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ワールド&インテリジェンス

ジャーナリスト・黒井文太郎のブログ/国際情勢、インテリジェンス関連、外交・安全保障、その他の雑感・・・(※諸般の事情により現在コメント表示は停止中です)

写真館その1(自衛隊演習)

以前ちょっと書いたことがありますが、私はかつて「自称カメラマン」をしておりました。結局、モノにはなりませんでしたが、それなりにあちこち撮り歩いておりました。スパイ&テロとは関係ありませんが、順次ここに収納していこうと思います。単なる自己満足ですが、お許しください。
 まず第1回目は、陸上自衛隊の対ゲリコマ部隊として有名な西部方面普通科連隊の演習です。撮影は2007年10月。『ワールド・インテリジェンス』⑨の巻頭グラビアに掲載した写真です。

 演習の想定は、先遣隊海路潜入→山地行軍→安全地帯の確保→ヘリ誘導→本隊ヘリボーン→索敵・攻撃という流れです。

①まずは先遣隊が海路潜入>(沖合いのボートから泳ぐのですが、某「大人の事情」によりボートの撮影が許可されませんでした)

1-11.gif


②すばやく上陸

すばやく上陸

③警戒フォーメーション

警戒フォーメーション

④山地行軍

山中を行軍

⑤安全確保しつつ進む

安全を確認しながら進む


⑥輸送ヘリを誘導

ヘリを誘導


⑦りぺリング降下

りぺリング降下

⑧本隊ヘリボーン(取材はここまででした)

本隊到着(取材はここまででした)

私はずっと従軍したわけではなく、ポイントごとの撮影でしたが、隊員はかなりたいへんです。銃をかかえての遠泳。上陸後ずぶ濡れのまま徹夜の行軍。りぺりングもあれだけ荷物があると難しいらしく、途中でひっくり返って止まってしまう人も結構いました。
じつはこのときのヘリボーンで、隊員のひとりが過呼吸を引き起こして倒れるという場面もありました。初めて知りましたが、紙袋を口に当てるのが良いそうです。ただし、そういう応急措置をわかっている隊員はそう多くありません。実戦ではこういったケースも頻発すると思われるので、現場で教えていくことは大事ですね。
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  1. 2009/04/19(日) 10:01:58|
  2. 写真館
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核ノドンの標的になった場合のシミュレーションを

 ここのところの金正日ですが、敵ながらちょっとさすがに痛々しいですね。いよいよああなってくると、本人も「自分の死後」を切実に考えているのでしょう。
 で、思うのですが、金正日は自らの死を意識したとき、まず何を考えたでしょうか?
 息子への世襲? 普通の独裁国のトップならばそうなりますけど、あの人の場合、ちょっと違うのではないでしょうか。あの人は自分=国家ですから、父・金日成から受け継いだ共和国をどう生き残らせることができるかという観点で考えるのではないかという気がします。
 自分の死後、後継体制がどうなるかに関わらず、権力の指導力低下は避けられません。そんな祖国の将来にとって、脅威はなんといってもアメリカ軍です。つまり、金正日はおそらく、自分の死後、祖国がアメリカの攻撃で滅ぼされることをなんとか回避したいと願っているのではないか。父が作った共和国の存続を永遠のものとしたいと願っているのではないか。そんなふうに思うわけです。
 といっても、金正日の頭には、中国の改革開放のよう選択肢は入ってないでしょう。主体思想=金日成主義の敗北になるからですね。
 そうなると、金正日が頼るものは軍事力しかありません。軍事でいえば、アメリカの攻撃を防ぐ唯一の手段が「アメリカ本土に届く核ミサイル」ということになります。北朝鮮指導部では、核ミサイル武装は父・金日成の代からの悲願であり、父を受け継ぐ金正日の悲願でもあります。彼らは二代にわたって核ミサイル開発に邁進してきており、そこにはまったくブレはありません。
 けれども、今回のテポドン実験で露呈したとおり、実際のところ長距離ロケットは技術的にまだまだ難しいものがあります。北は旧ソ連製のロケットを研究し、その技術を応用してここまでこぎつけましたが、ICBMクラスになると、そういった応用技術だけではなかなか難しいものがあります。今後も開発は進めるでしょうが、長期戦の構えですね。
 では核はどうか? 基本的な装置でともかく起爆できるところまでは来ています。あとはその精度を上げることと、小型化することです。これについては、すでにそれなりの時間が経過していますから、理論的にはかなり進んでいる可能性が高いでしょう。
 で、おそらく最終的には、ノドン搭載可能な1トン以下程度の小型核爆弾の実験を実行することになります。ノドン搭載型の実験が目標でしょうが、その前に、それよりははるかに大きい十数トン規模の起爆装置の実験をする可能性も(少しですが)あります。テポドン2の新型の第一ブースターには、精度はともかく、そのくらいの重量を日本まで投射できる能力がありますから、形状を工夫すれば、それを大型弾頭にすることも、まったく不可能ではないからです。軍事的な合理性を考えれば、もうすごそこまで来ているはずのノドン核弾頭開発を優先するはずで、わざわざ使い勝手の悪い大型弾頭(テポドン2の第一ブースターをミサイル化した場合、車載化は無理で、せいぜいサイロからの発射となりますから、軍事的にはどうしても脆弱性が残ります)を開発する可能性は少ないですが、まったくゼロとはいえないでしょう。仮にそれが実現すれば、核ノドンほどの危険性はないものの、それでも日本は核ミサイルの脅威下に入ることになります。

