ワールド&インテリジェンス

ジャーナリスト・黒井文太郎のブログ/国際情勢、インテリジェンス関連、外交・安全保障、その他の雑感・・・(※諸般の事情により現在コメント表示は停止中です)

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和製エスピオナージの系譜

 NHK土曜ドラマ『外事警察』を視聴しました。前エントリーで触れましたが、尊敬する麻生幾さんの原案です。和製エスピオナージとしては非常に重厚で、スリリング。今後の展開に期待大です。
 制作サイドで拙著『日本の情報機関』なんかも参考にしていただいたとのことで、私も企画初期の段階で何度かNHKの方にアドバイスをしました。フィクションとはいえ、リアリティを追求したいというお話でした。もっとも、前エントリーで書いたように、公安モノなら右に出る人はいない麻生さんの原案ですので、私ごときの出る幕はほとんどありませんでしたが。
(ちなみに主演は渡部篤郎さん。まったく関係ない話ですが、昨日ナインティナインの番組に、渡部さんを二人で物真似するという脱力系のお笑いコンビが出ていて、ちょっと面白かったです)

 一方、フジテレビ深夜枠では『24』の新シーズンが始まりましたが、リアリティという点で、和製エスピオナージを創っていくのは、なかなか難しいところですね。そういう意味では、『外事警察』は本邦初の本格的作品になりそうな予感です。
 そういえば、『ワールド・インテリジェンス』の第4号で「スパイ映画でわかる諜報世界」という特集を組んだ際、「邦画のなかのハードボイルド~どうしても盛りあがらない和製エスピオナージ」という記事を書いたことがあります。『ワールド・インテリジェンス』らしからぬ息抜きエッセイですが、その一部をちょっとここに再録してみます。
(なお、2006年末頃執筆の文章ですので、その後に制作された作品については触れておりません)

