日本にとってたいへんな問題である北朝鮮の核実験ですが、危惧していたとおり、早くも日本ではトップニュースからフェードアウトしつつあります。日本にとってどうでもいいテポドンのときの大騒ぎと比べると歴然の差ですが、騒ぐべき順位が違うんじゃないかなあ。
この3日間、テレビや新聞でさまざまな識者の方のコメントを拝見しましたが、私がいちばん共感を覚えたのは、防衛研究所の武貞秀士さんが、「北は外交でなく軍事をやっている」と指摘していることでした。思わず心の中で「そのとおり」と膝を打ちました。
ネットも見てみましたが、韓国・中央日報日本語版で5月26日午前にアップされていた張瑰・中国共産党中央党校教授の見方が面白かったです。当たっているか外れてるかはわかりませんが、中国共産党の学者がリアリズムに徹しているのは非常に興味深いですね。
非常に面白かったので、以下、引用して紹介します。
「北、6カ国協議は核実験に向けた時間稼ぎ…昨年から緻密に準備」
http://japanese.joins.com/article/article.php?aid=115764&servcode=500§code=500
http://japanese.joins.com/article/article.php?aid=115765&servcode=500§code=500
「昨年から北朝鮮は南北(韓国・北朝鮮)間の緊張を高め、核実験を緻密(ちみつ)に準備してきた。予見されていたものだから、驚くことでもない。北朝鮮の核問題を話し合う6カ国協議を通した非核化の努力は失敗した」--。
中国の代表的な韓半島専門家とされる、中国共産党中央党校(党校:党役員の学校)の張瑰教授(66、写真)は25日、北朝鮮が行った2回目の核実験の意味をこのように診断した。同氏は「北朝鮮は(03年以降)この6年間、終始核兵器を保有するという目標を実現するため、一途に邁進(まいしん)してきた」と述べた。「6カ国協議も朝米交渉も、北朝鮮にとっては(金正日国防委員長が指示した)核開発に向けた時間稼ぎの手段にすぎなかった」と同氏は強調した。次は一問一答をまとめたもの。
--北朝鮮が再び核実験に踏み切ったが。
「予見されていたものだ。北朝鮮は昨年から緻密に準備してきた。北朝鮮は核実験の名分を得るため、昨年から韓国との関係を故意に悪化させてきた。1月末、韓国と結んだ各種の協定を廃棄すると発表した。4月中旬にも、6カ国協議を離脱すると一方的に宣言した。これを通じ徐々に韓半島と国際社会の情勢を緊張させ、核実験に有利な条件を作った」。
--核実験の時点が、盧武鉉(ノ・ムヒョン)前大統領の死去から2日後となったが。
「北朝鮮が核実験を行った時点は、盧前大統領の死去とは何の関係もない。北朝鮮の核実験は体系的に準備してきたものだが、盧前大統領の自殺は突然なことだ」。
--核実験に踏み切ったのは、北朝鮮のハト派がタカ派に押されたという意味か。
「そうした分析は根拠がない。北朝鮮にはハト派とタカ派の区分がない。“金正日派”があるだけだ。交渉も金正日委員長の指示によるもので、核実験も金委員長の指示によるものだ。いずれも核保有という目標を実現するための時間稼ぎだ。金桂寛(キム・ケゲァン)外務次官が会談に出席して崔承哲(チェ・スンチョル)氏が南北対話に臨んだのも、金委員長の“時間稼ぎ”というカードであった。ただ戦術上、強弱の変化があるだけだ」。
--外部から見ると、強硬派と穏健派に分かれているように見えるが。
「韓国や米国などが、北朝鮮内部をそうした図式で分析するのは間違っている。外交官が会談に臨もうが、軍部が挑発しようが、背後には必ず金委員長がいる」。
--6カ国協議はどうなるのか。
「北朝鮮を除いた米国・韓国・日本・中国・ロシアの5カ国が事実上だまされたと見ることができる。北朝鮮は6年間にわたり、6カ国協議を通じて食糧と石油を獲得することに成功した。6カ国協議当事国のうち、北朝鮮だけが勝利した。残りの5カ国は失敗したと言える」。
--今後、6カ国協議が事実上無意味になるということか。
「6カ国協議という形は当初から成功できないものだった。6カ国協議は、冷静に話せば、北朝鮮が周辺諸国に詐欺を働くための手段に転じた。6カ国協議を通した非核化の構想は終わったと見るべきだ」。
--北朝鮮が2回も核実験を行ったが、今後核保有国と見なすべきか。