 いずれにせよ、そんなわけで私は、北朝鮮は次は再び核実験を行う(いつになるかはまったくわかりませんが)と見立てています。
 仮に核実験を行った場合でも、国際社会の制裁は受けるでしょうが、軍事的に攻撃を受けるわけではありません。むしろ、これで核ミサイルを手にした北朝鮮の立場は飛躍的に強化されます。日本、そして在日米軍が核ミサイルの射程に入り、いわば人質となるからです。
 現在、六カ国協議脱退とかIAEAの査察官を退去させてプルトニウム製造再開などといった瀬戸際外交をやっていますが、すでにプルトニウムを手にしている北にとっては優先順位は低いので、単なる外交カードかと思います。外務省は6カ国協議最優先の方針ですが、少々ピントがずれているのではないかという気がします。

プルトニウム製造再開→外貨獲得のため売却、の可能性を問題視する声もありますが、核流出は北にとってリスクがメリットをはるかに上回るので、現実的な脅威という感じには見えません。いくら外貨がほしいとはいえ、露呈した場合にアメリカから軍事攻撃を受ける可能性の高い選択を北朝鮮がチョイスするとは思えません。
 体制引き締めのために軍事的な緊張をつくるとか、威信を高めるために核武装をするとかいう見方もありますが、あの国は金正日こそ国家なので、そういうノリとはちょっと違うのではないかなと思います。このへんは、たとえば戦前の日本を思い起こせばわかりやすいかと思います。
 北はとにかくアメリカから攻撃されることが怖いんだと思います。朝鮮戦争の時代から、それを回避するのは核ミサイル武装しかないという信念があるように見えます。

 94年の核危機で米軍が寧辺空爆を検討した際、韓国政府は絶対反対の立場を崩しませんでした。北の長距離砲でソウルが人質になっていたため、戦争はできないのです。
 東京が核ノドンで照準されたら、日本も韓国と同様の立場に立たされます。そんな状態でもしも朝鮮有事が発生したら、日本政府はそれでも米軍支援を行うのかどうか。本当はそのくらいのシミュレーションを政府はしなければならいと思うのですが・・・・・・。
 ミサイル防衛も敵地攻撃力の獲得も、車載化核ノドンが実戦配備されたら、それほどアテにはできません。6カ国協議がどうでもいいとは言いませんが、日本にはもっと重大な問題があるのではないかと思います。

 ところで、自衛隊の件で、もうひとつ。ソマリア関連で、このたびP-3C哨戒機のジブチ派遣が決まりました。これは国際標準で言うと、護衛艦派遣などより格段にポイントが高い参加になります。なんてったって、これで現地の自衛隊員はかなり一目置かれる立場になります。こういう経験はきわめて重要です。ぜひ頑張っていただきたいと思います。
  1. 2009/04/17(金) 16:28:49|
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ソ連スパイ「ナザール」