 CTU(テロ対策ユニット)の活躍にお茶の間が固唾を呑むアメリカとは違い、現実にハードボイルドな背景のない日本の「スパイもの」はなかなか厳しいものがある。
 そんななかで異色だったのが、テレビの連続ドラマ枠(しかもフジテレビの月9)にスパイ・アクションを勇敢にもぶつけた『二千年の恋』。『千年の恋~光源氏物語』と間違えそうな意味不明のタイトルは、単に2000年1月からスタート(いわゆる月9枠)したからだが、その内容たるや、前年に韓国で大ヒットした『シュリ』をそのままアレンジしたようなハードボイルドなプロットだった。
 主人公は恐怖の独裁国家「ユーラル共和国」(明らかに北朝鮮のパロディ)の工作員・金城武と、外務省のシステムに関わっていたことから金城武に工作をかけられることになるソフトウェア会社システムエンジニア中山美穂だ。金城武は、アメリカへの亡命を希望して警視庁の保護下にある実父の化学研究所所長を暗殺する任務で日本にやって来た、という設定になっている。
 父親役にジョニー吉長、ユーラル共和国の女工作員にフェイレイ、金城武を追う警視庁公安部外事二課係長に宮沢和史(ヒット曲『島唄』があるザ・ブームのボーカル)と、ミュージシャンが多数出演しているのも特徴だが、せっかくの彼らの存在感を活かせないほど金城武と中山美穂にだけ焦点があてられた「危機の下のラブストーリー」になっている。金城武は実弟と実父を殺害するほどのクールなヒットマンだったのが、中山美穂と出会うなかでだんだん“いい人”になっていくところが物語の主軸である。
 本作品のいちばんの特徴は、宮沢和史を起用したことからもわかるように、警視庁公安部がそれなりにスタイリッシュに描かれている点だろう。日本の警察ドラマはほぼすべてがいわゆる「刑事モノ」であり、公安部がこのような描かれ方をしたものは他にあまりない。『踊る大捜査線』『アンフェア』『相棒』など、刑事を主人公とするドラマに公安部が登場するシーンがあるが、その場合は必ず「謀略集団」というステレオタイプな役回りになっている。
 警視庁のなかには、刑事部しかいないわけではない。むしろ公安部のほうが伝統的に格上の筆頭部局ですらあるのだが、日本のエンターメインメントのなかでは圧倒的に刑事主流になっている。TVドラマが公安部を謀略集団と描くということは、視聴者である日本国民が公安部を〝謀略集団〟視しているということでもある。
 テレビの国際謀略モノとしては、その他にも『冬のソナタ』で日本でも大人気となった韓国女優チェ・ジウが出演した『輪舞曲』(2006年1月クール)がある。本来ならファミリードラマ枠であるはずのTBS日曜劇場枠である。
 主人公は、警察官の竹之内豊。国際犯罪組織「神狗」(シェンクー)に潜入しているという設定になっている。主人公の潜入捜査官が自分のアイデンティティに悩んでいく展開は、大ヒットした香港映画『インファナル・アフェア』(トニー・レオン、アンディ・ラウ主演)に非常に似ている。
 実は竹之内豊は、幼い日に警察官だった父親を神狗に殺害されており、その仇を討つことを心に誓っている。ところがあるとき、日本で行方不明になった父親を探すために日本に移り住んだチェ・ジウと出会う……という設定だが、話はだんだんと「私たちの本当の父親は誰?」といったTBS伝統の「赤い~」シリーズのような展開になっていく。
 ちなみに、神狗のボスを杉浦直樹、その二代目を速水もこみち、婦人警察官を木村佳乃、黒幕的な神狗幹部を橋爪功が演じている。キャストはたしかに日曜劇場ぽいといえる。
 潜入捜査はアメリカ映画にはもともと多い。実在の元FBI潜入捜査官の手記を原作にした『フェイク』(97年/アル・パチーノ、ジョニー・デップ主演)やこれも主人公が麻薬組織に潜入する『マイアミ・バイス』(2006年/コリン・ファレル、ジェイミー・フォックス主演)といった作品もあるし、『24』でも主人公がテロ組織に潜入して犯罪行為に堂々と手を染めたりする。
 こうしたアメリカ作品にそれなりにリアリティがあるのは、実際に潜入捜査やオトリ捜査が日常的に行なわれているからでもある。それに比べて、日本ではやはり竹之内豊が国際マフィアに潜入するという設定自体があまりにもマンガチックに見えてしまうのはしかたがないのだろう。
 架空のポリティカル&ミリタリー・アクションで情報機関が登場する作品には、『亡国のイージス』(2005年)がある。福井晴敏氏のベストセラー小説の映画化である。
 物語は某国(北朝鮮がモデル)の工作班が海上自衛隊のイージス艦を乗っ取り、特殊兵器で日本政府を脅迫するという設定だが、その陰謀に対処するのが、防衛庁の架空の情報機関「防衛庁情報局」(DAIS)ということになっている。
 実在の防衛庁には情報本部をはじめいくつかの情報機関があるが、こうしたハードボイルドな実戦に立ち向かえるような組織は残念ながら、ない。非常によくできたストーリーだが、設定自体はテロリスト側も日本側もリアリティという面ではあまり参考にならない。
 なお、DAISで事態を取り仕切るのが、内事本部長の佐藤浩市。他に内閣情報官が岸部一徳である。

 ところで、時代を遡ると、スパイ物というよりは刑事物だが、国際犯罪絡みのネタがしばしば登場した名作があった。60年代後半から80年代前半まで続いた『キーハンター』『Gメン75』などの一連のTBS=東映作品である。なかでも『Gメン75』は、次回予告ナレーションで〝ハードボイルド〟という用語を日本国民に広めた功績を忘れてはならない。
『キーハンター』は国際警察特別室、『Gメン75』は警察庁特別潜入捜査班といういずれも架空の組織が国際犯罪に挑むという設定だが、なかでも『Gメン75』はしばしば香港マフィアと戦っている。倉田保昭が香港のムキムキ殺し屋と空手で戦うシーンは定番だ。
 ところが、じつは邦画にも『Gメン75』香港ロケ版をさらに飛躍させたような、突き抜けた作品があった。『国際秘密警察』シリーズである。
 これは、『キーハンター』よりも前の1960年代半ばに東宝が007の和製アレンジとして制作した5作のシリーズで、主演は三橋達也演じる国際秘密警察諜報部(本部はパリ)の捜査官である。こちらはリアリティや整合性などまったく無関係に、そのまんまジェームズ・ボンドばりの活躍を繰りひろげている。秘密兵器やボンドガール(?)もふんだんに登場する。
 日本の各映画会社はこの頃、「東宝アクション」「日活アクション」などと銘打った奇想天外な作品群を制作していて、『国際秘密警察』も東宝アクションのラインアップのひとつだった。東宝アクションにはその他にも、超能力者組織の活躍を描いた小松左京原作の『エスパイ』、ドタバタ国際スパイ・コメディ『100発100中』シリーズ(主役は宝田明演じるアンドリュー星野)などもある。
 この『国際秘密警察』シリーズも設定が奔放な作品だったが、その雰囲気を受け継いだのが、実写版の『ゴルゴ13』だ。実写版『ゴルゴ13』には73年制作の高倉健主演作と77年制作の千葉真一主演作があるのだが、なかでも千葉真一バージョンは香港B級アクション映画ふうでまったく肩の凝らない作りになっている。
 このあたりの一連の作品は、もともと現実世界とはあまり接点のない、文字通りの劇画の世界を目指したということなのだろう。逆にいえば、戦後ニッポンでは、日本を舞台に情報機関が本気の勝負をするような局面が現実社会になかったため、どうやったところでリアリティは担保できなかったということにもなる。むしろ政財界や闇社会の地下人脈をベースにした『日本の首領』や『仁義なき戦い』などのほうが、映画としてもリアリティがあったといえる。
(以下、金大中事件を題材にした『KT』についての記述ですが、陸幕2部別班関連で当ブログで既述なので省略します)
 
