本日発売の『SAPIO』に「もはやアメリカの手におえないポスト・アルカイダの報復テロ戦争」という記事を寄稿しました。先日のエントリーにも書きましたが、私の注目はパキスタン・タリバン運動のハキムッラー・メフスードです。なんといっても、しばらくはこの男ですね。ビンラディン死後、パキスタンの海軍基地襲撃など、すでに怒涛のテロ攻勢に出てます。
今週発売された『週刊アサヒ芸能増刊 頼もしいぞニッポン自衛隊』というムックに、記事を4本寄稿しました。
(⇒アマゾン) 私の担当は、「東北方面総監部に設置された災統合任務部隊司令部の取材&解説」「米海兵隊CBIRF&米軍の対化学生物核放射線部隊の解説」「中央特殊武器防護隊の解説」「匿名記者座談会の司会・構成」です(日程の関係で原稿送付のみだったのでタイトル等わかりません。現物もまだ見ていないので)。私もこれまでよく知らなかったのですが、米軍4軍の化学生物放射線対策の規模はものすごいですね。事故や戦争というより、あちらは明確に「テロ対策」の観点です。主力はやはり陸軍ですが。
ところで、アマゾンの案内メールで知ったのですが、ついに待望の翻訳書が出ましたね。
『インテリジェンス 機密から政策へ』マーク・ローエンタール著
(⇒アマゾン) これはもうあまりに有名なインテリジェンス理論の基本テキストです。インテリジェンスを学ぶ世界中の学生が、最初に手にする本といっていいでしょう。私がインテリジェンスに興味を抱くようになった頃、ジェフリー・リッチェルソンやジェームズ・バムフォードなどの情報機関解説書などとともに、夢中になって読んだものです。私は本来はどちらかというと、ロバート・ベアとかリチャード・トムリンソンとかジョーブレーカーのWゲイリーとか、ちょっと暴露系の手記も好きなのですが。
翻訳者は、『ワールド・インテリジェンス』にもご登場いただいた元外務省国際情報局長の茂田宏さんです。茂田さんのウェブサイトも非常にためになる情報が多く収録されています。
⇒国際情報センター 最近ちょっと立て込んでいて、書籍に目がいっていなかったので、アマゾンでチェックしてみました。インテリジェンス関連書が結構出ていましたね。
『国家戦略とインテリジェンス
』⇒アマゾン 著者は『ワールド・インテリジェンス』で連載をお願いしていた奥田泰広さんです。
『インテリジェンスの基礎理論』
⇒アマゾン 著者は慶応大学の小林良樹先生。私は面識はありませんが、警察庁出身の方ですね。
『日韓インテリジェンス戦争』
⇒アマゾン 著者は町田貢さん。元外交官の方だそうです。
『速習!ハーバード流インテリジェンス仕事術』
⇒アマゾン 著者は『ワールド・インテリジェス』以来お世話になっている北岡元先生です。ビジネス・インテリジェンスの方面ですね。
ちょっと今は立て込んでいるのですが、落ち着いたら全部読みたいと思います。まずは初心にもどってローウェンタールを訳書で復習かな。私のダメダメな語学力では、内容を誤読していた可能性なきにもあらずだったりして・・・。
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2011/05/25(水) 17:49:28 |
著作・メディア活動など
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以前も書きましたが、出身地である福島県いわき市の友人たちとときおり話をします。あちらの現在の関心事はとにかく放射線問題ということです。
原発災害は一向に収束しませんが、それに関しては「インテリジェンスからいかにバイアスを排除するか」という観点から、反原発活動家よりも原子力工学専門家の意見を参考にするというが、私の基本的な考えです。
それとは別に、放射線に関しては医療専門家の意見を参考にすべきというのが、私の考えでもあります。本来、医療分野であるはずのことに、活動家や原子力工学専門家の意見が入ってくることで、問題を複雑にしてしまっているのではないか・・・そんな印象を強く持っています。
避難区域の住人の方々に関しては、同心円の避難区域を設定し、そこに帰れない避難者の方、とくに年配の方は、本当に帰ってはいけないのかな、という疑問があります。避難所生活のためにかえって健康を害したり、人生のトータルの幸福値を強制的に下げるようなことがあってはいけないのではないかな、と思うわけです。
なかでも疑問なのは、平時の厳しい基準値を杓子定規に有事に適用するのが、本当にベターなのかなということです。こういうことを漠然と感じている方は多いと思うのですが、それは放射線など浴びないほうがいいに決まっていますし、放射線による将来の健康被害は不確かなことが多いので、迂闊に発言できない雰囲気になっています。無責任な発言はもちろん慎むべきですが、では本当に今のままでいいのでしょうか?
ということで、前エントリーで紹介した『週刊新潮』今週号に、非常に参考になる記事がありました。ジャーナリストの櫻井よしこさんによる「日本ルネッサンス」というコラム連載で、今号のタイトルは「健康被害解決への専門家の声」というものです。
まだ店頭発売中なので、ぜひご購読をお薦めしますが、大事なことだと思うので、そのエッセンスを紹介したいと思います。
櫻井さんは同コラムで、放射線による癌治療に携わる医療専門家の意見を紹介しています。あくまで数多くの医療専門家のひとりの意見ですが、非常に大事なことを指摘されていると思います。
▽健康被害が生じる可能性が高いのは、年間100ミリ・シーベルト以上。
▽現在の基準値は年間1ミリ。
▽医療関係者や原発関係者の基準値は、年間50ミリで、5年間で100ミリ。この値でも健康被害は起こらない。
▽1ミリ基準は妊婦、乳幼児、学童には必要。しかし、40代以上であれば、ひとりひとりの被曝線量を管理すれば、医療関係者用基準値(年間20~50ミリ)で問題ない。
▽現在の避難区域のレベルは20ミリ。成人であれば、医学的には発癌しないレベル。
こうしたことを踏まえたうえで、同記事に登場する医師はこう提言します。
「福島で年間1ミリまでを許容値とする厳しい基準を守った結果、お年寄りが避難所で亡くなったり、働き盛りの人が働けない現状を、40~50歳以上の住民に、医療従事者に近い年間20~50ミリの基準を適用することで変えたらよいのではないか。本人が望めば自宅で暮らせるようにする方が望ましい」
その条件として挙げれているのは、以下の3点。
▽各人の放射線量を管理
▽子供や若い人の家庭は対象外
▽物資供給・警備の充実
子供がいる家庭は難しいかもしれません。しかし、避難エリアの多くの世帯は中高年で、そうした世帯こそ避難所生活はつらいことでしょう。
せめて強制避難ではなく、どちらか自由に選択しできるようにはできないものでしょうか。こうした放射線量と健康被害の関連数値を提示すれば、多くの世帯は自宅周辺の線量を考慮した場合、ライフラインや物資供給さえ担保されれば、帰宅したいのではないかと思うのですが。
追記⇒今週は他にもいろいろ雑誌をいただいたので、いろいろ拝読してみました。著名筆者のコラムも含めて、反原発派の方は概して言葉が激烈ですね。まあ、あまり論評はしません。
以前、当ブログで「論調が柔軟なほうがインテリジェンス度は高いのではないか」といった意味のことを書きましたが、その意味では今週の『週刊文春』は面白いですね。原発関連の記事がテンコ盛りですが、是々非々という感じで、著名人コラムも含めて、同じ一冊のなかにさまざまな意見が混在しています。