 かのレフチェンコによって暴露されたKGBスパイ「ナザール」。ミトロヒン文書では「ミーシャ」というコードネームでしたが、この人物かもしれないという情報を入手しました。根拠が非常に希薄なので、本人が特定されない記述の範囲で紹介します。
 レフチェンコ証言およびミトロヒン文書によると、ナザール=ミーシャは外務省の電信官。モスクワの日本大使館勤務時代にKGBのハニートラップに引っかかり、その後、スパイになったようです。日本に帰国した後も、金銭報酬と引き換えに、大量の外務省機密文書・公電をKGB東京支局に提供しつづけたとKGB文書に記録されています。レフチェンコ事件の後、外務省が調査し、本人を特定したようですが、公表していません。事実無根の話だったら、その旨を個人名を秘匿したかたちで公表、もしくはリークするはずですから、ナザールが実在したのはおそらく間違いないと思われます。レフチェンコ事件当時に警視庁がかなり突っ込んだ捜査をしたようですが、結局は立件を断念しています。公務員の守秘義務違反は違法行為ですから、不起訴の理由はわかりません。日本政府、おそらく外務省サイドに、何か秘密にしておきたい事情があったものと思われます。
 さて、そんなナザールの正体ですが、「この人かもしれない」という人物は、電信官というよりは、外交官でした。ロシア・東欧関係の専門家です。
 大正時代におそらく満州で生まれています。ハルピン学院を卒業しているので、バリバリのロシア語スペシャリストですね。
 同学院卒業時点はちょうど戦争の真っ只中だったので、徴兵。満州、南方での兵役経験があるようです。戦後、外務省に入省し、ソ連担当となっています。KGBスパイとして活動したのは70年代ということなので、もしこの人物だとすると、もう50代のときですね。ノンキャリとしても、もうヒラという年齢ではありません。レフチェンコ亡命が79年で、それから数年内に日本の公安当局にナザール情報も伝えられているはずですが、その当時はすでに定年退職したか、あるいは定年間際だったものと思われます。
 この人物の名前をインターネット検索すると、ある関東地方の町で少なくとも7~8年くらい前までは存命だったことがわかりました。現在も生きているかどうかはわかりません。電話番号案内によると、本人名での登録はありませんでした。個人情報保護意識が高まってきた今、若い人はほとんど番号案内登録はしませんが、地方在住の高齢者はまだほとんどの人が登録していますから、すでに死亡している可能性が高いと私は考えています。同町内に同姓の登録がありました。珍しい苗字なので、息子かもしれません。今さらな話なので、取材はしていません。
 以上は非常に根拠の薄い話なので、取材したりメディアに発表したりするつもりは今のところありませんが、心に留めておきたいと思っています。

ところで、レフチェンコ事件のときはマスコミも大騒ぎし、エージェント被疑者をずいぶん追い掛け回したりしたものですが、2005年にイギリスで発表された『ミトロヒン文書2』で日本人エージェントの情報が出たときには、マスコミ各社自身がKGBに侵食されていたからか、ほとんど追及はなかったですね。
『ミトロヒン文書2』で新たに判明した日本人エージェントには、たとえば「70年代にリクルートされた駐ソ連防衛駐在官」がいます。KGB側が勝手にエージェントとしてファイルしていただけかもしれませんが、そのへん防衛省では調査したのでしょうか? 70年代に駐ソ防衛駐在官だった人物など人数も限られてますから、人物の特定はそう難しい話ではないですよね。駐ソ防衛駐在官ということは、80~90年代頃には自衛隊トップクラスに出世していた可能性も大ですね。どうなってるのでしょう?

