおう建前は大事にしているようです。
 反乱部隊の活動も活発化しているようで、先週はダマスカス近郊の空軍情報部の施設が攻撃されました。空軍情報部は、拙ブログでも以前に解説したことがありますが、アサド政権直結の有力な秘密警察のひとつです。そこが攻撃を受けたことは、アサド政権にかなり大きな衝撃を与えたものと思われます。
 また、ダマスカス郊外を中心に、離脱兵が急増していると、かなり多くの情報が出ています。こうした情報には当然、誇張がつきものですが、実際にそうした傾向にあることは事実だろうと私は推測しています。これは真偽不明の情報ですが、本日、前述した空軍情報部と、これもアサド政権の中枢の秘密警察である「政治治安局」からも離反グループが出たとの情報もあります。
 また、ダマスカス中心部のバース党本部にRPGが撃ち込まれたとのニュースも流れましたが、自由シリア軍および反体制派は、少なくとも自分たちではないと関与を否定しています。この事件自体が真偽不明で、単なるガセの可能性もありますし、あるいは「テロリストが暴れている」と盛んにアピールしているアサド政権側の自作自演の可能性もあります。
 ただ、前述したアサド大統領のインタビューでもそうでしたが、「過激派武装集団から国民を守るために軍・治安部隊が動かざるを得ない」とのタテマエを強弁するため、やたらと反政府側の活動を実態以上に誇張していますが、それが逆に「アサド側が追い詰められている」との雰囲気作りに繋がっています。
 それでも実際に殺したほうが勝ち・・・と考えているのかもしれませんが、弾圧を強化しても反体制派の活動を抑えることはもはや無理ですから、逆効果ではないかなと思いますね。あるいは、アサド大統領には本当にそんな報告が上がっていて、大統領自身がそれを信じている可能性もあります。周囲に担がれている単なる二代目なので、あながちあり得ない話ではないです。

(追記)
 上記したバース党ロケット砲攻撃事件に関し、いろいろ報道で情報が錯綜しているので、私が知るかぎりの情報を補足します。
▽シリア反体制派、与党本部にロケット弾攻撃 (日経新聞)
▽シリア政権党支部にロケット弾…離反兵組織声明(読売新聞)

 同事件に関しては、当初、事件の目撃情報がロイターやBBCで速報され、その後、自由シリア軍のダマスカス地区の部隊名での犯行声明が、自由シリア軍のフェイスブックに掲載されました。
 ところがその後、自由シリア軍の有力幹部のひとりが否定。さまざまな情報が政府側・反政府側双方で流れましたが、反政府側はいずれも関与を否定。さらに自由シリア軍のウォールからも同声明が削除され、そのうえ「真偽不明の情報に注意するように」との注意書が書き込まれました(ちなみに、自由シリア軍のウォールは一般フォロワーの書き込みはブロックされています)。
 その後、バース党本部自体、まったく無傷で平穏だとの目撃情報が相次ぎ、事件そのものが「ホントかな?」という状況になりました。
 最終的には、自由シリア軍の指揮官のアスアド大佐が自らユーチューブで声明を発表し、自由シリア軍の関与を否定しています。
  1. 2011/11/21(月) 01:17:09|
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紙資源の無駄

 いま携わってるムック本の参考資料を「自腹持ち出し」で十数冊、書店に行くのが面倒なので、アマゾンで書名だけで選んで購入したのですが、実物が届いたら、どれも全然使えない!
 本だけは、現物を見ないで買うというのはリスクがでかいですね。返品できないかなあ・・・まあ、そんな制度になれば、版元も著者も(当然ながら私も)生きていけないわけですが・・・。
  1. 2011/11/20(日) 02:31:35|
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シリア市街戦

 つい先ほどアップされた影像です。
▽ホムス(バーバ・アムル)の市街戦
 かなり本格的な戦闘ですね。撮影は住民側。通りをゆく政府軍の装甲車が戦闘しています。右の装甲車は被弾して兵員が逃げ出しているようです。
 政府軍はもっと大部隊で圧倒しているのかと思っていたのですが、そうでもない雰囲気です。

 ところで、本日発売の『新潮45』に「中国ネット軍のサイバー攻撃に備えよ」という記事を寄稿しました。
 同誌今月号は他にも、アテネ在住のジャナーナリスト・有馬めぐむさんのギリシャ・レポート「国家が破綻するということ」、インテリジェンスの達人である佐藤優さんの大阪市長選論「反ファシズムでは彼に勝てない」など興味深いレポートが掲載されています。まだパラ読みしかしていませんが、作家・哲学者の適菜収さんの「民主主義を妄信するB層が国を滅ぼす」という論考も面白かったですね。かなり辛辣な小沢一郎支持者批判ですが、大衆心理に関する分析など、インテリジェンスと通じるところがあって参考になります。
  1. 2011/11/18(金) 22:55:44|
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シリア戦闘場面(政府軍側)

 下はホムスらしいですが、詳しいことはよくわかりません。
▽街に砲撃
 これはもう戦争といっていいような激しい砲撃です。攻めている政府軍側の撮影。

 下は、攻められているほうの政府軍兵士たち。やはりホムスとあります。こちらも政府側の撮影です。
▽最前線の政府軍兵士(死体も写っています)
 アサド政権は「武装集団に攻撃されている」ということをアピールするため、撮影・発信しているのでしょうか。
 それにしても、こちらはリアルな影像ですね。1992年ボスニア戦線の最前線も、こんな感じの雰囲気でした。兵士たちはみんなビビっていますが、徴兵された兵隊ですし、なんだかちょっと可哀想な感じです。