同誌は基本的に東電批判・原発業界批判路線で、どちらかというと明確に主張を押し出している誌面づくり。文春らしからぬ左翼系の情報源も駆使してメイン記事を作っていますが、その一方で、藤原正彦さんの提言記事で反原発ヒステリーを批判したりしています。編集部内にもさまざまな意見が当然あるわけで、そういうところがうまく反映されているのかもしれません。
「放射能恐怖報道 どこまでエスカレートするのか」という記事も参考になります。問題になるのは、いわゆる内部被曝の危険性の評価ですが、同記事によると、その分野ではまだまだ詳しいことはわかっていないそうです。(なお、当エントリーでも、仮に避難区域を解除するとしても、外出時にマスクをするぐらいは当然のことと考えています。念のため)
同記事にはちょっとインテリジェンスに関連する記述もありました。いわく「人間には認知曲線があり、中途半端な知識の時ほど『危険だ』と大騒ぎする傾向がある」・・・。
私の認識では、人のリスク認知は「中途半端な知識の人」「正しい知識の人」「まったく無知識の人」で⇒「顕著に異なる傾向を示す」だったように思います。傾向は条件によって変わりますが。
ところで、文春のコラムでは、中村うさぎさんの意見に同意。「みんなひとつ」スローガンへの違和感ですね。互助意識が重要なのは当然ですが、人の心の問題ですからね。なんだか同調圧力みたいにちょっと感じてしまうのは、考えすぎ・・・かな。
2011/05/14(土) 16:14:56 |
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ビンラディン殺害に関して、現在発売中の『週刊新潮』『フライデー』および来週発売の『週刊SPA』にコメントを採用していただきました。また、JAPAN FM NETWORK系全国FM局で放送中の「オン・ザ・ウェイ・ジャーナル 高野孟のラジオ万華鏡」にお呼びいただき、お話させていただきました。イスラム・テロの現状と今後というようなテーマだったのですが、アメリカ特殊部隊の話のほうがつい熱が入ってしまいました。放送は来週火曜日(17日)とその次の火曜(24日)の早朝05:30とのことですが、ポッドキャストでも配信中だそうですので、興味のある方は是非どうぞ。
ところで、上記『週刊新潮』をパラパラと拝読していたら、福田和也さんの「世間の値打ち」というコラムのタイトルに「『軍事研究』が明かす自衛隊救援活動」と、どーんとありました。まだちょっとしか震災記事が入らなかった先月号に対してですが、それでも「軍研」大絶賛です。私はもうクビになった身ですが、それでも軍研ファミリー(?)の末席にいるつもりなので、なんだか嬉しくなりました。軍研今月号の震災特集はさらに読み応えアリ。お薦めです。
2011/05/14(土) 14:05:27 |
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先週、ある取材で仙台駐屯地のJTF-TH(災統合任務部隊)司令部の取材に行ってきました。私はいま渦中にある福島県浜通りの出身なのですが、震災2ヵ月後でようやく初めての東北入りとなりました。
JTF-THとは、陸海空の災害派遣部隊を一括指揮するために立ち上げられたもので、指揮官は陸自の東北方面総監になります。序列で言えば陸自の制服組のナンバー5か6ぐらいの人が、海自や空自を指揮下に置くという変則的なもので、自衛隊ではもちろん初の試みなのですが、未曾有の国家的危機を前になんとかうまくやれているようです。
海自のほうは、陸自東北方面総監(JTF-TH指揮官)の下で海自をまとめるのは横須賀地方総監になっています。海自の筆頭部隊である自衛艦隊そのものは指揮下には入りませんが、自衛艦隊から災害派遣で差出された部隊は横須賀地方総監の指揮下に入ります。他の地方隊から差出された部隊も横須賀地方総監の指揮下に入ります。これは事実上、海自の制服組のナンバー3~4くらいの人が実働部隊のトップになったようなものです。
空自では、陸自東北方面総監(JTF-TH指揮官)の下で空自をまとめるのは航空総隊司令官になっています。航空総隊司令官は他の同格の部隊まで含めて、一括して指揮命令することができる措置がとられています。といっても、空自における航空総隊司令官は、空幕長に次ぐ圧倒的な制服ナンバー2なので、序列としてはそれほど違和感はないかもしれません。ま、普段は序列に敏感な自衛隊ですが、非常時なのでそこはそう問題ないようです。
連休中ということもあって、仙台に向かう東北道にはボランティアらしき人がたくさんいました。現地ではボランティア渋滞が起きていましたが、なかにはただ被災地を見に来ただけの人もたくさんいたようです。
私は過去の戦場取材の経験から、無関係の部外者がこうした現場をただ見に行くのは、地元の方の反感を買うのではないかなと思っていたのですが、どうもそういうことでもなようです。やはり先週、知人のライターさんが取材ではなくて、まったく個人的に1週間ほど被災地を車で廻ってきたということなのですが、どこに行っても被災者の方々に次々と話しかけられたそうです。
そして、そんな被災者の方の多くは、思いのたけをひたすら話し続けることが多かったとのこと。話すことで心の傷が癒されるとは限りませんが、ただ話を聞くということも、もしかしたら必要なことなのかもしれませんね。
2011/05/11(水) 05:09:29 |
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先週のエントリーで「シリア軍の第12師団司令官が反政府側に寝返った」とのSNS内の未確認情報をお伝えしましたが、本日、SNSで「同司令官が処刑された」との噂が流れました。
しかし、そもそもこの司令官反乱についてはSNSで話が出ているだけで、ネットをみるかぎり、メディアではまったく報じられていません。末端の兵士ならともかく、司令官クラスの反乱であれば大事件のはずなので、どうもこの情報はそもそもガセだったものと思われます。
今回の一連の反政府運動の発端となったダラアでの最初の「反政府の落書きをした少年グループ逮捕」について、その第一報がアラビア語SNSで流れたことを拙ブログで紹介してから、まる5日ぐらいメディア報道が一切なかったこともあったので、今回もそういうことがあり得るとして様子をみていましたが、残念ながらシリア軍はいまだ磐石なようです。
そもそも司令官反乱情報が流れた今月6日はホムスで大規模な衝突があり、シリア国営通信も公表していますが、兵士・警察官側にも複数の死者が出ました。どうやら反政府側に何人かの兵士が合流したのは事実のようで、その反乱兵士が殺されたのかもしれませんし、あるいは逆に反乱兵士が殺した可能性もあります。
おそらくこの何人かの兵士の反乱の話が、司令官反乱に膨らんだのではないかなと思いますが、いずれにせよよくわかりません。
わかっていることは、当初は控えめだった軍による弾圧が、だんだんと抑制が外れて露骨になってきているということです。しかし、それでもシリア国内の反政府デモはまずます拡大の一途を辿っています。毎日犠牲者が増えていますが、希望はまだ見えません。
2011/05/10(火) 23:41:08 |
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ビンラディンは部族地域ではなく、パキスタンの都市部に潜んでいるのではないか・・・そんなことを誰かが語っていたことを記事に書いた記憶があったのですが、すぐに思い出せなかったので、デスクトップを検索して探してみました。