 ちなみに、レフチェンコ情報&ミトロヒン文書については、『戦後秘史インテリジェンス』に詳細な記事を掲載しています。→アマゾン
『ワールド・インテリジェンス』スピンオフの他の2冊もよろしくです(インテリジェンス3部作ということで)
こちら→『インテリジェンス戦争』『インテリジェンスの極意
  1. 2009/04/15(水) 10:08:27|
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元中央調査隊長&陸幕二部別班員インタビュー

 大和書房(だいわ文庫)『戦後秘史インテリジェンス』が発売になりました。→アマゾン。よろしくお願いします。
 また、現在発売中の『週刊新潮』(テポドン記事)にコメントを使っていただきました。
 また、今月10日に発売された『軍事研究』5月号に、「自衛隊情報部隊の誕生と歩み(後編) 元陸自中央調査隊長と元陸幕別班員に聞く」という記事を寄稿しました。
 インタビューに答えていただいたのは、寄村武敏・元中央調査隊長と、坪山晃三・元陸幕二部別班員です。寄村氏は最後の陸軍中野学校生(本校)として終戦を迎え、戦後は陸自の情報畑をおそらく誰よりも長く経験された中国情報分析のスペシャリスト。坪山氏は自衛隊の「影の部隊」として知る人ぞ知る非公然機関「二部別班」のOBです。坪山氏は、かの金大中事件の日本側キーマンとしてもたいへん有名な方ですね。自衛隊情報部隊についてこのお二人に語っていただいたのは、メディアとしてもおそらく初めてのことだと思います。
『軍事研究』では4月号と5月号で計5人の自衛隊情報部隊OBに登場いただきました。センシティブなテーマでしたが、坪山氏が70代、他の方はもう80代になられており、時代も変わってきましたので、そろそろ話してもいいかなという気になられたのかもしれません。
 冷戦期の自衛隊の情報部隊については、あることないこと情報が錯綜し、半ば神話化した話が飛び交っていたわけですが、全部とはいえないまでも、ある程度は実像というものが今回のインタビューで見えてきたように思います。
 なかでも、神話中の神話として噂されていた陸幕二部別班。やっぱり実在していたのですね。今回のインタビューでも元陸幕二部長だった方には話していただけませんでしたが、その他の何人かの方々がその存在を明言。しかも、そのメンバーだった方が登場したわけですので、これで晴れて「神話」も「事実」に昇格しました。もっとも、彼らの証言によればですが、別班はかつて『赤旗』が書いていたような強力な謀略機関ではなく、もっと役割の小さい存在だったようですが(もちろん確認はできていない話ですけど)。
 ただ、そうなるとわからなくなってくるのが、冷戦時代によく噂に上った右翼自衛官グループの話です。田母神元空幕長の周囲にも右寄りな元自衛官の方々がいるようですし、今でもそういう人はいます。安倍晋三元首相が官房副長官の頃にも周囲にその手の人がいたようですが(アパの会長の周囲の人とかなんでしょうね)、それでも現代の右系の人は決して暴力的というわけではありません。田母神氏や彼のシンパも、決してコワモテではないですね。
 ですが、冷戦時代にはものすごくコワモテな右翼自衛官が実際にいました。私もかつて、空挺団の極右自衛官グループなんかの噂を聞いたことがあります。あの頃、左翼政党や左翼メディアものまだまだ強かったので、逆に「勝共運動」というものがそれなりに広い裾野をもっていました。
 あれは右派文化人や自民党議員なんかもいましたが、その他にも公安警察、自衛隊、外務省にもメンバーがいました。それだけならあまりコワくもないのですが、そこには統一教会、笹川良一、児玉誉士夫、矢次一夫といったフィクサーに人脈がモロにつながり、そのネットワークはいわゆる右翼・総会屋・暴力団へも繋がっていました。陰謀論者が言うような大きな影響力はなかったと思いますが、人脈そのものは実在のものです。
 ですが、わからないのが、現役自衛官→元自衛官の右翼活動家→勝共運動の部分です。推測するに、ごく少人数とは思いますが、右翼テロリスト的な思想の人も実際にいたのだろうと思うのです。それが、噂が噂を呼んで神話化された。そういう流れだったのだろうと思うのです。
 関係者は否定していますが、もしかしたら「影の部隊」人脈にそうした部分と接点のあった人もいたかもしれません。そのあたりはまだ話してくれる人が見つかっていません。
 なお、『軍事研究』に掲載した上記の自衛隊情報部隊OBの証言は、紙数の都合でだいぶ短くはしましたが、冒頭に紹介した『戦後秘史インテリジェンス』にも収録しています。 
  1. 2009/04/14(火) 01:53:56|
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テポドンが届かないアメリカの余裕