 現代モノのスパイ・アクションはどうしても邦画では限界があるが、戦中・戦前の日本、つまり日本がバリバリの国際謀略戦の第一線にいた時代を舞台にすれば、邦画でもまだまだ史実をモチーフにした物語を撮ることができる。
 その筆頭が、篠田正浩監督が自らライフワークと公言して制作した『スパイ・ゾルゲ』(2003年)だろう。ゾルゲとは、言わずと知れた戦前・戦中のソ連のスパイだが、こうしたスパイという存在が東京に潜み、壮大なエスピオナージを展開していたなどというのは、やはりこの時代ならではのことだ。日本人キャストは尾崎秀実(ゾルゲの情報源の朝日新聞記者)を本木雅弘、特高警察官を上川隆也が演じている。近衛文麿夫人役で篠田監督夫人の岩下志麻も出演している。
 その他、大戦中の日本側軍人の情報活動を描いた映画としては、『アナザー・ウエイ~D機関情報』(88年)もある。西村京太郎の小説『D機関情報』の映画化だが、これも実話が基になっている。
 D機関とはダレス機関のことで、これはCIAの前身であるOSS(戦略事務局)が第2次世界大戦中に欧州で運営していたアメリカの諜報機関のことである。その統括者が後にCIA長官になるアレン・ダレスだったため、ダレス機関と呼ばれたわけだ。
『アナザー・ウェイ』は、原爆の材料であるウランの買い付けにスイスに派遣された海軍中佐(役所広司)が、ダレス機関と極秘に接触して日米和平工作に乗り出していくというストーリーになっている。役所広司をダレス機関に繋ぐ元駐スイス駐在武官に永島敏行という配役である。
 映画『アナザー・ウェイ』の原作となった小説『D機関情報』には、ネタ元がある。元海軍中佐・藤村義朗氏が51年に『文藝春秋』に発表した手記である。映画のうえでは別の名前になっているが、主人公の海軍中佐はこの藤村氏のことだ。
 もっとも、藤村手記によると、彼は駐ドイツ駐在武官だったが、ベルリン陥落が近くなったためにスイスの日本大使館武官室に移り、そこでOSSと接触して和平工作を持ちかけられたということである。西村京太郎はその設定を一部アレンジしているわけだが、いずれにせよ在スイス日本大使館武官室がアメリカ側と秘密の和平交渉を進めたものの、大本営ではまったく相手にされずに黙殺されたのは史実である。
 旧軍の特務機関員を主人公にした邦画には、60年代に市川雷蔵主演で5本が制作された『陸軍中野学校』シリーズも有名だ。雷蔵は中野学校一期生で、数々の謀略戦で大活躍するという筋立てである。もちろん実在の中野学校も本格的なスパイ養成機関で、その出身者は南方や大陸で実際にさまざまな謀略戦を戦ってきたことはよく知られている。
(以下、前エントリーで書いた『ポーツマスの旗』の明石工作についての記述なので省略します)
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  1. 2009/11/16(月) 10:00:12|
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『坂の上の雲』と明石元二郎