すると07年12月出版の『ワールド・インテリジェンスVOL⑩』の「インテリジェンス・ニュース」という欄の原稿下書きファイルにありました。紙数の関係でこのネタをカットしたため、同号には実際には収録していませんでした。
(以下、当時の原稿<案>)
「ビンラディンは都市部に潜伏」説
パキスタン軍統合情報部(ISI)の元長官アサド・ドュラニ中将は10月9日、ロイター通信記者のインタビューに対し、「ビンラディンは都市部に潜伏しているのではないか」との見方を示した。
同通信によると、ドュラニ中将は、「部族地帯では部外者に関する情報が早く広まるため、数年にわたって身を隠すことは困難である」と語ったという。 また、いくら彼らが客人を大切にする習慣を持っていたからとはいえ、「4~6年にわたって部族の人たちがビンラディンを匿うことが可能かどうかはわからない」と指摘した。
さらに、アメリカが2500万ドル(約30億円)もの懸賞金をかけているため、「こういった情報はすでに漏れているはずだ」とし、そこに密かに隠れ続けるのは非常に難しいはずだとの考えを示した。
ところで、10月9日付『ワシントンポスト』は、米民間組織「サイト研究所」が、ビンラディンの映像流出で米政府を批判していると報じた。
どういうことかというと、同研究所は何年もかけて密かにアルカイダの情報を監視する技術を開発し、彼らの情報通信を監視してきており、そこでこの9月7日に新たなビンラディンの声明ビデオ映像を入手したのだが、それを米政府に提供したところ、ただちに米テレビ局に提供され、同日中に各局が放送してしまったのだ。同研究所はまもなくアルカイダが公表するので、それまで米政府には公表を控えるように要請したようだが、それが守られなかったことで、アルカイダが情報ルートを察知し、遮断されてしまったというのである。
(以上)
ISIがビンラディンを匿っていたならば、大物の元司令官がそれを知らなかった可能性は低いと考えられます。CIAがビンラディン潜伏情報の端緒を掴んだのは09年とのことですので、07年10月にISI元長官がそのようなコメントをしたということは、ISIは知らなかったということなのでしょうか?
2011/05/07(土) 15:32:52 |
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シリアでは、全土で反政府デモがさらに拡大しています。また、ここ数日の動きとしては、これまでデモ隊に向かって実弾を撃ちまくっていたアムン(公安警察)の要員が、暴力を少し緩和してきています。もう2ヶ月も神経を張り詰めたフル稼働だったので、弾圧疲れが出ているのと、あとはやはりデモの拡大に直面して、アムン要員のモチベーションが下がっているものと思われます。
それでマーヘル・アサド指揮下の第4師団と共和国防衛隊を中心に、軍が出動するようになっているのですが、軍は今のところアムンほど露骨な暴力を使用することは控えています。
ところで、SNSで喜ばしい情報が流れています。映像はまだないので現時点では噂の段階ですが、この手の情報はこれまで比較的誤報が少なかったので、いちおう紹介します。
現在、ホムスで熾烈なデモ弾圧が行われているのですが、同地を管轄する第12師団のムハマド・ビン・ジャマル・ハムドゥーン司令官が反政府デモ側に合流し、アムン(治安部隊)と交戦状態に入ったとのことです。これまで末端の兵士の造反はありましたが、部隊ごとの反乱は初の情報です。事実であれば嬉しいのですが。
それで、いまや革命の最大拠点となっている南部ダラアに投入されていた第4師団が、ホムスに向かって移動を開始したとの情報も流れています。ここ数日は、ホムスの動静が注目されます。
ところで、要員不足のアムンが5000人の新要員を緊急募集したとのことです。よほど切羽詰っているのか、応募条件も「事務仕事はできなくていい」「読み書きができなくてもいい」となっているようです。ただし「肥満は不可」だそう。もうあからさまに戦闘要員の補充ですね。
肥満といえば、連日のデモで、日頃ほとんど運動をしないシリアの男たちが、だいぶ「減量してきた」そうです。映像をみるかぎりでは、日本人の感覚ではまだまだメタボな人が目に付きますが。
今年のシリアは珍しく雨振りがちで、今のところそれほど気温が上がっていないようですが、そろそろ灼熱の夏に入ります。そうなると、デモは夜間中心にシフトしていくかもしれません。
2011/05/07(土) 12:12:49 |
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すでにテロの現役から退いて久しかったとはいえ、カリスマ指導者だったビンラディンが死亡したことで、次のカリスマは誰だ?ということで、ちょっと目ぼしい候補を考えてみました。
アルカイダ副官は有名なアイマン・ザワヒリですが、この人物ももう旬は過ぎています。アルカイダには他にも中堅幹部がいろいろいますが、私は、アルカイダ自体がもう落ち目になってきていると思っています。
たとえば現在、ヨーロッパの移民2世などのテロ志願者はどうやっているかというと、多くの人はパキスタンに行って、現地のイスラム武装勢力で軍事訓練を受けます。パキスタンのイスラム武装勢力はドメスティックな組織なので、アルカイダのような自前の国際的な反米テロ活動はほとんどやっていませんが、イスラム・テロのサークルの中心になっていることは間違いありません。アメリカ情報当局も、すでにパキスタンのイスラム・テロ組織と外部のテロ・グループのコネクションを警戒・監視している形跡があります。
パキスタンのイスラム武装勢力には、主に2つの系統があります。東部を地盤とするカシミール系組織と、西部の部族地域を地盤とするパシュトゥン人組織です。前者はパキスタン軍統合情報局ISIと密接な関係があります。後者はパキスタン政府とは敵対関係にありますが、ISIの一部と密かに通じている可能性があります。
カシミール系の代表格がラシュカレ・タイバですが、インドでのテロの影響で、最近はパキスタン軍から圧力を受け、少しおとなしくなっています。
ということで、現在、北西部の南ワジリスタンを地盤とするパキスタン・タリバン運動という組織の存在感が大きくなっています。パキスタン・タリバン運動はアフガンのタリバンと密接な関係にあり、アフガニスタンから越境攻撃する米軍/CIAの無人機の攻撃を受けていることから、反米ジハードにどんどんのめりこんできています。(前司令官は09年8月にCIA無人機の攻撃で殺害されています)
パキスタン・タリバン運動の司令官は、ハキムッラー・メフスードというまだ31歳の男です。なかなかのイケメンですが、現地でも有数の好戦的で勇猛果敢な野戦指揮官として知られています。イスラム・テロ界の次代のリーダーとして、メフスードの存在感は日増しに大きくなっているように見えます。
2011/05/06(金) 01:32:43 |
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アラビア語サイトやSNSでは、ビンラディン殺害への疑問が早くから出ています。なかでも多いのが、「ビンラディンは生きている」説です。ビンラディン死亡の第一報の直後、過去の本人写真を加工した合成「死体」写真が出回りましたが、あれについてもアラビア語ネットではすぐに偽モノ説が広がっていました。