 先週号の週刊朝日で「テポドンで空騒ぎ!」などとタイトルと打って、「テポドンなんて日本の安全保障には関係ない」などと書いていたら、制裁をめぐってもどうも世界中で日本だけ浮いてしまっているようです。

安保理で日中が全面対立 米同調せず「声明」妥協も

当のアメリカのほうからも、「もう少し冷静になってよ」などと突っ込まれているくらいですが、これで北朝鮮もかなり余裕の姿勢になってきています。

北朝鮮、国連安保理がロケット発射に何らかの措置なら「強硬手段」で応じる=国連特使

アメリカが本気にならないのは、今回のテポドン2の性能を分析して、「こいつらまだ米本土に届く長距離弾はしばらく無理だな」と判断したからかということもあると思います。
テポドン2がどれほど飛んだか、まだ米軍側から情報は出ていませんが、ちらほら漏れ伝わるように、2段目ブースターも切り離されていないなら、たしかにまだまだ「アメリカは遠い」ということになろうかと思います。

もっとも、普通に欧米メディアをウォッチしていれば一目瞭然なことですが、もともと北朝鮮問題に世界は注目していません。欧米社会の注目はなんといっても中東+アフガンですね。メディアの注目度でいえば、ダルフール紛争と同じくらかもしれません。テポドンにも最初からさほど興味がないということなのでしょう。
(それはニュース専門チャンネルで特番組んだり、新聞の一面に載ったりはしましたが、あくまで「その日のニュース」ということだけですね)
日米欧の温度差は地域の違いなので、これはしかたありません。日本だって、2月のイランのサフィール2打ち上げなど誰も気にしていませんでしたからね。こちらのほうが欧米には重要問題なのですが。
日本にとっては全然よくないですが、テポドン問題は、残念ながら今回はこのままフェードアウトしていく気配濃厚です。
  1. 2009/04/08(水) 10:49:08|
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次は核実験か

 先週金曜日、TBS『総力報道!THE NEWS』にコメントを使っていただきました。当ブログでも書いてきたように、ノドンに搭載できるような核弾頭小型化に注目すべきというようなお話をさせていただきました。
 ここ数日、日本のメディアでもこの核弾頭小型化の話が出てきていますが、「パキスタンが核ミサイルを実戦配備しているので、北朝鮮にもその技術が入っている」との言説をちらほら見かけます。ですが、パキスタンと北朝鮮では核爆弾の種類が違うので、ちょっと話が違うように私は考えています。
 先日の拙ブログの繰り返しになりますが、パキスタンは起爆装置の構造が簡単な濃縮ウラン型、北朝鮮は起爆装置技術がたいへん難しいプルトニウム型です。現在の濃縮ウラン型は効率化のためにプルトニウム型と同様の爆縮型を採用しているケースが多いようですが、プルトニウム型では1万分の1秒以下という精密な爆破タイミングが要求されるのに対し、濃縮ウラン型はずっとアバウトでも起爆しますから、そこは起爆装置はまったく別物と考えるべきです。よって、パキスタンが核搭載ガウリ(=ノドン)を実戦配備しているからといって、北朝鮮ノドンがすでに核搭載しているということではありません。パキスタンと北朝鮮の技術交流で怖いのは、北朝鮮が濃縮ウラン製造をこっそりやっているのではないかという疑惑(未確認情報。今のところそれほど根拠のある情報はありません)と、パキスタンがプルトニウム製造に乗り出したという話ですが、今のところ切羽詰った話ではないようです。

