かつて私がニューヨークのブルックリンに住んでいたとき、ちょうど人種対立が2つありました。ひとつは、韓国人グロッサリーと黒人住人の対立で、つまりは[ドロボウvs暴力店主」の戦いですね。これはドンパチにエスカレートしていて、実際に死者も出ていました。日本人住人としては、とにかく「韓国人に間違われないようにしなきゃ」と注意しましたが、黒人に聞いたら「韓国人も日本人も中国人もよくわかんない」とのことでした。
それは地元紙なんかにも載って社会問題になったんですが、私がいたプロスペクトパーク~ワシントンアベニュー界隈では、もうひとつの熾烈な抗争が起きてました。土着のアフリカ系アメリカ人ギャングvs新興ハイチ人ギャングです。ハイチ人は新しく来た移民で、圧倒的に少数派なのですが、その戦闘力はアフリカ系を上回っていたようです。
ハイチは私は行ったことはないのですが、取材経験者情報ではカリブ・中南米地域でもワースト1、2を争う治安の悪い国だということです。ジャマイカなども場所によっては要注意らしいですが、概して黒人や混血系の多いところほど治安が悪くなっています。治安が悪いというと、なんだか当局の責任みたいに聞こえますが、要は「ガラの悪い」国だということですね。ハイチは政変や暴動がしばしば起こりますが、そういうお国柄なのかもしれません。
中南米だと、ドロボウが多いのはなんといってもペルー。それにブラジルとメキシコの都市部ですね。恥ずかしながら、私もメキシコシティの地下鉄で大ドロボウ軍団に襲撃されたことがあります。ガラが悪いということでは、コロンビアもそうですね。コロンビアは白人系が多いのですが、麻薬産業が発達しているからなのかもしれません。パナマの都市部もかなり治安はよくありませんね。パナマでは知人の日本人記者が強盗に遭ったこともありました。
さて、先般のハイチ地震では案の定、略奪行為が頻発しました。これはこの地域を多少知っている人間からすると、充分に予想されたことでもあります。他方、今回のチリ地震でも略奪が発生しています。白人系の多いチリは南米ではどちらかというと治安の安定したほうなのですが、それでもこういうことが起こります。チリのニュース映像を見ると、略奪といっても、ギャングのような感じではなく、住民総出で悪びれずにやってますね。ハイチのほうが殺伐とした空気を感じます。本日の『朝日新聞』にはチリの脱獄囚の狼藉が書かれていて、それはもちろんシリアスな話ではあるのですが。
ところで、これで思い出すのは、89年末の米軍パナマ侵攻です。あの戦争を私は現地取材したのですが、あのときもパナマ政府が機能停止した間隙に、住民たちがこぞって「楽しそうに」略奪し、自分たちで自分たちの街を壊滅させました。敬虔なカトリックの国ですが、そのモラルがいかに表層的かがよく表れていた光景でした。
私はもともと中南米や中東の紛争地取材からスタートしていたので、そういう意味では90年代に取材したボスニア紛争は少し印象が違いました。彼らは「敵」民族に対しては容赦ないのですが、公権力が空白になっても自らの共同体で略奪行為にはしるということは、ほとんどなかったように思います。外国人記者の私も、中南米のようにスリや強盗や悪徳警官を警戒する必要はほとんどありませんでした。当時の私は単に「さすが白人は違うなあ」くらいにしか思っていなかったのですが、そう単純なことでもないでしょう。日本ではたとえば神戸の地震のときにいくらかドロボウも出たようですが、諸外国のレベルから比べると、ほとんど皆無といっていいかと思います。さすがわが同胞ですね。
各国の火事場ドロボウの動向を分析すると、おそらく興味深い社会学的・民族学的考察になりそうな気がします。こういうのは国民性のひとつの指標になりますから、紛争が発生した場合の危機管理に応用できると思うのですが。
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- 2010/03/03(水) 16:28:12|
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ボスニアの住民がムスリムであるなら、ムスリム特有の共同体が強固であるため、政治的空白があろうとも略奪などは起き難いのではないでしょうか。
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- 2010/12/22(水) 17:50:37 |
- takahashi #-
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