「アメリカ陰謀論」はアラブ社会の大好物なので、まあそれ自体はいつものことなのですが、今回は確かに不可解な点がいくつもあります。
その最大の点は、「なぜ水葬にしたのか?」ということです。アメリカ政府は「イスラム方式に従って24時間以内に埋葬しなければならなかったが、適当な場所が見つからなかった」と説明していますが、イスラム社会で水葬なんて、まず聞いたことがありません。これに関しては、事実なら、あちらの人からすると「海に捨てた」と見られるのもしかたありません。
そこで、「実際にはビンラディンの死体などなかったのではないか?」という疑問が出てくるのも、自然なことではあります。イスラムは原則土葬ですが、そうなるといつでも死体の証明を求められる可能性が出てきます。海に流したことにすれば、もう証明不可です。
アメリカ政府は死体の写真を公表しないことも決めましたが、それも謎です。ビンラディン死亡の証拠を自ら封印しているわけです。反米感情の扇動を誘発するからとの理由だそうですが、あまりに弱い説明です。こういうことをすれば、当然ながらアメリカ陰謀論が出てくるわけで、それをアメリカ政府が自分から誘導しているようなものです。
インテリジェンス分析の観点からすると、ビンラディンが本当に死んだかどうかというのは、現時点の情報では「不明」という結論になります。それを前提に、ではどちらの可能性が高いか?という分析が必要になるのですが、今回は主に2つの点に関して、可能性を比較するということになります。
まず、確率として、「誰かが核心を隠している場合、隠したい理由が存在している可能性が高い」ということがあります。そうなれば、アメリカが隠しているのは「ビンラディンの死体がなかったから」という結論が導かれます。ただし、サダム・フセインが「大量破壊兵器を持っていないのに、情報を隠した」ために、「大老破壊兵器を隠し持っているに違いない」と結論されたことは、後に間違いだったことが実証されています。人は必ずしも合理的に嘘をつくわけではないのです。
他方、「露呈した場合のリスクが高いほど、嘘をつく可能性は低くなる」ということもあります。情報化社会によって、複数の人間が関与した「嘘」はいずれ露呈する可能性が飛躍的に高まっています。そうした状況では、政府は敵対国/勢力に対する戦術的欺瞞はともかく、自国民も含めて「騙す」ということはかなり難しくなっています。
(この点、中東の民衆は「政府は嘘をつく」というのが常識ですから、もともとアメリカ陰謀論が拡散する下地があります)
いくら限られた政府高官、情報機関と軍の関係者しか真相を知らないとしても、数名ということはありません。これだけの作戦ともなれば、空母乗組員も含めて数千人規模の「関係者」がいます。そこからの情報漏れの可能性を「ゼロ%」と見積もることはあり得ません。
こうしたことなどを考慮すると、可能性としては、アメリカ政府があそこまで明確に「ビンラディンを殺害した」としていることを否定するのは困難です。私自身も、前述したように真相は不明だということを前提に、可能性としては米政府の言うように、ビンラディンは米特殊部隊によって殺害されたものと考えています。
けれども、「ビンラディンは死亡した」が、そこに米政府が「隠したい何かがあった」可能性は排除できません。仮にそうだと仮定しても、その「隠したい何か」はまったくわかりません。
アメリカ政府が嘘をついているとすれば、ビンラディンを炙りだすための壮大な偽騙工作という可能性も完全には否定はできませんが、そこまではちょっと現実には考えづらいですね。映画にはいいプロットかもしれませんが。
2011/05/05(木) 11:25:48 |
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世界最強のアメリカ情報機関でも、ビンラディンの所在を掴むまでに10年の年月を要しました。では、この間、アメリカ情報機関はいったいどのようにしてビンラディンを追っていたのでしょうか?
その水面下の攻防を、09年1月に出版した『インテリジェンス戦争 対テロ時代の最新動向』(大和書房/解説・佐藤優/編・黒井文太郎)に収めた「テロリスト・ハンターたちの実像 米情報機関VSアルカイダ」という拙稿で詳述しました。その冒頭の一部を以下に転載します。
テロリスト狩りの2つの戦線
9・11テロ以降、アメリカの強大な情報機関は国際テロ組織「アルカイダ」の追跡に全力を挙げている。実際、多数のテロリスト容疑者が逮捕または殺害されているうえ、さらにはいくつものテロ計画が未然に摘発された。
それなりに成果を上げているようにも見えるが、その一方では、パキスタンのアフガン国境エリアに潜伏中と目されているアルカイダの首領ウサマ・ビンラディンや副官アイマン・ザワヒリをいまだに捕捉できていない。その意味では、米情報機関は対テロ戦で成功を収めたとは言えない。
では、米情報機関のテロリスト・ハンターたちは、どのようにして敵を追跡しているのだろうか?
実際のところ、テロリスト追跡といっても、大きく分けて2つのフィールドがある。1つはまさにビンラディンやザワヒリの追跡があてはまるが、アフガニスタン=パキスタン国境の山中やイラクの戦場などで、いわば軍事作戦の一環として〝敵〟を捜索するものである。これに携わるメイン・プレイヤーは、軍の特殊部隊・偵察部隊とCIAの準軍事チームとなる。
もう1つの〝戦線〟は、世界各地に潜伏するテロリストの人脈をあぶり出し、新たなテロ計画を未然に防ぐということである。こちらは軍事作戦とはまったく違い、それこそインテリジェンス活動そのものということになる。ヒューミント(=ヒューマン・インテリジェンス=人的情報活動)やシギント(シグナルズ・インテリジェンス=信号情報活動)の情報機関がその主役を担う。
この2つは、同じテロリスト追跡といっても手法がまったく異なる。そこでまずは、米インテリジェンス機関による世界全体でのテロリスト容疑者の追跡とテロ計画の摘発、ということから見ていきたい。
じつは、テロ組織内部の情報源獲得工作による情報収集(=ヒューミント)が機能したという例はきわめて少ない。拘束されたテロリストの供述や、押収したパソコンのデータから情報を掴んだ例は多いが、それは情報活動による成果とはまったく別のものだ。
この局面での主力部隊は、なんといっても通信傍受を含む信号情報収集・分析(=シギント)の専門機関である。
テロリストの通信傍受を統括するNSA
アメリカの情報機関のなかで、国際テロ組織関連のシギントを統括しているのは、国防総省所管の「国家安全保障局」(NSA)である。アフガニスタンやイラクなど最前線の偵察部隊はともかく、海外の米軍基地に駐留するシギント機関などはほとんど、その活動をNSAにコーディネートされている。各軍のシギント部隊の要員の多くは、事実上はNSAのオペレーションに組み込まれていると言っていい。
NSAは世界中の信号傍受基地、シギント艦艇、シギント偵察機、シギント衛星、地上部隊のシギント要員などを駆使し、ありとあらゆる電波信号を傍受している。NSAがいくつかの同盟国と世界盗聴システム「エシュロン」を共同運用していることはすでに広く知られているとおりだ。
NSAとエシュロンは、そもそも冷戦時代にソ連を標的に構築されたシステムだったが、現在、その全力を挙げてイスラム過激派のテロ細胞たちの通信を盗聴している。
では、実際の通信傍受のしくみはどうなっているのか?