 話題のNHKスペシャルドラマ『坂の上の雲』がもうじき始まりますが、数日前に発売された『21世紀「坂の上の雲」読本』(洋泉社ムック)に、「明石元二郎は何をしたのか? 謀略の日露戦争~明石工作の虚像と実像」という記事を寄稿しました(→アマゾン
 明石大佐は、ヨーロッパでロシア反政府勢力に反乱資金を流すという謀略工作で有名ですが、近年わかってきたところによると、ロシア秘密情報部にがっちりマークされていて、それほど実績は上げていなかったようです。
 なお、同ムックは往年のA5版・別冊宝島の体裁で、しっかりとした読み物記事で構成されており、他の執筆者の方々の記事もたいへん面白いものが多かったです。なかでも、フリーライター赤木智弘さんの「無作法な『坂の上の雲』を翼賛する人々」という記事が面白かったですね。『坂の上の雲』はフィクションなのに、それで「明治の日本人は偉かった!」と短絡するノリを痛烈に批判しています。確かにそのとおりですよね。いやあ、まさに私のことです。反省です。
 なお、私は前述したように明石元二郎について解説記事を書いたのですが、今のところNHKのサイトでは、明石役俳優が決まっていないようです。というか、明石工作は『坂の上の雲』ではサイドストーリーなので、もしかしたらバッサリ省略されてしまう可能性もありそうです。
 
 ところで、旧陸軍の元祖スパイ・マスターとして〝歴史通〟にはたいへん有名な明石元二郎ですが、じつは日露戦争モノの映画やドラマなどのフィクション作品では、これまでそれほど登場してきませんでした。波乱万丈のストーリーを描くなら、まさに格好の人物であるのに、不思議なことです。
 そんな数少ない登場作品を探してみると、以下の3作品がありました。制作された順に『日本海大海戦』(1969年/東宝)、『ポーツマスの旗』(1981年/NHK)、『日出づる国の密使/明石元二郎とコンニ・シリアクス』(1992年/RKB毎日放送)。明石役は順に仲代達矢、原田芳雄、夏八木勲です。このうち、私の記憶に強烈に残っているのは、原田芳雄版の明石大佐ですね。
『ポーツマスの旗』は同名の吉村昭の小説をドラマ化したもので、NHKではドラマスペシャル枠の連続ドラマとして放映されました。本筋は小村寿太郎外務大臣(石坂浩二)を主人公に、ロシアとの講和交渉の裏側を描くというストーリーなのですが、当時高校生だった筆者には、石坂浩二の登場シーンよりも、サイドストーリーとしてパラレルに挿入されていた原田芳雄の登場シーンが強く印象に残っています。それというのも、原田芳雄の当時のヘアスタイルが、明治時代の帝国軍人にはあり得ない〝肩下まであるソバージュの超ロン毛!〟だったからです。
 テレビ版『ポーツマスの旗』では、ロン毛の明石大佐が文字通りに髪を振り乱し、ロシア秘密情報部と壮絶なバトルを繰り広げていました。なぜか逆境の日本人女性ナターシャ(秋吉久美子)なんかも登場し、その窮地を原田芳雄が救います。たったひとりで、まさに鬼神のような大活躍なんですね。
 私はいわゆる〝戦争もの〟や〝スパイもの〟の作品を山のように視てきましたが、この原田芳雄版の明石大佐は、キャラ立ちという点では圧倒的です。仮に今度の『坂の上の雲』で明石が登場するとしても、誰が明石役をやってもロン毛大佐の存在感にはとうてい太刀打ちできないでしょう。
 ところで、このテレビ版『ポーツマスの旗』はちょっと前に衛星チャンネルで再放送していましたが、いま視直してみても面白かったですね。石坂浩二のメイン・ストーリーは凡庸なんですが、サイドストーリーがよく出来ているのです。
 原田芳雄と秋吉久美子の奇想天外なスパイ物語だけではありません。なぜか薄幸の日系移民の娘としてツッパリ女優・三原順子が登場するのですが、その三原を助けるのが、当時まだ無名に近い存在だった佐藤浩市。彼は当時まだ実年齢が20歳そこそこで、どう見ても〝小僧〟なのですが、ストーリー上の役はなんと『ニューヨーク・タイムズ』紙の特派記者です。どう考えても無理のある配役なのですが、佐藤浩市にしろ三原順子にしろ、なんとも言えない不思議な存在感があり、それが妙な魅力を作品に与えています。
 ちなみに、『ポーツマスの旗』で主役の小村寿太郎役を演じた石坂浩二は、『坂の上の雲』では帝国海軍の大ボス=山本権兵衛役だそうです。他方、その小村外相役は怪優・竹中直人ということで、これも楽しみですね。

