本日、スーダンでもデモが始まりました。もうあちこちに伝播しています。アラブ諸国は「イラクとレバノン(とパレスチナ)以外は全部独裁」なので、どこでも同じような下地があります。ですが、やはり天王山はエジプトでしょう。
エジプトはなんだか革命前夜のような様相になってきました。あの国は陸軍が強力なので、いずれ収束する可能性が高いとみていたのですが、これだけ無秩序になってくると、今後の見通しはまったくわかりません。
カイロでは略奪が始まっているようです。私の見聞の印象だけでいえば、アラブでもエジプトはとくに都市人口が密集しているからか、人々にインド的なパワーがあります。競争が激しいので、誰もが我先にという感じで、個々人の押しの強さがあります。出稼ぎの人や貧困層も多いので、そうなるとちょっと心配なのは、略奪がいっきに流行する危険があるのではないかということです。
いずれにせよ、最後はもう軍が収めるのではないかなという気がします。独裁政権に対する反発から始まった騒動ですが、いわゆる民主派の受け皿がありません。民族派もイスラム勢力もたいしたことはありません。民主選挙をやったら、大統領立候補者が100人くらい出てくるのではないでしょうか。
私としては、思いっきり欧米かぶれの指導者が出て、昔のパーレビーみたいな「脱回(イスラム)入欧」政策をとってくれないかなという期待があるのですが。
都市部の都市化が進んでいるエジプトは、ムバラク独裁以外はアラブでも有数の西側かぶれ国なので、軍が一時的に収めるとしても、その後はやっぱり世俗派の民主的政権を期待します。あまり注目されていませんが、軍の内部で世代交代が進み、親欧米派の若手が実権を握るということはない・・・かな。
こういう状況の良くないパターンとしては、「独裁権力崩壊」→「声のでかい民族派や宗教系が民主的に台頭」→「うまくいかない」→「抗争激化で、何度かドタバタ」→「みんな疲弊する」→「やっと落ち着いてくる」という流れですね。
と、いろいろ考えてみましたが、いずれにせよ先のことがこれほど読めない〝騒擾〟というのも、あまりなかったように思います。情報化社会が進めば、惰性の独裁はいずれ立ちゆかなくなりますが、その後の長期混乱は必至ということでしょうか。
別件で手が塞がっているので、あまり調べもせずに印象だけで書きましたが、かつて住んでみたことがある国だけに、ちょっと他人事には思えません。
スポンサーサイト
- 2011/01/31(月) 01:35:04|
- 未分類
-
| トラックバック:0
-
| コメント:0
モスクワ空港テロに関し、事件直後のエントリーで「チェチェン人武装組織ではないか」「ドク・ウマロフの配下の可能性がある」と書きましたが、ロシア有力紙『コメンルサント』によると、隣接するスタブロポリ地方を地盤とする「ノガイ大隊」と名乗る組織の犯行だと治安当局が断定したようです。不正確な推測を書き、たいへん失礼いたしました。
ノガイというのはこの地方の民族の名称で、90年代末の第2次チェチェン紛争時に、それに便乗するように活動を始めています。チェチェンを中心にダゲスタンなどとも併せ、北カフカス地方の「反ロシア・イスラム武装勢力」の一派にあたりますが、どうやら、より「テロ組織」に近い組織のようです。ウマロフ派はチェチェン人中心なので、今回のテロとは派閥系統が違っていたようです。
イスラム武装勢力といっても、このあたりはボスごとに細かな派閥がたくさんあって、あまり組織立った指揮系統というのはありません。ウマロフ派は最大手の派閥のひとつですが、おそらくノガイ大隊に命令できるような関係ではないと思われます。ちなみに、チェチェン組織内でウマロフ派と他の派閥が内ゲバ状態になったとの情報もありますが、実際のところはよくわかりません。
ロシア紙を引用した各紙の報道によると、ノガイ大隊はここ数年はスタブロポリでのテロをメインに活動していて、昨年8月には同地方内のカフェで無差別テロを起こしています。それを受けたロシア治安当局の掃討作戦で、10月末には最高指導者だったガジエフ司令官が殺害され、組織は壊滅状態に陥り、そこで残存メンバーが報復のためにモスクワでのテロを計画した可能性があるようです。