現状を見ると、アルカイダのテロリストたちのほとんどは、アフガニスタン=パキスタン国境エリアの山中に隠れているか、もしくは中東やヨーロッパなどの都市部・村落部に潜伏している。
アフガン=パキスタン国境の場合、アルカイダがいるような辺境の地では、地上の有線電話回線が普及していないため、通信は携帯電話(メールを含む)や無線を使うということになる。携帯電話の場合、空中を飛ぶ電波信号を直接、地上の傍受基地、あるいはシギント衛星、シギント偵察機などで傍受するか、あるいはいったん衛星回線に乗ったものを同様の方法で傍受することになる。
無線通信に関しては、電離層を突き抜ける波長ならやはりシギント衛星あるいは上空に遊弋するシギント偵察機が、電離層で反射する波長なら地上のシギント・ステーション、あるいは地上展開のシギント部隊などでも傍受できる。
なお、アルカイダはアメリカの傍受能力を充分認識しているので、無線が使われるとしても、せいぜい微弱電波による近距離用無線などとなるはずだ。現在のシギント衛星の能力なら、はるか宇宙から地上で発信されるかなり微弱な信号電波を探知できるが、より確かなシギントを行なうため、アメリカ側はしばしば偵察機を飛ばしたり、地上シギント要員を展開したりして電波傍受にあたっている。アルカイダやタリバンに対しては、通信内容もさることながら、発信地点を逆探知するだけでも、敵の位置を割り出すことになり、軍事的価値は計り知れない。
一方、中東やヨーロッパに潜伏するテロリストたちの場合は、逆に一般の無線機を使うことはあまり考えられず、携帯電話か固定電話がメインになると思われる。一般回線でも、主要都市間を中継する衛星回線やマイクロ波回線はやはり捕捉されやすい。とくに、エシュロンの地上ステーションは、ほとんどすべての民間通信衛星を漏れなく傍受していると思われる。
マイクロ波通信については、おそらく中継塔のアンテナからの〝漏れ電波〟をシギント衛星でキャッチする方法と、各国の米英両国の大使館・領事館あるいは駐留軍の大都市圏での施設などに設置した傍受危機で捕捉する方法がとられている。とくに後者は、各国の長距離通信幹線であるマイクロ波通信は、ほとんどが大都市圏に向けて張り巡らされているため、大使館や領事館はまさに絶妙の位置にあるケースが多い。
さまざまな盗聴の技術
近年、国際通信も海底光ファイバー・ケーブルを経由することが多くなってきたが、NSAはかなり早い段階から光ファイバー・ケーブルをタッピング(傍受)する研究を進めてきた。アナログ回線に比べて、光ファイバー・ケーブルが盗聴しづらいのは確かだが、NSAはおそらくすでにその盗聴技術を完成させているだろうと見る専門家は多い。
アメリカ海軍はすでに、海底光ファイバー・ケーブルのタッピング工作にも充てられるとみられるシーウルフ級攻撃型原潜「ジミー・カーター」を2005年2月に完成させている。
では、地上の一般有線回線の場合はどうか?というと、たとえばイギリスのようなエシュロン運用国では、自国の通信網の主要長距離回線をエシュロンに組み込んでおり、その情報はアメリカにも共有されている可能性が非常に高い。アメリカでも、いくつかの大手電話会社がNSAの通信傍受に協力してきた疑いが報じられている。たとえば、『ニューズウイーク』2006年5月15日発売号によると、アメリカ最大手通信会社AT&Tの元従業員が「2003年前半に同社のサンフランシスコ支社内にNSA専用ルームが極秘に設置され、通信傍受を行なっていた」「同様の施設を米西海岸の複数の支社内で見かけた」などと証言しているとのことだ。
また、通信内容の傍受までしていたのかどうかは不明だが、2006年5月11日付『USAトゥデイ』は、「NSAが9・11テロ以後に、AT&T社、ベル・サウス社、べライゾン社の大手米通信3社に膨大な量の通信記録を提出させ、数十億件に及ぶデータベースを作成していた」と報じ、米政府もそれを事実上認めた。米大手通信会社とNSAの深い関係は前々から噂されてきたものではあるが、それがどうやら事実らしいことがこうしたことからも裏付けられた格好だ。
一方、フランスやイタリアをはじめ、他の国でも通信傍受はかなり行なわれている形跡があるが、その情報が他国に共有されるということはちょっと考えにくい。世界的な規模といった点からも、エシュロンはやはり突出した存在といっていいだろう。
また、現地国では明らかに犯罪になるが、電話局やメインの交換局に盗聴機器を取り付けることも有効である。国柄によってはそのための電話局職員の買収もそれほど難しくないところもある。
もっとも、こうした特定対象を絞り込んだ〝盗聴〟工作は、NSAのエシュロンのネットワークというよりは、CIAの「国家秘密工作本部」主導の秘密工作になる。これらの共同作戦のため、CIA国家秘密工作本部のテロ対策センターには「技術作戦部」が、NSAのシギント本部には「特別収集部」というセクションがそれぞれ設置されている。いずれにせよエシュロンは世界すべての通信ネットワークを捕捉しているわけではなく、あくまでメインは衛星通信で、続いて携帯電話や長距離回線のマイクロ波通信の一部、大陸間光ファバー・ケーブル通信の一部、エシュロン運用国の国内通信網の一部を対象としている。
ちなみに、現代の超ハイテク・スパイ機器を使えば、建物の窓や壁を通して内部の音声を捉えることや、コンピューターのディスプレイなどから発せられる微弱電波をキャッチし、その出力データを読みとってしまうこと(=テンペスト技術)などもある程度は可能だが、それほど大掛かりな作戦は、よほどのケースにかぎられるだろう。
また、標的に〝盗聴器〟を仕込む場合、友好国ならば現地の情報機関に依頼することが一般的だが、先方がどうも信用できないとか、あまり協力的でないとか、あるいはバレたときのダメージが大きすぎるなどとかのケースでは、アメリカ側のシギント要員が直接潜入し、盗聴工作を行なうこともあり得る。
フセイン時代のイラクのような非友好国の場合、国連の査察団にアメリカ情報機関の特別チーム(おそらくCIAとNSAの混成チーム)が潜入して盗聴工作を行なったこともあった。ただし、現在の対テロ戦の状況では、よほどの反米国家でなければ、潜伏中のアルカイダ・メンバーに対する盗聴への協力を拒否することは考えにくい。
なお、前出『ニューズウイーク』2006年5月15日発売号には、98年の在アフリカ米国大使館同時爆破テロの容疑者が供述したイエメン国内のアルカイダ秘密拠点の電話をNSAが盗聴し、そこから重要な情報を入手したことや、やはりNSAがアフガニスタン国内の特定の公衆電話を監視下に置き、9・11テロ前日に極めて重要な通信を傍受していた例などが引用されている。いずれもピンポイントの盗聴のようだが、これらの工作がNSAのみで行なわれたのかどうか、あるいは具体的にどのような盗聴方法がとられたのかどうか、などは一切明らかになっていない。
(一部転載終わり)
と、冒頭はもっぱらシギントに関して記述しています。