 今回のテポドン騒動でのメディア解説で気になったもうひとつは、例の政府筋の「ピストルの弾をピストルで撃ち落とすようなもの」発言に対するバッシングです。軍事専門家の多数は、「そんな認識はもう古い」と仰りますが、私は前にも書いたように、現状のMDの技術を信用していません。「ピストルの弾をピストルで撃ち落とせることもある」ところまで来たことに異存はありませんが、「ピストルの弾を必ず撃ち落とせる」まではまだまだほど遠いと思います。高高度・高速の米偵察衛星をSM3が破壊しましましたが、入念な計算のうえであることは既述しました。「ちょうかい」は失敗していますね。これまでの米軍の実験も、比較的実戦的なものでは成功率はそれほどでもありません。なかなか計算どおりにはいかないということです。
 それと、もうひとつ。テポドン2のブースターの構造について、未確認情報・推定情報がぐじゃぐじゃになって報じられているというのも妙な風景でした。私はテポドンについてはだいたいグローバル・セキュリティの推定図あたりがまあまあ「そう外していないかも」くらいに思っているわけですが、さまざまな推定情報がメディア各社でも錯綜していて、かなり混乱していました。「これは違うんじゃないの」という報道もけっこう多かったように思います。米軍インテリジェンスが(たぶん)入る防衛省の専門家はどう見ているのか気になりますが、意外に「グロセキュを参考」にしていたりして・・・…。

 さて、今後のことにもかかわってくるのですが、外交の専門家の方々が、テポドン発射の狙いについて、「オバマ政権と交渉するため」とか「ミサイルを売るため」とか解説されているところをよく拝見しましたが、それにも少し違和感があります。それらは「従」であって、「主」ではないだろうと思うからです。
 北朝鮮は金日成の時代から、体制生き残りのために核ミサイルの開発を一貫して続けてきました。今後も続けていくことでしょう。非常にわかりやすい、シンプルな話です。
 2006年に北朝鮮はテポドンと核爆発の実験を行ないました。タイミングについて多少は政治的判断もあったでしょうが、大枠でいえば、それが可能な技術水準に至ったから行ったということではないかと私は考えています。で、そのテポドン実験は失敗だったから、それを改善して、今回の発射となったのではないかと。単純な話ですね。衛星は失敗とか報道されていますが、06年の失敗(発射直後の爆発)を払拭し、98年テポドン1の飛距離を大幅に更新したわけですから、まずまず成功といえます。
 で、次ですが、私はいずれ再び核実験をすると見ています。前回の不完全な起爆装置の改善、それに小型化起爆装置の実験も必要になるからです。国際社会から制裁を受けるでしょうが、核ミサイル完成のほうが北朝鮮にとってははるかに重要です。いつやるか?は、これも多少は政治的判断でしょうが、原則的には「技術的に可能になったら」という可能性が高いと考えています。

 さて、ではわが日本はどうすべきか?ですが、ここが難しいですね。日本の安全保障だけと考えると、いちばんの目標は「核弾頭完成の阻止」ということになります。秘密施設で邁進している開発自体は止めようもありませんが、最終的な段階で必要となる「小型起爆装置による核実験」を阻止するということは考えなければなりません。そうしますと、私は前述したように北朝鮮はいずれ再度の核実験を行う可能性が高いと考えていますが、それを政治的な圧力でできるかぎり遅らせるということが必要ではないかという話になります。つまり、6カ国協議の枠組みを強化して、中国の北朝鮮に対する発言力を高め(まもなく後継者問題も出てきますから、中国の発言力はいろんな意味で非常に注目です)、政治的に北朝鮮に核実験をやりにくい雰囲気に持っていくわけです。一種の心理戦・情報戦というものですね。私たち日本人の苦手な分野かもしれませんが、いろいろ複合的な手を考えることは重要だと思います。
ただし、この6カ国協議ですが、これまでを振り返ると、北朝鮮の核武装を止めるのに、実際にはほとんど役に立っていないようにも見えます。もうプルトニウム作ってから、量産を少し凍結したというだけですからね。核ミサイル開発は事実上、まったく阻止できていません。
 振り返ると、北朝鮮の譲歩を引き出した唯一の例が、アメリカがマジの寧辺空爆を検討した94年の金日成=カーター会談だけという気がします。やっぱり武力をちらつかせないと交渉は進まないということでしょうか。
 