昨年の大晦日に、モスクワ南部で爆発事故があり、女性の遺体が見つかっていますが、ロシア治安当局は、この女はノガイ大隊のメンバーで、爆弾製造中に謝って爆発させたと見ています。現場から逃げた別の女性が逮捕されていますが、この女性は昨年逮捕されたノガイ大隊メンバーの妻だとされています。空港テロ後、「治安当局は3人のカフカス系の男を容疑者として追っている」という情報が流れましたが、どうもこの大晦日の爆発事件の線から割り出された容疑者のようです。
そんななか、ロシア治安当局は、空港テロにビタリー・ラズドブジコというノガイ大隊メンバーが関与したことをほぼ断定したようです。ラズドブジコは他のテロ事件ですでに指名手配されているテロリストということです。
気になるのは、今回の空港テロの犯人グループが、パキスタンとアフガニスタンの国境地帯でテロ訓練を受けていた可能性があるとの報道があることです。北カフカスの組織なら、爆弾製造技術などすでに持っているはずですし、グルジアやアブハジアあたりのルートから爆弾の現物も手に入れられると思うので、どういうことかちょっとよくわかりません。昨年の掃討作戦から逃げた残党が、一時ワジリスタンあたりに逃げ込んでいたのかもしれません。
ロシアでの爆弾テロは、これまでも定期的に起きていますが、これからも定期的に起こることになると思います。なかでもチェチェン人組織はどうも前述したように内ゲバ気味な様子も伺えるので、主導権争いの意味でも派手なテロ作戦を画策していく可能性があります。
ところで、前エントリーで触れたエジプト情勢ですが、期待以上に盛り上がってきた感じですね。エルバラダイの登場というのはちょっと予想外でしたが、ムバラクの肖像画が壊される映像が流れたりするのは、エジプト国民にはかなり衝撃的です。ムバラクは軍も動員しましたが、どうなるでしょうか。
ムバラク自身は徹底弾圧を目指すかもしれませんが、後継者とされていた息子がこの情勢をどう判断するかというのもカギになるかと思います。なんとか頑固な父親をなだめてくれればいいのですが・・・。
アメリカもここまで来れば、弾圧を支持することはないでしょうし、混乱が長引けば、政権は退陣するしかないかもしれません。
となると、その後はどうなるでしょうか? エルバラダイ政権? なんかしっくり来ませんね。どちらに転んでも、しばらくは混乱が続くでしょう。
それにしても、仮にエジプトで政変となれば、周辺アラブ諸国への影響は絶大です。こういう流れがどんどん広がっていけばいいですね。民主化の流れを作るためにも、エジプトの若者にはなんとか暴徒化しないで踏ん張っていただきたいものです。
- 2011/01/29(土) 13:30:18|
- 未分類
-
| トラックバック:0
-
| コメント:1
チュニジアでの〝市民革命〟の勢いに乗り、周辺アラブ各国で反政府デモが拡大しています。とくにエジプトでかなりの盛り上がりを見せています。私はかれこれ四半世紀ほど中東エリアと付き合いがありますし、エジプトに短期間ですが住んでいたこともありますので、感慨深くこの状況を見ております。
私はかねてより中東各国の民主化を強く願う者であり、この動き自体はもっと盛り上がればいいなと考えています。イラク戦争の頃によく「中東には中東のやり方があり、アメリカ式の民主主義を押し付けてはダメ」との議論がありましたが、私はそうは思っておりません。中東を取材すると、よく現地の人でもそういう意見を言う人がいるのですが、そういう人は現地でそれなりの特権階級である場合が多いです。
たいていは部族幹部だったり宗教指導者だったり政界指導者だったり、あるいは政府・大学・マスコミ業界のエライ人だったり。私たち外国人取材者はそういう人をメインに取材することが多いので、たしかにそういう声は聞きますが、すでに欧米のテレビ番組やネットの世界を知っている国民の多くは、私の知る限りでは、やっぱり欧米みたいな社会にあこがれています。
中東アラブ諸国ではもともと、強権的な政権が長く独裁体制を敷いている国が多いのですが、それに異を唱える行為はかなり勇気の要る危険行為でした。その理由は、強力な秘密警察の存在による恐怖があったからです。
ですが、90年代以降の情報化社会のなかで、その規律が徐々に揺らいできました。今や中東のほとんどの国で、ネットや携帯電話が広く使われています。各国の権力層も最初はそうしたものを規制しようとしたのですが(最初は衛星テレビ規制からでした)、途中でもう諦めています。
独裁体制の幹部層も世代交代が進み、欧米式の自由社会の風潮に馴染んだ層がどんどん主流を占めるようになってきたこともあります。