この項はその後、小見出しを拾うと「問題は翻訳能力の限界」「戦場で有効な近接シギント」「報道で盗聴を知ったビンラディン」「対テロ戦の司令塔=テロ対策センター」「明かされたCIA極秘作戦の顛末」「特命チームにエキスパートをスカウト」「殺害されたCIAチームのメンバー」「米本土から遠隔操作される武装プレデター」「テロリスト追跡の専門タスクフォース」と続けています。
また、別項では「北朝鮮を監視する諜報システム」「インテリジェンスの世界制覇を目指すCIA」というレポートも書いています。とにかくアメリカの諜報活動の実態について、あれこれまとめてみたわけです。
ということで、興味を持っていただいた方は『インテリジェンス戦争 対テロ時代の最新動向』を是非どうぞ(
⇒アマゾン )。
ちなみに、同書の他の項と執筆者は
こちら 。
2011/05/04(水) 23:06:48 |
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ついに待望のシーンが届きました。5月2日、ダラア。第5師団の装甲車が兵士とともにデモ隊側に合流した映像です。情報は流れていましたが、初めて映像で確認されました。この動きがどんどん広がっていけばいいのですが。
▽第5師団の反乱軍 下は同じサイトにあった2日前の投稿映像です。とにかく一日も早くこうした日々が終焉することを祈ります。(下はかなり悲惨なものですので、流血の苦手な方は見ないでください)
▽ホムスの惨劇
2011/05/03(火) 19:38:34 |
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ビンラディン殺害によって、報復テロを懸念する声がありますが、私はそう心配はしていません。
ビンラディンは世界最悪のテロリストと目されていますが、もともと本人が自分でどんどんテロ作戦を取り仕切っていたというわけではなく、アルカイダというテロリストの同志グループを運営し、そのオーナーとして鎮座していたにすぎません。
かの911テロも、ビンラディンが首謀したと思っている人が多いと思いますが、彼はテロ計画を「承認」し、資金や人脈を「提供」したにすぎません(口出しはしましたが)。911は、ビンラディンから資金や要員を提供してもらったハリド・シェイク・ムハマドという男が、個人的に計画したものです。
アルカイダにおけるビンラディンの存在というのは従来そうしたもので、しかも9・11後はさらにそのテロ実行部門からは遠ざかっていました。なので、ビンラディンが死亡しても、アルカイダのテロ細胞組織への直接の影響はほとんどありません。
アルカイダは「テロリストが自爆を厭わないこと」と「世界中にシンパが広がる要素があること」が、従来のテロ組織に比べて非常に危険でしたが、911から10年近く経過してわかることは、アフガニスタンやパキスタン、あるいはイラクやイエメン、あるいはアルジェリアやモロッコなど、もともとイスラム過激派の下地がある地域以外ではそれほど成長しなかったということです。イギリスやフランスなどヨーロッパ先進国のイスラム系移民社会で増殖し、そちらのほうがテロリズムとしては危険視されたりもしたのですが、こちらも情報当局の徹底した監視によって、目だったテロ攻撃は数度の連続爆弾テロぐらいに抑えられています。
結局、アルカイダは全体的には「抑えられてきた」といえます。アルカイダが911を起こせたのは、当時はまだアメリカ情報当局が油断していたということでもあり、当局側が本気で警戒に乗り出した後は、たいしたことができなかったということになります。
この10年で、イスラム社会における反米の熱気もかなり薄れてきました。10年前にもしもビンラディンが米軍に殺害されていたら、世界中のイスラム社会で反米運動が広範囲に発生したことでしょう。しかし今日、イスラム社会においてさえ、ビンラディン殺害は概ね肯定されていて、反米を叫ぶ群集は見あたりません。現在、イスラム社会の民衆にとって、敵はアメリカよりも「自国民を弾圧する独裁者」になっています。
アルカイダはもう、イスラム世界のトレンドにおいても時代遅れになってきています。今後、上記したような一部のエリアでは活発な活動が続けられていくでしょうが、世界中のイスラム社会に影響を与えるような存在にはなりませんし、テロ組織としては徐々にジリ貧に向かっていくでしょう。ビンラディン死亡の前に、すでにそうなってきていたのです。
むろんビンラディンが死亡したからといって、アルカイダが終わりということではありません。すでにだいぶ弱体化している「残党」や、ビンラディンを信奉しているドメスティックな独立系テロ・グループが報復テロを連続して起こす可能性はありますが、一時的なものに終わるでしょう。ビンラディン殺害は、イスラム・テロの台頭というひとつの時代の下降期(まだ終焉ではありませんが)を象徴する事件ということかと思います。
私自身、個人的にもこれでひとつの時代の区切りかな、と感慨深いものがあります。思えば、それまで東西冷戦から冷戦終結後の国際紛争を追いかけていたのですが、96年にエジプトに居住してイスラム・テロの勃興に接し、そこから国際テロ⇒インテリジェンス研究へとテーマをシフトさせてきました。エジプトで当時、勢いを増していた「イスラム集団」などの情報を集めているなかで、「アフガニスタンのアラブ人イスラム義勇兵のスポンサー」の存在を知って俄然興味を覚えたことが、いま私がこんなことをやっているきっかけとなりました。
オサマ・ビンラディンの名前を知ったのは同年の『TIME』誌の記事でしたが、それ以降、私はすっかりこの人物に夢中になり、ひたすら関連情報を集めました。911テロまでの約5年間、私は世界がまだそれほど注目していなかったこのテロリストの、熱狂的なマニアのような感じでした。911後ももちろんビンラディン情報のフォローは続けましたので、かれこれ15年もの付き合い(?)だったわけです。
その長い付き合いがようやく終わったということになりますが、面白いもので、私自身はビンラディンやアルカイダという存在よりも、前エントリーで書いたように、ビンラディンを捜索して殺害したアメリカのインテリジェンスや特殊部隊のほうに俄然興味を感じています。私も、世界の人々も、つまりは飽きっぽいということなのかもしれません。
(追記)
日本でも報復テロの可能性があるとして、警察庁・防衛省・入管が警戒態勢を引き上げたそうです。まったく必要ありませんので、日本政府は震災対策に全力を挙げてください。
外務省は、リビアやシリア、イエメン、バーレーンなどで独裁と戦っている人々を、できれば支援して欲しいですね。日本はいつもよくわからない目立たない援助をバラ撒いたり、目立たなく自衛隊を出したりしていますが、いま世界では「日本は国家的危機にある」と見られているので、「そんな日本が中東の人々の支援に動き出した」となれば、大きなインパクトになると思うのですが・・・。
2011/05/03(火) 17:14:05 |