  1. 2009/04/06(月) 13:33:33|
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天川由記子先生が語る父君・天川勇氏

 ここのところ告知ばかりでたいしたエントリーのない地味な拙ブログですが、一昨日、突如アクセス新記録となっていました。何故に今?と調べると、天川由記子さん関連でのサーチがいきなり殺到していました。何故?とググって見たらびっくり。なんと高木ブーさんと交際とのニュース。それで納得です。
 帝京大学短期大学の天川准教授には、以前『ワールドインテリジェンス』でインタビューさせていただいたことがあり、拙ブログでも記事リストに掲載しておりました。記事は戦後の情報史についてのテーマで、父君の天川勇・元海軍大学校教授についてお聞きしました。
 芸能ニュースでは、天川准教授が森喜朗氏や安倍晋三氏の通訳・ブレーン的な存在だったと報じられていますが、その背景には、父君の故・勇氏の存在があります。
 この天川勇氏という人物は、もちろん私は一面識もないわけですが、福田赳夫元首相の智恵袋として、政財界や軍事関係者の一部にはよく知られた人物です。国際軍事評論家という立場ですが、マスコミにはほとんど登場せず、主に政財界人の勉強会での講師として活躍されたため、世間的にはあまり知られていませんが、戦後の日米関係で大きな役割を果たした、非常に興味深い人物でもあります(石原慎太郎都知事の師匠でもあります)。
 宣伝ですが、この天川勇氏について娘さんの天川由記子先生にインタビューした記事は、今月8日に発売になる拙編著『戦後秘史インテリジェンス』にも収録されております。たいへん興味深いお話ですので、この機会にぜひともそちらもよろしくお願いします。→アマゾン
 
  1. 2009/04/03(金) 12:21:51|
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テポドン騒動のかげで、核搭載ノドンが日本を狙う?

 昨日発売の週刊朝日に「テポドン騒動で空騒ぎの間に・・・核搭載ノドンが日本を狙う!」という記事を寄稿しました。
 イージス艦やPAC3なんかのニュースが連日採り上げられ、テポドンが大きな話題になっています。昨日お昼に入った町の食堂でも、隣のテーブルのサラリーマン風2人組が、熱心にこの問題を語り合っていました。
 けれども、なんだか空騒ぎに見えるのは私だけでしょうか? 上記の記事で私は、テポドンの件は基本的にはアメリカの問題で、日本はあまり関係がないということ。すでにノドンの射程に入っている日本にとっては、北の核爆弾小型化こそが安全保障上の最大の問題であるということ。しかも、それはまさに目の前に迫りつつある大問題である、ということを指摘しました。
 おそらく北朝鮮は現時点ではまだノドンに搭載できるほどの起爆装置小型化には成功していないと思われます。北朝鮮の核爆弾はプルトニウム型なので、起爆装置はかなり高度な技術になりますから、いくらパキスタン(構造がずっと簡単な濃縮ウラン型核爆弾を開発)と技術提携しているとはいえ、そんなに簡単ではありません。
(なお、今の濃縮ウラン型爆弾も効率化のために爆縮型起爆装置を使うので、そのデータに関しては北朝鮮とパキスタンとの情報交換はあると思われます。それで北朝鮮がすでに核弾頭を持っていると推測している専門家もいますが、濃縮ウラン型とプルトニウム型では要求される精度のレベルが格段に違うので、やはりプルトニウム型の核弾頭はそれだけでは難しいと思われます)。
 しかし、どこかの秘密施設でそれに邁進しているのは確実ですから、いずれはそれを成功させることは疑いありません。それで核ミサイルは完成ですから、その時点をもって日本の安全保障は完全に崩壊するということになります。
 私は拙著『北朝鮮に備える軍事学』にも書いたとおり、北朝鮮が対日攻撃に出るとは思ってませんが、純粋に軍事的なことだけで考えると、小型起爆装置完成の時点で日本は北朝鮮の核脅威下に入ります。ミサイル防衛はいくら揃えても完全ではないので、核の脅威を完全に除去することは出来ません。
 ノドンはどれくらいあるのかというと、誰も確認したわけではないので不明ですが、数年前に米軍当局は「200基以上」と言っていますから、さらに増えている可能性があります。正確な数はともかく、それなりにかなりの量のノドンが車載化され、秘密基地に隠されているという事実は決定的です。プルトニウムは現時点ではまだ核爆弾5~8個分程度であると思いますが、それだけあれば充分に核の脅威と考えられます。