ということで、こういった国々では今、「どのくらいの自由発言・行動を政府は黙認するのか?」という手探りの状態になっています。権力側も、ひと世代上の時代であったなら、治安部隊か軍が有無を言わせずひねり潰しているはずです。扇動者は拉致られて拷問されて密殺でしょう。ところが、今では放水とかで鎮圧です。そのあたりの社会感覚の変化が、まず背景にあります。
ただ、報道でイメージされるほどの国民的ウネリというには、まだなっていないように見えます。カイロでは数千人のデモ参加者が出てきていますが、市民のほんの一部にすぎません。デモに期待している人はかなりいるとは思いますが、実際に参加するのはまだちょっと怖いし、だいたいそういうのに関わりたくない人が大多数です。(ただし、他の町にもデモが広がっているのは事実のようです。全土で数万人との報道もありますが、こうした数字はえてして誇張されますので、どの程度の規模なのかは現時点ではよくわかりません)
暴れまわっている人の多数は若者で、フェースブックやツイッターの効果が報道で強調されていますが、それ自体はまだそんなにたいしたものではないと思います。
ただ、情報ツールの発達がもたらした大きなものは、「市民に対する権力側の暴力行為は、いまや国民・世界に映像で筒抜けになる」ということです。これは、権力側で暴力装置を指揮する人には、大きな足かせとなります。チュニジアでは軍最高幹部が大統領の鎮圧命令を拒否したことで政変が成功しましたが、そういうことが他の国でも起こりえます。
かつて共産圏の崩壊のドミノが起きたときも、要は権力中枢か暴力装置指揮官たちが、CNNのカメラの前で「暴力を行使するかどうか」をどう選択したかで、流血の事態になるかどうかが決まりました。今回のアラブの動きも、似たような感じになってきているところはあると思います。
ただやっぱり、みんな大統領の一族や側近ばかりが国を私物化しているのは気にくわないとしても、今の国民生活の状況のなかで、流血の事態になってまで政変を欲しているかといえば、どうもそこまでのレベルではないようにも見えます。なんとなく一過性で徐々に収まっていく可能性がいちばん高そうですが、ただ、こういうのはその場の雰囲気というか、熱狂の群集心理の盛り上がり次第でまた様子が変わってきますので、現時点ではどう転ぶかまだ判然としないところがあります。
それでも「権力層はもうそんなに怖くないかも」という空気が少しでも前進すれば、将来に向けてはたいへん好ましいことです。
- 2011/01/27(木) 11:23:01|
- 未分類
-
| トラックバック:0
-
| コメント:0
火曜日の夜、TBSの『NEWS23』にコメントを採用していただきました。モスクワの空港テロに関して、その狙いについてなどの話をさせていただきました。まだ詳細がわかっていなかったので、あまりたいしたことは言えませんでしたが。
また、同日の発売だった『週刊朝日』に「北朝鮮が今年“核ミサイル”配備?」という記事を寄稿いたしました。週刊誌なので「?」付タイトルで少し煽っちゃいましたが、北の核ミサイル開発が日本の安全保障にとって、もの凄く重要な脅威だということが、どうもあまり認識されていない気がします。あまり日本に関係ない「黄海砲撃」のほうがずっと関心もたれましたが、心配する順序が逆ではないかなと思います。
今、ウラン濃縮を国連安保理に持ち込むかどうかという外交上の攻防が行なわれています。ウラン濃縮は日本にとっては死活的に重要な案件なので、より国際問題にしたほうがベターですが、仮に安保理に持ち込んだところで、北朝鮮はいちおう平和利用目的ということでやっていますから、イランを止められない国際社会が北朝鮮を止めることは至難のわざだと思います。
また、やはり同日発売の写真誌『FLASH』の戦場カメラマン10人の特集記事に、中米ニカラグアのゲリラ従軍時の写真を採用していただきました。それにしても、同頁に掲載された高橋邦典さんのリベリア内戦の写真、とてつもなく凄いです。
そういえば、リベリア内戦では、Qサカマキさんのもの凄い迫力写真も見たことがあります。ああいう凄い現場にいた、ということ自体、凄いことです(なんだか「凄い」ばかりですが)。戦争でワクワクするのは間違っているのでしょうが、ああいう写真を拝見すると、やっぱりゾクゾクしてしまいますね。