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5月1日(訂正/正しくは現地時間で2日未明)、米軍の急襲であのオサマ・ビンラディンがついに殺害されました。2001年の9・11テロから10年弱。長かったですね。
ビンラディンが潜伏していたのは、大方の専門家が予想していた「パキスタンのアフガン国境近くの山岳地帯」ではなく、パキスタンの首都イスラマバード近郊の町アボッタバードの隠れ家でした。
アメリカの軍・情報機関では、ビンラディン追跡は主に2つのシステムで動いてきました。1つは米中央軍のアフガン国内の拠点に設置された統合タスクフォースで、ここは米軍の特殊部隊が中心になり、そこに空軍部隊やCIAなどが参加するかたちになっています。主にアフガン=パキスタン国境エリアの「戦場」を捜索する武闘派の特任ユニットですね。
他方、CIAも重要標的追跡任務に特化した独自のタスクフォースを、テロ対策センターの指揮下に作っていました。今回はどうやら、こちらが主導したようです。
アメリカ東部時間1日深夜に行われたオバマ大統領の演説と、米メディア報道によると、ビンラディンの所在情報が最初にもたらされたのは、昨年8月のこと。その後、CIAタスクフォースによる隠密調査の末、この4月29日に正確な隠れ家情報を入手。同日午前8時20分(アメリカ東部時間)にオバマ大統領が最終的に攻撃命令を出したようです。
その後、翌30日午後3時50分(アメリカ東部時間)に、ビンラディンが確実にそこに滞在しているとの報告が大統領に報告されたとのこと。実際に急襲部隊が攻撃を開始したのは、現地時間で5月2日の午前1時半すぎ頃。銃撃戦は約40分間。ビンラディン本人も銃撃に参加したようですが、最終的に頭部を撃たれて射殺されたということです。
今回、攻撃を行ったのは、2機のヘリコプター(追記/4機説もありますが、情報が錯綜していて現時点で未確認⇒追記その2/ヘリは4機だったとのこと)に分乗した海軍特殊部隊「シールズ」の25人の隊員たちだそうです。統合特殊作戦コマンドの指揮下にある部隊とのことなので、対テロ制圧作戦能力の非常に高いエリート部隊「シール・チーム6」ですね。なお、アメリカ側に犠牲者は出ていませんが、ヘリのうち1機が故障したため、破壊されたとのことです。
オバマ大統領は、情報入手にパキスタンの支援が役立ったと語っていますが、今回の急襲作戦は、情報漏れを警戒してパキスタン側には一切知らされず、完全にアメリカの単独作戦だったようです。
作戦の一部始終は、米本土のCIA本部でリアルタイムでモニタリングされていたらしいです(追記⇒ホワイトハウスで中継)。殺害作戦は統合特殊作戦コマンドの指揮でしょうが、なんといっても情報入手はCIAの大手柄ということですね。
(追記)
シールズは海軍の特殊部隊なので、ボートや潜水艦などからの海路潜入に長けた部隊ですが、陸上での活動でも、数ある米軍の特殊部隊のなかでも、少人数の軽歩兵チームによる強襲作戦の能力が非常に強力な部隊です。
たとえば自衛隊では海自の特殊部隊である特別警備隊などは海自の作戦専門の部隊ですが、米軍はそういうのではなく、陸・海・空・海兵隊の特殊部隊を、特殊作戦軍がまとめて運用しています。運用面では、陸軍とか海軍とかはあまり関係ありません。
特殊作戦軍の中でも、テロ制圧に投入される精鋭部隊を運用するのが「統合特殊作戦コマンド」です。統合特殊作戦コマンドの下には、陸軍の「デルタ・フフォース」と海軍の「シール・チーム6」があります。イラクやアフガニタンのような「戦場」で、テロリスト制圧作戦となれば、このデルタ・フォースとシール・チーム6が、まさに2トップといえます。
各特殊部隊の特徴を大雑把にいえば、「デルタ・フォース」(正式名称は「第1特殊部隊作戦分遣隊デルタ」は、ハイジャックや市街地での人質占拠事件などのような都市型のテロ制圧に非常に強い部隊といえますが、もちろんアフガニスタンの山中での活動なども充分に対処できます。単に戦闘能力があるというだけではなくて、敵を追い詰めるためのインテリジェンス能力も高いです。洗練されたテクニシャンで、エリート中のエリートという印象です。隊員はグリーンベレーのベテランなどから選抜されますから、メンバーのほとんどは30代以上ではないかと思います。
シール・チーム6(正式名称は「特殊戦開発群」)は、海軍の「シールズ」の最精鋭で、テロ制圧の切り札といえます。(追記/シールズの全15個チームの1つ。バージニア州ダムレック基地を本拠としています)
シール・チーム6もテロ対策のインテリジェンス活動を行いますが、デルタフォースや後述するグリーンベレーのようにインテリジェンス活動を本格的に行うというよりは、前述したように、とにかく瞬間的な強襲作戦の戦闘力に優れています。今回、チーム6がビンラディン殺害に投入されたのも、ひとつにはこの戦闘力が期待されたためだろうと思います。
デルタフォースやシール・チーム6は、CIAなどの諜報機関と連携し、テロリスト追跡に参加しますが、そのため、活動のほとんどが秘密作戦になります。隊員の情報も公開しておらず、メディアの取材も受けません。
それに対し、オープンな作戦に参加する特殊部隊もあります。
グリーンベレー(正式名称は「特殊部隊群」。しばしばグリーンベレーAチームというような単位で投入されますが、それは「特殊部隊群作戦分遣隊アルファ」のことです)は、陸軍特殊作戦コマンドの隷下で、主に敵地に潜入しての特殊作戦に長けた部隊といえます。偵察・情報収集・近接戦闘・航空作戦支援などにも対応できますが、破壊工作、友軍訓練、民生活動、心理作戦なども行います。
陸軍特殊作戦コマンドはその他にも、遊撃戦のスペシャリストである「第75レンジャー連隊」も指揮しています。
海軍の「シールズ」は、前述したチーム6とは切り離され、海軍特殊作戦コマンドの隷下になっています{(追記/全6500人)。やはり個人レベルでの戦闘力に優れていて、隊員もみな戦闘力のあるマッチョなタイプが多いですが、そのかわり長期戦や緻密な駆け引きが必要な作戦などにはあまり向いていないとの評もあります。
海兵隊の特殊部隊は「フォース・リーコン」(海兵隊偵察部隊)と通称されていますが、文字通り、テロ制圧というよりは、敵地での長距離強襲偵察に優れています。徒歩で密林・山岳・原野・砂漠などを長期間・長距離踏破しなければならないので、20代の隊員が主流といわれています。海兵隊特殊作戦コマンドの隷下には、このフォース・リーコンから精鋭を集めた「海兵隊特殊作戦連隊」も編成されています。
特殊作戦軍の指揮下には、その他にもさまざまな専門部隊がありますが、ここではとくに実戦を担う部隊を簡単に紹介してみました。
(追記2)
情報の端緒は、逮捕されたテロ容疑者の証言から、07年にアルカイダ連絡要員を監視下においたことだったと伝えられています。現時点では、それ以外にタレコミの類があったかどうかはわかりません。情報提供者がいればビンラディン情報に掛けられた超多額の賞金を得ることになりますが、情報源に関する情報は、仮に誰かがいても公式には公表されないのではないかと思います。