「北朝鮮の核兵器は、米国とは意味が異なる。長距離の運送ができなくても、核を爆発させることができる技術さえあれば、周辺諸国にとっては脅威の要因となる。核兵器のレベルが高いか低いかは、大きな意味がない。核を保有した北朝鮮が、休戦ライン付近でも日本付近の海上でも運搬できるならば、それ自体が大きな脅威だ。核実験を行ったという事実、致命的な脅威になるという事実自体が重要だ」。
--1回目の核実験以降、国連が北朝鮮への制裁案を可決させ、中国も支持したが。
「今回も米国・日本などが主導し新たな制裁案を作る可能性が高い。06年の決議案(1718号)よりさらに厳しくなる可能性が高いとみられる。経済・外交・軍事の3方面から、より明確かつ具体的な対北制裁案を作らねばならない」。
(以上、引用)
私がまず共感するのは、以下のくだり。
▽北朝鮮は核実験の名分を得るため、昨年から韓国との関係を故意に悪化させてきた。
国連に噛み付いたのは、明らかに核実験への布石だとは思っていたが、韓国との関係悪化も、そうかもしれない。つまり、もうずっと前から、おそらく金正日が脳出血で倒れた頃から、核ミサイル開発の加速化が進んできたのだろう。
そういうことでは、そもそも以下が正しいのではないかと私も思う。
▽(6カ国協議は)北朝鮮を除いた米国・韓国・日本・中国・ロシアの5カ国が事実上だまされたと見ることができる。
そうですよねえ。記事タイトルにもあるように、時間稼ぎなのが見え見えのような気がするのですが、どうして信じてしまったのでしょう。わが日本外務省は今までもずっと「6カ国協議再開を」とか言ってますね。私には理解できません。
ちょっと見方が分かれるけれども、なんとなく私もそうではないかと思っているのが以下です。
「北朝鮮にはハト派とタカ派の区分がない。“金正日派”があるだけだ。交渉も金正日委員長の指示によるもので、核実験も金委員長の指示によるものだ。いずれも核保有という目標を実現するための時間稼ぎだ」
今の報道では「ポスト金正日を睨んで権力内部で抗争がある」というような見方が多いですが、どうなのでしょう? 内部情報のインテリジェンスがないので判断は不可能ではあるのですが、神格化に近い独裁体制ですからね。タカ派ハト派も多少はあるでしょうが、最終的にはトップの判断だということではあると思うのですが。
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- 2009/05/27(水) 23:36:25|
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| コメント:2
はじめまして。1年くらい前に黒井さんのことを知り、
それ以来ファンです。
著作や雑誌の記事には欠かさず、目を通しています。
今回の北の核実験はそういうことだったのですね。
ここ最近の経緯を振り返れば納得です。
ちなみにワールドインテリジェンスの
バックナンバーを集めていますが、
半分くらいしか集められません。
どこか在庫があるところを
ご存知であれば教えてください。
よろしくお願いします。
- URL |
- 2009/05/30(土) 11:46:44 |
- テツ #Wm9Qa.6Y
- [ 編集]
テツ様 コメントありがとうございます。
ワールド・インテリジェンスのバックナンバーですが、まことに申し訳ありませんが、弊社においても在庫が尽きております。ネットオークションか古書店サイト(「日本の古本屋」など)にて探すしか当編集部でも方途は思いつきません。
ただ、弊誌に掲載した核となる記事は、再録文庫化した識者インタビュー集『インテリジェンスの極意』、現在の世界インテリジェンス事情解説『インテリジェンス戦争~対テロ時代の最新動向』、過去裏面史スクープ集『戦後秘史インテリジェンス』に収録しております。そもそも上記文庫本は、ありがたくも(読者、執筆者双方より)ご要望の多かったバックナンバー代わりに企画したものです。
弊誌記事の分野としては、それら以外にも学術的な情報史研究がありましたが、それらについては、京都大学の情報史研究会の方々が出版されている一連の書籍でカバーできるかと思います。
- URL |
- 2009/06/01(月) 11:15:18 |
- 黒井文太郎 #-
- [ 編集]
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- 2009/05/28(木) 15:38:54 |
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