 ところで、国民評議会ガリユーン代表派の人物に、直接電話で話を聞く機会がありました。ガリユーン派としてはとにかく流血を避け、国際社会の圧力で事態を打開したい考えとのこと。ただ、その人物の意見では、国際社会の軍事介入も状況次第ではアリではないかなということでした。カギとなるのはロシアなので、対ロシア交渉は今後も続けていくそうです。

(追記)
 シリア反体制派のサイトをぱらぱら見ていたら、「TOKYOでも国民評議会支持の動きがある」との情報を発見。上記したように、さきほど同派の活動家と話したのは私ですが、もしかしたら、それが増幅伝言でこんな話になってしまっているのかも・・・。
  1. 2011/11/17(木) 17:45:33|
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シリア国民評議会代表のモスクワ記者会見

 つい先ほど、シリア国民評議会のガリユーン代表がモスクワで記者会見を行いました。ネットで中継していたのを見ましたが、発言の注目点は以下。
「現時点で外国の軍事介入は求めないが、暴力が停止されるように国連平和維持軍の進駐を希望する」
「自由シリア軍が、自衛の戦いをするのは当然だが、それを超えて戦闘を仕掛け、内戦化するのは希望しない」
「アサド政権でまだ犯罪行為に手を染めていない人々に、政権離脱を強く促したい」
 あくまで非暴力闘争での軟着陸を目指すということのようですが、私の聞いているところでは、外国の介入要請は「時期を待っている」ところだとの情報もあります。
 モスクワの会見なので、ロシア海軍のタルトゥース使用に関する質問が出るかと期待したのですが、それはありませんでした。ロシアはとにかく軍事的・国際政治的な国益の観点でアサド支持の姿勢を崩していません。モスクワの知人に聞きましたが、ロシアの一般国民も、アメリカ&NATOへの反感があるようで、まだアサド反対の世論はそれほどないようです。
 ただ、ロシア外務省がガリユーン氏と協議したということは、ロシア政府もアサド政権存続をホンネでは諦めているのではないかと思います。シリア問題でロシアは国際社会で孤立していますが、このまま単独でアサド政権支持を貫くと、リビア新体制から締め出されたのと同じ不利益を被る可能性が高いと判断したのかもしれません。
 ガリユーン氏の記者会見で、質問で多く出たのは自由シリア軍のことでしたが、ガリユーン氏自身は彼らにそれほど影響力があるわけではないとのことでした。
 他方、その自由シリア軍ですが、暫定司令官のアスアド大佐はこんな発言をしています。
「政変後、自由シリア軍が治安の責任を持つ」
「アサド体制の人間は新体制から外す」 
 かなり先走った印象ですね。
 結果的に、ガリユーン発言とアスアド発言はミックスでなかなか効果的な心理作戦のようになっていますが、まあ偶然でしょう。
 とにかくシリア情勢はなにやら急に動き出してきました。1日1日で潮目が変わったりしますので、目が離せません。

(追記)
 空想かもしれません。でも、ちょっと考えたのですが、ベストの道はたしかにガリユーン国民評議会代表の言う方法かもしれません。
 シリアの現状はすでに内戦に準じる状況だと、アラブ連盟と国連安保理で認定し、国連平和維持軍が進駐して、国連管理下で総選挙を行う。国連部隊にはアメリカを入れず、たとえばロシア、中国、フランス、南アフリカ、アルジェリア、エジプト、ブラジル、日本あたりが主体になる、と。それで新たな国家の体制を決めるということなら、もっとも犠牲が少なくて済むのではないかと思うわけです。
 これまでの人類の歴史が教えているのは、革命は、その成就後こそが難しいということですが、そういった意味でも、融和を為すために、ガリユーン・プランはベストではないかなという気がします。

(追記2)
 非公式情報ですが、ガリユーン代表は今回、非公式にロシア外相とも会談した模様。ロシア側はかなり強硬で、「アサド体制維持」を前提に、「国民評議会とアサド政権がエジプトで交渉」し、「今年3月時点への回帰=つまり軍の撤退とデモ終結」を実行し、「アサド政権の定めるプログラムで改革を進める」ことを提案したとのこと。アサド政権が約束を守るかどうかは、「ロシアがアサド政権と交渉」するので、「国民評議会は口出し無用」ということです。
 最初だから公式論しか話さなかったということでしょうが、そんなふうにいかないことはロシアもわかっていると思うので、実のある話はまた今後に、ということでしょうか。
  1. 2011/11/15(火) 23:28:14|
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民主党「インテリジェンス・NSC作業チーム」

 先週のニュースですが、やっぱり気になるので、いちおう貼っておきます。
▽日本版NSCへ作業チーム=官邸の外交機能強化-民主(時事通信・11月10日)
 民主党が、日本版NSCの創設を視野に「インテリジェンス・NSC作業チーム」の設置を決めたそうです。NSCといえば本来は戦略(政策)検討機関ですが、インテリジェンス(情報分析・評価)方面も担うことになるのでしょうか。
 もうひとつ注目されるのが、同チームの座長に大野元裕参院議員が就任したということですね。大野議員といえば、TV解説でもお馴染みの中東問題研究者です。どちらかというとインテリジェンス方面の専門家ですね。
 日本版NSCということですが、アメリカのNSCというよりは、イギリスのJICみたいなイメージになるのでしょうか。本来なら政策と情報は分けたほうがいいのでしょうが、片方だけ作っても機能しないでしょうし、かといって両方作るのは大変だし・・・ということかもしれません。
 どうせ使える人材は少ないだろうけど、そういう人はどっちもある程度はできるだろうから、この際、両方やらせちゃおうか・・・ということも、まあ初めはしょうがないかなという気もしないではありませんが。