 ところで、NHKドラマといえば、私の雑誌記者時代の大先輩でもある麻生幾さんが原作を書いた同局土曜ドラマ『外事警察』が明日夜より放送されます。私もほんの少しですが、テロ対策とかに関して制作の方にアドバイスしました。といっても、麻生さんがいるわけですから、私なんぞの出る幕はほとんどなかったですが。
  1. 2009/11/13(金) 18:39:15|
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普天間問題その2

 普天間問題に関して、沖縄の世論とか、日本の安全保障の問題とかについてもいろいろ議論されていますが、この問題はそういうことよりも、前前エントリーに書いたように、「対米交渉」が本質だと思います。返して欲しいけれども、アメリカ様が出ていってくれない。どうしたら出て行ってくれるのか・・・・・・まるで占有屋対策ですね。
 占有屋には、「カネ積んでウラで解決する」か、「あくまで法律に則って戦う」か、あるいは「カネでより大手のヤクザに処理してもらう」かですが、この場合はどの道が有効なのでしょうか。世界最強のアメリカを相手に、後者は無理ですね。2番目がいちばんいいとは思うのですが、この場合、本気で「戦う」姿勢が必要です。誠意で話し合おうなんて態度では、占有屋は出て行きません。で、なんだかんだ言って前者が現実的ですが、問題は「それでいいのか!」というところですね。
 明治期の不平等条約改正は結局、半世紀近くかかりましたが、当時はロシアvsイギリスなどのように列強同士の対立があり、それを利用することがある程度は可能でした。現在の対米交渉にはそういうものはありません。正面から交渉することしか出来ないわけです。
 
 私はかつて『日本の防衛7つの論点』(宝島社)という本を執筆したときに、元外務官僚で、官房長官・自民党幹事長として対米交渉経験も豊富な加藤紘一議員にインタビューしました。そこで加藤議員は、こんなことを言っていました。
「ある一点以上のことをアメリカに要求されると、そのときにはタテマエを使ったんですよ。それが憲法9条であり、社会党の存在ということだったんです」
 強いアメリカにひたすら追随して国家安全保障を享受するが、なるべく責任と負担を負わないように曖昧な態度で逃げまくるーーこれが戦後ニッポンの基本的な「生き方」だったということなのでしょう。番長の影に隠れながら、喧嘩になると逃げ隠れするヤツってところでしょうか。
 普天間問題で、社民党の存在を対米カードに使えないものでしょうか。タテマエとしてはアリなんだと思うのですが。

 一方、前エントリーで触れたアフガン支援問題では、社民党が小沢民主党に利用された感じですね。
 アフガンISAFに人を出せというのが小沢氏の持論で、ホンネでは自衛隊派遣ということなのでしょうが、それをやろうとすると寄り合い所帯である民主党内がゴタゴタすることが必至。しかもそれで死者でも出たら、マスコミ・世論のバッシング集中砲火を浴びることになります。参院選挙にも悪影響が出ることでしょう。
 ところが、連立与党に社民党がいたことで、小切手外交の責任をそっちに転嫁することができます。内向きの話ばかりで、そんなことばかりやっていてもなあ・・・という気もしますが。

 私の意見は、たとえ自衛官の戦死者が出ても(勇ましい右系の人も、ここゴマかさないでいただきたいですよね)、世界の治安維持活動に参加すべきというものです。
 現実に日々殺されている人がいて、放置するとそんな人殺しがますますのさばっていくという状況があります。今は欧米諸国が主に火の粉をかぶっていて、アフガンで人殺しが増殖しても日本に直接の被害はないかもしれませんが、世界の治安維持に参加するというのは、命懸けで取り組むに値する仕事ではないかと思います。日本が死活的な危機に陥っている状況でないので、「国益のために頼む」と言っても危険地帯に送り込まれる人にはピンと来ないかもしませんが、事実上の世界警察活動とあれば、納得できる人もいるのではないでしょうか。
 こう考えると、自衛隊派遣というのはけっこう人道主義な話だと思うのですが、人道主義を自認する方々がそれに反対というのも、よくわからない話です。対テロ戦を私は世界警察活動的に考えている(その意味で、評判のものすごく悪い、かの「ネオコン」に近かったりするんですけど)わけですが、左系の人は「米帝による侵略」とか考えているのかもしれません。外国軍がアフガンから引き揚げたら現地の人が幸福になるとも思えないのですが。

