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ワールド&インテリジェンス

ジャーナリスト・黒井文太郎のブログ/国際情勢、インテリジェンス関連、外交・安全保障、その他の雑感・・・(※諸般の事情により現在コメント表示は停止中です)

ビンラディン死亡後のアルカイダ

 ビンラディン殺害によって、報復テロを懸念する声がありますが、私はそう心配はしていません。
 ビンラディンは世界最悪のテロリストと目されていますが、もともと本人が自分でどんどんテロ作戦を取り仕切っていたというわけではなく、アルカイダというテロリストの同志グループを運営し、そのオーナーとして鎮座していたにすぎません。
 かの911テロも、ビンラディンが首謀したと思っている人が多いと思いますが、彼はテロ計画を「承認」し、資金や人脈を「提供」したにすぎません(口出しはしましたが)。911は、ビンラディンから資金や要員を提供してもらったハリド・シェイク・ムハマドという男が、個人的に計画したものです。
 アルカイダにおけるビンラディンの存在というのは従来そうしたもので、しかも9・11後はさらにそのテロ実行部門からは遠ざかっていました。なので、ビンラディンが死亡しても、アルカイダのテロ細胞組織への直接の影響はほとんどありません。
 アルカイダは「テロリストが自爆を厭わないこと」と「世界中にシンパが広がる要素があること」が、従来のテロ組織に比べて非常に危険でしたが、911から10年近く経過してわかることは、アフガニスタンやパキスタン、あるいはイラクやイエメン、あるいはアルジェリアやモロッコなど、もともとイスラム過激派の下地がある地域以外ではそれほど成長しなかったということです。イギリスやフランスなどヨーロッパ先進国のイスラム系移民社会で増殖し、そちらのほうがテロリズムとしては危険視されたりもしたのですが、こちらも情報当局の徹底した監視によって、目だったテロ攻撃は数度の連続爆弾テロぐらいに抑えられています。
 結局、アルカイダは全体的には「抑えられてきた」といえます。アルカイダが911を起こせたのは、当時はまだアメリカ情報当局が油断していたということでもあり、当局側が本気で警戒に乗り出した後は、たいしたことができなかったということになります。
 この10年で、イスラム社会における反米の熱気もかなり薄れてきました。10年前にもしもビンラディンが米軍に殺害されていたら、世界中のイスラム社会で反米運動が広範囲に発生したことでしょう。しかし今日、イスラム社会においてさえ、ビンラディン殺害は概ね肯定されていて、反米を叫ぶ群集は見あたりません。現在、イスラム社会の民衆にとって、敵はアメリカよりも「自国民を弾圧する独裁者」になっています。
 アルカイダはもう、イスラム世界のトレンドにおいても時代遅れになってきています。今後、上記したような一部のエリアでは活発な活動が続けられていくでしょうが、世界中のイスラム社会に影響を与えるような存在にはなりませんし、テロ組織としては徐々にジリ貧に向かっていくでしょう。ビンラディン死亡の前に、すでにそうなってきていたのです。
 むろんビンラディンが死亡したからといって、アルカイダが終わりということではありません。すでにだいぶ弱体化している「残党」や、ビンラディンを信奉しているドメスティックな独立系テロ・グループが報復テロを連続して起こす可能性はありますが、一時的なものに終わるでしょう。ビンラディン殺害は、イスラム・テロの台頭というひとつの時代の下降期(まだ終焉ではありませんが)を象徴する事件ということかと思います。

 私自身、個人的にもこれでひとつの時代の区切りかな、と感慨深いものがあります。思えば、それまで東西冷戦から冷戦終結後の国際紛争を追いかけていたのですが、96年にエジプトに居住してイスラム・テロの勃興に接し、そこから国際テロ⇒インテリジェンス研究へとテーマをシフトさせてきました。エジプトで当時、勢いを増していた「イスラム集団」などの情報を集めているなかで、「アフガニスタンのアラブ人イスラム義勇兵のスポンサー」の存在を知って俄然興味を覚えたことが、いま私がこんなことをやっているきっかけとなりました。
 オサマ・ビンラディンの名前を知ったのは同年の『TIME』誌の記事でしたが、それ以降、私はすっかりこの人物に夢中になり、ひたすら関連情報を集めました。911テロまでの約5年間、私は世界がまだそれほど注目していなかったこのテロリストの、熱狂的なマニアのような感じでした。911後ももちろんビンラディン情報のフォローは続けましたので、かれこれ15年もの付き合い(?)だったわけです。
 その長い付き合いがようやく終わったということになりますが、面白いもので、私自身はビンラディンやアルカイダという存在よりも、前エントリーで書いたように、ビンラディンを捜索して殺害したアメリカのインテリジェンスや特殊部隊のほうに俄然興味を感じています。私も、世界の人々も、つまりは飽きっぽいということなのかもしれません。

(追記)
 日本でも報復テロの可能性があるとして、警察庁・防衛省・入管が警戒態勢を引き上げたそうです。まったく必要ありませんので、日本政府は震災対策に全力を挙げてください。
 外務省は、リビアやシリア、イエメン、バーレーンなどで独裁と戦っている人々を、できれば支援して欲しいですね。日本はいつもよくわからない目立たない援助をバラ撒いたり、目立たなく自衛隊を出したりしていますが、いま世界では「日本は国家的危機にある」と見られているので、「そんな日本が中東の人々の支援に動き出した」となれば、大きなインパクトになると思うのですが・・・。
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  1. 2011/05/03(火) 17:14:05|
  2. 未分類
  3. | トラックバック:1
  4. | コメント:1
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コメント

日本はテロリストとの戦争なんか関わらなかったらいいのに。。。
  1. URL |
  2. 2011/05/04(水) 12:18:01 |
  3. Venceremos #-
  4. [ 編集]

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ここは酷い鹿畑町交差点ですね

ダムをいくつか見て回る 学研奈良登美ヶ丘からR163に入る交差点は大渋滞 谷底のR163の上に交差道路の橋を架ければいいのにね 今からやったたら相当な手戻りが発生するわけだが 元からR163に入る道は結構少ないのでこうなることは予想できたはずだが そもそも奈良の道...
  1. 2011/05/05(木) 01:41:32 |
  2. 障害報告@webry

プロフィール

黒井文太郎

Author:黒井文太郎
 63年生まれ。『軍事研究』記者、『ワールド・インテリジェンス』編集長などを経て、現在は軍事ジャーナリスト。専門は各国情報機関の最新動向、国際テロ(とくにイスラム過激派)、日本の防衛・安全保障、中東情勢、北朝鮮情勢、その他の国際紛争、旧軍特務機関など。

 著書『ビンラディン抹殺指令』『アルカイダの全貌』『イスラムのテロリスト』『世界のテロと組織犯罪』『インテリジェンスの極意』『北朝鮮に備える軍事学』『紛争勃発』『日本の情報機関』『日本の防衛7つの論点』、編共著・企画制作『生物兵器テロ』『自衛隊戦略白書』『インテリジェンス戦争~対テロ時代の最新動向』『公安アンダーワールド』、劇画原作『実録・陸軍中野学校』『満州特務機関』等々。

 ニューヨーク、モスクワ、カイロに居住経験あり。紛争地域を中心に約70カ国を訪問し、約30カ国を取材している。




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