いずれにせよ、それなりの日数をかけての監視が行われたことは間違いないようです。NSAによる通信傍受もピンポイントで行われた可能性があります。
CIAで情報収集を担ったのは「国家秘密工作部」というスパイ部門でしょう。これは以前は「作戦本部」という名称だったのですが、他の情報機関との連携を強化し、国を挙げてのスパイ活動の司令塔とするという意味を込めて、05年10月に現在の名称に改称されました。
そのCIA国家秘密工作部の中でも、国際テロの対する情報活動は「テロ対策センター」という部署がビンラディン追跡を取り仕切っていました。じつは05年4月にCIAの上位の「国家情報長官」が設置されると同時に、同長官室内に「国家テロ対策センター」が設立されたのですが、そちらのほうは実質的にはそれほど活躍することもなく、CIAテロ対策センターが現在に至るまで、もっとも重要な役割を果たしています。
CIAテロ対策センターの内部には、ビンラディン追跡専管のセクションもあります。かつては「ビンラディン班」と呼ばれていたのですが、現時点でどういう呼称になっているかはわかりません。かつてはテロ対策センターに「重要標的班」という部署があって、アルカイダ幹部を追っていたのですが、そのしくみが基本的にはあまり変わっていないのだと思います。
CIA国家秘密工作部の内部には、準軍事部隊として「特殊活動部」という部署があります。米軍特殊部隊OBがけっこう参加していますが、やはり戦闘力を考慮して、今回はお呼びがかからないようです。
2011/05/02(月) 18:57:43 |
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いろいろ立て込んでいて失念しておりましたが、テロ・ウォッチャーとしての信用(そんなものあんまりないですけど)にも関わってくるので、今更ですがいちおう報告しておきます。
今年1月24日、モスクワのドモジェドボ国際空港で自爆テロがあり、計36人が死亡しているのですが、この件に関し、3月1付ロシア有力紙『コメルサント』が、このテロの指揮官はチェチェンのイスラム武装勢力のアスラン・ビュトゥカエフ(37)で、「麻薬を使って実行犯のマゴメド・エブロエフを洗脳し、自爆を強要した」とロシア治安当局が断定した、と報じました。
同紙によると、ビュトゥカエフはチェチェン武装勢力の最大派閥「カフカス首長国」を率いるドク・ウマロフ(46)の配下とのこと。ウマロフは2月4日にインターネットで同事件の犯行声明を発表しています。
この件に関し、私は事件発生直後に「犯行はウマロフ派ではないか」と当ブログに書きました(
1月25日エントリー/ドモジェドボ空港テロはウマロフ派の犯行か? )。同派がこうしたテロをそれまでもしばしば行っていたからです。
ところが、その後、ロシア治安当局が「ノガイ大隊」という別のグループの犯行だと見立てたことで、私も「不確かな情報を発信してすみませんでした」と訂正・謝罪しました(
1月29日エントリー/モスクワ空港テロ続報&エジプト情勢 )。
結局、ノガイ大隊犯行説はロシア当局の間違いで、ウマロフ派の犯行だったということです。私の最初の見立てどおりではありましたが、1月29日エントリーで間違った情報を書いたままになっていたので、再度訂正して謝罪します。
2011/05/01(日) 16:37:58 |
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シリアではさらにデモが継続していますが、治安部隊や軍は実弾射撃による弾圧をさらに強化しており、犠牲者がどんどん増えています。少なく見積もっても500人以上が一方的に殺害されており、完全に「虐殺」レベルになっています。
南部に展開中の第5師団の一部に反乱の動きもあるようですが、全体的には軍の謀反はまだ起きていません。反政府側は懸命に軍の将兵に合流を呼びかけていますが、なかなかうまくいっていません。
とはいえ、少しずつ脱走兵も出てきています。その中の1人のインタビュー映像が、本日初めて出てきました。
▽シリア脱走兵の告白 この映像を流しているシャム・ニュースは、映像発信で反体制派をリードする有力な情報サイトで、映像の信憑性は非常に高いサイトです。当該の兵士はこの映像内で、自分の身分証と認識票を提示していますので、インチキであればすぐにバレますから、本物であると判断していいと思います。
話の内容の真偽までは判断できませんが、実際にデモ弾圧が行われていますので、こちらもほぼ正直に話していると考えていいと思います。
この兵士の名前は、ワリード=アブド・カシャアミールといいます。身分証を明らかにしていますので、本名ですね。本人いわく、徴募兵で、ダマスカス市内・北東部丘陵の「共和国防衛隊」カーシユーン司令部第227部隊の所属です。
4月23日、指揮官に「テロリストを逮捕しにいく」と告げられ、250人の仲間とともにバスに分乗して、ダマスカス東部郊外のハリスタに行きました。彼いわく「この250人は『サイカ』のメンバー」とのこと。サイカ(稲妻)とは、かつてシリアが運営していたパレスチナ人武装組織の名前として有名ですが、おそらくこのサイカはそれとは直接は関係なく、共和国防衛隊内の部隊の通称のようなものだと思います。
で、このときこのサイカ部隊は、通常の迷彩服ではなく、市街地特殊作戦用の黒色の戦闘服を着用し、実弾と銃を装備していました(この映像では彼は迷彩服なのですが、後でどこかで入手してこの映像のためにわざわざ着替えたものと思われます)。
バスを降りると、丸腰のデモ隊をアムン(治安部隊)とムハバラト(秘密警察)が銃撃していて、たいへん驚いたと言います(彼は「アムンとムハバラト」と言っていますが、どこまで正確に認識しているのかは不明です)。
すぐに、指揮官から射撃命令が出ました。彼は丸腰の市民を撃つことが出来ず、他の4人の仲間とともに、武器を捨ててデモ隊に参加しました。その際、部隊から狙い撃ちされて、仲間のうちの1人は肩に被弾したといいます。
実名・身分を明らかにした非常に勇気ある行動と思います。こうした映像が他の将兵たちに勇気を与えるといいなと思うのですが。
こちらはホムスのデモ弾圧。たいへんな緊迫感です。
▽ホムスのデモ弾圧 下は銃撃される人々。こういう目に遭えば、もう政府は許せないと思うでしょうね。
▽銃撃される人々 下はダラアの集会で少女が演説している場面。たいへんな熱気で、もう完全に革命の光景ですね。
▽少女の演説 以上は数あるネット映像の一部にすぎませんが、本当に世界中の人に見ていただきたいものだと思います。
2011/05/01(日) 14:18:56 |
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