 アフガン支援問題でもうひとつ付け加えると、カネで済まそうという姿勢は問題ですが、そのカネを日本はあまりに安易に外国に渡しすぎているという気もします。日本人は金持ちだと当の私たち自身が考えているようですが、日本人は世界標準では、そんなに金持ちじゃあないと思います。
 たしかに外貨ベースでの日本人の所得は世界有数で、自動車や電化製品などの所有レベルも世界トップクラスですが、なんたって住環境が劣悪です。東京の賃貸アパートに住む独居老人とか、派遣労働者とかの暮らしは、少なくとも中産階級の外国人からみれば「可哀想」なほどの慎ましさだと思います。40平米の2Kマンションとかに家族4人で暮らすなんてパターンも、世界標準では明らかに「可哀想」な話です。物価・生活費も違いますから、欧米以外なら月収5~7万円くらいでもっと優雅に暮らしている人なんて大勢います。
 アフガン級の最貧国の場合はまた少し事情が違いますが、そこそこ中流層がいるような国にもけっこう日本から援助とかいってます。国連分担金なんかもそうですが、日本人ばかりカネを上納させられています。不況でカネ絡みの自殺者も後を絶たないなか、これもおかしな話です。少なくとも「思いやり予算」「米国債引受」「ODA]なんかは真っ先にばっさり減額すべきと思います。
  1. 2009/11/12(木) 09:21:42|
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民主党政権のアフガン小切手外交?

 政策担当者の方々はいろいろご苦労されているのでしょうし、その現場事情も知らずに文句を言うのは申し訳ないのですが、今回の民主党政権の決断はいかがなものかと、(小額)納税者としては思います。
総額優先、具体策固まらず アフガン支援に50億ドル 朝日新聞
アフガン支援策 「小切手外交」に戻るのか  読売新聞

「人を殺したりして手を汚したくない」「日本人の生命だけは守りたい」ということで巨額のカネを出して済まそうというのは、国益云々をさておいても、人としていかがなものでしょう。世界中の国が兵隊を出し、尊い生命の犠牲を払いながら対タリバン戦や治安回復活動をやってます。米英だけではありません。世界の主要国として、日本も自衛隊を投入するのが筋ではないでしょうか。
 もっとも、インド洋給油などというのも、小切手外交と似たようなものではないかと思います。あれだけなら、べつに民間船でもできますし、なんなら石油代だけ出しても他の国は文句は言いますまい。対テロ戦に参加している他の国からすると、仲間というのは、危ない任務にも参加している国ということでしょう。要するに、日本の兵隊も何人か死ぬくらいが、現在の対テロ戦の現状からすると、当然であるわけです。
 小切手外交を批判し、軍事的な国際貢献を主張する方々も、そこの部分は誰もちゃんと言いません。日本国民に「死んでね」なんて言いづらいからです。
「カネだけでなく、汗も流すべきだ」とかよく聞きます。戦場では、汗を流すということは、血を流すということとほとんど同じです。つまり「死んでね」ということです。たいへんなことを言っているように思われるかもしれませんが、世界の多くの国では政府がきっちりと、国民である兵隊に対して「死んでね」と言ってます。
 ISAFの10月22日時点の資料では、アフガ二スタンではISAFだけで43カ国の71030人の要員が参加しています。圧倒的に欧米諸国と英連邦の国が多いですね。遠方のアフリカや中南米はいいとして、アジアがものすごく少ないです。中東の国を除くと、シンガポール9人しかいません。
 その他、いわゆる「不朽の自由作戦=アフガ二スタン」(OEF-A)の陸上作戦に約20カ国が参加しています。OEFとISAFを合わせ、11月7日現在、これまで1443人が死亡しています。アメリカ844人、イギリス230人、カナダ132人がダントツです。4位以下は、ドイツ39人、フランス36人、デンマーク28人、スペイン26人、イタリア22人、オランダ21人などです。日本の国力や立ち位置から考えると、最低でもこの4位以下クラスの犠牲者数が、国際戦死者バランス(?)としては妥当な線かと思われます。
 1人や2人じゃないです。20~40人の自衛官が無惨に戦死してはじめて「普通の国」の仲間入りです。なんて非常識なことを書くんだと思われる方もいらっしゃるでしょうが、すでに何十人も死んでいるような国からみれば、そんなものです。
 もちろんアフガン関連で米英や他の派兵国すべてがキレイゴトだけで動いているわけではないかもしれませんし(ウラ情報は知りませんが)、広い意味でのいわゆる国益の観点も否定しません。けれども、現状、アフガンで現地の人も外国人も日々たくさんの人が殺されているとき、カネで済まそうというだけで本当にいいのかなあなどと、日本人の末端として思うわけです。私は自衛官でないので、他人事といえばそうなのですが。
  1. 2009/11/11(水) 13:05:17|
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普天間飛行場問題についての私見