(追記)
 私はまったくの部外者ですので、内部でどんな話になっているのか知りませんが、NSCはNSCで作り、それとは同時に内閣官房のインテリジェンスの仕組みもイジってしまおうということかもしれません。というか、そうであって欲しいと思います。

 私案⇒ この際、内調は独自調査機関であることをやめて、JICみたいになったらどうでしょう。合同情報会議がどうせあまり機能しそうにないので、その役目を内調が担う。ただし、内調スタッフは独自調査をやらず、もっぱら情報要求&情報評価に専念する・・・と。
 本当は合同情報会議の拡充がいちばんいいのでしょうが、とにかく人と箱と予算をつけるのが、日本政府ではものすごくたいへんみたいなので、うまくいきそうにないですね。その点、内調はすでにスタッフも箱もあるので、予算をあとちょっとつけて専門スタッフを増強するというのが早くないですか? 上部に委員を配置すれば形式上も整いますが、まあ実際のところ日本では委員制度はあまりプラス効果が期待できない気がします。
 内調はそこそこ機密費はあるみたいですが、いずれにせよ外郭団体を入れてもあの人数で独自調査機関なんて無理がありますし、規模的にはJICぽいのが合ってないでしょうか? 要は内調の看板をそのままに、実態をJICにしてしまう、と。それに内調の主力は出向官僚ですから、本来なら独自調査よりも、調整的な業務のほうが合ってると思いますし。
 それはいきなり急に全部組み換えというのは難しいでしょうが、とりあえず内調の半分くらいからスタッフをそちらの実務に回すということは無理でしょうか? 内閣情報調査室という名前が合ってませんが、まあ、名前なんてなんでもいいです。内閣情報調整室とかでいいんじゃないですか? いや、部外者の単なる思い付きですが。
  1. 2011/11/15(火) 03:26:43|
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リオ特殊部隊vs麻薬組織

リオ警察、麻薬取引拠点のスラム街制圧を宣言 特殊部隊も投入
 警察と治安部隊が3000人、それに海軍特殊部隊が200人。装甲車やヘリコプターも投入されたそうです。さすが南米ですね。ちょっと現場で見てみたい場面です。「警察密着24時」ブラジル版のような感じでディスカバリーchか「世界丸見え」あたりでやらないものでしょうか。
 リオは行ったことはないのですが、スラム街というのは、どこの国でも非常に興味深い場所です。ニューヨーク、マイアミ、ヨハネスブルク、アムステルダム、パナマ市、マニラなどでは行ったことがあります。ヨハネスなどは戦場よりも危険度高いですが。
 今回、なぜか海軍の特殊部隊が投入とのことで思い出したのですが、以前、ペルーの麻薬地帯(密林地帯)を取材したとき、山の中なのに、麻薬組織掃討にペルー海軍の特殊部隊が投入されていると聞きました。理由は「陸軍は腐敗しているから」だそうです。南米はこういう点でも面白い場所ですよね。
 
 有名な映画ですがシティ・オブ・ゴッド、たいへん面白かったですね。未見の方には是非お薦めします。
  1. 2011/11/14(月) 15:13:42|
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トルコ国境に自由シリア軍の根拠地をつくる、の案

 アル・アラビーヤの報道によると、シリア国民評議会と自由シリア軍は、トルコのハタイ県に隣接する国境地帯に、トルコ軍による飛行禁止地域を設定し、そこに反アサド勢力の拠点(聖域)を作る計画を考えているとのこと。
 トルコ側は、国際社会の要請があるか、もしくは自国の安全保障が脅かされた場合は、それに乗り出す考えがあるようです。国際社会の要請というのは、アラブ連盟の要請プラス国連安保理決議、NATO(つまりはアメリカ)の決断、というリビアのパターンのことを指すと思われます。
 仮に飛行禁止空域が設定されても、現状の兵力比では、やはりアサド軍が圧倒的に優勢ですが、離脱兵がどんどん増えている状況ですから、この先どう転ぶかはわかりません。ホムスやハマのような都市部では、アサド軍の戦車・装甲車による掃討が容易でしたが、北西部国境エリアは山岳・丘陵地帯なので、そこは防護側には有利ですが。
 現時点では希望的プランの域を出ていませんが、仮にこれが実現すれば大きなターニング・ポイントになることは必至です。米仏あるいは湾岸諸国は、自由シリア軍にどんどん資金・武器を流しこむことが可能になりますし、アサド軍が非道な虐殺に出れば、NATO軍の直接介入(マーヘル軍やバシャール邸への空爆など)にも繋がっていきます。
 また、現在の自由シリア軍は武器を持って離脱した現役兵士のみですが、武器さえ入ってくれば、国民皆兵の国ですから、兵役経験のある一般住民が民兵化し、自由シリア軍の兵力はいっきに膨らみます。軍事的にみれば、彼らだけでアサド軍を撃破するのは無理でしょうが、前エントリーに書いたように、これは潮目の大きな変化となり、アサド軍の自壊を誘引することが期待できます。
 こうした情報は、現時点ではまだまだリアル度が小さくとも、国際メディアでどんどん流れるとアサド側への大きなプレッシャーになります。