戦場カメラマンといえば、先日、ついにあの渡部陽一さんと会い、お話させていただく機会がありました。テレビで拝見するとおりのおっとりした感じの、面白い方でした。昨年は超多忙でしたが、今年はまたアフガニスタンと、それに南部が独立することになったスーダンにも行きたいとのことでした。
スーダンは、このまますんなり落ちつくとは限りません。日本ではあまり関心もたれていませんが、渡部さんがそういった辺境の問題を広く伝えてくれるなら、それはとても有意義なことだと思います。
- 2011/01/27(木) 05:04:10|
- 未分類
-
| トラックバック:0
-
| コメント:3
今月号の「次号予告」に書かれているので、隠す必要はないと思いますので書きます。次号の『軍事研究』でウィキリークスについて記事を執筆しています。
ということもあって、自分なりにかなり徹底的にウィキリークスについて調べてみました。報道の出方が散発的なので、なかなか全体像はわかりづらかったのですが、まあだいたいのところはつかめました。
そこでちょっと気になったのは、東京発の公電情報がほとんど公開されていないことです。ウイキリークスが入手した公電情報は、全部で25万点強あるのですが、そのうちの5697点もが在京大使館発のものです。在外公館としては第3位の多さなのですね。
ところが、そこからこれまで公開されたのは、公開済み文書2658点のうち、わずか3点。まったく寂しいものです。
ウィキリークスは情報公開にあたり、信憑性を確認したり、情報の分析をしたり、危険情報を選別したり、世間により強いインパクトを与えたりするために、部外の協力者と共同で作業を行なっています。なかでも、アフガン資料の頃から、欧米メディアと提携しています。現在は英米仏独西の5つのメディアですね。
(その他、今月半ばよりノルウェーの新聞が「全資料を入手した」として独自の報道を始めていて、今度はスウェーデン、デンマーク、ドイツのメディアと提携して報道するそうです)
で、問題は、そうしたメディアや協力者に、おそらく日本専門家あるいは日本に興味のある人がほとんどいないということなのだと思います。誰でも自分や自分の〝顧客〟層が興味のあるネタに関心は集中しますから、そういうことで日本情報は後回しにされているのでしょう。
ウィキリークスは公式サイト上で、提携メディア(ジャーナリスト)を募集しています。であれば、どうして日本のメディアはそれに乗っからないのでしょうか。スクープの宝庫なのに、もったいないことです。
できれば私がやりたいくらいですが、あちらもメディアは厳選しておりますので、まさか『Japan Military Review』ではダメでしょうね。でも英語でネット発信もしている『Kyodo News』とか『The Asahi Shimbun』とかなら大丈夫だと思うのですが、なんでやらないんでしょうかね。最初の頃に「公益性がないネット暴露はダメ!」みたいな話を社説とかに書いてしまったからでしょうか。ウィキリークス側も不注意な情報公開には慎重ですから、逆に公益性を指導するくらいの気持ちでやれば構わないのではないかと思うのですが・・・。
- 2011/01/25(火) 04:23:39|
- 未分類
-
| トラックバック:0
-
| コメント:1
モスクワのドモジェドボ空港の国際線ターミナルで、4時間くらい前に爆弾テロがありました。詳細はまだ不明ですが、報道によれば、少なくとも35人が死亡した模様です。
犯人は、まずチェチェンのイスラム武装勢力の犯行による可能性がもっとも高いですね。さまざまな派閥があるので、あくまで推測ですが、ドク・ウマロフの配下による犯行である可能性もあります。ウマロフの配下は、戦死した兵士の未亡人などを自爆テロ犯「黒い未亡人」に仕立てたりしています。(ウマロフや「黒い未亡人」についてはこちらを参照ください→
。→過去エントリー)
この連中はこれまでも、モスクワまで〝遠征〟してのテロをときおり起こしています。昨年3月の地下鉄連続自爆テロも「黒い未亡人」の犯行でした。
現時点ではまだほとんど第一報だけなのですが、「犯人は男3人組かもしれない」「自爆テロかもしれない」とのことです。
ユーチューブに事件直後らしき動画があるとネットに出ていたので、見てみました。あれだけでは、ちょっとよくわかりませんでしたが。
- 2011/01/25(火) 02:12:39|
- 未分類
-
| トラックバック:1
-
| コメント:0