 久々の更新ですが、今回はちょっとオピニオンぽいことを書いてみます。

 オバマ訪日を前に、普天間問題が大きく注目されています。で、日米同盟に関してさまざまな考えがメディアでは飛び交っているのですが、それらを視ていても、よくわからないことがあります。
 問題は日米同盟の是非とか、在日米軍の意味とか、そういうことなのでしょうか? アメリカはなにも好意から日米安保をやっているわけではありません。自国の国益にプラスだからそれを選択しているわけです。冷戦時代、世界中でソ連と熾烈な影響圏争奪バトルをしていたアメリカは、日本を対ソ防波堤とすることが国家戦略上、死活的に重要だったということですね。
 安保条約の片務性を問題視する意見が多いですが、アメリカの国益という観点からすると、リアルな話ではあまり関係ない気がします。日米安保条約の本質は「基地提供」条約だと思います。
 では、安保によって得をしたのはどちらか? 在日米軍の起源は事実上「戦勝国による戦敗国への命令」ですが、冷戦中は日本側もそれで安全保障という利益を享受していたので、どちらが得をしたかは、簡単には結論づけられません。
 ですが、ここで無理やり「アメリカ側のコストである日本・極東の安全保障」と「日本側のコストである基地提供」がイーブンだったと仮定しましょう。これは誰にも計測不能ですが、ここでは仮に等価交換だったと理論上考えてみます。そうでないと、もとからこの条約は不平等条約だったということになります。
(この点、「安保によって日本はアメリカに一方的に守ってもらっているだけ」と考えている人が多いようですが、基地提供はその代価としては充分すぎるコスト負担です)

 で、私が不思議なのは、このコスト負担バランスにおいて、冷戦終結という基礎前提変更がなぜほとんど反映されていないのか?ということです。「日本・極東の安全保障」にとって、ソ連の崩壊というのは、もう天地がひっくり返るほどの大地殻変動です。ソ連が崩壊したということは、「日本・極東の安全保障」を提供するというアメリカ側のコスト負担が劇的に軽減したことを意味します。
 ここで北朝鮮・中国の脅威を引き合いに、極東はいまだ冷戦構造にあるとの論理も聞きますが、それに対処するコストはまったくレベルが違います。北朝鮮と中国の軍事的脅威は、ソ連軍とは比べものにならないくらい小さいものです。「日本・極東の安全保障」を提供するというアメリカの負担は、相対的に大幅に小さくなっています。
 それと、日本側のコスト負担バランスを考えたとき、「日本・極東の安全保障」の意味も大きく変化しました。たとえば北朝鮮・中国(ロシアも)はソ連と違って、本質的に日本侵略を戦略目標としていません。いまや「日本の安全保障」の比率が相対的に劇的に低下し、「極東の安全保障」がメインになっています。日米安保は「日本・極東の安全保障」が戦略目標ですが、日本にとっては当然ながら「日本の安全保障」が主で「極東の安全保障」は従にすぎません。朝鮮半島有事や台湾海峡危機に知らん振りしろというわけにはいきませんが、日本はサブ・プレイヤーにすぎず、そのコスト負担はそれに応じて低減するのは当然のことではないでしょうか。
 この日本側のコスト負担こそが、基地提供にほかなりません。日本は日本防衛という死活的な戦略に対して、泣く泣く貴重な国土を差し出しましたが、脇役となった現在、コスト負担は何かもっと違うかたちでも充分なのではないでしょうか。
 ところが、冷戦終結後も基地返還はきわめて限定されたものに留まっています。なぜか? アメリカの既得権益だからです。
 冷戦終結後、在欧米軍などはかなり縮小しました。費用対効果で費用過多になったからです。ところが、在日米軍は日本側が運営費用まで出してくれるので、米軍とすれば非常に安上がりですから、ずっと持っておきたいのは当然のことです。
 それは日本列島、とくに沖縄はアメリカの軍事戦略にとってきわめて重要な場所にあることは事実ですが、アメリカの軍事戦略はアメリカの都合であって、日本国民がその犠牲になる筋合いのものではありません。日本は自国の国益に合致する範囲で負担するだけの話でいいはずです。
 が、いまや日米のコスト負担バランスが、日本側の一方的過多になっちゃっています。これも計量化は不可能ですが、感覚的にはたとえば10対1くらいになっているのではないでしょうか(もちろん根拠のある数字じゃありませんが)。
 ですので、日本の防衛のために在日米軍が必要ということはいいとしても、問題はその規模ということではないかなと思うのです。