 アサド側はすでにアラブ連盟の意外な強硬路線に戸惑っていますが、アラブ連盟との合意を遵守しているというウソを強弁するため、「武装勢力側の非道な攻撃にしかたなく対処している」という屁理屈を持ち出しています。そのため、前々エントリーで紹介したような映像が出てきているのかもしれませんが、これも前エントリーで指摘したように、実際には反体制派側を勢いづかせる効果を生んでいます。
  1. 2011/11/14(月) 14:00:10|
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シリアで各国大使館が襲撃される

 アラブ連盟による資格停止で、シリア情勢はさっそく潮目が変わりつつあります。
 本日、アサド政権は政権支持の官製デモを、強制的に住民を動員し、主要都市で開催しましたが、ダラアやデルゾールなどでは、「アサド大統領とともに!」が、いつの間にか「アサドを殺せ!」に変わったりしたようです。
 また、暴徒がダマスカスのサウジアラビア大使館、カタール大使館、ラタキアのフランス領事館とトルコ領事館を襲撃。サウジ大使館では内部に侵入し、暴れまくったとのこと。こんな暴挙を政府支持者がムハバラートの許可なく出来るわけもないので、アサド政権の裏指令があったことは疑いありません。
 また、隣国レバノンのカタール大使館も、アサド派グループに襲撃されています。
 アサド大統領はおそらく「政府は関知していない」とシラを切れば、それで通ると考えているのではないかと思いますが、あまりに甘いですね。これでアラブ連盟が震え上がる、とでもカン違いしているのでしょう。
 もう末期的症状が見え始めたといったところでしょうか。やはりアメリカやフランスの非難よりも、同じアラブ社会での孤立が相当怖いものと見えますが、過剰反応で自らどんどん墓穴を掘っています。
 すでにアラブ社会全体で「アサド大統領=悪者」という評判は定着していましたが、これであのサダム・フセインを超えてしまいましたね。さすがにロシアも、もう支えきれないのではないでしょうか。
  1. 2011/11/13(日) 22:02:23|
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アラブ連盟がシリアの資格停止

 アラブ連盟自身には何の力もないですが、これはひとつの大きな進展です。リビアの場合も、NATO介入を実現させた原動力は、アラブ連盟の介入容認でした。アメリカもフランスも、アラブ社会の容認という大義名分がなければ動けませんから、アラブ連盟がアサド追放と国民評議会への支持を打ち出せば、いわゆる「国際社会」が大きく動き出します。
 アラブ社会はもともとひとつの強い求心力のある社会で、アラブ諸国のコンセンサスというのは、かなり大きな意味を持ちます。「外国の介入への拒否」という常に振りかざされる建前は、長い植民地支配への反感をベースとする「欧米の勝手な介入への拒否反応」であって、アラブ社会のコンセンサスというのは、非常に大きな大義名分になります。ですから、結局は欧米の武力に頼るにしても、あくまでもアラブ社会のコンセンサスに則って、腕力のある欧米が介入・・・というのが基本になるわけです。
 今のところリビアのような国内拠点と実質的な反乱軍がシリアにはありませんから、反体制派への軍事援助のようなことは現時点では不可能ですが、シリア国内ではこれまで国民を虐殺しつづけてきたアサド政権への怨念が充分すぎるほど高まっていますから、国際社会による政治的なアサド追放が明らかになれば、シリア国内の潮目も急速に変わるのではないかと思います。
 いくら鉄壁の恐怖体制で国軍を監視しても、怖い親分がもう余命わずかと見限れば、あるレベルを超えた時点で、雪崩を打って反旗を翻す兵士たちが出てくる可能性があります。あとはそのレベルをいかに早く、スムーズにもたらすかという問題になります。
 ただ、懸念されるのは、国内の潮目が変わりつつあることを察知したアサド政権が、これまでの1日平均数十人規模の殺害という抑制した弾圧から、いっきに数万人規模の大虐殺にはしることです。そうなれば、多くの難民が周辺国に流出し、おそらく国連安保理決議にもとづくNATOプラス周辺国の軍も参加する多国籍軍による介入へと事態は急展開することになるでしょう。
 そうなると、最終的に独裁が打倒されるにしても、それまで数十万人が命を落とすことになるかもしれません。そうなる前に民衆革命が成功することを願わずにいられません。
  1. 2011/11/13(日) 00:27:58|
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(訂正)シリア反乱軍との戦闘場面?の初映像

 本日アップされた映像ですが、撮影日付は不明です。
▽シリア反乱軍と思われる戦闘場面の映像(※死体が映っています)
 撮影場所は、ちょっと前に激しい戦闘のあったホムスのバーバ・アムル地区とされています。映像だけからは、反乱軍と断定できませんが、圧倒的に攻められている様子で、「死体を運び出せない!」と兵士が嘆いていますから、攻め入っている政府軍の側ではないように見えます。
 こうした市街戦の最前線の映像が、日にちの経たないうちに反体制派のネットのルートで流されているところからも、反体制派側の撮影の可能性がきわめて高いと考えられます。BMPが破壊されているので、BMPごと離脱したということだと思いますが、ちょっとこれだけでは事情はよくわかりません。
 反乱軍に関してはこれまで、情報としては多く流れていましたが、これが反乱軍であれば、実物の戦闘場面の映像が発信されるのは、私の知るかぎりではこれが初めてだと思います。戦闘場面としてはそれほど決定的瞬間というわけではないですが、こうして見ると、人が戦い、殺し、殺されているのだなということが、実感としてよくわかります。
 しかも、反乱軍の兵士たちは、国民を虐殺することを拒否し、ほとんど自らは助かる見込みのない半ば絶望的な戦いに身を投じたわけです。この1週間の政府軍の攻勢で、彼らはすでに殺害された可能性も高いですが、どんな気持ちだったのでしょう?