 ちなみに、ミサイル防衛について、私はその完成度には疑問をもっています。制御不能になった高速・高高度のアメリカの偵察衛星をSM3が爆破したことで、SM3の評価は上がりましたが、充分な時間をかけて入念に緻密な軌道計算をして行われた迎撃だという点は割り引いて考えるべきかという気がします。
 その他の実験の結果も大きく勝ち越してはいますが、盾とするにはまだまだ失敗率が高いですね。核戦争というものを私は現実的には想定していませんが、純軍事的には、戦争における核ミサイル攻撃は数発単位で考えるものではないです。MDの有効性を担保するほどのデータは公表されていませんので、今のところMDの有効性は確認されていないということになります。

 それはともかく、先走って考えると、たとえば北のテポドン発射→国連安保理制裁決議→六カ国協議崩壊→核再実験、ということも充分あり得ると思います。北朝鮮は06年の核実験は半端な結果でしたので、完全な成功をおさめておきたい。できれば弾頭サイズも試しておきたいというところかと思われます。プルトニウムがもったいなからやらないのではないかとの見方もありますが、あと1~2発なら構わないでしょう。確実な起爆装置のほうがはるかに軍事的に重要だからです。

 ということで、実際にはモニター不可能な核弾頭完成を阻止することはできないにせよ、それを世界の関心事とする努力はすべきでしょう。アメリカ主導の六者協議ではこれまで、アメリカはホンネでは核流出阻止を最大の戦略目標にしてやってきていて、核爆弾小型化にはほとんど注目してきませんでしたが、今回のテポドン騒動で米メディアにちらほらこの問題が採り上げられるようになりつつあります。北朝鮮がアメリカを射程におさめるミサイルを持ちつつあるというようで、さすがに本気になってきたのかもしれません。
 もっとも、ではアメリカはどうするかというと、たぶんまた何かで譲歩するということになりそうな気配です。ですので、日本はどうすべきかをもっと独自の視点で考える必要があります。本当に核ノドンが配備されたら、日本は、(北の長距離砲によって)ソウルを人質にとられている韓国と同様に、金正日体制を安定させることが戦略目標になってしまうという情けない立場に立たされます。拉致問題の解決など、夢のまた夢に遠のいていく結果にならざるを得ません。
 では具体的にどうすべきか? それは正直いってわかりません。けれども、アメリカの安全保障最優先の6者協議に任せておいて安心するのではなく、日本にとっての安全保障という視点で議論するということころから、私たちみんなが考えていくべき話ではないかなと思います。
  1. 2009/04/01(水) 02:45:14|
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プロフィール

黒井文太郎

Author:黒井文太郎
 63年生まれ。『軍事研究』記者、『ワールド・インテリジェンス』編集長などを経て、現在は軍事ジャーナリスト。専門は各国情報機関の最新動向、国際テロ(とくにイスラム過激派)、日本の防衛・安全保障、中東情勢、北朝鮮情勢、その他の国際紛争、旧軍特務機関など。

 著書『ビンラディン抹殺指令』『アルカイダの全貌』『イスラムのテロリスト』『世界のテロと組織犯罪』『インテリジェンスの極意』『北朝鮮に備える軍事学』『紛争勃発』『日本の情報機関』『日本の防衛7つの論点』、編共著・企画制作『生物兵器テロ』『自衛隊戦略白書』『インテリジェンス戦争~対テロ時代の最新動向』『公安アンダーワールド』、劇画原作『実録・陸軍中野学校』『満州特務機関』等々。

 ニューヨーク、モスクワ、カイロに居住経験あり。紛争地域を中心に約70カ国を訪問し、約30カ国を取材している。




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