 で、日本がやるべき対米外交は、この不平等協定の是正ではないかと思うのです。なんだか明治初期の不平等条約解消交渉みたいですが、それこそが普天間問題の本質ではないかと思うのですね。
 実際のところ、たとえば沖縄の米軍基地などでは、もうほとんど使っていないようなところもあります。いざというときに使えるようにということですが、そのときは自衛隊基地も民間空港・港湾も使えますし、それは全部やめなくてもいいかもしれませんが、かなり撤収できるのではないかと思います。
 ですが、今の報道からさっぱりわからないのは、「なぜアメリカと、主権国家として当然のバーゲニング交渉ができないのか?」ということです。
「沖縄の海兵隊主力をグアムに移転してもいいけど、その費用は日本国民が出せ!」なんておかしくないでしょうか。普天間を含む米軍再編すべてがそうですが、すべて「アメリカが損しないならいいよ」というスタンスです。コストは両国が負担すべきで、日本側はすでに負担過多です。アメリカ負担が圧倒的に少ないというのはおかしな話です。
 自民党政権も民主党政権もこの点、やっていることは同じ対米バーゲニング交渉で、いずれもアメリカ側に要請して断られるという構図です。民主党は当初、主権国家としてアメリカに強く出るはずが、実際に政権を担当したら、そうもいかない現実に直面したのでしょう。
 そこで疑問なのは、主権を持つ日本政府が何もできないのはなぜなのか?ということなのですが、そこがまったくわかりません。普天間飛行場は危険だから閉鎖することを決めるのは、国民の安全を担う日本政府の当然の責務で、アメリカは主権国に従うべき筋の問題ですが、なぜそれが出来ないのか? 代替の方策は日本側でなく、アメリカ側が模索するのが筋で、アメリカ側から提案があれば、それを検討してあげてもいいというのが日本政府の本来の立場ではないのか。
 もしかして、アメリカがまさか日米安保破棄でもチラつかせているのでしょうか?
 米軍に強いことを言うと、信頼関係を損なう→日米安保が崩壊する、との意見もありますが、アメリカはコスト負担バランスが米側有利なうちは日米同盟を破棄しないでしょう。仮に現在、1対10で丸儲け状態のところを、1対1・5くらいにバーゲニングしても、まだ国益に有利なうちは立場を変えるはずもありません。

 ただし、日本・極東の安全を超えた部分が今、じつは重要になってきています。そこが普天間問題であまり触れられていないように思います。つまり、対テロ戦です。
 日本はアメリカの対テロ戦にたいして参加していませんので、その弱みがあります。申し訳程度に参加してますが、あれだけ米英はじめ各国の兵士が死んでいっているなかで、1人の戦死者もなく、1人も殺していないような国は、何もしていないのと同じようなものです。そこがアメリカからすると、「基地くらい出せよ」ということになるのかもしれません。
 ですが、対テロ戦への参戦は、日米安保の基地提供とは別枠として進めるのが筋ではないかと思います。
 いずれにせよ、日本政府はなぜかアメリカの既得権益に手をつけることが、主権国家なのにまったくできないという構造が歴然としてあります。そのリアルな交渉現場の事情を詳しく知りたいところです。
  1. 2009/11/07(土) 12:00:45|
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プロフィール

黒井文太郎

Author:黒井文太郎
 63年生まれ。『軍事研究』記者、『ワールド・インテリジェンス』編集長などを経て、現在は軍事ジャーナリスト。専門は各国情報機関の最新動向、国際テロ(とくにイスラム過激派)、日本の防衛・安全保障、中東情勢、北朝鮮情勢、その他の国際紛争、旧軍特務機関など。

 著書『ビンラディン抹殺指令』『アルカイダの全貌』『イスラムのテロリスト』『世界のテロと組織犯罪』『インテリジェンスの極意』『北朝鮮に備える軍事学』『紛争勃発』『日本の情報機関』『日本の防衛7つの論点』、編共著・企画制作『生物兵器テロ』『自衛隊戦略白書』『インテリジェンス戦争~対テロ時代の最新動向』『公安アンダーワールド』、劇画原作『実録・陸軍中野学校』『満州特務機関』等々。

 ニューヨーク、モスクワ、カイロに居住経験あり。紛争地域を中心に約70カ国を訪問し、約30カ国を取材している。




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