(訂正 11日22:43)
 上記記事はフェイスブックから流れてきたユーチューブ・チャンネルの情報だったのですが、本日、この映像をめぐってシリア反体制派のフェイスブック内で議論が続きました。この映像はシリア政府軍側ではないかとの異論が相次いだためです。
 いろいろ議論の場を覗いたのですが、結局、確証は得られませんでした。なので、政府軍側の映像である可能性があります。
 しかし、もしもそうだとすれば、反乱軍が政府軍のBMPを破壊し、兵士たちをたじろがせるほど攻勢をかけていることになります。さまざまに漏れ伝わるバーバ・アムルの戦局情報からすると、終始、政府軍優位の戦闘だった印象があるので、それもなかなか考えづらいものがあるのですが、いずれにせよよくわかりません。
 ただ、それでも本格的な戦闘の映像は初めてではあります。これまで一方的に虐殺される場面ばかりでしたので、反体制派の人々はこの映像に少し高揚している様子が感じられます。

(追記 12日12:00)
 同じユーチューブ・チャンネルで、似たような場面の影像がありました。
▽戦闘最前線の兵士
 撮影日・場所不明ですが、同じ流れで出てきているので、ホムスの可能性が高いように思いますが、いずれにせよ影像だけからはわかりません。
 こちらはどうも政府軍で、反乱軍の攻撃に遭っているように見えます。ということは、上記紹介した映像もやはり政府軍なのでしょうか。
 反体制派フェイスブック内では、「シリア政府は『反体制側も暴力的だ』ということを宣伝しようとしているのではないか」との見方を示す人が多いですが、それはどうでしょうか。たしかに政府系のプロパガンダ報道機関は「政府側にも犠牲者は多い」というニュースを盛んに流していますが、そうなると、反乱軍には逆に大きな勇気を与えますね。
 こういう小さなことも、状況を大きく左右する要因になりますから、「情報」の出方の動向は注視すべきものがあります。
  1. 2011/11/11(金) 16:09:01|
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三菱重工サイバー攻撃~情報は漏洩したのか?

 本日発売の『軍事研究』に、「三菱重工にサイバー攻撃!? 狙われる日本の軍事技術情報」という記事を寄稿しました。
 執筆時点では主に防衛関連企業の話だったのですが、「もっとやられてるはず」というようなことを書いたら、その後も国会やら在外公館やらあちこち出るわ出るわ。もっと調べれば、もっと出てきそうですね。
 全部が中国の犯行とは断定できませんが、中国が仮想敵国に対するサイバー・スパイに邁進しているのは間違いなく、日本だけが狙われていないなどということはあり得ません。とくに防衛情報は、消去法からいって、おそらく解放軍総参謀部第3部の民兵部門のハッカーの可能性がもっとも高いと考えます。

 そういえば先日、「印象操作」に関するエントリーを書きましたが、本日、こんな報道が各紙でありました。

三菱重工、原発情報も流出…感染サーバーに形跡 読売新聞

サイバー攻撃:防衛情報の流出なし 三菱重工業の社内調査毎日新聞

 いったいどっちなのでしょう? 答えはわかりますね? どちらも正解です。意図的な操作ということはないかもしれませんが、結果的に印象が反対になった好例かと思います。
  1. 2011/11/10(木) 11:09:13|
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シリア離脱兵の映像その2

 前エントリーで紹介したユーチューブ映像と同じ、ホムスのバーバ・アムル地区での、11月5日の撮影です。
▽シリア離脱兵の映像その2
 ざっと見たところ十数人です。こちらは街頭で住民に囲まれ、意気盛んな様子が見て取れます。同じエリアなので、前エントリーで紹介した映像も、やはり離脱兵だった可能性が高いと考えられます。
 今回の離脱兵はみんな若いですが、やる気満々です。自分たちは「自由シリア軍のアル・ファルーク部隊の一部だ」と言っています。
 普通の車両に乗っていて武装は貧弱ですが、いちおう対戦車ロケットと迫撃砲弾は持っていますね。ホムスに立て篭もった離脱兵はかなり厳しい状況に陥っているはずで、この離脱兵グループの若者たちも、多くはきっと命を落とすことでしょう。あるいは、バーバ・アムル地区では政府軍の攻撃も伝えられていますので、彼らはすでに戦死している可能性もあります。
 彼らの勇気には、本当に心をうたれます。
  1. 2011/11/08(火) 23:07:21|
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シリア離脱兵の映像?

 先ほど、ユーチューブで、シリア離脱兵かもしれない映像が出ました。

▽シリア離脱兵かもしれない映像
 説明文によれば、撮影は10月26日、ホムスです。
 概算で40人くらいいるでしょうか。離脱兵「かもしれない」と書くのは、説明文には離脱兵と明記されているのですが、その映像からは本当にそうなのか断定できないからです。ただ、これだけの人数の歩兵がいながら、明らかに攻撃を警戒し、ビビリながらこそこそ隠れている様子から、たしかに政府軍ではない印象を受けます。本当に離脱兵集団であれば、これだけの人数の映像は、私がみた中では過去最大規模になります。
 同映像では後半に、警戒巡回中の装甲車とトラックも映っています。こちらは装甲車があるとはいえ、歩兵は7~8人くらいしか見えません。説明文では政府軍ということですが、前半のコソコソ集団よりもなにか余裕が感じられます。トラックには離脱兵(死体?)が積まれているとの説明があります。たしかに横たわる人影が何体か確認できますが、映像だけからはどういうことなのか判断できません。
  1. 2011/11/07(月) 16:48:17|
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シリア政権のウソ

 恩赦と称して「五百数十人と釈放した」と一昨日発表したシリア政府ですが、その一昨日と昨日だけで、数千人を新たに一斉逮捕した模様です。あの政権のやることは、すべてこんな感じですね。
 アラブ連盟の調停案を受け入れ、武力弾圧中止を約束したシリアのアサド政権ですが、守るわけありません。アサド大統領はこれまでも、やるやる詐欺の常習犯で、「アラブの春」以前から民主化改革の約束を連発してきましたが、一度たりとも実行しようとしたことがありません。
 案の定、その後もますます弾圧を強化していて、全国で人々を殺害しています。アサド独裁政権とすれば、弾圧をやめれば反政府運動にたちまち攻守逆転され、あっという間に権力の座から放逐され、間違いなく逮捕・死刑の道が待っているので、ここで手を引くということは考えられません。
 問題は今後ですが、合意を反故にされたアラブ連盟は、それなりの厳しい外交措置をとるでしょう。しかし、アラブ連盟にはシリア情勢を動かす力はないので、おそらく再び国連安保理に舞台は移されることになると思います。
 アサド政権がアラブ連盟との合意を破っていることを、中東メディアも欧米メディアも大きく報じています。こうした国際報道の動向というのは非常に重要で、安保理を動かす可能性があります。前回はロシアと中国につぶされましたが、アラブ連盟との合意を破ったということで、今度はロシアも中国も露骨なアサド擁護はやりづらくなります。
 アサド大統領は、コワモテだった父親の前大統領に比べ、ソフトな物腰で、イギリス暮らし経験もあり、腐敗した長老将軍たちを引退に追い込み、経済的な開放政策も進めたことから、一時は「改革派」としてアラブ世界でそこそこ人気者でしたが、いまでは往年の故サダム・フセインなみの悪役になっています。が、おそらく本人だけがそれに気付いていないのでしょう。
 シリアへの国際社会の介入がリビアのときより鈍いことで、「シリアには石油がないからアメリカはどうでもいい」「イスラエル問題があるので、アメリカはホンネではアサド政権安定を望んでいる」というような見方もあるようですが、それが主ということではないと思います。シリアでも仮に軍が師団レベルで反乱し、本格的な内戦になっていたら、アラブ連盟の支持を条件に、リビアのような早期のNATO介入もあり得たと私は見ています。

 介入には大義名分が必要で、反体制派が一時は全土を席捲する勢いだったリビアと、国内に反体制派の拠点すらないシリアでは、そこに大きな違いがあります。政権が全土を強権で掌握しているシリアでは、そこに介入することは内政干渉の構図になってしまい、それがロシアや中国にアサド擁護の口実を与える隙になりました。情報も統制され、反政府デモを武装集団とする偽情報でも、ロシアは当然わかっていたと思いますが、国際メディアが現地で検証できないのをいいことに、ロシアの口実に使われました。
 リビアのときは、人道上の著しい非道をカダフィが行ったこと、それなりに国内に基盤を確立した反体制政治組織から干渉の要請があったこと、そしてアラブ連盟が飛行禁止措置に賛成したことなど、ロシアや中国には反対の口実がありませんでした。
 
 今後、シリアでも国際的なアサド政権包囲網がますます強化されますが、それでも反体制派の一部が期待するようなNATOの軍事介入は、現状ではそれほど期待できないのではないかと思います。アサド政権軍はまだまだ磐石であり、NATO側もそもそも地上軍部隊の進攻といった本格的な軍事行動をとれる状況にありません。リビアのときも、空爆には参加しましたが、地上部隊の戦闘は反体制軍が担いました。
 シリアの場合は、反体制派の地上軍事力がほとんど泡沫レベルの非力さなので、内戦化すらも難しいと思われます。なお、武装闘争の是非についてはシリア反体制派の中でも意見が割れています。
 国際社会の圧力→弾圧停止→国際社会監視の公正な選挙→体制変革、という軟着陸がベストの流れですが、弾圧停止がこのまま反故にされることになる公算が大きいので、その後の展開はまだ読めません。
 非暴力闘争を掲げてきた国民評議会のガリユーン代表は、国際圧力に期待を寄せていて、さらに犠牲者を生む一方のデモ活動を控えるように初めて国民に訴えました。が、反体制派内も闘争路線をめぐっては意見が割れています。
 反体制派の主流も、アサド政権によって大量虐殺が行われる可能性が高い内戦化までは望んでいない人が多いので、当面、アラブ連盟との約束不履行を突破口に、国際的な外堀を埋めていくことになろうかと思います。現在、アサド打倒の大義名分を国際的に積み上げるための手続きが行われているような状況ですが、問題はその間も多くの国民が間違いなく殺害され続けることです。
  1. 2011/11/07(月) 09:19:01|
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タブーとしてのイスラム

 マスコミ業界には今も厳然とタブーがあります。いちばんわかりやすいのが、天皇と大宗教ですね。タブーなんかぶっ飛ばせ!という無頼なスタンスをセールスポイントとする論者でも、このあたりは面倒なので、批判めいたことはたいていはスルーします。
 天皇はともかく、大宗教は「言論の自由」先進国の欧米の国々でもまずタブー扱いです。超零細な個人ブログでも、このあたりを赤裸々に書くのは危険行為ですね。
 またこんなニュースがありました。
▽フランス:ムハンマドの風刺画掲載の雑誌事務所に放火(毎日新聞/11月2日)
 人々が嫌がることをわざわざやることもないなとは思いますが、暴力はダメですね。
 イスラムでは、偶像崇拝が禁止されていて、神を擬人化したり、預言者ムハマドをビジュアル化することは許されていません。お笑いコンビ「モンスターエンジン」に、神に扮してふざける「神々の遊び」という傑作コントがありますが、外国ではちょっと考えられませんね。
 イスラムに関しては、かつて拙著「イスラムのテロリスト」を出版したとき、信者を刺激しないようにいくつかの点で気をつかいました。イスラム過激派についての解説書だったわけですが、イスラム全体に対する配慮ということで、当初は「イスラム・テロリスト」という書名案だったのが、版元様の提案で、間に「の」を入れることになりました。私はどちらでもよかったのですが、これで「全員ではなくて、一部の人々ですよ」というニュアンスが出るだろうとの判断でした。
 序文でも、版元様の要請で、「イスラム全体のことではない」というような一文をわざわざ入れました。私はこれもどちらでも構わなかったのですが。
 大宗教に関する解説書がときおり出版され、なかには結構なベストセラーになっているものもありますが、あれも全部赤裸々に書いているようにはとても見えません。危険行為だからですね。

 イスラムに限れば、日本ではニュートラルな科学的視点できちんと分析された社会学的・文化人類学な解説書は、たぶんありません。それに関してちょっと困るなと思うのは、日本では専門家が偏在していることです。
 日本では、イスラム研究者の大多数が、イスラム教徒あるいはシンパという立場です。それを否定はしませんが、そればっかりというのもバランスが悪いのではないかなと思っています。一昔前の憲法学者=9条原理主義者みたいに、信者は信者ですから、全肯定がまず前提になっています。
 なぜそうなりがちかというと、おそらくその理由のひとつには、たとえばイスラムでいえば、聖典を読み、教義を学習することが、かなり骨の折れる作業であるということもあると思います。信者であればそれは日常的な作業ですが、信者でもない人間はなかなかできることではありません。
 私は「イスラムのテロリスト」について書いている手前、いちおうコーランには目を通し、全部ではないですが、ハディースもちらりと勉強しましたが、かなりしんどいです。

 コーランを読んだ人はそれほどいないと思いますので、どんな感じの本かというと、基本的には、7世紀のアラビア半島の人々の生活上の規範を示した内容で、それに宗教的な指針が随所に挟まれているという構成です。前者は遺産相続問題だとか未亡人問題だとかいった民事的なことに関する非常に具体的な内容が中心なのですが、後者は抽象的で、なかなか難解です。イスラム神学というのは、この抽象的な表現をどう解釈するかという部分がメインになっています。
 また、前半は社会的な細かい指針の話が多く、ひとつの章も長いのですが、後半はどんどん章も短くなり、宗教的な激烈な呼びかけ口調になってきます。信者でない人には、この後半はますます難解になります。
 イスラムの教義でたまに論争になるのが、「イスラムは寛容か否か?」という問題です。イスラムは多神教が主流だったときに、それに対抗する一神教の教団として誕生したのですが、自らをユダヤ教、キリスト教に続く一神教の系譜に位置づけています。レジェンドはほとんど踏襲なので、ユダヤ教やキリスト教の存在自体は認めており、それがイスラム寛容論の論拠になっています。ただ、コーランには、ユダヤ教徒に対するかなり激烈な言葉もあります。たしかにそこだけみると、寛容とはほど遠い印象です。
(ちなみに、一部には女性の扱いに対する強い言い方もあって、女性蔑視だとの批判もありますが、これは7世紀当時の社会慣習の背景があっての話なので、現代標準目線からの批判が妥当かどうかは、議論の分かれるところだと思います)
 ちなみに、イスラム教団が版図を広げても異教徒に改宗を強制しないことも、寛容論の論拠とされていますが、改宗免除と引き換えに上納金が義務づけられているので、全然寛容ではないのではないかとの異論もあります。
(なお、イスラム教徒は原則的に改宗(棄教)は許されません。主流のイスラム法解釈では、死刑に値します)
 まあ、他の大宗教もそうですが、さまざまな観点から研究することは必要だと思います。

(訃報)
 戦場ジャーナリストの馬渕直城氏が逝去されました。私の世代だと、一ノ瀬泰造氏の本に出てくる人という印象が強い方です。業界的には、ポルポト派に強いというイメージですね。
 お付き合いさせていただいたわけではないのですが、カンボジア自衛隊PKOのときにプノンペンでお会いしたことがあります。たしかNステーションの臨時取材班長のようなお立場でしたが、親分肌の方で、私たちフリーランスはよく面倒みていただきました。ご冥福をお祈りします。

(追記)
 3日のテレ朝「やじうまテレビ」にコメントを採用していただきました。テーマは「現代スパイ事情」ということでした。

(訂正)
 道楽Q様より、「日本では、イスラム研究者の大多数が、イスラム教徒あるいはシンパという立場」というのは本当か?」というご質問をいただきました。コメント欄にも書きましたが、以下に捕捉説明します。

 日本ではイスラム神学研究者・イスラム社会研究者ともにそれほど多くないですが、私の認識では、イスラム教徒はそれほどいないと思いますが、当然、教義をよく研究されているので、発言力は大きいと思います。
 シンパは多いと思います。政治的にはいわゆるリベラル系の方が多く、アメリカに批判的で、パレスチナ紛争に関してパレスチナ寄りの方が多いと思います。「信者・シンパが大多数」という書き方は半分ミスリードになりますので、訂正させていただきます。申し訳ありません。
 他方、中東・アラブ研究者にはさまざまな考えの方がいますが、一部の方々を除いて、イスラム批判めいた言説は、やはり忌避されていると思います。イスラム論は中東・アラブ研究の核心だと思うのですが、そこを表層的に済ませている風潮はあるのではないかなと。
 私はべつに宗教を否定はしませんし、なんにでも功罪の面はあると思っているので、べつに「イスラム批判者」というわけではありませんが、そんなふうには感じています。
  1. 2011/11/03(木) 11:14:27|
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ハッカー集団VS麻薬マフィア

 まるで映画のような話です。
 麻薬組織が凄まじい力を持つに至っているメキシコで、匿名のハッカーが麻薬マフィアへ宣戦布告を行っちゃったのですね。
▽アノニマス、麻薬組織に「宣戦布告」 メキシコ(朝日新聞)
なんでも、「仲間がメキシコ南部のベラルクスという町で、麻薬組織『セタス』に拉致された」と訴える覆面の男が、自ら国際的ハッカー集団(実際には同好会のような有志サークルですが)『アノニマス』(匿名、という意味)の一員を名乗り、人質解放を要求する映像を、ユーチューブにアップしたとのこと。要求が通らなければ、セタスの水面下の情報源を全部ブチまける、としています。
 詳細がわからないので、今後どうなるか想像もつかないですが、ホントにハリウッド映画になる可能性もあるのでは。
  1. 2011/11/02(水) 04:03:07|
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孫のためにヨーロッパから粉ミルクを買う金正日

 11月1日、韓国の聯合ニュースが、「昨年、ほぼ同じ時期に、金正恩に娘、金正哲に息子が誕生した。祖父の金正日は、孫たちのためにドイツやフランスから粉ミルクや子供服を取り寄せている」と報じました。
 国民には窮乏生活を強いておきながら、自分の孫だけには外国産の粉ミルクですか・・・。こういうネタは短波放送や拡声機、風船も使ってどんどん北朝鮮国民に伝えたほうがいいですね。金正日が豪華ヨットで豪遊・・・などという話よりも国民は憎悪するでしょうね。
 ちなみに、正哲は現在30歳(31歳説もあり)。後継の独裁者になる予定の正恩は現在28歳(国内では公称29歳)。正恩は昨年9月に2歳年下の女性と結婚したという未確認情報があるようです。デキ婚?
  1. 2011/11/02(水) 03:42:55|
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ロシア・スパイ監視映像

「美しすぎるスパイ」と一時期話題になったアンナ・チャップマンを含むロシアのスパイ団を、捜査過程で隠し撮りしていたビデオをFBIが公表しました。
▽ロシア・スパイ団の隠し撮り映像
 感想→たしかに通常は私たちは見ることのできない非常に珍しい映像ではあるのですが、こういうふうに見ても、パソコン画面で見ている側は、とくにドキドキするようなものでもないですね。日頃、音楽や効果音付きの映画のシーンばかり観ているからでしょうか。心臓の鼓動のリズムで思いっきりエコーかけた音とか。
 まあ、こんなものなのだろうな・・・。よく撮ったなとは思いますが。
  1. 2011/11/02(水) 03:25:19|
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プロフィール

黒井文太郎

Author:黒井文太郎
 63年生まれ。『軍事研究』記者、『ワールド・インテリジェンス』編集長などを経て、現在は軍事ジャーナリスト。専門は各国情報機関の最新動向、国際テロ(とくにイスラム過激派)、日本の防衛・安全保障、中東情勢、北朝鮮情勢、その他の国際紛争、旧軍特務機関など。

 著書『ビンラディン抹殺指令』『アルカイダの全貌』『イスラムのテロリスト』『世界のテロと組織犯罪』『インテリジェンスの極意』『北朝鮮に備える軍事学』『紛争勃発』『日本の情報機関』『日本の防衛7つの論点』、編共著・企画制作『生物兵器テロ』『自衛隊戦略白書』『インテリジェンス戦争~対テロ時代の最新動向』『公安アンダーワールド』、劇画原作『実録・陸軍中野学校』『満州特務機関』等々。

 ニューヨーク、モスクワ、カイロに居住経験あり。紛争地域を中心に約70カ国を訪問し、約30カ国を取材している。




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